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97、掟に潜む真実とキャルヴァンの告白

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 「ようこそお客人。色々聞きたいこと、話したいこともあるとは思いますが、ひとまずお泊り頂くお部屋へとご案内いたします。ルーヒットはいるか?」

 「はい旦那様。皆様方をお部屋にご案内いたします。ではこちらへ……」

 オールさんのお屋敷に着いた俺たちは、促されるまま部屋へと案内されたのだが、まったく事情がわからないセズとウェダルフとサリッチは恐怖半分、戸惑い半分で各部屋へ入っていく。その様子をいつもだったらなだめたり気に掛けるキャルヴァンも、どこか冷たい雰囲気で心ここにあらずといった様子で眺めているだけで、先ほどから一言も喋る様子がない。無論フルルージュはもとより寡黙な性格ゆえ、その役割も期待できないまま、次々と部屋へ案内され、フルルージュも俺の隣に案内され、気まずい沈黙が漂う。

 「こちらがヒナタ様のお部屋となります。皆様同様ご入用の際は、部屋に備えつけてる呼び鈴を鳴らしてくださいませ。ではごゆるりと」

 「あ……その、はい。ありがとうございます」

 正直キャルヴァンを一人残して部屋に入ることに抵抗があった俺は、何とかしてついていこうと言葉を探したが、それを拒否するようにキャルヴァンが目を逸らすのでこれ以上は、と引いてしまう。

 そうして重い気持ちのまま、俺は久しぶりのベットに腰を落とし一息つくと、途端に眠気が俺を襲い寝転がり天井を眺める。

 うとうと目を瞬かせどうしたものかと考えていた矢先、コンコンと軽いノック音が響き、俺は大慌てで扉の向こうの人物を迎え入れる。

 「お休み中すみません。なんだか一人だとちょっと不安で……。お食事まで一緒にいてもいいですか?」

 「おう、全然大丈夫……って、サリッチとウェダルフ、それにフルルージュ!! お前らもか!?」

 おいおい、これじゃあいつもと同じじゃないか。せっかくの個室なのにみんな寂しんぼうか何かか?

 「あ、あたしは違うわよっ!! せっかくの個室で休んでたっていうのにウェダがせっかくだからみんなで集まろうなんて言うから……!!」

 「えぇ~? どっちかというとサリちゃんが僕の部屋に来たような気が……」

 『ウェダ。それは秘密にしてあげましょう? 男の子なら乙女の気持ちを汲んであげないと』

 「いや、それはフォローになってないですよファンテーヌさん。まぁ、三人いや、四人の言い分は分かったとしてフルルージュまでどうして俺の部屋に?」

 いまだにフルルージュの脇でじゃれあっている三人を放置し、寂しいからという理由ではなさそうなフルルージュに疑問をぶつけるが、その反応は思わしくなく、若干不貞腐れたような顔で答える。

 『………私も、私が同じような理由でヒナタの部屋を訪ねるのはおかしいですか?』

 「は、え……? い、いやおかしくはないけど、なんか意外だなっと思いまして……」

 
 思いもよらない言葉になぜか敬語で返してしまい、かえって気恥ずかしい気持ちになるが、フルルージュに照れるなんて何があってもバレたくない!!
 そんな気持ちを誤魔化すように、まあ俺もみんながいないとしまらないしな! と言うと、さっきよりも不機嫌な顔になったフルルージュがもう、といってすねて可愛らしさを見せるものだから、意識したくないのに嫌でもそれが顔に出てしまう。

 「ま、まぁ皆! ここで立ち話もなんだし部屋に入ってゆっくり話そうぜ!!」

 「……あんたなんでそんな顔真っ赤にしてるのよ? 変態?」

 「へ、へへ変態ってなんだよっ!!!! そんなこと言うと部屋に入れねぇぞ!!」

 「まぁまぁ、ヒナタさんが変態なのは今に始まったことじゃないですよ。それよりもヒナタさんとサリちゃんに見せたいものがあるんです!」

 しごく冷静にそう告げるセズの目は,諦めたと言わんばかりに冷たい光を宿しており、俺は心で涙を流す。……なにがそんなにセズを変えてしまったんだ!!
 また一つ悲しみを乗り越えた俺は扉の前で立ちっぱなしだった五人を向かい入れ、各々好きなところへ腰を掛ける。

 「それで見せたいものってなんなんだ?」

 俺はベットに腰を掛け、いまだ座る気配のないセズに話を振ると、セズは着物の裾からかざがざと数枚紙を取り出し、俺たちに配り始めそれに目を落とす。

 「なに、この文字数……。見るだけで頭痛くなりそうなんだけど」

 『これは……リッカの街の基本的な掟が書かれてる紙ですね。いつの間にセズはこれを?』

 俺の隣に座っていたフルルージュはのぞき込むように俺に近づき、そのままの姿勢でセズに話しかける。その無防備な所作に思わず先ほどの羞恥が俺を襲うがいたって冷静を務め話を聞く。

 「それはもちろん先ほどの宿で頂戴してきました!! 持ち帰れるようになっていたのでいくつかを裾で温めていたんです!」

 まぁ、普通に考えればそうだろうな。
 ただそこに気が回るのはさすがセズといったところで、俺はその気遣いを無駄にしないため、紙に目を通す。
 に、しても大分キッチキチに書かれている文字は読むのにも一苦労しそうだ。その中で気になるものだけ抜粋して読むと、だ。

