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初めての夜
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初めてだというソウイチとの、初めての夜。
真山はいつも通り後ろの準備は済ませてあった。ソウイチもシャワーは済んでいたので、二人は真っ直ぐにベッドルームに向かった。
ソウイチは多少の知識はあるだろうが、初めてで勝手などわからないはずだ。ベッドでは真山が主導権を握ることになる。
普段なら相手に合わせることが多い真山は、いつもと違う空気感に言いようのない昂りを感じていた。抱かれる側の自分がイニシアチブを取れることに胸がざわめく。
ベッドルームは間接照明とベッドサイドの灯りが温かな金色で部屋を照らしていた。
しっとりと落ち着いた空気の中、逸る気持ちを抑えてソウイチをベッドに座らせると、真山はその前に膝をついて向き合う。俯きがちなソウイチは膝の上で指を絡め、忙しなく視線を彷徨わせていた。
そんな初心な仕草を見せられて、真山は心臓の鼓動が早まるのを感じた。
自分はあくまで抱かれる側だ。なのに、ソウイチの仕草は否応なしに真山を煽る。
「そーいちさん、キスは、する?」
暴れ出した鼓動を抑えつけて真山はソウイチの顔を覗き込んだ。
ソウイチは真山の様子を伺うように視線を合わせ、小さく頷いた。
「ん、嫌じゃなければ」
ソウイチの臆病な答えに、真山は笑みを返す。ソウイチの初々しい反応は、それだけで真山の心に火をつけていく。
不安げにゆらめく薄茶色の瞳に、真山の笑みが映っていた。
「じゃあ、しようか」
真山への返事の代わりに、ソウイチの瞼が伏せられる。
腹から湧き上がる静かな興奮を感じながら、真山はソウイチの頬に手を添え、厚みのある唇に薄い唇を重ねた。
ソウイチの唇は厚みがあってとろけるような柔らかさで、ずっと触れていたかった。甘噛みして、舐めて、啄んで、もっとその感触を堪能したくなった。
触れるだけのキスにも、ソウイチは身体を硬くしている。臆病な小動物のような反応が可愛くて、真山は頬を包む手を下へと滑らせる。
「ん」
真山の手の動きに驚いたのか、ソウイチは肩を跳ね上げ、鼻に抜けるような声を上げる。
真山は宥めるようにソウイチの肩を撫で、背中を撫で、腰を撫でていく。ソウイチが纏う上質な生地のスーツは滑らかな手触りだった。
撫でられて少し緊張が和らいだのか、ソウイチの身体から力が抜けた。
真山は今すぐ押し倒して深く食いつきたい衝動をなんとか抑えつけ、角度を変えながら触れるだけの口づけを続けた。
「ん、ぅ」
小さな呻き声が聞こえて、ソウイチの手が縋るように真山の腕を掴んだ。
何かあったのかと真山が唇を離して瞼を開けると、赤い顔をしたソウイチが目に入った。
「っは、まや、くん」
ソウイチは上がった息の合間にマヤの名を呼んだ。薄茶色の瞳は涙で濡れていて、それでようやく、真山はソウイチが腕を掴んだ理由を知った。
「あぁ、ごめん、そーいちさん。息、鼻でして」
「は、な?」
「そう。鼻で、息しながらしないと、苦しいでしょ」
ソウイチの顔から少しずつ赤みは引いていくが、目元と頬は赤みが差したままだった。
ソウイチはキスの時の呼吸のしかたも知らないようだった。緊張で忘れていただけかもしれないが、それにしても返ってくる反応がいちいち初々しい。真山にはそれがただただ愛しかった。
真山が赤くなった頬をあやすように手のひらで撫でてやると、ソウイチは濡れた瞳を揺らす。
「ん、そう、なのか」
ソウイチは眉を下げ申し訳なさそうに真山を見た。
「そうだよ。キスは初めて?」
「キスくらい……。こんなに長いのは、知らないだけだ」
ソウイチは拗ねた子どものように視線を逸らした。経験が少ないのをあまり聞かれたくないようで、それもまた真山の目には愛らしく映った。庇護欲をそそるようなところばかり見せられて、年上だということを忘れそうだった。
「ふふ、じゃあ、これでもう大丈夫だね」
真山がソウイチの頭を撫でると、物言いたげな目が再び真山を映す。
その目は言外にバカにするなと言っていた。
