さあ 離婚しましょう、はじめましょう

もう一度はじめましょう

第五話

心地よい重みを感じて私が目を開ければ、ギュッと抱きしめられたまま眠っていたことがわかる。
男にしておくのはもったいないほど、綺麗な顔をチャンスとばかりに見つめた。
なかなか今までこんな至近距離で尋人の顔を見たことがない。

「ねえ、尋人。もう一度結婚……してくれる？」
まだ直接は尋ねる勇気がなくて、そっと小さく声にしてみて恥ずかしくなる。
クルリと背中を向けて起き上がろうとした私だったが、後ろから抱きしめられて驚いてしまう。

「なに、尋人起きてたの？」
「ごめん、弥生」
尋人の顔は見えない。しかしこの幸せなはずの朝に謝罪の言葉から始まると思っていなかった私は、氷水をかけられたように全身が冷たくなる。

「本当にごめん。どれだけ怒ってもいいから」
「な……に？」
心臓の音が自分の音とも思えないほどうるさくて、尋人の声が遠くから聞こえる。

「預かった離婚届出してない」
「え？」
かなり間抜けな声とともに、へなへなと力が抜けてしまう。そんな私を尋人は抱きしめ続ける。
「絶対に弥生を手に入れるって思ってたから、預かったまま出してない」
「よかった……」
本当に心から無意識に零れ落ちた言葉に、尋人も大きく息を吐いた。
「さっき言ってくれた言葉本気だよな？」
「え？　あの時から起きてたの？　信じられない！」
眠ったふりをしていたなんて。恥ずかしくて悔しくて私は尋人の腕からすり抜ける。

「弥生！」
焦ったような尋人に嬉しくなる。こんなにも愛されている。大切にされている。
その気持ちが私に自信を持たせてくれる気がした。
尋人のの隣ならば、私は私らしく生きていける。

「今日もたくさん付き合ってもらうからね。そしてこれからもずっと」
そう言った私を尋人は力いっぱい抱きしめた。

「ずっと一緒に笑っていこう」
ようやく元に戻った私たち。さあ、また始めましょう。


End