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2,理不尽な選択肢
しおりを挟む人生というのは、いつも理不尽の連続だと思う。自分で選んでいる様で、その実、選ばされている。そう思うやつも多いのではないだろうか?
**********************
痛いくらいの無音の中、俺が目を覚ますとそこは闇だった。
さっきまでの公園とは打って変わり、この場には俺以外の物体はなく、何処が地面かも分からない。その異様な空間に、俺はまだ目が覚めていないのか、恐怖は感じない。
というか、安心感さえある始末だ。
自分が自分でない奇妙な感覚に気持ち悪さを覚えつつ、何かを待つ俺。
——沈黙しかなかった世界に小さなはばたきが俺の上から聞こえ、首をそちらに向ける——
その瞬間、闇は弾け、夜明け空の様に美しい光が差し込み、誰かがその光源に立っていた。
というより、その人物が光源であり、とてもじゃないが、目を開けて確認なんて出来たもんじゃない。
それに光源の主は気付いたのか、ゆったりとした綺麗な声音で
「あら、私ったら……。眩し過ぎたかしら。気付かずにすみません」
落ち着きのある声でそう告げると、光は柔らかく優しいものへと変わっていった。
チカチカとする目を今度はびっくりさせない様、ゆっくりと目を開ける。
あ、良かった。俺地面の上にいたんだ。なんてどうでもいい事に気がつく。
そして辺りを見回し、ここが部屋の中だと気がつく。構造としては、教会の礼拝堂に近い雰囲気だ。夜明け近い空は、大きく開け放たれた所から見えた、景色のようだった。
ふとその時、室内だったのに暗かったのは何故だろう、と気になりあたりを見渡すが開放感あふれる窓をよそに、光源となっているその人に目を奪われ、そちらに意識を持っていかれた。
人? いや、それとも鳥……なのか?
太陽の様に鮮やかで美しい髪と真っ赤に燃える瞳。鳥の羽の様な装飾を施してある、和装っぽい服装をまとった少女。
失礼を承知で率直な感想を告げるなら、上半身だけ見れば言葉を失うくらい美しい神聖さすら感じる美少女。
だが、可笑しいのはその下、足元であった。
ドレスのようなスカートは大きく口を開け、膝から上の足を大胆にも見せている。
そう、鳥の様な鉤爪と、毛で覆われた足を。
正直こんなファンタジーな事があるのかと、少しの興奮と恐怖に何度か目を擦る。
そんな可笑しな俺の様子を見ていた美しい少女は、眉根を少し寄せ大きな溜息をつき、その小さな口を開く。
「はじめまして。私は神の御使い、フルルージュと申します。そして、金烏日向様。誠に残念ですが、本日の早朝、貴方は隕石との接触により、死に至りました」
一瞬、何を言ったのか分からなかった。隕石との接触 ? それって今朝見たあの流星の事か?
は……? え、あれが運良く、俺の頭に当たって死んだって?! いやいや……どんな運命だよ! 神様俺を殺しにかかってるとしか思えないんだけど?!
「ちょ、ちょっと待って! 今言った事って本当に? なんかの間違いじゃなく……俺、死んだわけ?」
などど今の素直な気持ちを彼女にぶつける。その慌てふためく俺とは対照的に、彼女は少し面倒くさそうに答える。
「……はい。本日、6時21分36秒に隕石と接触、一瞬のうちに頭は肉片となり、死亡と判断されました。あ、でもご安心ください。幸いにも朝早い時間の為か、それとも落ちた隕石が小さかったからか………ともかく、貴方の他には死亡したものは居らず、また被害も最小限となっております」
ソッカー、ソレハアンシン……。
なんてなるかーッ!! いや、逆になんで俺だけ死んだの⁈ その状況なら俺も助けてくれてもいいのでは⁈
「そうですね……この様な死に方をされる人の確率ですが、まず、隕石が人に当たるのは稀です。その上で頭に当たる確率は……100億人いたら当たるかもしれない、と言った感じになります」
「俺の心読んだッ⁉︎ というか人類の人口30億オーバーの割合なの?! もしかして神様……俺の事憎んでない?‼︎」
その心からの叫びを眉間の皺一つで無視し、目の前の彼女はなおも続ける。
「まぁ、死んでしまったのではもうどうしようもありませんわ。ここは悲しみを乗り越え、次の生を堪能致しませんと」
軽い、あまりに軽い俺の人生ッ……
神様にして見れば俺は70億いるうちの1人だし、こんなもんなのか……?
まだ受け止めきれない死に、思いを馳せながらとりあえず話を進めることに。
「…………次の人生って俺が選んでもいいのか? 出来るなら……っていうか次も人間が良いんだけど」
次の人生はもう少し運を良くしてもらおう。そう思った矢先だった。
「そう、ですね。申し訳ありませんが、残念ながらそれは難しいでしょう。人間はやはり人気の来世。定員オーバーにございます」
定員オーバーって……。そんなのがあるとか初耳すぎる。
いやまだ諦めるな! 人類がダメなら宇宙人とかどうだろう?!
「地球外生命体、もしくは宇宙人などファンタジーな生物なども次いで人気であり、締め切っております」
「ぅおおおい‼︎ 先回りしすぎいぃ!!! 俺まだ何も言ってないし、もう選択肢ないじゃねぇか!‼︎」
本格的に神様俺を憎んでいる説が濃厚になり、絶望する俺。
じゃあ、あれだ。逆に何が大丈夫なのか聞いてみよう。
「な、なぁ、俺が選べる人生って何がある ? 」
ごくり、と大きな音が、喉越しで鳴り辺り一面に響く。
大きなため息をつき、彼女は右耳に手を当て、誰かに何かを聞いている様な仕草をする。能面のような表情からは、読み取れないが、多分業務連絡に違いあるまい。
二言、三言、会話を交わした後俺に告げる。
「貴方の選べる次の人生ですが確認した所、ネズミ、イノシシ、ミミズ、スズラン、ほうれん草、クワガタ、セミ、ミドリムシ、ミジンコ。これらから選べるそうです」
天使の様に柔らかく、綺麗な笑みを浮かべる彼女に、一瞬見惚れる。
だが、何かが明らかにおかしい。優しい笑みの裏で、聞き取れた選択肢は、どれもひどい様な気がするのは俺だけか?
まず、初めにネズミとイノシシはまだマシに思う。
——いや、選択肢の中ではの話だけど——
次に植物と虫……最後のこれは本当に酷い。ミジンコとかミドリムシってなんか違うよね⁈
まぁ⁈ ゴキブリとかが入っていないだけマシだけどさ!!
「そうですか? ゴキブリは人気が高く、ランキング上位ですよ? 」
……マジで神は俺を憎んでいる。でなければこんな酷い選択肢を与えたりするだろうか?
というかゴキブリ、そんな人気なんだ……あれかな? 怖いもの見たさかなんかだろうか……
思考が逸れた。今カブトムシ擬きはどうでも良いのだ! 大事なのはこんな選択肢は納得いかないって事だ!!
抗議してやるッ! と重い口を開いた時。
「先んじて言わせていただきます。私は、人間という生き物が、大っ嫌いでございます。傲慢、強欲を振りかざすその様、なんと醜い事でしょうか。そして先程からの貴方の思考。些か傲慢すぎませんか ? 」
——その言葉になんの反論の言葉も浮かばないのは何故だろう。そっちこそ傲慢だと返してやりたいのに、それをいうにはあまりに人間は、いや、俺は蔑ろにしていたのだ。
人間以外の生物の生き様を——
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