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103、誰がかの世界を救い給うのか?

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 キャルヴァンに事情を説明していた俺だったが、後ろから誰かが近づいてくる気配がし振り返ると、暗闇からぼんやり現れたのは先程まで敵の足止めをしていたファンテーヌさんで、なんだかひどく疲れた様子だった。
 あの能力はウェダルフとファンテーヌさんお互いに負担をかけるらしく、俺の後ろで眠るウェダルフに近づきその穏やかな寝顔を確認するやいなや、安心したかのように触れることがかなわない手で彼の頬を撫でていた。

 そうしてだどり着いた広場は、以前と変わらない光溢れる綺麗な景色を保っており、むしろ生活の豊かさは以前より畑や物が増えているようで自然と笑みがこぼれる。

 「よぉ、そろそろくる頃合いだと思ってたぜ……って、ウェダルフ?!」

 カッコイイ……ような気がするセリフとともに正面の通路から現われいでた、灰色の兄弟のリーダーエイナだったが俺の後ろで寝ているウェダルフに気づいた彼女は、一変して恋する乙女の顔で俺を押しのけ様子を伺ってきた。………いや、いくら心配だからって俺とウェダルフを引っぺがすようなことするのはやめようね? 危うく顔面から転びそうになったよ?

 「大丈夫ですよエイナちゃん。ここに来るまでに色々あってちょっと疲れて眠ってるだけですから! ただずっとヒナタさんの背中ではウェダ君があまりに可哀想なので横になれる場所はありませんか?」

 「そうだな、心なしか苦しそうに顔を歪めて苦しそうにしてるし、寝心地の悪いヒナタの背中から早く降ろしてやるか」

 「二人ともひどいな……」

 散々な言われ様の俺だったが、いざ横になれる場所へ移動し、ウェダルフを降ろそうとしたが意外にも俺の背中が気に入った様で、必死にしがみついて離そうとしなかった。
 勿論お兄ちゃんとしては抜群に可愛らしい行動ではあったが、エイナからの今にも殺しそうな目で凄まれては、俺には降ろす以外の行動はなく、セズとエイナの二人がかりで無事ベットへと寝かせてやる。すると俺たちを窺っていたファンテーヌさんもウェダルフへ近づき体を寛げるようにベットへ寄りかかり力なく目を閉じる。

 そうしてウェダルフを寝かせた場所から離れ、以前話し合いをした広間に場所を移した俺たちは状況の整理をする為身動きの取れない俺に代わり、見張りのイールがソニムラガルオ連盟の本部へ、エイナがウェダルフ宅へ向かいこの場所へ呼んでもらう手筈となった。

 「ふぅ……やっと腰を落ち着けられましたね。まさか変身したヒナタさんを見破られるなんて思いもよりませんでした。……でもなんで追われているのでしょうか?」

 「それは、確かにそうね。私は初めてこの街に来たけど想像した以上に物々しい雰囲気で、原始種属達もまるで初めから私たちを探してるかのようだったわ」

 本当になんで今更になってと俺自身考えたが、理由は考えるまでもなくウェダルフの誘拐事件以外ないだろう。ただ、それにしてはあまりにも……。

 「理由はわかる。だけどそれが理由だとしたらなぜ探す必要があるんだ? リンリア協会にはエルフに変身した姿を知られているどころか、本来の俺と対峙してるんだぞ?」

 「……あの誘拐事件のことですよね? 確かにヒナタさんが狙いなら探す必要はなく、むしろつけてくることだって可能だったかと思います」

 「それにもう一つ……。この腕輪の宝石にもなった石の時だって思えば不自然なことが多すぎた。盗んだのに取りに行き忘れ、そして灰色の兄弟にいたはずのアカネにおいてはウェダルフ以外誰も覚えていないなんて………」

 まるで記憶操作されたみたいだ。なんて思い付きにも似た思考が過り、それがアカネの仕業なら消えた理由も説明ができる気がし、俺は必死に過去を思い起こす。
 思えばアカネという少女は不思議なことばかり言う子だった。まるで俺の正体に気づき、未来さえも見通すようなことを言っていたような気がする。そう、主にアルグのことやブラウハーゼのことについて、そしてもしかすると……だ。

 「今回の騒動について何か知ってるんじゃないか、フルルージュ?」

 有無を言わせないようフルルージュが潜めている腕輪に話しかけると、彼女にしては珍しいことに大人しく姿を現し、俺の質問に答えてくれる。

 『正しくは前回の騒動の結末ならば知っていることもあるかと。何故なら今回の騒動は私にとっても不可解な部分が多いのですから』

 「そうなのか? まぁ、それでも知らないより知っておいて損はないだろうさ。それよりも今その姿ってみんな見えてるんだよな?」

 『見えたらまずい場所でお呼びになったのはヒナタですよ。気にするくらいなら場所をお考えになっては?』

 いやごもっともすぎて何も言えなくなるけど、そうはいっても仮にも他人の家にお邪魔してる身としては歩き回るわけにもいかないだろう? それにもうここにいる皆にならばれてもいいとは思っていたのだ。勿論これからここにやってくるであろう、ソニムラガルオ連盟のレイングさん達やリュイさんにも言う腹積もりだ。

