半魔の竜騎士は、辺境伯に執着される

矢城慧兎@中華BL完結しました

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別離編

礼拝堂 1

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夕暮れ、三色の硝子窓から粒状の光が放射を描いて差し込み、教会に集った信徒達を照らす。
声変わり前の少年と少女たちが歌い上げる静謐な聖歌が終わると、紫の肩巾の高位神官が神の言葉を信徒に伝え、信徒は皆神妙な顔で祈りを捧げた。
神官が合図をした先に何気なく視線をやって、カイルは、あ、と声を上げそうになって慌てて口元を抑えた。

小麦色の髪をした品のいい貴公子が錫杖を高位の神官に捧げ持つ。青年の肩巾の色は黄色。
彼がまだ、神官になって日が浅いのだとわかる。

「あの方、どなたかしら?美しい神官さまね」
「ほんとう!どこの名家の方かしら……」

今日のカイルの仕事は、中流貴族のたちの参加する神事の警備だった。
高位貴族ならば近衛が受け持つだろうが生憎と彼らは王太子の即位に向けた行事で忙しい。

なので最近はよく近衛手が回らない仕事に駆り出される。

ともあれ、中流貴族のお嬢様方は、王子様みたい!と若い神官に見惚れている。テオドールと並んで説話を聞いていたカイルは内心で苦笑した。

――王子様どころか!

カイルは、頭から爪先まで猫をすっぽり被った幼なじみにを呆れた目で見た。サラサラの髪に卵形の輪郭。大きめの瞳は抑えた金に近い小麦色。
絵本に出てきそうな王子様だ。
元々顔はよかったが、溢れ出る攻撃性と根性の悪さと口の悪さが幼馴染の欠点(欠点ばっかりじゃねえか、あいつは)だったのだが。
近年、外で見かけると、どこの貴公子かと思う振る舞いをするので、本性を知るカイルとしては、どうにも背中が痒くなる。

今年、二人は二十一になった。
カイルもキースも、ともに家名はトゥーリ。王都の外れにある地方の孤児が名乗る苗字は、そうだと決まっているのだ。

コソコソと話をしていた令嬢の一人が小声で、かつ、勝ち誇ったように言った。

「大聖堂の君よ?ご存知ない?」

カイルはおや、と思った。彼女には見覚えがある。
目の大きな可愛らしい令嬢は、カイルとキースが月に一度の報告会で落ち合う大聖堂でよく見る信徒だった。
大聖堂の君ってなんだ。
と思っていると彼女は続けた。常人なら聞こえないだろうが。カイルは聴力がいい。
令嬢は頬を染めていった。

「――あそこに、片割れの君がいらっしゃるの」

令嬢達がなぜか振り向いたので、カイルも慌てて後ろをーー聖堂の入り口を、見た。片割れの君って誰だ?

誰もいない。

隣で、テオドールが堪えきれないように、ぷっと噴き出し、「前を向きなさい」と小言をくれたのでカイルは慌てて前を向いた。
カイルと目があった令嬢達がきゃあ!と令嬢達が小さく歓声を上げる。
令嬢の意図した事がようやくわかって、カイルは居た堪れない心地で視線を逸らした。なんだその、こっぱずかしい展開は!
大聖堂の君その二は俺か!と気付いて赤面するしかない。

「お二人は孤児だけど、互いに王都で身を立てようと誓って二人きりで王都にいらしたんですって。国王陛下の盾と剣になるためにキースさまは神官に、カイルさまは竜騎士になったのよ!」

誤解だ。
腹が空くのが嫌でなんとか潜り込んだだけだ。

「まあ、素敵」
「ね!あの方、瞳が赤いわ。魔族の血筋なのかしら!」
「ドラゴンの神に愛されておいでで、ドラゴンと語らうことが出来るのですって!」

まあ…!と令嬢達は好き勝手に盛り上がる。
はやく、この拷問が終わらないかなとカイルは自分の耳の良さを呪いつつ遠くを見つめた。

「キースさまは神官試験で主席でいらしたとか!」
「本当に?美しくて賢くて物腰も柔らかで……向上心もお有りで。あんな方が市井にもいらっしゃるのね……」
「今日の寄付の受付はキース様なのですって!」

寄付をしなきゃ!
と俄然やる気をだした令嬢達の興味はキースに完全に移ったらしい。カイルはほっとしながら説話が終わるのを待った。

神官の説話が終わると令嬢達は宣言通り寄付の受付をしているキースのもとへ向かい、キースは世の汚れなど全く存じませんと言った顔で丁寧に応じている。

「詐欺だな……」

説話とかかったるくて、俺、だいたい半分寝てるわ。目ぇあけたまま。思慮深げに寝る方法覚えたけど、お前今度教えてやろうか?
そう愚痴を言って舌を出している男と同一人物には見えない。
カイルが呻いていると、テオドールが隣で笑う。

「大聖堂の君、私は騎士団に戻りますが。君は片割れと語り合ってきてはいかがです?」

カイルは思わず咽せた。

「変な名前で呼ばないでください!テオドール!……よく聞こえましたね」
「君じゃあるまいし、聞こえませんよ。唇を読みました」

しれ、っと金色の髪をした本物の貴公子は微笑み、カイルは相変わらず色んな特技がある人だなと感心した。

「先月はキース君と会えなかったんでしょう?寄付が終わるまで待っているといい。明日は非番でしょう?今日はもう休みでいいから、少し羽根を伸ばしてくるといい」
「ありがとう、ございます」

カイルはキースを見た。
キースが目だけで笑ったので、片手を上げて答えて礼拝堂の後ろに控えることにする。
テオドールは半日休みをあげる代わりに、と悪戯っぽく笑った。

「アルフレートに明日は必ず執務室に来るよう伝えてくださいね」
「…………はい、伝えます」
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