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第5話 走れ、キュロス

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「……はっ!? いっ、今っ、何時だ!?」

 俺は慌てて起き上がった。
 魔時計を見ると、冒険者ギルドからの指定時間まであと20分しかないことに気づく。

「マズい! これじゃあ、間に合わない!」

 自宅から冒険者ギルドまではどんなに急いでも40分は掛かる。
 今から全速力で走り抜けても絶対に間に合うことはない。
 だが、それでも俺は走った、走った、走った、がむしゃらに走り抜けた。


「あっ!?」

 その時、石に躓き転倒。
 懐からは何かが落ち、ソレに気を取られて顔から地面へダイヴしてしまう。

「痛っ! あっ、血だ……」

 どうやら鼻と右膝から出血してしまったようで、徐々に痛みが込み上げてくる。
 一応は冒険者なので怪我や出血は日常茶飯事ではあるが……

「うぅぅ…… もうダメだ……やっぱり俺は、無能で落ちこぼれなのか……?」

 うつ伏せのまま動けない。痛みからではなく、諦めたのである。
 そして弱音を吐き、その弱音を吐く俺の耳に、周囲から漏れ出す声が聞こえてくる。

『……ダサッ……何アレ……カッコわるっ……あれ、アイツって……あぁ、あの無能か……道理で……』

 周囲から漏れ出したのは、嘲笑う声や貶す声であった。
 今までにも幾度となく聞いてきたが、今が一番惨めな気持ちにさせられ、心に大きな傷を付けられて……痛い。


「もう嫌だ……なんで俺はこんなにダメなんだ……」

 自己嫌悪に陥り、そう嘆いていると、転倒時に落とした何かが目の前に映る。

「ーー」

「!? 今、何か聞こえてきた……!?」

 その何かから男性の声が聞こえた気がした。
 一度だけではあったが、何故か頭の中にスッと入り込んで忘れられない声のような……

(……触れろと言ってるのか?)

 そう言っていたように感じたので、その何かを左手で恐る恐る握る。
 すると瞬時に傷は癒えて、痛みは完全に消えた。

「痛く……ない……?」

 とても不思議な気分だ。
 怪我も完治し、今なら本当になんでもできる気がする!

「よしっ、もう一度だ!」

 右手で鼻血を拭き、もう一度だけ立ち上がろうと決心し、勢い良く立ち上がった。

「そうだ、時間は!?」

 急いで腕魔時計を見ると、残り時間はあと10分しかない様子。
 しかも冒険者ギルドまでの距離はまだまだ遠く、とても間に合うとは思えない。
 普通なら既に諦めていてもおかしくはない状況である。
 だが、それでも再び走り出した。

 今の俺に諦めという考えは持ち合わせてはいない。
 ただひたすらに冒険者ギルドへ向けて走り抜けるだけ。
 そんな想いを胸に秘めて街中を走り抜ける。すると……


「えっ!? えっ!?」

 あまりのスピードに戸惑う俺。まるで風になったかのようだ。
 すれ違う人達も目を点にして俺を見ている。

「一体、何故こんなチカラが……?」

 思わず呟いてしまったが、答えはもう出ている。勿論、この何かのチカラに決まっている。

「何かだと紛らわしいから……そうだ! ニカナと呼ぼう!」

 この何かは『ニカナ』と命名した。
 俺はニカナをギュッと握り締め、更にスピードを上げる。

「もっと、もっと速く!」

 絶対に、絶対に間に合わせてみせると言わんばかりのスピードで走り、そして駆け抜けていった……
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