16 / 30
今更
しおりを挟む「───春子、ごめん。別れよう」
急いでハンドバックの中からスマホを取り出し日付を確認する。
「春子?」
日付はやっぱり、あの斗真に別れを告げられた日だった。
なんで?あれは?先輩のことは夢だったの?
「春子、聞いてるか?」
斗真に肩に触れられ、咄嗟に右手で弾いてしまった。
「あっ……ごめん。驚いちゃって……」
「あ、いや……こっちこそ……ごめん」
弾かれた行き場のない手を遊ばせる斗真になんとなく罪悪感がこみ上げてきて、ついフォローしてしまう。
弾いたのは驚いたからじゃない。触られたくなかったからだ。
私は斗真に触られたくないと思っているんだ。
「それで、別れるんだよね。わかった」
別れ話は二回目だからか、受け入れる準備は出来ている。
不思議と心が凪いでいた。
一回目はみっともなく泣いたり縋ったり……
斗真に色々と言っちゃったけど、今ならさっぱり別れられる気がする。
まだ応援する気持ちにはなっていないけど、私と斗真には必要な別れなんだろう。
「えっ」
「え?」
え?
いやいや、えってなに?
しんみりした、でも今回は爽やかな別れになるだろうと思っていたのに。え?とは、なんの『え?』だろうか。
斗真は形の良い眉を寄せ、寂しそうな顔をしている。
「……いや、随分……あっさりしてるなって……」
「あっさりしてたら困るの?」
もしかして、もっと引き留められると思っていたのだろうか。
でも、前回は精一杯引き留めたんだけど。斗真は結局、『ごめん』しか言わなかったんだよ?
「いや……。俺が言うのもなんだけど……結構長く付き合ってたから……」
そう。斗真とは姉が卒業してしばらくしてから一気に仲が縮まったのだ。
私の猛プッシュで。
そりゃあ、私からの猛プッシュで始まった関係が終わるっていうのに
こんなにあっさりした反応だったら……寂しい……のか?
でも、別れを切り出しているのは斗真の方だし……?
「そうだよね……高2からだから結構長く……」
「いや、1年の時からだから」
「え?」
「え、まさか忘れたとかある?」
微妙な空気が流れる。
「まぁ、春子は最初俺のこと嫌ってたもんな」
私が斗真のことを嫌って……?
いや、斗真のことを避けたのは二回目の方で……
「俺は春子のこと、最初から好きだったんだけど」
弾かれるように斗真の顔を見返した。
斗真の顔には嘘をついている様子はない。
あの、この間見た入学式の時の斗真の表情だ。
「何を今さら……」
触られたくないと思っていたはずなのに
「そうだな。今更、だな」
寂し気な顔をする斗真の顔を見ていたら、ギュッと心臓を掴まれたように切なくなる。
「……理由は」
今度は私から斗真に触れそうになった。
「別れる理由」
その手を抑えるように、ハンドバックの持ち手を強く握る。その私の指には、あの指輪がついていなかった。
「……理由は……俺のせい」
「斗真の?」
斗真はそのまま口を閉じたままだ。それ以上話すつもりはないらしい。
「お姉ちゃんと付き合うの?」
「ユキとは……」
あぁ、ユキって呼ぶんだね
「もう、いいや。お姉ちゃんとお幸せにね」
長く付き合った割に、納得のいかない別れだけど。片方が別れたいというなら、別れなくてはならないのだ。
もう、私たちは、終わったのだ。
お姉ちゃんがどうこうではない。
二人が、そこまでだったのだ。
「あ、おい」
話は終わったとばかりにベンチから立ち上がると、斗真に手首を掴まれてしまった。
「何」
思ったより鋭い声が出てしまう。
斗真の指が、腕時計を撫でる。
その腕時計は斗真から卒業プレゼントにもらったものだ。腕時計は着けているのに、指輪はどこに行ったんだろう。
斗真は切なそうに腕時計を見た後、手首を握る手の力をほんの少し緩めた。
「春子は……ユキに相談したんだよな」
「相談?まさか、連絡とってないよ。何年もね」
私の記憶では、姉の卒業後からほとんど連絡をとっていない。
母はお姉ちゃんと小まめにやり取りしてるんだろうけど……
「は?」
斗真の手から更に力が抜けたので、そのまま腕を引き抜き帰らせてもらうことにした。
「じゃあ、斗真の部屋にある荷物は捨ててくれていいから」
「春子!ちょっと待って、話が」
「もう話しかけてこないで!追って来たらそれこそお姉ちゃんに言うからね!」
キッと睨むと、斗真は固まったまま立ち止まった。
それを尻目に、公園から飛び出て久しぶりの独り暮らしの部屋へ走るように逃げ戻った。
0
お気に入りに追加
571
あなたにおすすめの小説
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない
当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。
今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。
けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。
途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。
同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。
これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。
あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。
※小説家になろう様にも、重複投稿しています。
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる