71 / 97
出会い編
吹雪の中 6
しおりを挟む
暖炉からぱちぱちと火が爆ぜる音がする。
それから、雪の吹きすさぶ轟という音が斜めに館めがけて迫る音。
合間に――互いの息遣いが隙間を埋めるように、落ちていく。
「冷たいか」
「……すこしだけ」
「それは悪いな」
くつくつと笑いながら毛布を床に敷布のようにして、アルフレートはカイルをゆっくりと押し倒した。
「……っ」
まだ冷たい指がほおをなぞって首筋をくすぐり、ぞくりとする。
身をよじって逃げようとするのを逃さないとばかりに口付けられる。何度も。
唇が寄せられて慈しむみたいに目尻に落とされる。
髪に指が潜ってぐしゃりと乱されるその心地よさに、おもわず息を吐いた。
「髪を撫でられるのは好きか?」
カイルは逡巡した挙句、白状した。
「あんたの……アルフの指だけだよ」
言ってから、自分でも赤面するのがわかってそっぽを向いてしまう。
アルフレートが、軽く笑ってわざと音を立ててこめかみに口付ける。可愛いなと言われた気がするが、それは無視して受け流す。
断じて、可愛くはない。
「ヒロイと身を寄せ合いながら、このまま凍死したら後悔が一つあるなと思っていた」
「ひとつだけ?意外に欲がないよな」
「茶化すな」
「……ん」
顎を強くつかまれて、舌が性急に口腔を侵す。
くちゅくちゅと音が聞こえるのが羞恥を煽る。丹念に舌で口内を蹂躙されて、はぁ、と息が漏れた。粘膜がじわりと痺れるのが気持ち良くてぼんやりとするのを、耳元で名前を呼ばれて揺り戻される。
「カイル」
「うん」
アルフレートの指がシャツを脱がせて胸元を這う。尖ったそこを親指の腹で押さえつけられて、その冷たさで一瞬震える。
「最後にお前に一目でいいから会いたいと、そう思った」
「おおげさだ」
「本心だ」
口づけが重ねられるごとに、着衣剥ぎ取られていく。剥き出しになった肩に顔を埋めたアルフレートの緋色の髪の先を指でぎゅ、と掴んでカイルは……言うべきでないと思いながらも、口にした。
「俺も、思ったよ。これで……この旅から戻ったら、アルフはいなくなるかもって。だったら、最後に役に立ちたいって……」
ん?とアルフレートはカイルから唇を離して首を傾げた。
向かい合う形にカイルの半身を起こしてから、アルフレートはちょっと目を細めた。
「さっきから、どうも話が噛み合わないが。私がいなくなるというのはなんだ?」
「はっ?」
カイルは間抜けな声を上げた。
ははあ、とアルフレートがにやつく。
乱れた前髪を片手でかき上げて、カイルを実に面白そうにみた。
「――この前の、縁談か」
「……そうだよ。結婚して、北部に帰るって」
くっくっ、とアルフレートはカイルを引き寄せた。
「いっておくが。俺は団を辞めるつもりはないぞ。婚約も破談になったしな」
「――はぁっ?」
全く色気のない声を上げたカイルを引き寄せて、アルフレートはなおも笑った。
「先方にまあ、……支障があってな?」
「支障?」
「いろいろと」
にっこりと笑ったのでこれ以上は聞くなという事なのだろう。
呆然とするカイルに、アルフレートは続けた。
「支障がなくても断るつもりだったがな」
「どうして。美人で優しそうな人じゃないか」
「私は、お前のことを罪深いと評する女性を優しいとは思わない」
静かな口調でキッパリと言われてカイルは思わず、俯いた。
アレを、聞かれていたのか。
アルフレートは俯いたカイルの顎を持ち上げた。
「初めて会った時から、お前の瞳は綺麗だと思っているよ。混じり気のない紅玉みたいだ。こんなふうに、ずっと触れたいと思っていた」
「気障すぎだろ」
「なんとでも言え。……しかし、そうか。どうも最近、逃げないと思っていたらーーずいぶん私に都合のいい勘違いをしていたわけだな。なあ、カイル。いくら私でも婚約者のいる身で、お前を口説いたりはしないし……この前みたいに、ここに触れたりもしない」
悪戯な指が素肌に直に触れてやんわりと握り込む。
カイルは耳まで赤くなって呻いた。
出立の直前に与えられた刺激を身体はしっかりと覚えていて、期待ですぐに硬くなる。
カイルは青くなって彼を押し返した。
つまり、つまりーー自分はアルフレートがいなくなると馬鹿な勘違いをして、一人でから回っていたということか!!
