復讐は正攻法で

コーヒー牛乳

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ミーティング

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 だんだん嫌がらせの頻度は減って、資格の勉強も習慣化できているようで落ち着きを感じ始めていた頃だった。

 彩さんの産休の予定が近づき、そろそろ本格的に引き継ぎはどうするのか詰めておきたいところだった。
 話しかけたくはないし、そもそも話しかけないでと言われた記憶は新しい。が、仕事は仕事として割り切らなければならない。相手がどう思っているかはわからないが。

 意を決して彩さんや彩さんの担当営業である中村さんや以前から彩さんの業務分を配分する予定だった清水さんをCCに入れメールを送った。

 同じ部内なのだから、話しかければよいのだが……。考えうる限りのトラブル……無視や言った言っていないを防ぐために、記録を残すことにしたのだ。

 しかし想定よりスムーズにミーティングがセッティングでき、引き継ぎ業務は問題なく走りだせそうだと見えてきた。たったこれだけなのに、安心して溜息が漏れる。

 ミーティングルームの空きが無かったため、オフィス内のパーテーションで区切られたスペースを使うことになったのは良かったのか悪かったのか。

 変な言いがかりをつけられるなどは防げるだろうなと、そう思っていた時期が私にもありました。



「森田さん、また嫌がらせ?」
「は?」

 中村さんの言葉に耳を疑った。

 こんな調子でミーティングはスタートした。
 一応、オープンスペースだというのに、つい素で「は?」と口から出てしまった。

 営業の中村さんや、清水さんの視線は厳しい。

「また嫌がらせ、の意味がわかりません。私が先ほど聞いたのは、既にご用意頂いている引き継ぎ資料が足りないので、仕上げられるスケジュール感です」

 通常、引き継ぎ資料は既に準備されている状態で、ミーティングの時間はあくまで説明と質疑応答の時間である。ミーティングの時間は30分設けているのだから、どの分を誰に委託し、指示系統もろもろ復帰した際はどうするかまで整えておくものだと。新人の頃に彩さんから教わったはずである。

 それで、何が”また”で”嫌がらせ”なのか。

「こんなこと言いたくないけど、妊婦さん相手にその言い方は不適切じゃないかな。妊娠で体調を崩したりして満足に業務出来てないのは本人が一番申し訳ないと感じてるって察してあげられない?そこをわざわざあげつらって、こんなところで非難しなくたって」

 普段会話が無いので様子は不明だが、準備期間が不足していたり何かあったのだろう。なのでスケジュール感を質問したのだ。

「私は一言も引き継ぎ資料の出来を非難していません。なぜ出来なかったと理由を問いただしてもいません。結果、いつ頃に仕上げられるのかを聞いています」

「これ以上無理してまで仕上げろって、同じことでしょ」
「はい?」

 今度は清水さんのボソリと呟いた声に反応してしまう。
 呟くように話す清水さんの声はよく耳を傾けないと聞き逃してしまいそうだった。

「……森田さんこそお手すきでしょうから、このままでも出来るんじゃないですか?昇格するらしいですしお給料が上がる分、やることやるべきですよ」

 そうニヤッと意地悪く口角をあげる清水さんの顔が、言葉が、私の神経を逆撫でる。
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