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変化する関係
第6話
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「どこって……。仕事の件はなんでしたか?」
口を手で覆い、息を吐きだしながら答えた日葵に、少しの無言のあと壮一から仕事のファイルの場所を尋ねられ、日葵は端的に答えた。
「おつかれさまでした」
こんな状況がバレたくなくて、今すぐに電話を切ろうとした日葵だったが、壮一がそれを許すわけもなかった。
『ひま、お前今何してる? 誰かと一緒か?』
「違います。一人です」
馬鹿正直に答えてしまったことを後悔するも、昔から 〝ひま”そう呼ばれると怒られている気がしてしまう。
『じゃあ、場所はどこ?』
「え?」
答えたくないわけではなく、日葵自身どこにいるのかわからず、周りを見渡す。見慣れない景色にキョロキョロとしていると、受話器の向こうからため息が聞こえた。
『すぐに位置情報送信しろ』
命令されるように言われ、日葵自身自分の場所を確認する必要もあり、位置情報をあらわす。
どうやら、駅とは真逆の方へと歩いていたようだった。
「大丈夫です。わかりました」
きっと迎えにくるというだろう。そんな壮一に日葵は静かに言葉を発して、電話を切ろうとした。今壮一に会えば、ぐちゃぐちゃな気持ちがさらに加速しそうだった。
『ひま、いい加減にしろ』
かなり怒った様子の壮一に、なぜか日葵は涙がポタリと頬を伝う。
仕事も忙しく、崎本の事も、壮一のことも、何もかもがわからない。
「だって、だって……」
『もういい、こっちで確認する』
え?
日葵のスマホの位置情報など、きっと壮一にかかればすぐにわかるだろう。
『なんでそんなところに、カフェも何もないな……くそ』
呟くように聞こえた後、電話の向こうでガサガサという音だけが聞こえる。
『絶対に動くな!』
その言葉を最後に、日葵の耳に無機質な音が聞こえた。
ぼんやりとしながらもうどうしようもないと、日葵はその場に立ち尽くしていた。
ようやく寒い、そんな感覚が襲いコートの胸元をキュッと手で閉じる。
それから数分後、車ならそれほどの距離でないことが、壮一の車が目の前に止まったことでわかった。
バンという大きな音を立てて、壮一が走って来るのが見えた。
「日葵!」
慌てたように壮一が目の前に現れ、なぜかほっとしてしまった自分に驚いた。
会いたくない、そう思っていたのに。
「お前なにやってるんだ! こんな寒いのに行くぞ」
壮一も慌てていたのだろう、昔のように日葵の手を掴み車へと引っ張っていく。
「お前、なんだよ、この氷みたいに冷たい手は。どれだけ外にいたんだよ」
もう心配を通り越して、怒っている壮一に「ごめんなさい」それだけを日葵は呟いた。
「謝れなんて言ってない。何をしてたんだって聞いてるんだよ!」
冷静沈着な壮一ではない慌てた壮一を見て、日葵はなぜか少しだけ嬉しくなる。
強引に助手席に乗せられ、車の中の温かさにホッと息を吐くと、運転席に乗り込んだ壮一の視線に気づいた。
「何かあったのか?」
静かに問われ、日葵はギュッと唇を噛んだ。何も話す気がないと分かったのか、壮一はため息交じりに車を発車させた。
マンションの駐車時用につくと、日葵はこれ以上壮一に何か聞かれるのを避けるように、ドアノブに手をかけた。
「すみませんでした。お手数をかけて」
昔に戻れないと言われた以上、このセリフが正解だと日葵は思いそう言葉を発した。
「じゃあ、上司として聞く。何があってあんなところで一人さまよっていたんだ?」
上司として聞かれようが、まさかあなたのことですとは言えず、日葵は黙り込む。
「なんでもありません。少しイルミネーションが見たかったんです」
言い訳のように呟いた言葉に、助手席から大きなため息が聞こえた。
「そうか……。なんていうと思ったのか?」
(怒った?)