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 死者と精霊は生者の生命を刈り取ってはならない。
 街の中では誰しもが見える姿で過ごすこと。
 恨みを晴らしてはならない。
 憎しみを零してはならない。
 争ってはならない。
 魂の拠り所が無きものはマイヤ国を出ることを禁ずる。
 死者はいかなる理由があろうと蘇ることは叶わず、またそれに準ずるいかなる行為も行ってはならない。
 リッカの街ではどの種属も地に足をつけ歩くこと。
 許可なく禁足地へ立ち入らぬこと。
 マイヤ国では王政やそれに準ずる政を行ってはならない。
 マイヤ国では権力を独占、独断で行使をしてはならない。
 死者と精霊と原始種属を引き留めてはならない。
 死者と精霊と原始種属を閉じ込めてはならない。
 死者と精霊と原始種属は掟を破ってはならない。
 精霊と原始種属を除く生者はリッカの街の掟に従わなければならない。
 精霊と原始種属を除く生者はリッカの街で住居を構えてはならない。
 精霊と原始種属を除く生者はリッカの街での滞在を一年以内に収めなければならない。
 いかなる生命と死者はこの世界の真実を探ってはならない。
 いかなる生命と死者は神やそれに準ずる者を探してはならない。
リッカの街の中ではいかなる生命と死者は、採集や狩りを行ってはならない。
 マイヤ国ではいかなる宗教活動も行ってはならない。
 マイヤ国はいかなる国にも政治介入、協力行為をしてはならない。
 マイヤ国はいかなる国でも侵略してはならない。
 マイヤ国はいかなる国にも死者や精霊を明け渡してはならない。
 マイヤ国は自国が所有している機密や資料を他国に流してはならない。
 マイヤ国は軍を編成してはならない。
 いかなる国もマイヤ国に進軍してはならない。
 いかなる国もマイヤ国を攻撃してはならない。
 いかなる国も政治介入、協力行為をしてはならない。
 マイヤ国は掟を破ったものに対し適切な処罰を与えることが出来る。

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 「多い……多すぎる」

 『多いのにはそれだけ理由があります。それにリッカの街だけが掟に縛られていると思われがちですが、本来この掟は戦争を避けるため創られたので、マイヤ国全域に敷いている掟も数多くあります』

 そう言われてみればマイヤ国と表記されているものが多く目立つし、何よりその禁則事項が不穏なものばかりで戦争防止と聞かされれば納得もいく。
 ……色々気になるものが多いけど、妙な掟が目に留まり俺はフルルージュに尋ねる。

 「なぁ、この世界の真実を探るなとか神を探すなって……なんかおかしくないか? 神様って探そうとして探せるものなの?」

 「言われてみればそうだね? 僕も深く考えたことないけど、なんでだろう?」

 『………何百年も前の掟ですので、不整合な掟もいくつかあってもおかしくはありません。それにそういった思考や推察も掟に反しかねませんので、あまり深く考えないほうがよろしいかと思います』

咎めるでもないただ諭すような言い方に、俺はフルルージュを見つめるが、掟に書かれている以上話を掘り下げることが出来ず、俺は次の疑問点について彼女に尋ねる。

 「じゃあこのリッカの街の中では採取や狩り禁止ってあるけど、まさか街の中でもモンスターが出たりするのか?」

『それについては私がお話するわ。このリッカの街はありとあらゆる生命が必ずたどり着く死者のための街。それは草や木、もちろんモンスターだって例外じゃないの。この街に入る前に見えた浮き島は覚えているかしら? あそこはモンスターと"幻獣"が住んでいるされる禁足地で、そこに立ち入って死者を弄ぶ行為は即、厳罰処分となるのよ』

 待て待て待て。いまモンスターと"幻獣"とか言わなかったか、ファンテーヌさん。なにそれ、初耳だしものすごいファンタジー!!
 そんな種属もいるなら早く言ってくれよ~フルルージュ!! 

 「へぇ~、じゃああたしたちが最初に見えた草や花はみんな死者なんだ!! 確かにそれを摘み取るのは違うわね」

 「そうですね、私たちは植物を管理する種属なので、ファンテーヌさんのお話が聞けて良かったです!!」

 俺の興奮をよそに、五人の話はすっかり今夜の夕食に切り替わっており、完全に置いてけぼりにされた俺は自分の部屋にも関わらず、一人孤独を楽しみお待ちかねの夕食となった。


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 「大変お待たせいたしました皆様。死者の国なので豪華絢爛とまではいきませんが、死者の国随一のシェフが腕によりをかけて作りましたのでどうかお楽しみください」

 とても嬉しそうにオールさんがそういうと、美味しそうな香りが部屋中に舞い、俺やセズウェダルフサリッチは大いにその料理を楽しみ、食を必要としないフルルージュやキャルヴァン、そしてオールさんはその様子を眺めていた。
 だがやはりその時ですら、キャルヴァンの顔色は優れず雰囲気も影が落ちたかのように暗かった。

 「さて皆様。お食事中ではございますが、私とキャルヴァンからお話したいことがございます。あぁ、復縁や皆様の旅から外すといった類のものではございませんので、ご安心をば」

 何やら不穏な空気が漂い、それまで美味しく食べていた料理の手を止め、みなオールさんに注目し続く言葉を待つ。

 「お話というのはほかでもありません。私事にはなりますが、どうしてもキャルヴァンの方が、皆様にお伝えしたいとのことでしたので、この場を借りてお話させていただきます」

 「……皆にはちゃんと話しておきたかったの。私のことや、私がこの街でしてきた罪のことを」

 そんな言葉を前置きに、キャルヴァンは以前俺に話してくれた過去の話を淡々と語るのだった。
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