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コミカライズ1巻発売記念
神に背を向ける/キース視点
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「王侯貴族は皆、銀の匙を咥えて生まれてくるんだよ」
誰が言ったか知らないがキース・トゥーリはその話が大嫌いだった。残念ながらニルスは王侯貴族が跋扈して平民は踏みつけられる国。たまたま金持ちに生まれついた奴は飢えもせず、ぬくぬくと生きていて、特にキースや「弟」のような孤児は権力や気まぐれに蹴散らされて憐れみさえもらえない。
なのに、この国の宗教はまじめ腐った顔で歌うのだ。
女神の愛の下では皆平等です。さあ、祈りましょう。
馬鹿馬鹿しい。
教会の中、反吐が出るなと思いながら神官服を隙なく纏ったキースは誰もが見惚れる仕草で女神に祈りを捧げる。
幼い頃は神官になるなど死んでも嫌だと思っていた。役人になって小金を稼ぐか商人になって国を出るか。どちらにしろこんな国は出て行ってやる、と。
けれど、キースは女神には借がある。「弟」が万にひとつも助かるまいと言われた時に祈ったのだ。くれてやる。俺の人生をくれてやる。あいつを助けてくれるんなら、お前の手先になってやる。だから頼むよ、助けてくれよと夜通し泣いて叫んで。
チンケな供物を捧げて。
……カイルが苺みたいな綺麗な目をパチクリとあけて、腹が減ったと馬鹿みたいに言った瞬間のことを、あの安堵感を生涯忘れることはないだろう。
女神様。俺はあんたに借りがある。
家族を救ってもらった恩がある。不本意ながら。
だから神に仕えている。だが易々諾々と神の意にそう人間になどなるつもりは全くなかった。
しかし、あんたはいい仕事をした。と窓硝子に映った自分を睨む。
俺を賢く、美しく、何より頑丈に作った。
どうせこの神に仕える道しかないのならこのまま行くが、その道の上、好きに生きてやると思う。役人が出世するのは家柄がよくなければ難しいが、宗教者はある程度は実力主義だ。キースには自分の年代で、己が誰よりも神学に通じているという自負があった。それに神に愛されたようなこの容姿は神に縋る貴族たちにつけ込むのになんとも都合が良かった。
綺麗な顔で優しい笑顔で神の愛を説いて、少しずつ少しずつ洗脳してやると誓う。
……馬鹿馬鹿しいしきたりも、習慣も、差別も。
神の名の下に全部真っ向から否定して、俺が書き換えてやる。そうして俺は死んだ後の世界で未来を見て笑うのだ。そこにはきっと貴族も魔族も平民もない。
ただ同じテーブルで強いものが勝つ、そういう世界にしてやるのだ。
ほら神様。ほら皆様。
愛の下では平等でしょう。
あんたも俺も。
そう思いながらキースは女神に華麗に一礼して心の中で舌を出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コミカライズ漫画ご担当、森永あぐり先生のカウントダウン絵が素晴らしかったので、SSを即興で描かせていただきました!
時間があればあと二つ追加予定です。
6/5日 コミカライズ出荷開始!どうぞよろしくお願いします!
誰が言ったか知らないがキース・トゥーリはその話が大嫌いだった。残念ながらニルスは王侯貴族が跋扈して平民は踏みつけられる国。たまたま金持ちに生まれついた奴は飢えもせず、ぬくぬくと生きていて、特にキースや「弟」のような孤児は権力や気まぐれに蹴散らされて憐れみさえもらえない。
なのに、この国の宗教はまじめ腐った顔で歌うのだ。
女神の愛の下では皆平等です。さあ、祈りましょう。
馬鹿馬鹿しい。
教会の中、反吐が出るなと思いながら神官服を隙なく纏ったキースは誰もが見惚れる仕草で女神に祈りを捧げる。
幼い頃は神官になるなど死んでも嫌だと思っていた。役人になって小金を稼ぐか商人になって国を出るか。どちらにしろこんな国は出て行ってやる、と。
けれど、キースは女神には借がある。「弟」が万にひとつも助かるまいと言われた時に祈ったのだ。くれてやる。俺の人生をくれてやる。あいつを助けてくれるんなら、お前の手先になってやる。だから頼むよ、助けてくれよと夜通し泣いて叫んで。
チンケな供物を捧げて。
……カイルが苺みたいな綺麗な目をパチクリとあけて、腹が減ったと馬鹿みたいに言った瞬間のことを、あの安堵感を生涯忘れることはないだろう。
女神様。俺はあんたに借りがある。
家族を救ってもらった恩がある。不本意ながら。
だから神に仕えている。だが易々諾々と神の意にそう人間になどなるつもりは全くなかった。
しかし、あんたはいい仕事をした。と窓硝子に映った自分を睨む。
俺を賢く、美しく、何より頑丈に作った。
どうせこの神に仕える道しかないのならこのまま行くが、その道の上、好きに生きてやると思う。役人が出世するのは家柄がよくなければ難しいが、宗教者はある程度は実力主義だ。キースには自分の年代で、己が誰よりも神学に通じているという自負があった。それに神に愛されたようなこの容姿は神に縋る貴族たちにつけ込むのになんとも都合が良かった。
綺麗な顔で優しい笑顔で神の愛を説いて、少しずつ少しずつ洗脳してやると誓う。
……馬鹿馬鹿しいしきたりも、習慣も、差別も。
神の名の下に全部真っ向から否定して、俺が書き換えてやる。そうして俺は死んだ後の世界で未来を見て笑うのだ。そこにはきっと貴族も魔族も平民もない。
ただ同じテーブルで強いものが勝つ、そういう世界にしてやるのだ。
ほら神様。ほら皆様。
愛の下では平等でしょう。
あんたも俺も。
そう思いながらキースは女神に華麗に一礼して心の中で舌を出した。
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