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本当の彼
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― 10ヶ月前
「麻耶……ちょっとは食べないと……」
目の前に座る同じ会社に勤める友人の水崎麻耶に、友梨佳は声を掛けた。
「うん。大丈夫だよ。友梨佳。もう大丈夫」
そう答えてすでに2週間が経っていた。
「麻耶……」
麻耶が友梨佳の部屋に来たのは2週間前。
自分たちが務める会社の社長、宮田芳也に偶然家がなくなった所拾われ、同居をしていたが、麻耶が告白をしたのをきっかけに、芳也に振られて麻耶は家を出た。
そして新しい家を探すまで、友梨佳の所に同居することになった。
きちんと他に好きな人がいるとか、恋愛感情は持てないそう言ってきっぱりと麻耶を振ったのなら、麻耶もすっぱりと諦められたのかもしれないが、芳也は何か訳があるようで、「俺には愛する資格はない」そんな中途半端な言葉を言われた麻耶はどんどんとやつれていった。
しかし、友人でもない社長に直接文句をいう事も、一緒にいられない理由もきくことはできず、友梨佳自身どうしていいかわからずにいた。
そんな言葉で麻耶を縛る芳也に、怒りさえ覚えていた。
しかし、友梨佳自身何もできない自分の無力さが嫌で、どうにか芳也に何があったのか、なぜこんなことになってしまったのかを知りたくなった。
そして友梨佳は行動に移すことにして、ジッと受話器を見つめて、ゆっくりと受話器を手に取った。
相手は芳也の親友であり、「アクアグレースAOYAMA」の館長の村瀬始。
違う式場で働く友梨佳にとって、いきなり館長に電話を、それも私用で電話をすることは勇気がいった。
そして、その相手は血が通っていないと言われるほど、表情を変えないという噂の人物。
常に冷静。声を荒げるところも、砕けた言葉使いをすることもなく、笑顔が見られれば奇跡と言われる人だ。
更には、ハーフだかクォーターという噂もある、女の人よりも綺麗なその容姿と、チタンフレームのメガネの奥の瞳は切れ長の二重で、見られた人間は石になる……そんな噂すらある人物だ。
(メデューサじゃあるまいし……石になるって……あっ、メデューサは女か……)
そんな事を思い、一度手にした受話器を友梨佳は置くと大きく息を吐いた。
しかし、もちろん携帯の番号など知る訳もなく、友梨佳にはこの方法しか残っていなかった。
再度受話器を取り、思い切って青山の内線ボタンを押した。
『お疲れ様です。青山、三井です』
可愛らしい女の子の声が聞こえて、ホッとして友梨佳も声を出した。
「丸の内の橋本です。村瀬館長いらっしゃいますか?」
『館長ですね?少々お待ちください』
その声の後、ゆるやかなクラッシックの音楽が流れ、友梨佳はその音に耳を澄ませていた。
もうすぐ盛り上がる所……そこで容赦なくブツっと音楽は途切れ、電話ですら感じる絶対零度の声がした。
『変わりました。村瀬です』
「おっ、お疲れ様です……丸の内橋本です」
上ずった声が出てしまい慌てて始のその後の言葉を待ったが、少しの沈黙があり友梨佳は息を飲んだ。
『返事だけで結構です。仕事以外の件ですか』
その言葉に、驚いて友梨佳は目を見開いた。
「あ……はいそうです」
何とか返事をすると、
『携帯番号を教えてください』
それが自分の番号と認識するまでに少し時間を要したが、慌てて番号を伝えた。
『わかりました。では失礼します』
(え……?)
いきなりツーツーという機械音が聞こえて、友梨佳は受話器を見つめた。
(あんなに勇気を出して電話したのに!)
怒りが湧いてきたところで、携帯にメッセージが来たことが伝えられた。
【21時 ウィンストンホテル35階のバーで。予定があったら連絡してください 村瀬】
その文字に驚いて友梨佳は目を丸くして、もう一度文を読んだ。
(氷の男とバー?それもホテルの?)
なぜかゾクッとして、友梨佳は背筋にが冷たくなるような感覚がして頭を振った。
【わかりました】
それだけを返信すると、友梨佳は残っていた仕事を片付け始めた。
「麻耶……ちょっとは食べないと……」
目の前に座る同じ会社に勤める友人の水崎麻耶に、友梨佳は声を掛けた。
「うん。大丈夫だよ。友梨佳。もう大丈夫」
そう答えてすでに2週間が経っていた。
「麻耶……」
麻耶が友梨佳の部屋に来たのは2週間前。
自分たちが務める会社の社長、宮田芳也に偶然家がなくなった所拾われ、同居をしていたが、麻耶が告白をしたのをきっかけに、芳也に振られて麻耶は家を出た。
そして新しい家を探すまで、友梨佳の所に同居することになった。
きちんと他に好きな人がいるとか、恋愛感情は持てないそう言ってきっぱりと麻耶を振ったのなら、麻耶もすっぱりと諦められたのかもしれないが、芳也は何か訳があるようで、「俺には愛する資格はない」そんな中途半端な言葉を言われた麻耶はどんどんとやつれていった。
しかし、友人でもない社長に直接文句をいう事も、一緒にいられない理由もきくことはできず、友梨佳自身どうしていいかわからずにいた。
そんな言葉で麻耶を縛る芳也に、怒りさえ覚えていた。
しかし、友梨佳自身何もできない自分の無力さが嫌で、どうにか芳也に何があったのか、なぜこんなことになってしまったのかを知りたくなった。
そして友梨佳は行動に移すことにして、ジッと受話器を見つめて、ゆっくりと受話器を手に取った。
相手は芳也の親友であり、「アクアグレースAOYAMA」の館長の村瀬始。
違う式場で働く友梨佳にとって、いきなり館長に電話を、それも私用で電話をすることは勇気がいった。
そして、その相手は血が通っていないと言われるほど、表情を変えないという噂の人物。
常に冷静。声を荒げるところも、砕けた言葉使いをすることもなく、笑顔が見られれば奇跡と言われる人だ。
更には、ハーフだかクォーターという噂もある、女の人よりも綺麗なその容姿と、チタンフレームのメガネの奥の瞳は切れ長の二重で、見られた人間は石になる……そんな噂すらある人物だ。
(メデューサじゃあるまいし……石になるって……あっ、メデューサは女か……)
そんな事を思い、一度手にした受話器を友梨佳は置くと大きく息を吐いた。
しかし、もちろん携帯の番号など知る訳もなく、友梨佳にはこの方法しか残っていなかった。
再度受話器を取り、思い切って青山の内線ボタンを押した。
『お疲れ様です。青山、三井です』
可愛らしい女の子の声が聞こえて、ホッとして友梨佳も声を出した。
「丸の内の橋本です。村瀬館長いらっしゃいますか?」
『館長ですね?少々お待ちください』
その声の後、ゆるやかなクラッシックの音楽が流れ、友梨佳はその音に耳を澄ませていた。
もうすぐ盛り上がる所……そこで容赦なくブツっと音楽は途切れ、電話ですら感じる絶対零度の声がした。
『変わりました。村瀬です』
「おっ、お疲れ様です……丸の内橋本です」
上ずった声が出てしまい慌てて始のその後の言葉を待ったが、少しの沈黙があり友梨佳は息を飲んだ。
『返事だけで結構です。仕事以外の件ですか』
その言葉に、驚いて友梨佳は目を見開いた。
「あ……はいそうです」
何とか返事をすると、
『携帯番号を教えてください』
それが自分の番号と認識するまでに少し時間を要したが、慌てて番号を伝えた。
『わかりました。では失礼します』
(え……?)
いきなりツーツーという機械音が聞こえて、友梨佳は受話器を見つめた。
(あんなに勇気を出して電話したのに!)
怒りが湧いてきたところで、携帯にメッセージが来たことが伝えられた。
【21時 ウィンストンホテル35階のバーで。予定があったら連絡してください 村瀬】
その文字に驚いて友梨佳は目を丸くして、もう一度文を読んだ。
(氷の男とバー?それもホテルの?)
なぜかゾクッとして、友梨佳は背筋にが冷たくなるような感覚がして頭を振った。
【わかりました】
それだけを返信すると、友梨佳は残っていた仕事を片付け始めた。
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