揶揄うつもりはなかったが、真山にはその饒舌な瞳がひどく愛おしく思えた。
真山はいつも通り後ろの準備は済ませてあった。ソウイチもシャワーは済んでいたので、二人は真っ直ぐにベッドルームに向かった。
ソウイチは多少の知識はあるだろうが、初めてで勝手などわからないはずだ。ベッドでは真山が主導権を握ることになる。
普段なら相手に合わせることが多い真山は、いつもと違う空気感に言いようのない昂りを感じていた。抱かれる側の自分がイニシアチブを取れることに胸がざわめく。
ベッドルームは間接照明とベッドサイドの灯りが温かな金色で部屋を照らしていた。
しっとりと落ち着いた空気の中、逸る気持ちを抑えてソウイチをベッドに座らせると、真山はその前に膝をついて向き合う。俯きがちなソウイチは膝の上で指を絡め、忙しなく視線を彷徨わせていた。
そんな初心な仕草を見せられて、真山は心臓の鼓動が早まるのを感じた。
自分はあくまで抱かれる側だ。なのに、ソウイチの仕草は否応なしに真山を煽る。
「そーいちさん、キスは、する?」
暴れ出した鼓動を抑えつけて真山はソウイチの顔を覗き込んだ。
ソウイチは真山の様子を伺うように視線を合わせ、小さく頷いた。
「ん、嫌じゃなければ」
ソウイチの臆病な答えに、真山は笑みを返す。ソウイチの初々しい反応は、それだけで真山の心に火をつけていく。
不安げにゆらめく薄茶色の瞳に、真山の笑みが映っていた。
「じゃあ、しようか」
真山への返事の代わりに、ソウイチの瞼が伏せられる。
腹から湧き上がる静かな興奮を感じながら、真山はソウイチの頬に手を添え、厚みのある唇に薄い唇を重ねた。
ソウイチの唇は厚みがあってとろけるような柔らかさで、ずっと触れていたかった。甘噛みして、舐めて、啄んで、もっとその感触を堪能したくなった。
触れるだけのキスにも、ソウイチは身体を硬くしている。臆病な小動物のような反応が可愛くて、真山は頬を包む手を下へと滑らせる。
「ん」
真山の手の動きに驚いたのか、ソウイチは肩を跳ね上げ、鼻に抜けるような声を上げる。
真山は宥めるようにソウイチの肩を撫で、背中を撫で、腰を撫でていく。ソウイチが纏う上質な生地のスーツは滑らかな手触りだった。
撫でられて少し緊張が和らいだのか、ソウイチの身体から力が抜けた。
真山は今すぐ押し倒して深く食いつきたい衝動をなんとか抑えつけ、角度を変えながら触れるだけの口づけを続けた。
「ん、ぅ」
小さな呻き声が聞こえて、ソウイチの手が縋るように真山の腕を掴んだ。
何かあったのかと真山が唇を離して瞼を開けると、赤い顔をしたソウイチが目に入った。
「っは、まや、くん」
ソウイチは上がった息の合間にマヤの名を呼んだ。薄茶色の瞳は涙で濡れていて、それでようやく、真山はソウイチが腕を掴んだ理由を知った。
「あぁ、ごめん、そーいちさん。息、鼻でして」
「は、な?」
「そう。鼻で、息しながらしないと、苦しいでしょ」
ソウイチの顔から少しずつ赤みは引いていくが、目元と頬は赤みが差したままだった。
ソウイチはキスの時の呼吸のしかたも知らないようだった。緊張で忘れていただけかもしれないが、それにしても返ってくる反応がいちいち初々しい。真山にはそれがただただ愛しかった。
真山が赤くなった頬をあやすように手のひらで撫でてやると、ソウイチは濡れた瞳を揺らす。
「ん、そう、なのか」
ソウイチは眉を下げ申し訳なさそうに真山を見た。
「そうだよ。キスは初めて?」
「キスくらい……。こんなに長いのは、知らないだけだ」
ソウイチは拗ねた子どものように視線を逸らした。経験が少ないのをあまり聞かれたくないようで、それもまた真山の目には愛らしく映った。庇護欲をそそるようなところばかり見せられて、年上だということを忘れそうだった。
「ふふ、じゃあ、これでもう大丈夫だね」
真山がソウイチの頭を撫でると、物言いたげな目が再び真山を映す。
その目は言外にバカにするなと言っていた。
揶揄うつもりはなかったが、真山にはその饒舌な瞳がひどく愛おしく思えた。
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