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4,全ては彼女の意のままに
しおりを挟む——なん、だとッ……?!
……ってこんな時に使うんだなと、暢気にも考えてしまった。
でもここではたと気付く。あれ、それじゃあ全人類絶滅は無理じゃねえか? と。
例えばの話。星の数ほど神がいて、それぞれの星に人類がいるとしたら、彼女一人……いや彼女と神様一柱だけって、多勢に無勢だろう。
そう思い、ならばと切り返したが。
「さっきの話だけれど——
「先程もお伝え致しましたが、私は嘘は言っておりません。もし、貴方が神様にならない、そういった瞬間に人類、そう地球に住む全人類が死に絶えることになりますよ?」
全部言い終わる前に言われた。
どうやら、人類というのは定義の違いでしかなかったらしい。フルルージュ、彼女の言っていた全人類とは、地球規模での話だったのだ。
じゃあ宇宙の為にっていうなよなッ!!
逃げられない………逃す気がない。フルルージュはハナからこれが狙いだったのだ。どこまでが彼女の嘘か分からない。いや、彼女の言うとおり嘘が全くないにしろ、だからといって信用できる相手ではない。
ここはもう、腹をくくるしかない。
「わかった。フルルージュが望む通り、神でも何でもやってやるよ!」
その言葉を待っていたかのように花が綻んだかのような、初めての笑顔を彼女は浮かべる。何も知らなければ惚れるように綺麗だが、今はただただ、恐怖が込み上げてくる。
「ありがとうございます。貴方様ならきっと、受けてくださると信じておりましたわ」
そりゃそーでしょうよ。こんだけ外堀り埋めといて何言ってるの、このお嬢さん。確信犯過ぎて本当に嫌になる。
「それでは人類を救うかわりに貴方様が神となり、すべき事、その条件をお伝えいたしましょう」
そういって彼女は俺に近づき、ある物を差し出した。
見たところ、艶やかな見た目の黒いゴツゴツした石、といったところか。大きさは片手で持てるぐらいで、小石にしか見えない。
ふむ、これが何だと言うのだろうか。
「こちらは貴方様の死の原因となった隕石にございます。綺麗に処理を致しましたので、血などは付着しておりません。宜しければお持ちになりますか?」
「おぉい! なんてもの本人に見せちゃうの?! 被害者と加害者の対面はもっと慎重に!」
まじかっ! 俺こんな石ころで死んじゃったわけ?! 何だかそう思うと、憎い、よう、な……?
んー………相手が物言わぬ石だからかこう、どうしようもない感がハンパないな。
ところで、なぜ彼女はこんなのを俺に見せた? なぜ彼女がこれを持っている?? 何が目的???
思考は空回りするばかりで、纏まりそうもない。その間も微動だにしないフルルージュ、彼女は何を考えているのかわからない………
ふむ、どうせ彼女の事だ。俺が触るまで待ってる腹積もりだろう。それならば!
「どっせーいぃ! ……。って、何も起きてない?」
は、ずかしぃぃー!! どっせい言っちゃったよ、何その掛け声?!
「お伝え忘れてましたが、こちらの隕石が人類を救うための条件となっております」
フルルージュ、お前絶対ワザと言い忘れただろ。
「その条件とはこの隕石を、私が望むものと交換する事にございます」
交換とはまたなんと原始的な条件か。
異世界の神様になるっていうから、もうちょっとこう……神様パワーでーとか、世界にはびこる魔王をーとか妄想しちゃったよ。
しかしだな………
「君が望むものに交換? それと俺の言った一日一善と何の関係性が?」
「こちらの隕石は特殊な技法により、貴方様と私を結びつける証となっております。そしてこの隕石にはもう一人の私ともよべる魂の欠片を……この隕石にこめております」
おぉ、お待ちかねのファンタジー要素。さっきまではファンタジーというよりホラーな気分だったから、ちょっとテンションが上がるよな。そんなことを考えていたら、先ほどよりも真剣な声で彼女は俺の目を見つめてきた。
「ここより先はとても大事な事です。気を逸らさずお聞きください」
なんて怒られてしまった。すみません。
「いってしまえばこの隕石は私の目となり、耳となるもの。そして私の望む条件は………貴方様が仰った一日一善を成し遂げるにあたり、必要となってくるものです」
「日向様、ゆめゆめお忘れなきように。これは私の望むものが手に入るまでは、決して貴方様から離れる事はありません。ですから——
彼女はそう言って返答を待たぬうちに、俺を空高い場所から見えない足で蹴落としたのだった。そう、俺が今までいたのは天空の城……というより、国みたいな感じだった。
いくつか大地が浮かんでおり、大きな羽でどこかへ向かう様子も落ちながらだけど見えた。そう……落ちながら。
フルルージュさん……ちょいと乱雑に、扱い過ぎてはいませんか? 何で蹴落としたの? 普通に死んじゃうよね? これ。それとも、もう俺の身体は不老不死になってて、これくらいでは死なないし、おっけー! みたいなノリ?
やばい……! 普通に怖い。高所恐怖症にはこれはきつすぎる!! 風圧による吐き気で死にそう。
眼前に迫る白と茶色の風景。もうすぐそこまでの距離に、せめて顔だけでもと思い、咄嗟に守りに入ると当然だが目の前は真っ暗になってしまう。
その時。微かに俺の身体を押し上げていた風が、緩やかになったような気がして俺は一瞬気が緩むが、その直後に訪れた着陸時の衝撃には耐えきれず、俺は無事気絶してしまったのだった。
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