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第54話 再燃

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「なっ、なんだお前ら!? なんでそんな目で俺を見るんだ!?」

 住人達からの視線に、何故といった表情で狼狽える門兵A。
 ふと気づくと、門兵DとEも住人達と同じ視線を向けている様子。
 今の状況が続くのは少し可哀想に思えたので、門兵Aを覆っている水牢を解除しようと動く……がその前に、先ずはヘルハウンドを黒箱へ収納してから向かうことに。


 ヘルハウンドを黒箱へ収納して水牢の解除に向かう途中、地面に付いた炎の焦げ跡がふと目に入り、あの時に嗅いだ温泉のような匂いが脳裏に蘇る。

「あの時の匂いは一体……ん? 何か匂うな……もしかして、まだ焦げ跡から匂いを発してるのか?」

 不可解に思いながらも「まぁいいや」と呟き、止まることなく水牢の解除に向かい続けた。


「遅いんだよ! ったく……さっさとココから出しやがれ!」

 俺が着くなり門兵Aは怒鳴りながら命令し、それに対し再び苦笑いをしながら軽くお辞儀をして水牢を解除。
 不意に噛まれた腕に目をやると、無理矢理に剥がそうとしたせいか、僅かに出血していることに気づく。

「あの、右腕を怪我してるようなので、もし良ければ治しますよ?」

「……ん? おぉ、本当だ、痛みが消えたから気づかんかった……ほれっ、治してくれるんだろ?」

 心無しか落ち着いてきた門兵Aは、右腕を目の前に差し出して俺からの治療を待つ。
 あの時のことは忘れられないが、それを引きずることなく右腕に向けて治癒魔法を唱える。

「ヒール!」

 鎧の上からでは分かりづらいが右腕は確実に治癒されており、それは門兵Aの緩みゆく表情を見れば一目瞭然であった。
 どうやら骨や神経にも異常は見られず、治す過程での不都合は無さそうだ。
 余程気持ち良いのか泥酔したかのように表情は緩み切っており、恐らくは「治癒中毒」によるものだと推察。

「だ、大丈夫ですか? もうすぐ終わりますから、寝ないでくださいね?」

 ヒールではなくハイヒールにしておけば良かったと反省しつつ、治癒が完了したのですぐにヒールを解除。

「……はっ!? ふ、ふん! 治すのが遅いんだよ! ……あっ!? も、もう俺は帰るからな!?」

 ヒール解除から10秒ほど経つと門兵Aは正気に戻り、一言文句を言うと急に慌て出して逃げるように走り去る。
 何か嫌な予感がした俺は「待った!」と声を上げるも無視されてしまう。
 すると、走っていたはずの門兵Aは突如叫び声を上げて地面を転げ回り出した。
 
「火がっ、火がいきなり足にぃぃぃーっ!?」

 足元で燻っていた炎はあっと言う間に全身へと燃え移り、火だるまとなった門兵Aは動きを止める。

「Aさん!? だっ、大丈夫ですか!?」

 その急な事態に驚きながらも門兵Aの元へ即座に向かい、間髪入れずに水魔法を。

「うぉ、ウォーター!」

 大量の水で一気に炎を消したあと、火傷に苦しむ門兵Aを再び治癒魔法で回復。

「メガヒール!」

 本当はハイヒールでも良かったのだが、先程の件もあるので敢えてメガヒールに変更。
 だがその甲斐あって、門兵Aは見る見る回復していき、火傷の跡を残さずに全快へと至る。だが……


「ま、まさか……この焦げ跡が……!?」

 そしてその時に気づく、再燃した原因が地面に付いた炎の焦げ跡であることを……
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