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忘れたい
第3話
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「聞いてもいい?知らないと俺はどうしようもできないから、それに俺はずっと長谷川に好意を持っていることを伝えてる。聞く権利はあるよな?」
珍しく強い口調の崎本に真剣な瞳を向けられ、日葵は小さく頷いた。
日葵はキュッと唇を噛んだ後、ゆっくりと言葉を発した。
「清水チーフとは、幼馴染ってことはいいましたよね。親同士が親友で、生まれたときからずっと一緒にいました。私にとっては兄であり、友達であり、絶対に私のことを裏切らない人、そう思ってました」
そこまで言って日葵は、改めて小さいころの自分と壮一を思い出した。
優しくてかっこよくて、困ったり、辛いときにいつも守り、助けてくれたヒーローだった。
「思ってた?」
崎本もその過去形が気になったようで、言葉を挟む。
「はい、私が高校一年の時、彼は何も言わず、アメリカに行ったんです」
「何も言わずに?ずっと一緒にいたのに?」
さすがの崎本も驚いたように、言葉を発した。
「そうです、何も言わずに。引越しの準備も何もかも私に悟られることなく、私の両親も巻き込んで私にだけ何も言わずに行きました」
そう、あの頃「なぜ教えてくれなかったの」と母親に詰め寄った時も、曖昧な返事しかなく両親さえ恨んだ記憶がよみがえる。
もちろん、今は壮一が口止めをしていたこともわかっているし、両親を責める気持ちもない。
その苛立ちや、悲しみ、憎しみはひたすら壮一へと向いて行った。
日葵の言葉をただ崎本は黙って聞いていた。
「そして、急に8年ぶりに日本に戻ってきて、私の上司になったんです」
そのことがどうして、日葵がかたくなに男の人を寄せ付けなくなった原因の説明になったかわからなかったが、これ以上どう説明していいかもわからなかった。
「長谷川は……清水君が好きだったてこと?」
核心をついた崎本の言葉に、日葵はコーヒーのカップをギュッと握りしめた。
「どうでしょう?あんなまだ子供の時の気持ち……。正直忘れました」
「そうか。でも、黙っていなくなったことがショックだったんだな」
自分に言い聞かすように言った崎本の言葉が、日葵の心にも突き刺さる。
(ショックだった……)
そう、自分に行ってくれなかったことがショックで、傷ついて裏切られたそんな気持ちだった。
「そうですね、裏切られたって気持ちが強かったです。それ以来、あまり深く男の人を信用できなくなったのかもしれませんね」
自嘲気味に日葵は言うと、形が変わってしまったプラスチックカップをなんとかもとに戻そうとした。
「手ごわいな……清水君」
呟くように言った崎本の言葉に、日葵は反射的に顔を上げた。
「どうして?」
「だって、今の長谷川は清水君でいっぱいだろ?」
「そんなこと……」
否定の言葉を述べても、好きとか嫌いとかそんな事はわからないが、日葵の心の中に壮一がいることは事実だ。
壮一とどうこうなるなど、ありえないとはわかっていたが、壮一に振り回されるのが嫌で、崎本に目を向けようとしたことも事実だ。
こんな気持ちでは崎本に失礼だろう。
「やっぱり私は部長に好意を持ってもらえる資格はないです。今まで……」
日葵はそんな気持ちで、崎本にはっきりと断る決心をしたが、その言葉は崎本に止められる。
「待って」
そして、そっと崎本の指が日葵の唇に触れる。
(部長?)
「それでもいい。俺は諦めが悪いし、伊達に長谷川より年も上じゃない。俺は君の心の傷を癒したい。長谷川の中できちんとした結論が出るまではこのままでいよう」
「でも……」
「君は気にしなくていい。真面目な長谷川の事だから、中途半端な事をすると俺に悪いと思ってるだろ?」
その言葉に日葵は何度か頷いた。
「それは違う。俺が諦めが悪いんだ。だから、長谷川は何も気にしなくていい。俺といることが嫌じゃなければそれでいいから、それに長谷川自身、清水君のことを乗り越えたい、忘れたい気持ちはある?」
その言葉を向葵は頭の中で繰り返す。
今の壮一に振り回されてばかりの自分はもうやめたい。そんな思いで崎本をみた。
「はい」
答えながらなぜか泣きそうな気持になった日葵に、崎本は余裕の笑みを見せた。
「そんな顔すると、キスするよ」
崎本はそう言うと、日葵の額をそっと指で押す。
「部長!」
ふざけたようなその言葉に、日葵は顔が熱くなるの気がして、それを隠すように叫んだ。
わざとこの空気を和まそうとしてくれた崎本の気持ちが嬉しかった。
その後どちらともなく微笑みあう。
ちょうど海に日が沈み、辺りを赤く染めていく。
そんな景色を日葵は穏やかな気持ちで眺めていた。
この人を好きになりたい。
この優しい人を……。
そんな思いが日葵に沸き上がった。
珍しく強い口調の崎本に真剣な瞳を向けられ、日葵は小さく頷いた。
日葵はキュッと唇を噛んだ後、ゆっくりと言葉を発した。
「清水チーフとは、幼馴染ってことはいいましたよね。親同士が親友で、生まれたときからずっと一緒にいました。私にとっては兄であり、友達であり、絶対に私のことを裏切らない人、そう思ってました」
そこまで言って日葵は、改めて小さいころの自分と壮一を思い出した。
優しくてかっこよくて、困ったり、辛いときにいつも守り、助けてくれたヒーローだった。
「思ってた?」
崎本もその過去形が気になったようで、言葉を挟む。
「はい、私が高校一年の時、彼は何も言わず、アメリカに行ったんです」
「何も言わずに?ずっと一緒にいたのに?」
さすがの崎本も驚いたように、言葉を発した。
「そうです、何も言わずに。引越しの準備も何もかも私に悟られることなく、私の両親も巻き込んで私にだけ何も言わずに行きました」
そう、あの頃「なぜ教えてくれなかったの」と母親に詰め寄った時も、曖昧な返事しかなく両親さえ恨んだ記憶がよみがえる。
もちろん、今は壮一が口止めをしていたこともわかっているし、両親を責める気持ちもない。
その苛立ちや、悲しみ、憎しみはひたすら壮一へと向いて行った。
日葵の言葉をただ崎本は黙って聞いていた。
「そして、急に8年ぶりに日本に戻ってきて、私の上司になったんです」
そのことがどうして、日葵がかたくなに男の人を寄せ付けなくなった原因の説明になったかわからなかったが、これ以上どう説明していいかもわからなかった。
「長谷川は……清水君が好きだったてこと?」
核心をついた崎本の言葉に、日葵はコーヒーのカップをギュッと握りしめた。
「どうでしょう?あんなまだ子供の時の気持ち……。正直忘れました」
「そうか。でも、黙っていなくなったことがショックだったんだな」
自分に言い聞かすように言った崎本の言葉が、日葵の心にも突き刺さる。
(ショックだった……)
そう、自分に行ってくれなかったことがショックで、傷ついて裏切られたそんな気持ちだった。
「そうですね、裏切られたって気持ちが強かったです。それ以来、あまり深く男の人を信用できなくなったのかもしれませんね」
自嘲気味に日葵は言うと、形が変わってしまったプラスチックカップをなんとかもとに戻そうとした。
「手ごわいな……清水君」
呟くように言った崎本の言葉に、日葵は反射的に顔を上げた。
「どうして?」
「だって、今の長谷川は清水君でいっぱいだろ?」
「そんなこと……」
否定の言葉を述べても、好きとか嫌いとかそんな事はわからないが、日葵の心の中に壮一がいることは事実だ。
壮一とどうこうなるなど、ありえないとはわかっていたが、壮一に振り回されるのが嫌で、崎本に目を向けようとしたことも事実だ。
こんな気持ちでは崎本に失礼だろう。
「やっぱり私は部長に好意を持ってもらえる資格はないです。今まで……」
日葵はそんな気持ちで、崎本にはっきりと断る決心をしたが、その言葉は崎本に止められる。
「待って」
そして、そっと崎本の指が日葵の唇に触れる。
(部長?)
「それでもいい。俺は諦めが悪いし、伊達に長谷川より年も上じゃない。俺は君の心の傷を癒したい。長谷川の中できちんとした結論が出るまではこのままでいよう」
「でも……」
「君は気にしなくていい。真面目な長谷川の事だから、中途半端な事をすると俺に悪いと思ってるだろ?」
その言葉に日葵は何度か頷いた。
「それは違う。俺が諦めが悪いんだ。だから、長谷川は何も気にしなくていい。俺といることが嫌じゃなければそれでいいから、それに長谷川自身、清水君のことを乗り越えたい、忘れたい気持ちはある?」
その言葉を向葵は頭の中で繰り返す。
今の壮一に振り回されてばかりの自分はもうやめたい。そんな思いで崎本をみた。
「はい」
答えながらなぜか泣きそうな気持になった日葵に、崎本は余裕の笑みを見せた。
「そんな顔すると、キスするよ」
崎本はそう言うと、日葵の額をそっと指で押す。
「部長!」
ふざけたようなその言葉に、日葵は顔が熱くなるの気がして、それを隠すように叫んだ。
わざとこの空気を和まそうとしてくれた崎本の気持ちが嬉しかった。
その後どちらともなく微笑みあう。
ちょうど海に日が沈み、辺りを赤く染めていく。
そんな景色を日葵は穏やかな気持ちで眺めていた。
この人を好きになりたい。
この優しい人を……。
そんな思いが日葵に沸き上がった。
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