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これからの未来へ
第3話
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あの日から年末まで、かなりの予約や問い合わせが入り、忙しさもそのままに嬉しい悲鳴を上げていた。
普通ならばすでに年末年始の休暇に入っているはずだったが、日葵たちの事業部だけ年末ぎりぎりまで仕事をしていた。
「本当にお疲れ様。こんな最終日まで出勤してくれて本当に感謝しかない」
すっかり元気になった壮一の言葉に、メンバーたちは笑顔で首を振る。それぐらいの達成感があった。
「少し年始は長く休みを取れるからゆっくりとしてくれ」
「はい!」
各々帰り支度をしていると、日葵はそっと壮一を盗み見る。
あの日以来、仕事が忙しくて会話らしい会話もしていないし、本当に気持ちが通じ合ったのか実感がないままだった。
それに、日葵には気がかりがもう一つあった。
「長谷川さん。今年はお世話になりました」
可愛らしい笑顔でバッグを持って日葵に挨拶に来た柚希に、日葵も笑顔を向ける。
「柚希ちゃん、あのね」
「長谷川さん、私は何も言ってませんよ」
「え……?」
その意味が解らず日葵は、柚希に聞き返すと、柚希はフワリと笑顔を向けた。
「私がチーフに抱いていたのは、ただの尊敬だけです。なのでそれ以上は言わなくていいですよ」
きっとあのパーティーの日から色々噂になっていたのだろう。それを知り、先にこうして自分のことを気にしてくれる柚希に、日葵は感謝しかなかった。
「柚希ちゃん、お疲れ様」
ゆっくりと言葉を発した日葵に、柚希はぺこりと頭を下げるとそのままフロアを出てってしまった。
そんな柚希の後姿を見て、日葵は小さくため息をつく。
(柚希ちゃんの方が大人だな……ありがとう)
自分の気持ちがわからず、いろいろな人を傷つけてそれでも譲れない思いを知った。
これからはもう迷いたくない。そんな思いでいると、不意に後ろに気配を感じて日葵は振り返る。
「チーフ……」
いつのまにかフロアには誰もおらず、壮一と二人きりな事に気づき、日葵はドキッとしてしまう。
フロアに二人のことなんて何度もあったが、前とは違ったドキドキが日葵をおそう。
「終わった?」
「はい」
ジッと壮一を見れば、その瞳に自分が移って日葵は羞恥から視線を外してしまう。それをさせないと言わんばかりに、壮一の瞳が日葵を追う。
「あの日からゆっくり日葵といられなかったから。今日は一緒にいよう」
その言葉に、更に日葵の心臓は早く音を立てる。「うん……」そう返事をしたところで同時に二人のスマホが音を立てた。
「嫌な予感がする」
舌打ちでもしそうな勢いで、壮一は胸ポケットからスマホを出すと「やっぱり……」とつぶやく。
「だよね……」
日葵も誰からか想像がつきつつスマホを開くと、そこには長谷川家と清水家のグループラインが作られていて、今日の夜は久しぶりに集まると書かれていた。
「壮一も、日葵ちゃんも絶対参加よ!」
香織のその言葉に、日葵も苦笑しながらその文面に目を走らせる。
「仕方ないね。いかないわけには行かないし」
「マジかよ……」
ずっと壮一がアメリカに行っていたため、ずっと年末の集まりはなかった。
今年は誠真も帰ってきているため、何年振りかに二家族が揃うのだ。その気持ちもわかる二人には、行かないという選択肢はなかった。
「せっかく日葵と二人にようやくなれると思ったのにな」
日葵の耳元に唇を寄せると、壮一が呟く。その言葉に一気に日葵の体温が上がる気がした。
今までとは違う、二人きりの時間がまだ日葵にはどうしていいのかわからずにいた。
チラリと壮一を見れば、不満げな表情で荷物を片付けている。
「日葵? どうした?」
「なんでもない」
自分だけがこんなにドキドキしているのだろうか? 今まで通りの冷静で少しイジワルな表情の壮一に日葵は心の中で大きなため息を付いた。
会社を出て、壮一の車で日葵の実家へと向かう途中も、壮一は無言で涼しい顔で日葵の手を弄ぶように触れていた。
今までとは違う関係性を嫌でも感じてしまい、日葵はドキドキが収まらない。ずっと一緒に過ごしてきた人はもはや完全に日葵の中では別の人のような感覚が襲う。
「日葵、ドキドキしてる?」
そんな日葵を見透かすように、壮一が前を見ながら日葵に問いかける。
「な……別に」
つい、恥ずかしくて言葉を発してしまうも、そんな日葵を壮一はチラリとみる。
「俺はしてるよ。小さいころとは違う女の日葵に」
「な……」
(なんてことを言うの?)
