13 / 30
筋肉は裏切らない
しおりを挟む「ダイエットでも始めたの?」
また今日も。昼休みだというのに、敏腕刑事三人組から自白を強要されている。
「春ちゃん、ずいぶんと小食なんだね?」
優等生アカネは、私の今日のお昼ご飯"ゆで卵1個"を見て丸い目をさらに丸くして驚いている。
「これだけじゃ足りなくね?アタシの醤油かける?」
派手なメイクがトレードマークのウミカは本日サンドイッチなのに、なぜかマイ醤油を持ってきている。
「食事制限は初心者がやりがちだよね。時代は筋トレよ」
見るからにスポーツ万能そうな引き締まった肉体を誇る、イズミ様のお知恵をありがたく頂戴することにした。
あと、アカネにもらった唐揚げを食べ、ウミカにはゆで卵にお醤油をかけてもらった。
そしてなぜか遠藤くんからおにぎりをもらった。聞いてたの……!?
「イズミ先生!でも、私、ムキムキになりたいわけじゃないんです!ほっそりスラッとしたいんです!」
もうクラスのほとんどがイズミ先生の体型改革講座を傍聴している。ちなみに最前列はもちろん、私だ。
「アホか!ちょっと筋トレしたからってボディービルダーのようにムキムキになれると思うな!それ、ちょっと勉強したら東大行けちゃうよ~ってセリフぐらいマヌケだから!」
イズミ先生はスパルタなのだ。
「いや、もしかしたら自宅学習で東大に行けちゃう才能を持っているかもしれないじゃないですか!」
こっちも必死だからこそ譲れない!
「その心配は東大が見えてきたらにしなさい。飲むだけで東大に入学できるサプリなんか無いように筋肉を!頭を鍛えないと体型は変わらないし東大は目指せません!!」
「聞きたくなかった!!」
私の叫びと、クラスメイトの笑い声が教室にこだましていた……
*
「……ということが!あったんです!」
「あぁ……それは、筋トレだったんだね。転がってるだけかと思ってたよ」
放課後、部室で体操服に着替え床掃除を自主的に行った。
そして、そこに部室の隅にあった毛布を敷いてイズミコーチに教えてもらった筋トレをしているのだ。
床でのたうち回る後輩に驚き一瞬固まった先輩は、私を避けるように入室した。部室で起きている異常な光景には触れずに、定位置で何事もなかったかのように勉強を始めたのは20分前のこと。でも、やっぱり私の苦しむ声に気をとられるのか、やっと私に話しかけてくれたのだ。
よくぞ聞いてくれた!
私はイズミコーチの教えを布教するかのように先輩に……いや、先輩の心に聴かせた。
どうですか??先輩も入門します??先輩も美ボディになりたいでしょう??
先輩は背が高く、ヒョロヒョロしているわけではなさそうだけれどスポーツが出来そうな……敵に「コイツ、デキル……!」と思わせるようなものは無い。
まぁ、でも先輩は威嚇じゃなくて擬態の生物なんだもんな……
と、先輩に"素晴らしい教え"を押し付けるのはやめて、自分を高めることに戻る。
「自宅学習で……!目指せ東大……ッッ!」
「その話の流れからすると目指せボディービルダーってこと……?」
ふむ。目標を設定することは大事ですね。確かに。
「んぁああ!!ムリ!痛い!筋肉が『もうヤメテ……』って言ってる!」
「ついに筋肉の声まで聞こえてきたか……」
悲鳴をあげる筋肉の声を聞き届け、仰向けで床に転がる。
先輩、転がるって今みたいなことを言うんですよ。今です。今。
ゴロリと転がり、先輩の方を見ながらニヤリと悪い顔をつくる。
「こうして筋肉をいじめた後はしっかり優しくすることが大切だそうですよ。上げて落とすを繰り返すことで筋肉が私に夢中になるらしいです」
「歌舞伎町のホストみたいなやり口だね」
ははは、と笑う先輩の顔を盗み見る。
先輩はだんだん、私の存在に慣れてきたのかよく笑うようになった。
先輩とこうやってなんでもないことを話すのは好き。
こうやって話したらどう思われるかな、とか変に気を回さないでいられる空間は貴重だ。
ほっとする。
その後、計画好きな先輩の口車に乗せられて毎日のトレーニングメニューを部室に貼られることになってしまった。
三日坊主にならない方法は、他人に監視されることらしい。確かに、このまま自分だけでチャレンジしていたら言い訳していつの間にかやらなくなっていたかもしれない。
また、くじけない方法は同じ目標に向かっていく仲間が必要だと思うので
やっぱり先輩を巻き込み、仲間にすることにした。先輩も筋トレ仲間だ。筋肉はトモダチ。キンニクハウラギラナイ。
3
お気に入りに追加
571
あなたにおすすめの小説
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる