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80、予期せぬ再会とフルルージュの嘘
しおりを挟むいつからそこに居たのかも分からない、ブラウハーゼと呼ばれた玉座に王様のように座る少年と、その傍らには恭しく傅く青い肌の一本角の鬼はまるで、はじめからそこに居たかのように振る舞い、そして何故か前から俺を知っていたかのように話しかけてきた。
「ひさしぶりだねぇ、ヒナタ。 グインから聞いたよぉ? まさか君がグインを見つけだせるだなんて、思いもしなかったよ~………。でも、まぁそれもボクの前じゃ、ないも同然でちょっとガッカリだなぁ~」
「えっと……君はシェメイの街で会った……男の子?」
「そうそう! あの薄汚いエルフ共が群れて造った、あの街で会ったぶりだねぇ! 相も変わらずエルフ共は利己的で私欲まみれで、本当に面白いくらい転がってくれたけど、どうかな? 楽しんでもらえたかなぁ~?」
何のこと、といいそうになり俺は口を噤み、あのときの事が咄嗟に頭に思い浮かぶ。いまはもうウェダルフと俺しか覚えていないアカネが言っていた青いウサギ……。それってもしかして今、目の前に居る彼なのかもしれない。
「ぴんぽーん! おおあたりぃ~!! それどころかあの事件で君が神様だって事、わざわざあのエルフに教えてあげたのもボクでーす! ふふっ、驚いたかな??」
「なっ……?!!! それのせいでウェダルフが危ない目にあったんだぞ?! 何で楽しそうにしてるんだよ!!?」
俺はあまりにも不愉快な彼の言動と笑い声に、思わず怒りをはらんだ言葉を投げかける。すると彼はその様を益々楽しそうに、ケタケタと笑って俺に更なる言葉をぶつけてくる。
「なーにカッカしてるのさ? ボクに怒るのはお門違いもいいところだよぉ! だって君が真に怒るべきはボクじゃなく…………そうだな、まだこの話をするには時期尚早か。ん~、グインあとどのくらいで着く?」
「そうですね、あと数分もすればアイツの事なので着くと思います。ですのでその前にあの腕輪を取り戻されてはどうですか?」
グインと呼ばれた男は、サリッチに着けられたままの俺の腕輪を一瞥し、ブラウハーゼに不穏すぎる進言をする。彼の言葉にブラウハーゼも顔色を一変させ、底冷えするような表情でサリッチの左腕に付けられた腕輪をじっと見つめ、さっきとは別人かのような低く、色の無い声でサリッチへ言葉を投げかける。
「おい、おまえ。その汚らわしい腕ごと切り落とされたくなきゃ、さっさとそれをヒナタに渡すんだ。お前が持っていていいもんじゃないんだよ。その腕輪にある宝石は……さ?」
感情も灯らない瞳で頬をつくと、ブラウハーゼは動物の着ぐるみのような手を掲げグインに指示を出す。その一連の流れを理解したグインは腰にある獲物に手をかけ、サリッチににじり寄る。
そのえも言われぬ恐怖に、流石のサリッチも短い悲鳴を一つ零し、俺に駆け寄り涙目で腕に縋り、カタカタと手を震わせながら俺の命より大切な腕輪を差し出してきた。
「な、なになんなのあいつ……?! 怖いってものじゃすまないくらいの得体の知れなさなんだけど!!」
「わかってるサリッチ……。俺だって今色々な面で恐怖しか感じてねェよ。とりあえず逆らったり、口ごたえとかしないようにな」
俺はそういって目の前に差し出された腕輪に息を呑み、そしてブラウハーゼを見る。……何か知っている、俺はそう確信するが、それがどんな意味を含んでいるのか汲み取れずにいた。
あれだけ別人のように冷たく言い放った割には、この腕輪をブラウハーゼに渡せと言わなかったのは何故だ? 俺に渡す意図はどこにある?
