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8、泣いた赤鬼

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  地球の皆さん! 朗報ですよ! 俺が神となったこの異世界リグファスル。な、なんと、人間はレア種だそうです! 
それってつまり、ここに地球の皆さんが来ればもれなくSSR確定ってこと! ナンテコッタ! ……うれしいでしょ、SSR。みんな好きだよね? ねぇ、そうだといってほしい。じゃないと俺は泣きそうだ。




**********************





 「エルフってそんなに人間嫌いなの? 住めるわけないって事は、俺見つかったらやばい?」

 冷や汗が背筋を撫で俺の身体を冷やしてゆく。やばすぎる………そんな事情や情勢とは露知らず、思いっきり人間してしまった。いや、人間するって意味は自分でもよく分からないが。
 とにかくだ! 俺は隠すことなく、さっきの村でも最初の親子にも接してきたのだ。そりゃ、あんな反応になるよね。だって人間だもの。
 その反応にアルグも何か感じ取ったのか、渋い顔つきでそれに答える。

 「ヒナタ、お前さん本当に何も知らないんだな。その様子だとあまり他の種属と接していないようだけど、今までどうやって生きてきたんだ? 一人で自給自足って訳でもなさそうだが……」

 意外に鋭いぞ、アルグ。まずいなぁ、まさか異世界から来ました! なんて到底言える訳もなし、なんと言い訳しようか? そうだな、記憶喪失はどうだろうか? ベタだが、かわすにはもっともらしい気がする。だがそうなると旅をしている無謀さが目立つな、これ。そうだな、ここはアルグに乗っかって……

 「実はそうなんだ、俺の育ての親が同じく人間でさ……。だから今まで隠れるように生きてきたんだ。親も俺を心配してか、あんまりこの世界の事は話してくれない。それが嫌になって世界を知りたくなった俺は、置手紙ひとつで家をでてきたんだ」

 よくスラスラとこんな事がいえたもんだ、と自分でも感心してしまう。嘘混じりの話なので若干心が痛むが、本当のことが言えるわけではないので致し方ない。だがそんなホラ話をものすごい真剣に受け止め、男泣きしているアルグ。いいやつ過ぎて居た堪れなくなってきた。

 「ヒナタァ~! お前苦労してきたんだな! オレもなんだかその状況分かるぞ! よし、今日からお前オレの相棒だぁ!」

 嗚咽交じりに大粒の涙を流す。出会って半日で相棒認定とか、懐深すぎるぞアルグ! お前のほうこそ今までどうやって生きてきたのかこっちが心配になるレベルだ。多分あれだな、この般若面が今のいままで人避けになってた可能性大だわ。
 思わぬところで本題がずれまくってしまった疑問を、今一度投げかける。 
 
 「それでさっきの質問だけど、アルグってエルフとも人とも違うよな? この世界って他にどんな種族がいるの?」

 「……グズッ、そうだったな。俺らは夜の眷属で、俗に魔族と呼ばれているシュゾクだ。そしてこの国、フェブルは魔族の長が代々治めている」

 おおっと、新用語が出ました。シュゾクって種族? この言いようだと他にもいそうな気配。

 「うーん、なんかいっぱい聞きたい事があるんだけど、とりあえずその、種族? ってなんだか聞いてもいい?」

 「俺も昔習ったから良くは覚えてないんだが、世界を形造る上で必要な存在、だったか? それが23シュゾク。大昔は24シュゾクいたらしい」

 ほう、世界を形造る存在とな? じゃあ自然とかも含める感じか。感覚としては種族というより、種属に近いかもしれない。それに大昔は24だったのに、今は23になったのも気になる。
 他にも話を聞こうと口を開くが、アルグが空を見上げ、夜が更けてきたので今日はここまでにしようと提案してきた。逸る気持ちはあったが、歩き通しで眠いのもあって、それを受け入れ横になる。焚き火はあるがやはり寒く、思わず身震いしてしまう。それが優しいアルグには見過ごせなかったのか、着ていた上着をこっちに投げ、布団がわりにしたらいいなんて言い出すものだから、それではアルグも風邪を引くからと断ったが、受け入れてもらえず。うぅ、申し訳なさ過ぎる。彼の優しさに甘え目を閉じると、思っていたよりも疲れていたらしく、すぐ寝落ちた。