「や、やっぱやめる」
及び腰になったカイルをアルフレートが睨んだ。
「ばか、逃すか」
「ちょっ……!離せって!」
「冗談じゃない。お前がーーその気になるのをどれだけ待っていたと思う。こればかりは彼女に感謝してもいい」
アルフレートはカイルを背後からはがいじめにすると、逃げるなよと笑って首筋に噛み付いた。
それから、雪の吹きすさぶ轟という音が斜めに館めがけて迫る音。
合間に――互いの息遣いが隙間を埋めるように、落ちていく。
「冷たいか」
「……すこしだけ」
「それは悪いな」
くつくつと笑いながら毛布を床に敷布のようにして、アルフレートはカイルをゆっくりと押し倒した。
「……っ」
まだ冷たい指がほおをなぞって首筋をくすぐり、ぞくりとする。
身をよじって逃げようとするのを逃さないとばかりに口付けられる。何度も。
唇が寄せられて慈しむみたいに目尻に落とされる。
髪に指が潜ってぐしゃりと乱されるその心地よさに、おもわず息を吐いた。
「髪を撫でられるのは好きか?」
カイルは逡巡した挙句、白状した。
「あんたの……アルフの指だけだよ」
言ってから、自分でも赤面するのがわかってそっぽを向いてしまう。
アルフレートが、軽く笑ってわざと音を立ててこめかみに口付ける。可愛いなと言われた気がするが、それは無視して受け流す。
断じて、可愛くはない。
「ヒロイと身を寄せ合いながら、このまま凍死したら後悔が一つあるなと思っていた」
「ひとつだけ?意外に欲がないよな」
「茶化すな」
「……ん」
顎を強くつかまれて、舌が性急に口腔を侵す。
くちゅくちゅと音が聞こえるのが羞恥を煽る。丹念に舌で口内を蹂躙されて、はぁ、と息が漏れた。粘膜がじわりと痺れるのが気持ち良くてぼんやりとするのを、耳元で名前を呼ばれて揺り戻される。
「カイル」
「うん」
アルフレートの指がシャツを脱がせて胸元を這う。尖ったそこを親指の腹で押さえつけられて、その冷たさで一瞬震える。
「最後にお前に一目でいいから会いたいと、そう思った」
「おおげさだ」
「本心だ」
口づけが重ねられるごとに、着衣剥ぎ取られていく。剥き出しになった肩に顔を埋めたアルフレートの緋色の髪の先を指でぎゅ、と掴んでカイルは……言うべきでないと思いながらも、口にした。
「俺も、思ったよ。これで……この旅から戻ったら、アルフはいなくなるかもって。だったら、最後に役に立ちたいって……」
ん?とアルフレートはカイルから唇を離して首を傾げた。
向かい合う形にカイルの半身を起こしてから、アルフレートはちょっと目を細めた。
「さっきから、どうも話が噛み合わないが。私がいなくなるというのはなんだ?」
「はっ?」
カイルは間抜けな声を上げた。
ははあ、とアルフレートがにやつく。
乱れた前髪を片手でかき上げて、カイルを実に面白そうにみた。
「――この前の、縁談か」
「……そうだよ。結婚して、北部に帰るって」
くっくっ、とアルフレートはカイルを引き寄せた。
「いっておくが。俺は団を辞めるつもりはないぞ。婚約も破談になったしな」
「――はぁっ?」
全く色気のない声を上げたカイルを引き寄せて、アルフレートはなおも笑った。
「先方にまあ、……支障があってな?」
「支障?」
「いろいろと」
にっこりと笑ったのでこれ以上は聞くなという事なのだろう。
呆然とするカイルに、アルフレートは続けた。
「支障がなくても断るつもりだったがな」
「どうして。美人で優しそうな人じゃないか」
「私は、お前のことを罪深いと評する女性を優しいとは思わない」
静かな口調でキッパリと言われてカイルは思わず、俯いた。
アレを、聞かれていたのか。
アルフレートは俯いたカイルの顎を持ち上げた。
「初めて会った時から、お前の瞳は綺麗だと思っているよ。混じり気のない紅玉みたいだ。こんなふうに、ずっと触れたいと思っていた」
「気障すぎだろ」
「なんとでも言え。……しかし、そうか。どうも最近、逃げないと思っていたらーーずいぶん私に都合のいい勘違いをしていたわけだな。なあ、カイル。いくら私でも婚約者のいる身で、お前を口説いたりはしないし……この前みたいに、ここに触れたりもしない」
悪戯な指が素肌に直に触れてやんわりと握り込む。
カイルは耳まで赤くなって呻いた。
出立の直前に与えられた刺激を身体はしっかりと覚えていて、期待ですぐに硬くなる。
カイルは青くなって彼を押し返した。
つまり、つまりーー自分はアルフレートがいなくなると馬鹿な勘違いをして、一人でから回っていたということか!!
「や、やっぱやめる」
及び腰になったカイルをアルフレートが睨んだ。
「ばか、逃すか」
「ちょっ……!離せって!」
「冗談じゃない。お前がーーその気になるのをどれだけ待っていたと思う。こればかりは彼女に感謝してもいい」
アルフレートはカイルを背後からはがいじめにすると、逃げるなよと笑って首筋に噛み付いた。
154
お気に入りに追加
9,241
あなたにおすすめの小説
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。