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忘れたい
第8話
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そんなモヤモヤとしたまま日葵は仕事を終えようとしていた。
予定を見れば壮一は外へと出ている。
戻りは未定。
話したいわけでもないが、何か釈然としない気持ちを持て余しながら鞄を手にして会社から出ると、知った顔を見つけて足を止めた。
「長谷川、終わり?」
柔らかな笑顔をみせるあの日以来会っていなかった崎本に、日葵も微笑んだ。
「お疲れ様です」
「その表情を見る限り、今日も付け入るチャンスかな?」
「なんですか?それ」
少しふざけたようなその言葉に、日葵は苦笑した。
「幸せいっぱいの長谷川なら笑顔を見たら諦めようと思うけど、そうじゃなさそうだから」
日葵の心のうちを簡単に見抜く崎本に、日葵はキュッと唇を噛んだ。
「明日は休みだ…飯でも行こう。断るのはなし」
珍しく言い切った崎本に、日葵は小さく頷いた。
落ち着いた静かなイタリアンの店で崎本と向かいあわせに座り、オーダーを済ませると日葵は崎本をみた。
「そんなに顔にでてますか?」
そんな日葵の言葉に崎本は少し考えるような表情を浮かべた。
「そうだな。今は何かを悩んでるように見えるかな」
ゆっくりとテーブルで手を組みジッと見つめられて、日葵は視線を外した。
「かないませんね。部長には」
「なに?聞かせて?」
崎本もゆっくりと視線を外し、グラスのミネラルウォーターを口に運ぶ。
そんな仕草を見ながら日葵は言葉を探した。
「いえ、別に……」
「俺のことは気にしないで。君の思っていることを聞いてどう攻略すべきが考えるんだから」
クスリと柔らかい笑みを浮かべた崎本に、日葵も表情を緩めた。
「私、何も知らなかったんだなって」
「彼のことを?」
少しだけ驚いた表情を見せた崎本に、日葵は小さく頷いた。
「生まれたときから一緒にいて、ずっと見ていたはずなのに、今いる主任は別の人のようで」
壮一にべったりくっついていた時は、ただ一緒にいて楽しかった、嬉しかった、完ぺきな人だと思っていた。
しかし、今は壮一の厳しさや、優しさ、そして壮一自身の葛藤。
それを親や自分に見せないように、どれだけの努力をしてきたのかを知ってしまった。
努力なしでなんでも完璧に出来ると思っていた自分は、どれだけ子供だったか。
「別人か」
「別人ってそう言うわけでもないんですけどなんて言うか」
考えて言い淀む日葵に、崎本はジッと日葵を見つめた。
「生身の男?」
「え?」
その言葉の意味が解らず言葉を発した。
「やばいな……」
ぼやくように言った崎本の言葉の意味が解らずに、日葵は困惑した表情を浮かべた。
そこへまだ何かを問いかけようとした日葵の前に、前菜の皿が並べられた。
「部長?どういうことですか……?」
「これ以上は言わない。考えて欲しくないな。さあ食べよう」
さっきまでの少し険しい表情は消え、いつも通りの崎本の笑顔に日葵は何も言うことが出来ず、フォークを手に取った。
(生身の……男……?)
頭の中でその言葉がグルグルと渦巻いた。
予定を見れば壮一は外へと出ている。
戻りは未定。
話したいわけでもないが、何か釈然としない気持ちを持て余しながら鞄を手にして会社から出ると、知った顔を見つけて足を止めた。
「長谷川、終わり?」
柔らかな笑顔をみせるあの日以来会っていなかった崎本に、日葵も微笑んだ。
「お疲れ様です」
「その表情を見る限り、今日も付け入るチャンスかな?」
「なんですか?それ」
少しふざけたようなその言葉に、日葵は苦笑した。
「幸せいっぱいの長谷川なら笑顔を見たら諦めようと思うけど、そうじゃなさそうだから」
日葵の心のうちを簡単に見抜く崎本に、日葵はキュッと唇を噛んだ。
「明日は休みだ…飯でも行こう。断るのはなし」
珍しく言い切った崎本に、日葵は小さく頷いた。
落ち着いた静かなイタリアンの店で崎本と向かいあわせに座り、オーダーを済ませると日葵は崎本をみた。
「そんなに顔にでてますか?」
そんな日葵の言葉に崎本は少し考えるような表情を浮かべた。
「そうだな。今は何かを悩んでるように見えるかな」
ゆっくりとテーブルで手を組みジッと見つめられて、日葵は視線を外した。
「かないませんね。部長には」
「なに?聞かせて?」
崎本もゆっくりと視線を外し、グラスのミネラルウォーターを口に運ぶ。
そんな仕草を見ながら日葵は言葉を探した。
「いえ、別に……」
「俺のことは気にしないで。君の思っていることを聞いてどう攻略すべきが考えるんだから」
クスリと柔らかい笑みを浮かべた崎本に、日葵も表情を緩めた。
「私、何も知らなかったんだなって」
「彼のことを?」
少しだけ驚いた表情を見せた崎本に、日葵は小さく頷いた。
「生まれたときから一緒にいて、ずっと見ていたはずなのに、今いる主任は別の人のようで」
壮一にべったりくっついていた時は、ただ一緒にいて楽しかった、嬉しかった、完ぺきな人だと思っていた。
しかし、今は壮一の厳しさや、優しさ、そして壮一自身の葛藤。
それを親や自分に見せないように、どれだけの努力をしてきたのかを知ってしまった。
努力なしでなんでも完璧に出来ると思っていた自分は、どれだけ子供だったか。
「別人か」
「別人ってそう言うわけでもないんですけどなんて言うか」
考えて言い淀む日葵に、崎本はジッと日葵を見つめた。
「生身の男?」
「え?」
その言葉の意味が解らず言葉を発した。
「やばいな……」
ぼやくように言った崎本の言葉の意味が解らずに、日葵は困惑した表情を浮かべた。
そこへまだ何かを問いかけようとした日葵の前に、前菜の皿が並べられた。
「部長?どういうことですか……?」
「これ以上は言わない。考えて欲しくないな。さあ食べよう」
さっきまでの少し険しい表情は消え、いつも通りの崎本の笑顔に日葵は何も言うことが出来ず、フォークを手に取った。
(生身の……男……?)
頭の中でその言葉がグルグルと渦巻いた。
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