上 下
92 / 97
小噺集

ハインツ→カイルの小話(飛竜騎士団時代)

しおりを挟む
コミカライズにちらっとハインツさん出てきた記念に小話です。
コミカライズ、すごく素敵なので読んでくださいませ~


---------------------------------------------

その日。
テオドールが参加するはずだった任務に代理として投入されたのは、ハインツだった。
この冬、騎士になったばかりのカイル・トゥーリは団長から名前を呼ばれて、本日の任務の面子をみてこっそりとため息をついた。

顔なじみの人間ばかり五人ではあるが、責任者は副団長そしてその補佐はハインツだ。
裕福な貴族の息子で、カイルが懇意に……ではなく、目をかけてくれているアルフレートと仲の悪い男。
魔族が嫌いで、さらに言うならカイルに何かと当たりが強いのは周知の事実だった。

任務自体は簡単なものだ。
隣国から訪問した高貴なご令嬢の外出の護衛で、ほんの半日で終わる。
カイルと同じく任務に就く同僚のカノが、ぶるりと震えた。

「テオドールは厳しいけど、ハインツは怖いんだよな……」
「……たしかに」

どうせまた任務中に嫌味と皮肉を言われるだろうな、とカイルはため息をついた。
何を言われても、はむかえば、孤児のカイルに分が悪い。
無反応でいようと心に決める。

ご令嬢は騎士に護衛をされながら楽し気に市中を散策していく。
令嬢はハインツが気に入ったようで(確かに、険はあるが優男と言えなくもない)腕を組んで歩く。
おかげでカイルはハインツから話しかけられることもなく。

どうやら任務が無事に終わりそうだ、と安堵していたところ――

「騎士になったばかりなのに、ずいぶんといい獲物をもっていやがるな」

ご令嬢がほんの少しばかり装飾品店で店員と話し込んでいる間。
カイルとカノが店の前で立っていたところに、ハインツがゆったりとした足取りでやってくる。
舌打ちしたい気分だが、カイルは平の騎士だ。無視するわけにもいかず、ぺこり、と頭を下げた。

「ありがとうございます……ご令嬢の側にいなくていいんですか、ハインツさん」
「俺よりも宝石の方がいいんだろう。それで?その剣はどうした」
「……アルフレート卿にいただきました」

じろり、と灰色の目で腰に差した剣を見られる。
咎められた気分になってカイルは背筋を伸ばした。
飛竜騎士団では剣は騎士になれば一振り支給される。だが、大抵は皆、それ以外の剣を自前で買うものだ。
裕福な家の子弟か貴族の子が九割を占めるこの団にあって、支給品をつかっていたのはカイルくらいのもので……。

見兼ねたアルフレートが「出世して返せよ」とくれたものだった。

「はっ。――相も変わらず、可愛がられているなあ?」

手袋をした指で、くぃ、と顎を持ち上げられる。
視線を外すことが出来ずにまっすぐ見つめ返すとハインツはなぜか上機嫌に口の端を歪めた。

「……期待に応えられるよう、精進します」
「腕にそぐわない、無駄にいいものを貰ったもんだ!」

馬鹿にしたような顔で言い放ち、指が離れていく。
カイルは腰に差した剣を見た。
私のおさがりだから気にするなとアルフは言ったが、やっぱり、いいものだったのか。

見せてみろ上官命令だとハインツに言われて、いやいやながらも渡すと、ふうんと剣を観察した騎士はカイルに剣を投げて返した。

カイルは、じっとハインツを見上げてから、質問してみた。

「無駄にいいもの、って。ハインツさんは剣に詳しいんですか」
「刃先を見ればわかるだろう?それに軽さだ。――身幅にしては軽い。よく鍛えた鉄は重くなくてもよく斬れる……それはきっと北部リガ鉱山で採掘された……」

説明をしようとした自分に気付いたのだろう、ハインツは舌打ちして止めて、ぽかんとしているカイルを睨む。

「何をみてやがる。俺が――剣に詳しいのがおかしいか……!」
「え」
「商人だと侮るつもりか?」

ぶんぶん、とカイルは首を振った。
そういえば、ハインツの実家は商会だったと聞いたことがある。

「そんなこと思わない。――やっぱり、見る目があるんだなって、……じゃない、あるんですね」

小さなことから優れたモノに触れている貴族は強いと思う。
カイルは上流階級の生活を騎士団に来るまで覗いたこともなかったので、とかく――知識も経験も足りない。
鉄の産地だなんて考えたこともなかった。

「あんた、すごいな」
「……ッ!」

カイルにしてみれば素直な感嘆を述べたにすぎなかったのだが、ハインツは酸っぱいものでも食べたような表情になって、動きをぎこちなく止めた。

「なにか?」

カイルが小首をかしげると、ハインツは盛大に舌打ちした。

「……!剣の良しあしくらい、自分で判断できるようにするんだなっ!クソガキがっ」

迷ったような手が乱暴に胸倉をつかみ、壁にドンと押しやられる。
それからほんの一瞬だけ頭を叩かれて、

――まるで撫でられたような形になった。

ハインツ様、ハインツ様、とご令嬢が店の中から呼ぶ声がする。
令嬢の方角を、殺気立ったまま見つめたハインツはすこしばかり逡巡して、やるせないため息をつくと、渋々といった形で店内へ戻っていく。

「なんだったんだ、今の……」

カイルは呆然とその背中を見送り、釈然としない気分で呟く。

店の外にはイマイチ何が起きたのか理解できていないカイルと、今の今までずっと壁と同化して気配を殺していた、こちらは何が起きたか十分理解して冷汗をかいている同僚のカノだけが残された。


おしまい
しおりを挟む
感想 400

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。