そう思った日葵だったが、壮一の表情は苦し気で、本当に心配してくれていると理解する。
「ごめんなさい」
そのセリフしか浮かばず、同時にまた瞳から涙が零れ落ちる。
泣きたくて泣いているわけでもなく、ただ瞳から水が落ちてくるそんな感覚だった。
そのため、どうしたらその涙を止めるのか全く分からなかった。
「日葵……」
呟くように聞こえ、壮一の手が日葵の頬に触れその涙を拭う。
小さいころから当たり前の行為だが、その手はすぐに離れて行ってしまう。
「悪い」
そしてすぐに聞こえたその謝罪に、日葵はもう訳が分からなかった。
崎本への気持ちも、急に小さいころからの関係もすべて変えようとする壮一も。
口を手で覆い、息を吐きだしながら答えた日葵に、少しの無言のあと壮一から仕事のファイルの場所を尋ねられ、日葵は端的に答えた。
「おつかれさまでした」
こんな状況がバレたくなくて、今すぐに電話を切ろうとした日葵だったが、壮一がそれを許すわけもなかった。
『ひま、お前今何してる? 誰かと一緒か?』
「違います。一人です」
馬鹿正直に答えてしまったことを後悔するも、昔から 〝ひま”そう呼ばれると怒られている気がしてしまう。
『じゃあ、場所はどこ?』
「え?」
答えたくないわけではなく、日葵自身どこにいるのかわからず、周りを見渡す。見慣れない景色にキョロキョロとしていると、受話器の向こうからため息が聞こえた。
『すぐに位置情報送信しろ』
命令されるように言われ、日葵自身自分の場所を確認する必要もあり、位置情報をあらわす。
どうやら、駅とは真逆の方へと歩いていたようだった。
「大丈夫です。わかりました」
きっと迎えにくるというだろう。そんな壮一に日葵は静かに言葉を発して、電話を切ろうとした。今壮一に会えば、ぐちゃぐちゃな気持ちがさらに加速しそうだった。
『ひま、いい加減にしろ』
かなり怒った様子の壮一に、なぜか日葵は涙がポタリと頬を伝う。
仕事も忙しく、崎本の事も、壮一のことも、何もかもがわからない。
「だって、だって……」
『もういい、こっちで確認する』
え?
日葵のスマホの位置情報など、きっと壮一にかかればすぐにわかるだろう。
『なんでそんなところに、カフェも何もないな……くそ』
呟くように聞こえた後、電話の向こうでガサガサという音だけが聞こえる。
『絶対に動くな!』
その言葉を最後に、日葵の耳に無機質な音が聞こえた。
ぼんやりとしながらもうどうしようもないと、日葵はその場に立ち尽くしていた。
ようやく寒い、そんな感覚が襲いコートの胸元をキュッと手で閉じる。
それから数分後、車ならそれほどの距離でないことが、壮一の車が目の前に止まったことでわかった。
バンという大きな音を立てて、壮一が走って来るのが見えた。
「日葵!」
慌てたように壮一が目の前に現れ、なぜかほっとしてしまった自分に驚いた。
会いたくない、そう思っていたのに。
「お前なにやってるんだ! こんな寒いのに行くぞ」
壮一も慌てていたのだろう、昔のように日葵の手を掴み車へと引っ張っていく。
「お前、なんだよ、この氷みたいに冷たい手は。どれだけ外にいたんだよ」
もう心配を通り越して、怒っている壮一に「ごめんなさい」それだけを日葵は呟いた。
「謝れなんて言ってない。何をしてたんだって聞いてるんだよ!」
冷静沈着な壮一ではない慌てた壮一を見て、日葵はなぜか少しだけ嬉しくなる。
強引に助手席に乗せられ、車の中の温かさにホッと息を吐くと、運転席に乗り込んだ壮一の視線に気づいた。
「何かあったのか?」
静かに問われ、日葵はギュッと唇を噛んだ。何も話す気がないと分かったのか、壮一はため息交じりに車を発車させた。
マンションの駐車時用につくと、日葵はこれ以上壮一に何か聞かれるのを避けるように、ドアノブに手をかけた。
「すみませんでした。お手数をかけて」
昔に戻れないと言われた以上、このセリフが正解だと日葵は思いそう言葉を発した。
「じゃあ、上司として聞く。何があってあんなところで一人さまよっていたんだ?」
上司として聞かれようが、まさかあなたのことですとは言えず、日葵は黙り込む。
「なんでもありません。少しイルミネーションが見たかったんです」
言い訳のように呟いた言葉に、助手席から大きなため息が聞こえた。
「そうか……。なんていうと思ったのか?」
(怒った?)
そう思った日葵だったが、壮一の表情は苦し気で、本当に心配してくれていると理解する。
「ごめんなさい」
そのセリフしか浮かばず、同時にまた瞳から涙が零れ落ちる。
泣きたくて泣いているわけでもなく、ただ瞳から水が落ちてくるそんな感覚だった。
そのため、どうしたらその涙を止めるのか全く分からなかった。
「日葵……」
呟くように聞こえ、壮一の手が日葵の頬に触れその涙を拭う。
小さいころから当たり前の行為だが、その手はすぐに離れて行ってしまう。
「悪い」
そしてすぐに聞こえたその謝罪に、日葵はもう訳が分からなかった。
崎本への気持ちも、急に小さいころからの関係もすべて変えようとする壮一も。
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