………ブラウハーゼはいまだに待ったまま、か。
その不気味なほどのにんまり顔に、俺は覚悟して腕輪を受け取り、そのまま右腕に収める。
やはり……というかもはや当然の如く、その腕輪を受け取ると同時に俺は意識が遠くなるような眩暈に襲われ、前のめりになりながらも咄嗟にサリッチをかばったときだった。
辺りは目も開けれないくらいの光に包まれ、皆その眩しさに目を固く閉じてしまう。それは俺も同じで誰もが状況を理解できない中、ただ一人ブラウハーゼだけはその光の中で何かを捉えたらしく、歓喜に近い声でその光に向かい話しかけていた。
「あぁ……!! やっと、やっと会えたね、フルルージュ姉様…………!」
『…………ブラウハーゼ、なぜ貴方がこちらの大陸に……?』
「フ、ル……ルージュ…………だって?」
ブラウハーゼが言った言葉に俺は自分の耳を疑う。いまだに眩しく光を放つ何者かが、俺を脅しこの世界に落としたあの少女だと何故か俺は認めたくなくて、無理やりにでも目をこじ開け、光の中を見つめる。
『……お久しゅうございます、ヒナタ様。左様に目を開けずともあと少しすればこの光も収まります。ご無理はなさらずに……』
「本当にフルルージュなのか………? なんで今更になって……??」
開けられないほどの光が緩やかになるにつれ、俺の中で少しずつ、今起きていることが全て現実なのだと実感する。光が中心人物に収束しその姿を捉える頃には、先程の実感は今まで起きた事に対する怒りとなり、矢も立てもたまらずフルルージュに詰め寄る。
「ッ!! ………本当にフルルージュじゃねぇか!! 一体どういうことだよ! 何で今頃になってまた俺の前に現れたんだよ?!!」
『………お怒りのところ大変申し訳ありませんが、今はそれではないのです。事情は後ほど話しますので、即刻この場から離れましょう。ブラウハーゼ私の弟がここに訪れたという事は……』
「ダメだよ~姉様。せっかく苦労してここまで来たのに、逃げようだなんて…………。ほら、役者も揃ったようだしそろそろ始めようか?」
フラウハーゼは楽しそうに俺たちに声をかけ、俺の真後ろを指し示す。そのふざけた態度と声にイラついていた俺は構わずフルルージュと話そうとしたが、聞きなれた声に話しかけられ俺は意識を持っていかれた。
「ヒナタ……ッ!! これは一体どういうことなんだ?!」
「………ッ!! アルグ、それにキャルヴァンまで!! どうしてここに?」
「どうもこうも、貴方が暗殺者として捕まったと聞いてここまでやってきたのに………一体何が起きているの?!」
二人の登場に俺は我にかえり、後ろに控えいたセズとウェダルフが目に入る。そこには怯えた様子の二人が何も言えないまま俺を見つめており、心が一瞬にして冷えた気がした。
「ヒナタが怒るのも無理はないけど、それはボクの話を聞いてからのほうがいいんじゃない~? ねぇ、嘘つき姉様?」
『………それは貴方も同じ事では? ブラウハーゼ。私の嘘はこの世界を救うのに必要だったもの。だけれど貴方は? ただの私欲でしか……』
「それ、フルルージュが言えたことじゃないよね? ボクにお説教するなんて……あのときのこと忘れちゃったとか言わないでね?」
『……………』
兄弟喧嘩といってしまえばそこまでの会話が、この二人がはらむ雰囲気と内容の不穏さに、俺たちは何も言えなくなってしまう。
そんな中、急に話の矛先を俺にむけたブラウハーゼが、心底楽しそうな笑い顔で、更なる衝撃的な内容を吹っかけてきた。
「まぁ、そんな過去の事よりさ……今これから起きる戦争について話そうとおもったんだよぉ~! ねぇ、ヒナタ? 君は姉様から"神様"についてどのくらい聞いてるのかなぁ~??」
「え、あ?! な、何言ってるのかちょっと意味が……」
「……今はそういうのいいんだよ。それよりもボクの質問にちゃんと答えてよ。君はこの世界についてどのくらい姉様から聞いてるのかな??」
まずい!! ここには俺の正体についていまだに知らないセズとアルグも居るっていうのに、なんでこんなことを聞いてくるのか。嫌がらせにしても悪質だし、それを聞いてなんになるっていうのだろうか。
『……ブラウハーゼ。即刻黙りなさい、さもないと………』
「さもないとまたボクの"神様"を殺すって? そんなの無駄だし、いつまで経ってもこの世界は救われないよ?」
「ぼくの……"神様"だって? ………どういうことだ?」
ブラウハーゼの言葉に、俺は隣にたたずむフルルージュを見やり、言葉の真意を問うが、彼女は顔色一つ変えずブラウハーゼを見つめるだけで答える気配はない。
「あ、あはっ、あはははは!!! まさか、まさかそこまでひた隠しに、この世界の"神様候補"として連れてきたの?! 流石フルルージュ!! やることがえげつないねえ!?」
『………そうまでしてもわたくしにはヒナタ様の力が必要だった、それだけよ』
「ふーん、また姉様はそう言ってボクの意見をねじ伏せる気なんだ? それならそうと、ボクも自己紹介の仕方を改めないとね」
完全にブラウハーゼの独壇場となった玉座を降りた彼は、それまでのおちゃらけた雰囲気は鳴りを潜め、まるで王子様かのような美しい振る舞いで膝をおり、美しい声でもってそれは恐ろしいことを宣言したのだった。
「改めて、ボクはフルルージュの双子の弟ブラウハーゼ。こうして皆様に御目通りいただいたのはなんでもなく、大昔に起こした"忌まわしき血戦"を今再び起こすため。ボクが選んだ完全完璧理想の神様候補である"玉上桂兎"様の命によって、その敵となるヒナタ。……能天気な君のためわざわざ宣戦布告をしにきたんだよ?」
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