74 / 163
73、黒幕からの招待状
しおりを挟むセズとの話し合いは終わったが、まだまだ説明しなければいけないことは残っている。その一つがサリッチと俺がしていた事についての説明と、なぜ仲間にそのことを話せずにいたのかの言い訳をしていかなければ二人は納得しない。
「それで、こんなところで話すのはなんだが、今回の騒動について二人にもきっちり話さなきゃいけないな。こうなった以上サリッチも何するか分からないし、俺一人だけって本当に碌な目にあわない……。本当に三人に迷惑かけてすまなかった!」
俺は今日の疲れもありがっくりと肩を落とし、二人に心からの謝罪をする。巻き込まれる体質と分かっているのに、毎回の如く仲間に迷惑をかけてしまう自分の情けなさにしょんぼりとしていたら、キャルヴァンから思わぬ言葉を聞いてしまう。
「そうね……。今回に関しては私もいけなかったわ。ヒナタに内緒で尾行して、挙句セズちゃんと彼女を傷つけてしまったもの。それにヒナタにも事情があったのはわかっていたのに……」
キャルヴァンは申し訳なさそうに俺に頭を下げ、その様子をいつもの如く目に涙を浮かべ、不安そうにウェダルフは見つめていた。
「いや、二人が謝ることじゃないんだ。ただ俺がしっかりしていれば今回の事は起きなかった。それだけだ」
「いえ、私も……」
『今回の件に関してお互いが謝ってばかりじゃ話が進まないわ。それよりもこれからどうするのかを決めましょう?』
危うく謝罪祭りになりそうなところをファンテーヌさんがぴしゃりと止めてくれたおかげで、当初の目的であった話し合いが出来るようになった。
こうして小一時間しっかりと話し合えた俺とキャルヴァンとウェダルフは、サリッチがどんな行動を取るのか分からない以上、現状維持の方向で動く事を決めて、落ち込んだままのセズを連れ立って夜ご飯を済ませることとなった。
翌朝、事件は起こった。
まだあたりは暗く、俺とウェダルフがいつものように寝ていたら、慌てた様子の足音が聞こえ俺達の部屋を激しくノックする音で目が覚める。
何事かと飛び起き、扉を開けるとそこにいたのは宿屋の主人で、顔だけではなく全身青ざめた様子で俺の両腕を掴んでくる。
「お客さん、お客さん!! あんたら一体なにしたんですかッ?!! こんなことわたしが店をやって以来の出来事で、何をどうしたらいいのやら……‼︎」
相当慌てているのか、宿屋の主人はうわずった声で俺の両腕を強く握り締めてくる。その力強さに俺は痛みに耐えながら宿屋のご主人の話を聞き、とにかく下へとしか言わない主人の案内どおり恐る恐る下へと降りる事にした。
「あなたがここ最近訪れたという旅人のヒナタだろうか?]
下に降りると玄関前を占領するえらく姿勢の良い男達三、四人が俺を待ち構えており、逃がさないとばかりに帯刀していた。な、何事??
「え、えぇ俺がヒナタですけど……なにかしました?」
「さるお方が貴殿に会いたいと我等を遣わせた。大人しくついてこい。話はそこでする」
いかつい男性がそういうのと同時に、男達は二手にザザッと勢いよく分かれ、俺を今か今かと待っていた。……女の子に囲まれるならまだしも、男に囲まれる俺の不憫さよ。
相変わらず女っけがない自分の運命を呪いつつ、逆らうと真っ二つに分かれてしまいそうなので、大人しく俺はいかつい男達に挟まれながら恐怖のお出迎えを受けることにした。
前も後ろも男に囲まれながら向った先は、昨日訪れた朝顔の屋敷で、俺は死を覚悟した。まさか俺のこと呼んださるお方ってもしかしてもしかしてチィ・アンユって人かな? そうなのかな??
