34 / 163
33、繋がる点と点
しおりを挟む——ここ最近、ヒナタと話すことが少なくなった。というのも、ヒナタには俺にも言えない秘密があるようだった。でも、それはオレだって同じなはずなのに、なぜかどうしようもなくそのことが苛立って仕方がない。その結果、ヒナタを避けるような行動に走っているのは自身でもわかっていた。
自分勝手なことだとは十分承知している。だけれどヒナタのその行動が、オレのやり直したい思い出と被ってどうしようもないのだ。また同じ事を繰り返しているようでもやもやする。
オレはここ数日と同じように、街へ出かけ人々に話を聞く。ここシェメイに来る前に聞いた、オレと同じ姿の男を探して子供お年寄り関わらず聞きまくっているのに、一向に成果を挙げられない事に半ば諦めかけていた。そんな中、耳を掠めたとある噂話。
「そうそう、聞きました奥さん?! なんでもたった今、シェメイ議会員のご子息が、なんと街の過激派組織に誘拐されたそうですよ! しかもその組織が街でも一等地にある、あの有名なカフェを拠点にしてたそうで……」
以前のオレなら気になりもしなかった話題だったが、このときは何故か耳から離れず、野次馬よろしく、その場所に赴いてしまうほどだった。なんでも首を突っ込んではお節介を焼くヒナタの影響だろう、そう考えると自然に笑みがこぼれてしまう。あいつがいつもいってた、なんだったか……そう『イチニチイチゼン』とかいうやつだ。
最初の頃は到底理解が出来ない行動だったのに、今やそれをしないヒナタに、寧ろ違和感さえ覚えるほどオレにも馴染んできていた。
噂されているカフェには人が群がっており、どうやら先程の噂は本当だったようだ。カフェの入り口には協会の犬である、監察が二、三名程おり店主と言い争っていた。まだ入り口で済んでいるが、それも時間の問題だろう、直ぐにやつらは店に押し入り、滅茶苦茶な言い分でもってその"過激派組織"とやらを一網打尽にしてしまう。
オレにはどうすることも出来ない。そう判断し、その場を去ろうと目線を逸らしたときだった。オレのことを熱心に見つめる目があることに気がついた。
なんだと思うまもなく、その目はオレの背後にすばやく近づき、周りが聞こえない程度の声音で、着いて来いと一言、短く発する。魔属と知ってなおもそう告げる、そいつらの狙いが気になったオレは、大人しく着いて行く。案内されたのは人気のない裏路地で、そこには案内した男のほかに三人の男女がオレを待っていた。
「乱暴な申し出をして申し訳ありません。貴方はご存じないと思いますが、詳しい説明も今惜しい状況なのです。ずいぶん勝手なお願いだと理解したうえで、ヒナタの仲間であるあなたにお願いがあります。我々の同志であるヒナタを、どうか此処に呼んできてくれませんか」
そう焦った様に話すエルフの男に嘘は感じられず、仲間と思しきエルフたちも一斉に頭を下げるので、それくらいなら大丈夫だろうと判断し、ヒナタを呼ぶため宿へ一旦帰ることにした。万が一何かあっても、俺がいれば守れるとも思ったのだ。
宿に帰る道中、慣れた気配がしあたりを見渡すと、違う裏道からセズともう一人違う誰かが、こっちに向かってくるのに気付く。セズもオレに気付いたようで、隣にいたセズと同い年くらいの獣人の嬢ちゃんに話しかけていた。そのあとオレに用件を話すセズ。
「アルグさん! ちょうど良かったです、ヒナタさん見かけませんでしたか?! 緊急のお話があるんです!」
こちらも慌てた様子でそんな事をいうもんだから、オレもただ事じゃないことに気付く。セズを落ち着かせる意味でも、オレもヒナタを探していると短く伝え、ヒナタと合流するため急ぎ宿へと向かうのであった——
**********************
「……ッくそ‼︎ 約束したのに!!!」
最悪の事態を目の当たりにした俺は、事態の把握とウェダルフを捜索する為、急ぎ宿に向かった。今頼れるのはアルグやセズしかいないと思ったのだ。獣人の子が犯人なら普通の……何の力も持たない、役立たずの神様である俺では太刀打ちなんて出来ない。あれだけウェダルフの父親に言われたのに、目の前で攫われ、なにも出来なかった自分が情けない。
でも今はそれを後悔している暇なんかない。犯人の目的が分からない以上、ウェダルフの安全も保障なんてされていないのだから。
息を切らし宿に帰ると、そこにいたのは意外な組み合わせだった。というより犯人の親玉がそこにいたのだ。
「アルグにセズに……なんでエイナまで? あれは君の指示じゃないのか? ……それよりっ! たった今ウェダルフが攫われて……ッ!!」
大慌てで早口にそう告げると、エイナとセズが苦い顔をする。エイナがここに居る事と何か関係がありそうだ。だけど俺のこの言葉に反応を示したのはアルグだった。
「ん? ウェダルフってもしかして議員のご子息か? 今街中の噂になってるぞ、過激派組織が誘拐したとかなんとかで、街のど真ん中のカフェが摘発を受けていた」
「ハァ?!! ……だとしたらおかしい! 攫われてそんなに経ってないし、第一攫ったのは獣人の……ッ!?」
そこまでいって俺はある考えに行き着く。もしかして今回の事件はただの誘拐事件じゃなくもっと別の意図がある……?
「それと関係があると思うんだがヒナタ。……お前を探しているというエルフに会ったんだが、何か心当たりあるか? オレと同じくらいの年で身なりが整った優男だが……」
「俺が最近知り合った中で思い当たるのは、レイングさんだけど……何でアルグにそんな事を?」
「さぁ? そこまで聞ける雰囲気じゃなかったし、第一相手さんも相当慌てた様子だったから、緊急を要することだろうな」
ウェダルフの誘拐に続き、ソニムラガルオ連盟のレイングさんにも何か起きた……? それにアルグが一番最初に言っていた街のど真ん中のカフェってまさか……本部のことか?!
ソニムラガルオ連盟がウェダルフの誘拐を企て、瞬く間に協会の監察にばれた……なんて、幾らなんでもそれは無理があるし、誘拐が分かったのならまずするべきは、攫われたこの身柄確保だろう! そこから考えても今回の犯人は明白だ。あとは何故獣人の子がそれに加担したかという事だけ。
「エイナ、君がここにいる理由はなんとなく理解した。けれど君の口からも聞かせてくれないか? 今回の事の顛末を……」
苦虫を噛んだような顔で静かに頷くエイナ。ただここだと色々駄々漏れなので、秘密話には持って来いのエイナたち、灰色の兄弟の根城で全てを話すことに。でもその前にレイングさんたちに会って、話をしなくてはいけない。
アルグの案内で、レイングさんたちがいる裏路地へたどり着くと、そこにはレイングさんの他に、ティーナさんとウェールさんが俺のことを待っていた。その中に彼の姿はない。
「ヒナタッ! あぁ、よかった!! 君にまで何かあったら我々はどうしようかと思っていたのだ!!! この街の騒動はご存知かな? それについて話したいことがあるんだ」
「俺もそれについてお話したいことがあります。とりあえず此処ではいずれ捕まってしまうので、俺たちのあとに着いて来てください」
こうして一言も会話をすることなく、エイナの案内で黙々と地下を進む。この間は真っ暗で進むことが困難だった通路は、ティーナさんの光の種属の加護のおかげで、こける事無く進むことが出来た。
歩いて数分。獣人の子供達のたまり場だった、光が差す円形の広場は昨日とは打って変わり、誰一人としてその場にはいなかった。それどころか賑やかだった声すらも聞こえない。
「他のやつらはもうすでに食堂に集まってる。そこであんたらの聞きたいこと……全部話してやるよ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界ロマンはスカイダイビングから!
KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
面倒臭がり屋の日常生活
彩夏
ファンタジー
何処にでも居る平凡な主人公「西園寺 光」は、入社した会社が運悪くブラック企業だった為社畜として働いていたが、ある日突然、交通事故に巻き込まれ、人間として、短い人生として幕を閉じることになった。
目が覚めると、見渡す限り真っ白…いや…、空の…上?創造神と名乗る男性から説明を受け、転生する前に好きなだけスキルを選んだ後に転生する。という事に!
さて、これからの「西園寺 光」は一体どうなるのか?
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
リクエスト募集中!!
まだ慣れていないので、詳しくお願いします!
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる