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157、意外な人物からのお届け物

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 ヴェルデの独白により、なぜ彼がオウセに剣を向けようとしたのかの疑問が解けた。
 彼は彼自身がいう通りの怖がりではないのだろう。恐怖の根源は人によって様々だが、大抵の場合は未知に対してだ。
 知らないは単純な恐怖になり得るが、彼の場合はそれに当てはまらない気がした。確かに理解ができないから怖いと彼はいったが、それは表層に過ぎず、その奥にあるものは喪失感であり、言い換えるならトラウマ……それなのだろう。

 「今こうしていることもボクにとっては怖い……。あの目が、あの牙が……今にもボクに向けられるのではと考えると、それだけでボクはボクでいられなくなりそうだ!」

 色が喪われるほど握りしめられた拳をカタカタと小さく震わせるヴェルデに、俺は落ち着かせるためになるべくオウセが映らないように毛布を頭にかけ、背中を撫でて落ち着かせる。
 そうしてやっと震えが止まったヴェルデだったが、内容が内容なだけに掛ける言葉もなくしばらく沈黙が続く。
 そんな中、またしても沈黙を破ったのはハーセルフだった。

 「怖がらせちゃってごめんね、ヴェルデお兄ちゃん……。でも、でもね……ここにいるオウセちゃんはお兄ちゃんを襲ったモンスターとは違うんだよ。……誰も襲わないし、寧ろボクも灰色の兄弟のことも助けてくれるいい子なんだ。………だからヴェルデお兄ちゃんのことも襲ったりしないよって……そう言いたかっただけなんだ」

 「……………」

 彼女は責めるつもりは一切なかったのだろう。だが想像以上の反応に、本来伝えたい言葉はただの言い訳みたいになってしまい、それがまたハーセルフとしても申し訳なく感じているのは誰の目にも明らかだった。

 「あー……みんな今日はもう疲れただろうし、今日はもう寝よう!! 見張は俺がしておくから、ほら!!」

 そう言ってヴェルデ以外の三人を無理やり立たせると、さっき用意したテントの中へ押し込て、その中へキャルヴヴァンとファンテーヌさんが子守として入っていった。
オウセはヴェルデの事を気を遣ってなのか、いつの間にやら俺たちから離れていてこの場に残ったのは俺とヴェルデのみとなった。
 そんなこんなで二人になりヴェルデを見やると、未だ顔を青白くさせていた彼を落ち着かせるべく、焚き火で沸かしたお湯でお茶をいれて彼に手渡す。

 「………正直さっきのヴェルデの話を聞いて、俺もモンスターが俺達のことをどう思っているのかとか、いつ襲ってくるのか分からないとか……それって俺にもあって、なんていうか……やっぱり怖いよな」

 「………ボクの…………ボクのお父さんは10年前、モンスターの襲撃によって怪我を負い、それから故郷である村へ戻ってきたんです。だけど…………ッッ!!」

 「そうか…………。さっきはごめんな、ヴェルデが怖がっていたのに気が付かなくて………。今日は落ち着くまで俺が起きて周辺を警戒しておくから、いつ寝ても大丈夫だからな」

 「………はい。ありがとう……ございます」

 顔色は依然として悪いままで、しばらくの間眠れなかったのかぼんやりと星を眺めていた彼はだったが、限界がきたようでいつの間にか俺に寄りかかる様に深く眠っていた。
 そんな彼を起こさないよう、焚き火に当たる明るい場所へと彼をそっと横たわらせ朝までキャルヴァンと交代しながら火の番をするのであった。