そうでなければいいと思いながら、俺は案内されるままに屋敷の中へ入り、現実を受け入れないままチィ・アンユその人と二度目の対面を果たし、一気に血の気が引いていく。しかも部屋にはチィ・アンユだけではなく、訝しげな顔で俺を睨みつける壮年の男性までいた。
「ようこそわが屋敷へ。昨日は何も事情を知らない屋敷の者が追い返してしまったようで申し訳なかったわ。あら、そんなところで立ち止まらず、こちらへきてどうぞ座ってくださらない?」
口調こそ優しいアンユさんだが、その顔には笑顔一つ浮かんでおらず、俺は虎に睨まれたウサギのような気分だった。俺はなるべく顔をあわせないようにソファーに近づき、躊躇いがちに腰掛けアンユさんと、別の椅子に腰掛ける壮年の男性をチラ見する。
「改めて、私の名はチィ・アンユ。こちらに座っている方はタウ・フウア様よ。あなたの名前は?」
「俺は……ヒナタです。今日はどのような用向きで俺みたいな平々凡々な旅人をここに?」
獣のような目線で睨まれつつも、俺は自身が呼ばれた理由を聞いてみる。聞くのは怖いが聞かずに話が進むのはもっと怖い。
「……今日はわが国に関わる重要機密に関する話を貴殿に聞くためだ。……この意味、わかってくださるか?」
「い……いえいえいえいえッ??!! 全然何を言ってるか分からないです?! 国家に関わる機密なんて、俺みたいな人間が知るわけないじゃないですか~!」
首が千切れる勢いで横に振り、全力で否定してしまう。なにこれっ?! どこまで知ってるのこの人たち??!!
「ほぅ、この期に及んでもとぼけるとは……。まだ自身の身がどのような状況に置かれているかわかっていないようだな」
「仕方ありませんわ、フウア様。彼は所詮一市民でしかない。今回のように、愚かな王に踊らされた憐れむべき存在の一人です」
な、なんだこの言い草?! 市民から支持されているアンユ様って、こんな傲慢な考えの人だったのかよ!! ガンガン上から物言ってくるのになんで慕われてんだ、この人?!
俺は二人の強烈な発言に思いっきり面食らってしまい、なにも発せられなくなってしまう。そのことを肯定と受け取ったのかフウア様と呼ばれた男性は、やれやれといったしぐさで俺に諭すように話しかけてくる。
「貴殿は騙されているだけなのだよ。あの愚かで王たる資格も本来は持ち得ないただの子供に……そうだろう? だからもう話してはくれないか。あの愚か者が隠れ蓑にしている場所を」
「な、なにを言ってるのか……俺には全くわからない。俺はただの旅人で、今この国で起きている騒動なんて街で聞いたことしか知らない。第一俺は俺自身、見て聞いたことしか信じないタイプなんだ。だからこの場ではっきり言うと、俺はあんたら二人のほうがよっぽど信用できない」
言った……。言ってやったぜ!! 言ってしまった以上俺の命はどうなってしまうのか分からないが、こんなやり方でサリッチの居場所を聞いてこようとするやつらなんか信用できないのは、当然だろう?!
「そう……、それがあなたの答えなのね。やはり愚か者の王には愚か者しか集まらないのかしら。残念ね、あなたの答え次第では私達は褒美も辞さなかったのに。こうなってしまった以上、あなたは国を転覆させる反逆者よ」
「そうだな、貴殿……いや貴様が今回の王殺しの犯人として我々も動かざるを得ないようだ」
「はぁぁ??!! なんでそうなるッ??! 俺は単なる旅人で暗殺者なんかじゃない!! 第一王様を暗殺して得するのはお前らのほうだろッ?!!」
突然すぎる展開に思わず声を荒げ、暴言を吐いてしまうがそれも仕方がないことだろう。だって俺が暗殺者って……!?? 筋も何もあったもんじゃない!
「やれやれ、見苦しいことだ。我等こそ王を殺して何の得があるというのだ? 国を想い王を支えるのが我等貴族の役目。それに王が我等を疎んでいたのであって我等は王のため尽力した」
「王無き国は混迷するだけよ、そんな愚かな事私はしない。言いがかりにしてもなんとくだらない……。もうあなたとは話す事もないわ、皆のもの!! ここにいる大罪人を捕らえなさい!!」
「「「「はっ!!」」」」
ヤバイッ!! そう思ったときにはすでに遅く、俺は大男達に拘束されてしまい、そのまま気を失ってしまったのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界ロマンはスカイダイビングから!
KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
面倒臭がり屋の日常生活
彩夏
ファンタジー
何処にでも居る平凡な主人公「西園寺 光」は、入社した会社が運悪くブラック企業だった為社畜として働いていたが、ある日突然、交通事故に巻き込まれ、人間として、短い人生として幕を閉じることになった。
目が覚めると、見渡す限り真っ白…いや…、空の…上?創造神と名乗る男性から説明を受け、転生する前に好きなだけスキルを選んだ後に転生する。という事に!
さて、これからの「西園寺 光」は一体どうなるのか?
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
リクエスト募集中!!
まだ慣れていないので、詳しくお願いします!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる