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sectXIII バックレ
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首都全域では緊急事態に備えて、主な交通機関が封鎖されその機能が麻痺していた。
パトカーに先導されて、救急車と消防車の群が東京上空を超低空で飛行する航空機
を追うように走り回っていた。
「空港まで、間に合わないかもしれン」
機長が、焦った表情で言った。
その時、パソコンが“ピー”と鳴り指定口座に十桁の数字が入金された。
コージは、銀行オンラインを使い、手早く闇の地下銀行に移し替えた。
そして、電子商取引で金塊に換えた。
最後に、スイスのプライベートバンクにその金塊をストックさせた。
これら一連の作業は、9.5秒で完了した。
これだけのスピードで処理されれば、警視庁が新設した対コンピュータ犯罪班〝サ
イバーポリス〟でも追跡捜査には膨大な時間と労力が費やされるはずであった。
《確認した。首都高に着陸しろ》
コージが、モニターを通して命令した。
「何だとッ」
機長が、聞き返した。
《首都高は緊急時の滑走路に、指定されているはずだ》
冷徹な文字の羅列が、表示された。
「そのようなな事はできない」
機長の抗議は、当然だった。
首都高の緊急時滑走路指定はマニュアル通りではあるが、実際にそれを行使した実
例は皆無だった。
狭い首都高に、巨大な航空機が着陸するのは至難の技である。
機長の逡巡をよそに、コージはメグミにメールを送っていた。
《バックレだ》
メグミは、コージからのメールを見てコクピットを目指した。
「これでパクられなきゃ、浮かび上がれるンだ。ヒッタクリやッて、安ラブホに泊ッ
て、カップ麺なンかすすッてちゃダメ」
メグミは、そう呟きながらCAを突き飛ばすようにして駆け出した。
「ちゃンとした家を持つンだ。あたしの帰れる、あッたかい家を……」
メグミの熱い想いが、噴出した。
コクピットのフロントガラスに、丸の内に林立するオフィスビル街が見えてきた。
コージが、仕切り扉を開けた。
「おい、どこへ行くっ!」
機長が、言った。
「そンな心配より、シートベルトの着用でも指示したほうが、いーンじゃねーのか」
コージは、後ろ向きでマスクを取り初めて機長に肉声を発した。
それは機長に対して、コージなりの礼儀のつもりだった。
荷物を片付け、ガスマスクの外気栓を塞いでスタミナドリンクのキャップを回した。
「何をするつもりだっ」
機長が、怒鳴った。
コージは、キャップを取り去ってコクピットの仕切り扉を閉めた。
“乗客の皆さん、緊急着陸しますので、シートベルトを着用して、頭を抱えた前傾姿
勢を取って下さい”
機長のアナウンスが、機内に響いた。
「やッたね」
扉の外で合流したメグミが、嬉しそうに言った。
コージは、通路にいた副操縦士の足元にドリンク剤の中身をブチまけた。
「うわァァァ」
うろたえながら客室に逃げる副操縦士をよそに、コージが外に通じる緊急ドアを開
けた。
そして、メグミの手を取って空中に身を投じた。
一瞬、外気が機内に流れ込み、客室内に嵐のような突風が吹き荒れたがドアはすぐ
に風圧で閉じられた。
空中で、スーッと降下する豆粒大のコージとメグミの姿。
パッと、二つのパラシュートが開いた。
SATの武装ヘリが2人を追って急旋回した。
狙撃銃から数発の銃弾が発射された。
メグミのパラシュートに孔が開いた。
コージが、腕をつかんでメグミを背負い込んだ。
再び、狙撃銃の銃口が火を噴いた。
コージは、メグミをかばうようにその銃弾を一身に浴びた。
防弾サングラスがはじけ飛んで、頬に傷が走った。
同時に身体に数発被弾して、その衝撃でグッタリとなった。
「コージ」
2人は、オフィスビルの谷間に流れる川に着水してそのまま沈んだ。
ベイエリア近くの複数車線で直線区間の長い首都高を機長は目視して、2機の戦闘
機に誘導されながら燃料切れの306便が、中央分離帯をまたいで今まさに緊急着陸
を敢行しようとしていた。
“日本政府の対応の不手際により円安が進み、航空機関連を中心に、日経平均株価が
急落しています”
街頭テレビでは封鎖された首都高上の旅客機の周りを救急車、消防車、警察の各車
両で埋め尽くされた様子と株式市況をからめたニュースが報じられていた。
「だからさァ。首都高は、駐禁だッつの」
不時着した旅客機の最前列で、渋滞待ちしているタクシードライバーが嘆いていた。
都内の地下鉄は、夕方のラッシュアワーでごった返していた。
─『ハイテク武装のハイジャッカー、射殺?』
─『死体行方不明! 犯人は、ゾンビ』
帰宅途中のビジネスマンが手にしている号外紙には、どデカい見出しが踊っていた。
駅構内のコインロッカーに、手袋をはめたゴツい手が大きめの袋を入れた。
袋から弾丸で孔の開いた、濡れた防弾チョッキがはみだして見える。
男の頬にある生キズを、同伴の若い女が軽く舌で舐めた。
雑踏に紛れるようにして、若い一組のカップルが手をつないで歩いて行った。
─Fin.
パトカーに先導されて、救急車と消防車の群が東京上空を超低空で飛行する航空機
を追うように走り回っていた。
「空港まで、間に合わないかもしれン」
機長が、焦った表情で言った。
その時、パソコンが“ピー”と鳴り指定口座に十桁の数字が入金された。
コージは、銀行オンラインを使い、手早く闇の地下銀行に移し替えた。
そして、電子商取引で金塊に換えた。
最後に、スイスのプライベートバンクにその金塊をストックさせた。
これら一連の作業は、9.5秒で完了した。
これだけのスピードで処理されれば、警視庁が新設した対コンピュータ犯罪班〝サ
イバーポリス〟でも追跡捜査には膨大な時間と労力が費やされるはずであった。
《確認した。首都高に着陸しろ》
コージが、モニターを通して命令した。
「何だとッ」
機長が、聞き返した。
《首都高は緊急時の滑走路に、指定されているはずだ》
冷徹な文字の羅列が、表示された。
「そのようなな事はできない」
機長の抗議は、当然だった。
首都高の緊急時滑走路指定はマニュアル通りではあるが、実際にそれを行使した実
例は皆無だった。
狭い首都高に、巨大な航空機が着陸するのは至難の技である。
機長の逡巡をよそに、コージはメグミにメールを送っていた。
《バックレだ》
メグミは、コージからのメールを見てコクピットを目指した。
「これでパクられなきゃ、浮かび上がれるンだ。ヒッタクリやッて、安ラブホに泊ッ
て、カップ麺なンかすすッてちゃダメ」
メグミは、そう呟きながらCAを突き飛ばすようにして駆け出した。
「ちゃンとした家を持つンだ。あたしの帰れる、あッたかい家を……」
メグミの熱い想いが、噴出した。
コクピットのフロントガラスに、丸の内に林立するオフィスビル街が見えてきた。
コージが、仕切り扉を開けた。
「おい、どこへ行くっ!」
機長が、言った。
「そンな心配より、シートベルトの着用でも指示したほうが、いーンじゃねーのか」
コージは、後ろ向きでマスクを取り初めて機長に肉声を発した。
それは機長に対して、コージなりの礼儀のつもりだった。
荷物を片付け、ガスマスクの外気栓を塞いでスタミナドリンクのキャップを回した。
「何をするつもりだっ」
機長が、怒鳴った。
コージは、キャップを取り去ってコクピットの仕切り扉を閉めた。
“乗客の皆さん、緊急着陸しますので、シートベルトを着用して、頭を抱えた前傾姿
勢を取って下さい”
機長のアナウンスが、機内に響いた。
「やッたね」
扉の外で合流したメグミが、嬉しそうに言った。
コージは、通路にいた副操縦士の足元にドリンク剤の中身をブチまけた。
「うわァァァ」
うろたえながら客室に逃げる副操縦士をよそに、コージが外に通じる緊急ドアを開
けた。
そして、メグミの手を取って空中に身を投じた。
一瞬、外気が機内に流れ込み、客室内に嵐のような突風が吹き荒れたがドアはすぐ
に風圧で閉じられた。
空中で、スーッと降下する豆粒大のコージとメグミの姿。
パッと、二つのパラシュートが開いた。
SATの武装ヘリが2人を追って急旋回した。
狙撃銃から数発の銃弾が発射された。
メグミのパラシュートに孔が開いた。
コージが、腕をつかんでメグミを背負い込んだ。
再び、狙撃銃の銃口が火を噴いた。
コージは、メグミをかばうようにその銃弾を一身に浴びた。
防弾サングラスがはじけ飛んで、頬に傷が走った。
同時に身体に数発被弾して、その衝撃でグッタリとなった。
「コージ」
2人は、オフィスビルの谷間に流れる川に着水してそのまま沈んだ。
ベイエリア近くの複数車線で直線区間の長い首都高を機長は目視して、2機の戦闘
機に誘導されながら燃料切れの306便が、中央分離帯をまたいで今まさに緊急着陸
を敢行しようとしていた。
“日本政府の対応の不手際により円安が進み、航空機関連を中心に、日経平均株価が
急落しています”
街頭テレビでは封鎖された首都高上の旅客機の周りを救急車、消防車、警察の各車
両で埋め尽くされた様子と株式市況をからめたニュースが報じられていた。
「だからさァ。首都高は、駐禁だッつの」
不時着した旅客機の最前列で、渋滞待ちしているタクシードライバーが嘆いていた。
都内の地下鉄は、夕方のラッシュアワーでごった返していた。
─『ハイテク武装のハイジャッカー、射殺?』
─『死体行方不明! 犯人は、ゾンビ』
帰宅途中のビジネスマンが手にしている号外紙には、どデカい見出しが踊っていた。
駅構内のコインロッカーに、手袋をはめたゴツい手が大きめの袋を入れた。
袋から弾丸で孔の開いた、濡れた防弾チョッキがはみだして見える。
男の頬にある生キズを、同伴の若い女が軽く舌で舐めた。
雑踏に紛れるようにして、若い一組のカップルが手をつないで歩いて行った。
─Fin.
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普通では有り得ない事ばかりを起こすコージとメグミの頭のネジの外れ方が面白い。
👍️