 『……ヒナタの覚悟はわかりました。ならば手短にお話いたします。………ずばり前回の"とある騒動"は無かったことになっております」

 「とある騒動……は? というとウェダルフ誘拐事件のことじゃないのか?」

 『そうですね……言い方を変えると誘拐事件のみの騒動になっている、といったほうが分かりやすいです。その背後にあったヒナタの正体や記憶は丸ごととある種属によって抜き去られており、影も形もなくしたはずなのです』

 とあるとあるって……ぼかしすぎないかフルルージュ。なんだよそのとある種属って!! 隠されると気になっちゃうだろう!
 それにもしかしなくてもとある種属って絶対アカネのことだろっ! 状況証拠がモノ言ってんだぞ!!

 「それで……なんで消えてるはずの俺の存在がまた再び探される羽目になってるんだよ? どっか漏れがあったんじゃないのか?」

 『それはありえません。漏れていたならばとうにヒナタは捕まっていてもおかしくありませんから。捕まっていないというのが漏れがないというなりよりの証ですよ』

 「うっ、それもそうだな。じゃあそれとは別の何かが考えられるけど……まさか?」

 『わたくしもそのまさかだと思っております。そうでなければ説明がつきませんから』

 俺とフルルージュは顔を見合わせ、お互い思い浮かべている人物が一致していることを確認し、肩を落とす。どう考えてもブラウハーゼが何かをしたのだ。

 「お二人とも、そろそろ皆さんがここに来そうですよ! 早くフルルージュ様はお隠れになってください!!」

 俺たちの会話を大人しく聞いていたセズが複数人の足跡に気づいたのか、あわあわとした様子でフルルージュを隠そうと両腕を振っていた。
 その姿にすっかり毒気が抜たれたようでフルルージュは珍しい笑顔を浮かべたまま音もなく消え、間もなく俺たちが待っていた広間は人で賑わうこととなった。




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再会の挨拶もそこそこに俺たちの向かいにソニムラガルオ連盟のレイングさんにその左隣にティーナさんが、右隣にウェールさんが座り、まだ眠たそうなウェダルフの隣に再会の喜びを噛みしめているリュイさんが座って俺の挨拶を待っていた。今回の話合いは珍しく灰色の兄弟は全員参加しているようで、中にはウェダルフよりも幼い子が他の兄弟のお世話を受けながらも話し合いの場に混じっていることに少し驚いてしまう。

 「俺のために忙しい中集まってくださりありがとうございます。そして話し合いをする前に皆には言わなくちゃいけないことがある。もう知っている者も中に入るかと思うけど、俺は…………神様候補の一人で、この世界とは別の人間なんだ」

 そこまでいって俺は元の自分の姿を思い浮かべ変身を解くと、所々で息を呑む声が聞こえ、俺は少し目を瞑ってしまう。
 やっぱり、驚くし怖いよな……。

 「……な、こいつ髪と耳以外まんまで驚くだろ? せっかく変身できるならもっと見れる顔にすりゃあいいのにな」

 「確かに思った以上にヒナタで驚いたわ。変身なんていうからもっと別人になってるのかと思ったわ」

 「そうだね、ヒナタはやっぱりヒナタで安心したよ。まぁ街であんなに騒がれているんだ変装ぐらいはしておかないと身動きが取れないだろうな」

 あれ、これどういうこと……?
 俺ティーナさん達に変身が出来ることなんて一言も言った覚えはないぞ? まさかエイナが、とも一瞬考えたがそんな野暮をするとは思えずますます頭を捻ってしまう。

 「君が驚くのも無理はないさ。なにせ噂が噂だったからね。普通の人なら気づかなかっただろうけど私たちはすぐに君のことだってわかったんだよ。だから口が堅いエイナと取引して君のことを聞き出したんだ。彼女を怒らないでやってほしい」

 「は、え……? 噂、ですか? それにエイナと取引ってどうしてそこまでして?」

 ウェールさんの説明に盛大なはてなを浮かべた俺に耐え切れなくなったのか、エイナが少し吹き出しながら今街で騒がれている噂を話してくれた。

 それによると約一か月前からどこからともなく、情報元も掴めない噂が流れ始めたのだそうだ。それは情報を第一としているエイナの耳にもすぐ届いたそうだが、どうしても情報を流した人物は分からずじまいで、にも拘わらずその噂は信ぴょう性の高い話として流れていたのだ。そうなってくるとここで浮かぶのはリンリア協会になってくるのだが、それについても今回は違っており、逆に噂に翻弄されているのが見て取れたそうだ。

 「何故そこまでこの噂がシェメイを、リンリア協会を動かしたのか。内容はいたってシンプルで笑えるぜ?……………新たなる神がこのリグファスルに降り、そして世界を変えるため巡っている最中、だそうだ」

  この犯人は間違いなくブラウハーゼだというのが分かる、実にまどろっこしく、そして俺の足を止めさせるには十二分な噂であった。
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