10 / 42
それってどっちが正しいの?
第四話
しおりを挟む
昨日までとは違う組み合わせで今歩いていることが、違和感でしかない。
初めは一緒にいて楽しかっただけの関係で、真っ直ぐな佐和子の気持ちで動いてきた私たち。
しかし、佐和子のそれが崩れた時、どうなるのだろう。
とりあえずは仕事に支障がでないようにしなければ。そう思いながら事業部のフロアに足を踏みいれたのに、尋人の姿を見て私は回れ右をしていた
。その姿に横にいた宗次郎君が驚いたように私に声をかける。
「三条、どうした?」
その声に反応するように、デスクに座っていた尋人がこっちを見る。
「宗次郎」
静かに尋人が宗次郎君を呼べば、宗次郎君は笑顔を浮かべる。
「おはよう、尋人」
そんな会話をしている二人をよそに、私はそっとフロアからまた廊下に出た。
目の前で尋人を見てしまうと、あの日のことが記憶によみがえってしまう。結婚までしていたのにこんなふうに動揺するなんてお笑いだ。
自嘲気味な気持ちで休憩室でコーヒーを買おうと自動販売機にお金を入れると、後ろから手が伸びてきてオレンジジュースが押された。
「なっ!」
オレンジジュースを飲むつもりもなかった私は、だれがこんないたずらをと振り返った。
「お前、今日朝食べてないだろ。コーヒーはやめとけ」
会社用の少し威圧的な声が聞こえてきて、私はグッと唇を噛む。
「食べたよ」
「嘘つけ」
俯いたまま答えた私に、尋人はオレンジジュースを自販機から取ると私の手の上に乗せる。
そしてもう一つ、私の好きなチョコレートバー。その行動に私は無意識に尋人を仰ぎ見れば、心配そうな瞳があった。
「これもきちんと食べておけ。顔色が悪いぞ」
その原因は誰のせい。そう思うもちろん言えるわけがない。キス一つを意識していると、なぜか思われたくはなかった。
「ありがとう」
極力意識をしないようにと笑顔を向ければ、尋人は何も言わない。この空気に耐えられなくなり、心臓の音がバクバクと煩い。
「今日は、宗次郎君と食事に行くから。あっ、もう一緒に住んでないし関係ないか」
どうしてこんなことを言ってしまったのかまったくわからないが、なんとなく朝の佐和子との楽しそうな様子の後、私も気にかけていますといわれたような感じが面白くなかったのかもしれない。
「そう、よかったな」
それだけを言うと、尋人は戻っていってしまった。
もちろん、私が宗次郎君とどこに行こうが関係ないだろう。笑顔で『よかったな』そう言われた私はさらに自分を落ち込ませただけだった。
初めは一緒にいて楽しかっただけの関係で、真っ直ぐな佐和子の気持ちで動いてきた私たち。
しかし、佐和子のそれが崩れた時、どうなるのだろう。
とりあえずは仕事に支障がでないようにしなければ。そう思いながら事業部のフロアに足を踏みいれたのに、尋人の姿を見て私は回れ右をしていた
。その姿に横にいた宗次郎君が驚いたように私に声をかける。
「三条、どうした?」
その声に反応するように、デスクに座っていた尋人がこっちを見る。
「宗次郎」
静かに尋人が宗次郎君を呼べば、宗次郎君は笑顔を浮かべる。
「おはよう、尋人」
そんな会話をしている二人をよそに、私はそっとフロアからまた廊下に出た。
目の前で尋人を見てしまうと、あの日のことが記憶によみがえってしまう。結婚までしていたのにこんなふうに動揺するなんてお笑いだ。
自嘲気味な気持ちで休憩室でコーヒーを買おうと自動販売機にお金を入れると、後ろから手が伸びてきてオレンジジュースが押された。
「なっ!」
オレンジジュースを飲むつもりもなかった私は、だれがこんないたずらをと振り返った。
「お前、今日朝食べてないだろ。コーヒーはやめとけ」
会社用の少し威圧的な声が聞こえてきて、私はグッと唇を噛む。
「食べたよ」
「嘘つけ」
俯いたまま答えた私に、尋人はオレンジジュースを自販機から取ると私の手の上に乗せる。
そしてもう一つ、私の好きなチョコレートバー。その行動に私は無意識に尋人を仰ぎ見れば、心配そうな瞳があった。
「これもきちんと食べておけ。顔色が悪いぞ」
その原因は誰のせい。そう思うもちろん言えるわけがない。キス一つを意識していると、なぜか思われたくはなかった。
「ありがとう」
極力意識をしないようにと笑顔を向ければ、尋人は何も言わない。この空気に耐えられなくなり、心臓の音がバクバクと煩い。
「今日は、宗次郎君と食事に行くから。あっ、もう一緒に住んでないし関係ないか」
どうしてこんなことを言ってしまったのかまったくわからないが、なんとなく朝の佐和子との楽しそうな様子の後、私も気にかけていますといわれたような感じが面白くなかったのかもしれない。
「そう、よかったな」
それだけを言うと、尋人は戻っていってしまった。
もちろん、私が宗次郎君とどこに行こうが関係ないだろう。笑顔で『よかったな』そう言われた私はさらに自分を落ち込ませただけだった。
0
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる