上 下
146 / 163

145、質と評価

しおりを挟む



 「つまり、表で受け付けたクエストが、チスイさんやドウジさん達の采配によってF~Bランクに振り分けられていくんですね。それを後ろにある、ランク別に分けられた掲示板で各々できそうなクエストを探す……と。ここまで分かりましたが、どうしたらランクが上がるんでしょうか?」

 A~Sランクが省かれている理由はさておくとして、報酬は荷物運搬等ならサインを、魔物討伐なら指定された部分の一部を持ち帰ることによって得られるらしい。だがこれでは肝心のランクが上がる方法がわからないままだ。

 「あー……ランク上げってことは皆さんSランクを目指しているとかですかぁ? ははッ……アンタら結構メチャクチャ言うね」

 これに反応を示したのは意外にも気弱そうに見えたドウジさんで、何がおかしいのかケラケラと一笑いしたのち、急に俺の目を覗き込んで何かを探るかの様にじーっと見つけてきた。

 「ハハっ、こいつぁマジで言ってんのかぁ……。なるほど、なるほど……その意気込みが如何なものか、そいつぁみものだなぁ」

 何が楽しいのか、軽薄な薄笑いを浮かべたまま食えない表情で俺を見るドウジさんに、俺も引き攣った笑いを浮かべ、微妙な空気が流れる。
 ……なんかこの人、苦手かも。

 「ドウジのことはほっといてください。こいつは何考えているのか分からないのが常なので。気にしたら負けです。………で、ランクの上げ方ですが、これについては明確に説明することが難しいですね」

 「ええぇー!! なんでぇ? いっぱいクエスト受けて、いっぱい頑張ったらなれるんじゃないの?」

 すごい子供らしい言い分だが、ウェダルフの言い分は最もだと思う。そうでなければ如何にしてランクを上げるというのか?

 「事はそう簡単ではないと言う事です。まずランクの概念を理解しなければランクを上げることすら叶わないでしょう」

 「ランクの……概念? えぇっとそれはどういう意味かしら? F~Sランクというのは単なる階級じゃないという事かしら?」

 「えぇ、その通りです。ランクは階級的な意味合いもありますが、それだけではなく、ギルド会員の質も問われるものです。どれだけクエストを受け、報酬を受け取れたとしても、質が悪ければ意味がありません。ギルド会員の質が高く、そして成功が多ければ多いほど、ランクは上がっていきます」

 分かりますかと小首を傾げるチスイさんに、俺達も暫く各々で考える。

 ルイさんは信用だと言った、そしてチスイさんは質が大切であり、クエストの成功だけでは上がらないとも。

 つまり、ランクを上げる際に求められるのは結果だけではなく、その過程やクエストの依頼主の評価も大いに影響される……つまりそう言う事なのだろうか?
 例えばの話だが、クエスト内容が運搬であったとして、それをただ依頼された場所に運ぶだけではいけないのだ。そこには品質も評価の対象になり得る。どれだけ早く運べたとしても、運ぶ対象が雑に扱われていたら意味がないのだ。
これは逆のことも言える。スピードも上げつつ、品質も維持出来れば評価は自ずと上がるだろう。

 「依頼者の評価ですが、段階的な評価のされ方をする、と考えていいのでしょうか?」

 俺の質問に、ドウジさんはほぉ……と感心したかのように、眉を少しあげ、また薄ら笑いを浮かべる。

 「………それは言えません。が、大きく間違った解釈でもない、とだけお伝えしておきます。他に何か質問はありませんか? なければ早速クエストを受けることも可能ですが……」

 「みんな、何か聞いておきたいこととかあるか?」

 「んーん!! 僕は今の説明で頭が一杯一杯だからないよー! キャルヴァンさんはー?」

 「……一つだけ。最短でSランクになった人物の、その期間を聞いてもよろしいでしょうか?」

 「ふむ………まぁそれなら規定に違反しないでしょう。そうですね………過去英雄と言われた人物にはなりますが、その方がおよそ1ヶ月だと聞き及んでおります。これは他のSランク者に比べて3年、長くて数十年単位でなる者と比べても、圧倒的な差と言えるでしょう」