は言葉にならず、日葵はパクパクと口だけをしてしまう。ちょうど赤信号になり車が止まると、壮一は弄んでいた手をギュッと握りしめ、助手席に身を乗り出す。
「壮……」
「もっとこの関係に慣れろよ」
妖艶で綺麗すぎる顔が自分だけに向けられている。それだけで日葵の鼓動は煩いぐらいに跳ね上がってしまう。どうすることもできず目を見開いていると、そっと優しいキスが落とされる。
そっと唇が離れ、綺麗な壮一の瞳が日葵の瞳をとらえて離さない。もう限界と思うほどに胸は高鳴るが、この熱が嬉しくて初めての感覚に日葵は戸惑いを隠せなかった。
信号が青に変わり、何事もなかったように壮一が車を走らせると、日葵は窓の向こうの夜景に視線を向ける。
(この年で本当の恋を知るって……)
これからの自分がどうなるのかなど、日葵自身にもわからず心の中で大きなため息を付いた。
普通ならばすでに年末年始の休暇に入っているはずだったが、日葵たちの事業部だけ年末ぎりぎりまで仕事をしていた。
「本当にお疲れ様。こんな最終日まで出勤してくれて本当に感謝しかない」
すっかり元気になった壮一の言葉に、メンバーたちは笑顔で首を振る。それぐらいの達成感があった。
「少し年始は長く休みを取れるからゆっくりとしてくれ」
「はい!」
各々帰り支度をしていると、日葵はそっと壮一を盗み見る。
あの日以来、仕事が忙しくて会話らしい会話もしていないし、本当に気持ちが通じ合ったのか実感がないままだった。
それに、日葵には気がかりがもう一つあった。
「長谷川さん。今年はお世話になりました」
可愛らしい笑顔でバッグを持って日葵に挨拶に来た柚希に、日葵も笑顔を向ける。
「柚希ちゃん、あのね」
「長谷川さん、私は何も言ってませんよ」
「え……?」
その意味が解らず日葵は、柚希に聞き返すと、柚希はフワリと笑顔を向けた。
「私がチーフに抱いていたのは、ただの尊敬だけです。なのでそれ以上は言わなくていいですよ」
きっとあのパーティーの日から色々噂になっていたのだろう。それを知り、先にこうして自分のことを気にしてくれる柚希に、日葵は感謝しかなかった。
「柚希ちゃん、お疲れ様」
ゆっくりと言葉を発した日葵に、柚希はぺこりと頭を下げるとそのままフロアを出てってしまった。
そんな柚希の後姿を見て、日葵は小さくため息をつく。
(柚希ちゃんの方が大人だな……ありがとう)
自分の気持ちがわからず、いろいろな人を傷つけてそれでも譲れない思いを知った。
これからはもう迷いたくない。そんな思いでいると、不意に後ろに気配を感じて日葵は振り返る。
「チーフ……」
いつのまにかフロアには誰もおらず、壮一と二人きりな事に気づき、日葵はドキッとしてしまう。
フロアに二人のことなんて何度もあったが、前とは違ったドキドキが日葵をおそう。
「終わった?」
「はい」
ジッと壮一を見れば、その瞳に自分が移って日葵は羞恥から視線を外してしまう。それをさせないと言わんばかりに、壮一の瞳が日葵を追う。
「あの日からゆっくり日葵といられなかったから。今日は一緒にいよう」
その言葉に、更に日葵の心臓は早く音を立てる。「うん……」そう返事をしたところで同時に二人のスマホが音を立てた。
「嫌な予感がする」
舌打ちでもしそうな勢いで、壮一は胸ポケットからスマホを出すと「やっぱり……」とつぶやく。
「だよね……」
日葵も誰からか想像がつきつつスマホを開くと、そこには長谷川家と清水家のグループラインが作られていて、今日の夜は久しぶりに集まると書かれていた。
「壮一も、日葵ちゃんも絶対参加よ!」
香織のその言葉に、日葵も苦笑しながらその文面に目を走らせる。
「仕方ないね。いかないわけには行かないし」
「マジかよ……」
ずっと壮一がアメリカに行っていたため、ずっと年末の集まりはなかった。
今年は誠真も帰ってきているため、何年振りかに二家族が揃うのだ。その気持ちもわかる二人には、行かないという選択肢はなかった。
「せっかく日葵と二人にようやくなれると思ったのにな」
日葵の耳元に唇を寄せると、壮一が呟く。その言葉に一気に日葵の体温が上がる気がした。
今までとは違う、二人きりの時間がまだ日葵にはどうしていいのかわからずにいた。
チラリと壮一を見れば、不満げな表情で荷物を片付けている。
「日葵? どうした?」
「なんでもない」
自分だけがこんなにドキドキしているのだろうか? 今まで通りの冷静で少しイジワルな表情の壮一に日葵は心の中で大きなため息を付いた。
会社を出て、壮一の車で日葵の実家へと向かう途中も、壮一は無言で涼しい顔で日葵の手を弄ぶように触れていた。
今までとは違う関係性を嫌でも感じてしまい、日葵はドキドキが収まらない。ずっと一緒に過ごしてきた人はもはや完全に日葵の中では別の人のような感覚が襲う。
「日葵、ドキドキしてる?」
そんな日葵を見透かすように、壮一が前を見ながら日葵に問いかける。
「な……別に」
つい、恥ずかしくて言葉を発してしまうも、そんな日葵を壮一はチラリとみる。
「俺はしてるよ。小さいころとは違う女の日葵に」
「な……」
(なんてことを言うの?)
は言葉にならず、日葵はパクパクと口だけをしてしまう。ちょうど赤信号になり車が止まると、壮一は弄んでいた手をギュッと握りしめ、助手席に身を乗り出す。
「壮……」
「もっとこの関係に慣れろよ」
妖艶で綺麗すぎる顔が自分だけに向けられている。それだけで日葵の鼓動は煩いぐらいに跳ね上がってしまう。どうすることもできず目を見開いていると、そっと優しいキスが落とされる。
そっと唇が離れ、綺麗な壮一の瞳が日葵の瞳をとらえて離さない。もう限界と思うほどに胸は高鳴るが、この熱が嬉しくて初めての感覚に日葵は戸惑いを隠せなかった。
信号が青に変わり、何事もなかったように壮一が車を走らせると、日葵は窓の向こうの夜景に視線を向ける。
(この年で本当の恋を知るって……)
これからの自分がどうなるのかなど、日葵自身にもわからず心の中で大きなため息を付いた。
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