 次の朝目覚めるといつ起きたのか、アルグが川魚を火に焚べていた。もしかしてアルグ寝てないんじゃ? そう思い聞こうと近づく。

 「おう、今起きたかヒナタ! オレもついさっき目が覚めてなんだから、川魚獲ってきたぞ! お前もそこで顔洗って来い」

 そう彼は言いながら後ろを指差し案内してくれた。やだ、イケメンすぎる。昨日からのさりげない優しさに乙女思考になる俺。危ない、俺が女の子だったら即落ちだろ、こんなの。………多分な! 女の子のことなにも知らないけどね!  
 そんな変な思考を冷たい川で覚まし、手早く朝食を済ませて今日中に首都へ行くため、黙々と歩いていた。前に立ち寄った村より暖かいのか、雪は降っているがそこまで積もってないおかげで歩き易くなっており、思っていたより早く、日が落ちる前に到着する事が出来た。

 着いた街はウィスという名前で、フェブル国最大の街と聞いて、どんな所かと期待していたが、思ったより歩いている人は少なく、また閑散とした様子だった。
 だがこの街に入ってからずっと違和感がある。見えない誰かが俺を見ている気配。それも一人二人ではない、幾つもの目線。それをアルグに伝えると、説明しづらいのか言い澱みながら答える。

 「あー、まぁ、もう少し夜が更けていけば見える奴らも出てくるし、あんまり気にするな! 前にも言ったが人間が珍しいだけだ」

 見ない存在という言葉に冷や汗が浮かびそうになるが、それ以上は考えてはいけないという本能の言葉に従い、先ずは宿を探し街外れへと向かう。道中、エルフやら、何本も角を生やした大男とすれ違う度、ビクついていたが相手は気にしていないのか、目も向けず去っていった。
 なんだ。人間だからって何かされる訳じゃないみたいだな。そう思い、宿に着いたが思わぬ事実が判明。いや生きて行く上では同然、突き当たるべき問題のお金、マネーである。当たり前だが、俺の今の持ち合わせ、2万と小銭が約3千程。うん、通用するわけないか。どうしよう……俺だけ野宿する? なんて事を考えていたらいつの間にやらアルグが支払っていた。

  「本当に申し訳ない、出させるつもりは無かったんだけど、俺お金持ってないこと忘れてた……」

 自分の思慮の浅さに顔が上げられない。そんな俺の様子をアルグはきょとんとした顔でこともなげに一言。

 「そりゃあ、今迄世俗から離れた暮らしをしてたんだから、持ってる方がおかしいだろ」

 と笑い飛ばすのだった。そんな男気溢れるアルグに感動していたら、この街は夜がメインなんだと、俺の背中を押し案内を始める。大通りに戻ると、先ほどの閑散とした街の風景が一変、賑わいを見せていた。屋台もずらりと並んで、嗅いだ事がないスパイスが辺りに漂い、俺の食欲をそそる。その中の一つ、アルグ馴染みの店で夕食を済ませて明日何をするかをという話になった。
 俺としては、この隕石をさっさと交換し、人類を救いたいところだが、いかんせんなにと交換するべきか、未だにわからない事だらけだ。これは長期戦を覚悟に、あれをするべきだろう。そう思い、アルグにその旨を話す。

 「明日なんだけど、この街にものを買い取ってくれる店かなんかないかな? 今日みたいにアルグの世話になるのも嫌だしさ」

 「オレは好きでやってるだけだから気にするな、と言いたい所だが金は確かに必要だな。だったら明日は行きつけの所を案内しよう。変なやつだが、目は確かな店だ」

  「おう、ありがとうな、アルグ。お前がいて本当に助かった」

 そうして俺たちは美味しい料理を肴に、くだらない笑い話を夜更け近くまでし、ぐでんぐでんに酔っ払ったのアルグをかついで、宿へと戻ったのだった。
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