**********************




 朝になり目を覚ました時にはすでに他の仲間も目覚めており、いそいそと朝ごはんと旅立ちの準備をしていた。
 
 「んー……おはようみんな……。ごめん起きるの、遅くなって…………」

 「おはよー‼︎ ヒナタにぃ!! 今日の朝ごはんはエイナと一緒に作ったんだよ! 早く食べよ」

 「いや……俺がほとんど作ったんだけど………まぁいいかどっちでも」

 「二人ともありがとうな。ヴェルデとハーセルフもおはよう。よく眠れたか?」

 楽しそうに朝ごはんの支度をする中、気まずそうにする二人の姿がみえて思わず声をかける。

 「おはようヒナタお兄ちゃん。ボクはぐっすり眠れたけど…………」

 「おはようございます、ヒナタさん。………ハーセルフさん。昨日は………失礼な発言してしまい、すみませんでした」

 「……!!! ううん! 僕こそ怖がらせちゃってごめんね」

 ぎこちないながらも謝り合う二人をウェダルフたちも気になっていたのだろう、謝罪を皮切りに少しずつだがいつも通りの和やかな雰囲気が戻りつつあった。

 朝ごはんが終わり、いよいよウィスに戻ろうと旅支度をしていた時だった。
 晩の間中、姿を見せることがなかったオウセがヴェルデに気づかれないようにひっそりとハーセルフに近づくのがみえて、俺もなんだか気になってそちらに目をやる。
 昨日見た美しい毛並みは昨日に比べて少し汚れており、それになんだか疲れた様子の彼女の姿に、俺は妄想たくましく俺たちがモンスターに襲われないようにと、索敵をしてくれているのかもしれないと勘繰ってしまう。
 考えてみればあんだけモンスターが凶暴化している中、襲われることなく晩を過ごせたのも彼女のおかげのような気がして、俺は彼女に労いの一言でもと思い、近づくと二人同時にこちらを振り向き、その敏捷性に驚いてしまう。

 「うぉッ!! ……っていやそうじゃなく、二人とも昨日はありがとうな。特にオウセ………もしかしなくても俺達のためにずっと動きっぱなしだったんじゃないか?」

 
 俺の呼びかけにオウセは何も答えずじまいだったが、それも彼女の性格のようで、隣でオウセを労るかのように撫でていたハーセルフの行動で答えは出ていた。
 ………よくみれば少し血で汚れている。

 「ありがとうな……オウセ」

 彼女のものか、それとも……どちらにしても俺たちは彼女のおかげでこの晩を乗り越えることができたのだ。彼女を驚かせないようにそっと手を伸ばし、彼女の許可を得ると柔らかな毛並みを暫くゆっくり、ゆっくり撫でていた。

 「………あ。そういえば僕ヒナタお兄ちゃんにって届け物があったんだった!!!」

 ハーセルフの言葉を終了の合図として、オウセは俺の手から離れヴェルデを思ってか、また随分と遠くへと離れていってしまう。………ああ、久しぶりのもふもふが。

 「なんだお届け物って………。ウェダルフのお父さんとかから? それともソニムラガルオ連盟から?」

 「ブッブー! どっちも違いま~す! 正解はぁ~~なんと王様からだよ!」

 「王様……王様って………もしかしてサリッチ?!」

 まさかすぎる人物からの届け物に俺は嫌な汗をかいてしまうが、そもそもどうやってハーセルフと接触したんだ? ケイの街は普通の種族じゃ入れないようになっていて………。

 「そ~なの! 王様の笛に呼ばれて行ったらお手紙をお兄ちゃんへって!!」

 笛………? そんな便利道具なんていつの間に手に入れてたんだ? なんて、今はそんなことはどうでもいいか。それよりも手紙の内容である。

 
 少し緊張しながらも受け取った手紙の見た目はごくごく普通……いや、巻物とかゴテゴテしいとかじゃない普通の手紙で、厚さも1、2枚程度に感じられる程度で、あまり緊急性は感じられなかった。

 「その……この手紙を渡すときのサリッチってどんな様子だった?」

 「ん~~~? いつも通りの王様ー!! って感じだったよ?」

 「うん……全くわからないけどわかった。届けてくれてありがとう。それでもしよければ返事とかもしたいからその……もう少しついてきてもらっても良いかな?」

 「もっちろん!! でも街の中に入るならオウセには待ってもらわないとだね~! ちょっと待ってて!」

 離れた場所で待機していたオウセを呼び寄せたハーセルフは彼女に2、3言告げるとオウセはわかったという意味の返事を一つ返し、早々に俺達から離れていくのだった。
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