 「す、数十年……ありがとうございます」

  英雄ということはラルコとかだろうか……? それにしても圧倒的な差に、俺達全員開いた口が塞がらないまま、アルグに辿り着くための道がどれほど困難かを思い知っていた。

 「それで……? 質問が以上ならクエストをちゃっちゃっと受けて、キビキビ働いてください。これ以上ここに並ばれては他会員にとっても迷惑です」

 「うっはーー! 相変わらずチィちゃんきびしぃー! もう少し絶望させてあげればぁー? そうそうこんな表情見えないよ? プークスクス!!」

 「ドウジうざい。お前も遊んでないでさっさと働いて、さっさとそこら辺でのたれ死んでろ。目障り」

 「うわぁーこぁいんだー」

 呆然とする俺たちの目の前で繰り広げられる、会話の殴り合いに恐ろしくなったウェダルフが、おずおずと俺の服の裾を引っ張り、俺もおとなしくFランクとかかれた掲示板まで行くことに。

 「さ、さてと!! 気分を入れ替えて早速クエスト見ていこう!! ウェダルフもキャルヴァンもじゃんじゃんいいやつ見つけてくれ!」

 「おー……頑張るぅ………」

 さっきのやり取りなのか、それとも長い道のりを思ってなのかは分からないが、珍しくしょげた様子のウェダルフにキャルヴァンもいつもより明るく振る舞う姿を横目にクエストを眺めていた。

 ふと視界に影が落ち、影の原因となったものを辿り目線を上げると、そこにはどこかで見かけたことがある人物がなぜだか嬉しそうに見下ろしていた。

 「あ……、ええっと……こんにちは?」

 「こんにちは。まさかこんなところで再会するだなんて思いもよらなかったです! しかも先ほどの見事な洗礼……。以前お会いした時は“純粋な人間”だとお見受けしたのに……まさかの憑霊術士とは! いえ、人は見かけによりませんね~」

 青灰色の短い髪と、キラキラと輝く羽飾り……あぁ! 思い出した!! いつぞや迷子になった時にお世話になった、確か名前は……

 「サンチャゴさん!! あの時は大変お世話になり……

 「いいよ、お礼なんて!! あの時も言ったけどただのお節介だから気にしないで! それよりもすごいね、君達!! あの伝説の! 英雄サラ様の推薦というだけでもギルド中大騒ぎだったのに、まさかあの気難しいで有名なルイ様に決闘したばかりか、推薦までもらってくるだなんて!! とんだ大物だね!」

 「あー……あははは。偶然が偶然を呼んだというか、運がよかたのかなぁーなんて……す、すみません!! 生意気言って本当にすみません!」

 居た堪れなさに思わず謝ってしまったが、そんな俺の様子にも動じることなく、笑顔で受け流すサンチャゴさんは先ほどまで見ていたクエストに目をやり、少し考えた後俺に目をむけよく分からないことを質問する。

 「あー、ヒナタ君はギルドに入って何がしたいと思っているのかな? 良かったら僕にも教えてくれないかい? もしかしたら何かしら役立つ事も言えるだろうし、どうだろう?」




 少しだけ気まずそうに聞くサンチャゴさんに嘘は見えないと感じ、アルグのことはボカしつつも、領主様に会いたいが故にランクを上げたいことを告げると、何かに納得したのか、うんうんと頷きまっすぐ俺の目を見据える。
 その瞳の奥には、優しさの中にも厳しさがあり、俺の思わず息を呑み言葉を待つ。

 「かなり無謀なことをしている自覚はありますか? これは説教とかではないので、今のあなたの気持ちをそのまま伝えてください」

 「無謀は……散々言われてきましたし、理解もしています。………俺も実際無茶を言っているのは承知の上なんです。それでも、それでもどうしても会わなければいけない理由があるんです!」

 俺の、心からの言葉に優しい笑みを浮かべると意外な一言を俺たちに告げるのだった。

 「あなた達の覚悟はわかりました。では……ギルドの先輩として、僕からあなた達にアドバイスがあります。ただ……ここではあれですので、少し場所を変えましょう。ついて来て下さい」

 サンチャゴさんの言葉にさっきから気にしていた2人もクエストから目を離し、サンチャゴさんと軽い自己紹介を交わし、ギルド会館を出たすぐのカフェへと昼食がてら向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

面倒臭がり屋の日常生活

彩夏
ファンタジー
何処にでも居る平凡な主人公「西園寺 光」は、入社した会社が運悪くブラック企業だった為社畜として働いていたが、ある日突然、交通事故に巻き込まれ、人間として、短い人生として幕を閉じることになった。 目が覚めると、見渡す限り真っ白…いや…、空の…上?創造神と名乗る男性から説明を受け、転生する前に好きなだけスキルを選んだ後に転生する。という事に! さて、これからの「西園寺 光」は一体どうなるのか? ☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆ リクエスト募集中!! まだ慣れていないので、詳しくお願いします!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...