復讐は正攻法で

コーヒー牛乳

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昇格試験

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「───昇格試験を受けられない、ですか」
「あぁ、もちろんずっとではないよ? ただ、今は……やめておいた方がいいんじゃないかな」

 二宮部長はゆっくりと言葉を選びながら言い切った。
 お茶の湯呑が戻されるところまで待って、こちらも冷静に口を開く。

「それはなぜでしょうか。以前、部長から昇格試験のお誘い頂きましたし、資格は満たしていると思います。何か足りない点があるなら教えてください」

 向かいに座る二宮部長が人のよさそうな眉毛を残念そうに落とした。

「だってほら、今は森田さん、ね。わかるでしょう」

 今日は三か月に一度の面談の日だった。前々回までは毎回二宮部長に昇格試験を受けてみてはと勧められ、それを私は断っていた。結婚するつもりだったのだ。

 今はご存じの通り、私の中で重石になっていた結婚の予定も無くなり挑戦したくなったのだ。だから、思い切って今回部長に相談した。昇格試験を受けたい、と。

 返事はこの通り。心臓がばくばくと嫌な音を立てる。

 ここで焦って取り乱せば、その点も引き合いに出されるかもしれない。ことさらゆっくりと、理性的に見えるように言葉を待った。”わかるでしょう”と部長は言ったが、あえて私は言葉を待った。部長がどこまで把握して、どこまで信じているのか、どういう目で部下を見ているのか知りたかったのだ。

 私の方からあの事ですか?と聞いてこないと察した二宮部長は、短く溜息をついた。

「……今は自分の生活を見直す時期、なんじゃないかな」

 無難なコメントだ。当たり障りなく、私を気遣っているようにも聞こえる。

「見直した結果、成長したいと強く思いました。なので、昇格試験を受けたいと考えています」

 頑なな態度を崩さない私に焦れたのか、二宮部長がまたお茶に口をつけた。
 そしてやや前のめりになって声を落とす。

「あのね、森田さんが真面目なことは知ってるよ。だからあえて言うんだけど、今はよくない噂が流れてるでしょう。人の噂も七十五日っていうから、今だけは大人しくしておいた方がいいんじゃないかな。反省してますよーって見せてさ」

 ね?と、優しい口調で私を黙らせようとする二宮部長を真っ直ぐ見つめて、あえてハッキリと5メートル先の人間に話しかけるような声量を出した。

「二宮部長がご懸念の噂とは、私が不倫をしているという件でしょうか」
「森田さん!」

 声を落とすようにと慌てる二宮部長に、違うのだと頭をゆるりと振って見せる。

 私と二宮部長が面談をしている、この会議室は外に声が漏れやすかった。それを二宮部長も把握しているのだろう。だから二宮部長は私の噂に関する件について声を潜めたし、声を落とせと慌てているのだ。

 でも、私はこの面談が上手くいきそうになかったら、別件に利用させてもらおうと思っていたのだ。だから、二宮部長の気遣いは無視させてもらう。
 
「私が不倫をしているから昇格試験を受ける資格が無いということですか?」
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