夜街迷宮

はち

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とろける琥珀と石油王

ルイのベッド*

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 着替えを渡され、アダムに案内されたのは、真っ白で綺麗な、映画に出てきそうなバスルームだった。
 白いタイルの床に、真っ白いバスタブには金の足がついている。

「バスタオルは置いてあるものを自由に使ってください。シャンプーもボディーソープも、あるものは自由にしてくれて構いません」

 脱衣所のバスケットには丁寧に畳まれたタオルが何枚も入っている。

「ありがとう」
「ごゆっくり」

 アダムは柔らかな笑みを残して部屋を出ていった。
 ユーシーは空いたバスケットに着替えを入れると、服を脱いだ。真っ白なバスルームは本当に映画の中のようで、ユーシーの疲れた心を癒してくれた。

 髪と身体を洗ってから、そっとバスタブに浸かる。
 ちょうどいい湯加減のお湯に浸かっていると、心も体も解れるようだった。

 飛行機は広い席だったが、すぐ隣にルイがいないので不安だった。ルイが取った席なので良い席なのだろう。寝心地も悪くなかったが、気持ちが昂っていたのか、緊張していたのか、あまり眠ることができなかった。
 毛布を一枚余計にもらって、アイマスクと耳栓も貰って、なんとか寝付くことができた。それでも眠りが浅くて何度も目が覚めたし、起きてからもずっと眠かった。時差ボケもあるかもしれない。

 そんなユーシーをルイはずっと気にかけてくれた。
 ルイの声を思い出して胸が甘く疼いた。ルイは何をしているのだろう。荷解きをしているのだろうか。
 ルイに会いたくなって膝を抱える。
 そんなユーシーの耳にドアをノックする音が届いた。

「ユーシー?」

 ルイの声だった。

「いるよ」
「入っていい?」
「いいよ」

 ドアから覗いたのは、見慣れたルイの姿だった。

「ふふ、お疲れ様。湯加減はどう?」
「ちょうどいいよ」
「僕も一緒に入っていい?」
「ん」

 ユーシーが頷く。はやく触れ合いたかった。
 ルイは手早く服を脱ぐと、髪と身体を洗ってバスタブにその身体を浸し、ユーシーを抱き込んだ。
 ルイと一緒にバスタブに浸かるのは新鮮だった。

「ずっと側にいるのに、触れられないから寂しかったんだ」

 ルイは思いを真っ直ぐに言葉に乗せるのが上手だ。ユーシーはそれを羨ましく思う。
 飛行機の中、ユーシーも同じことを考えていた。すぐそばに気配はあるのに、温もりに触れられないのが寂しかった。ルイも同じように思っていたとわかって安心したし、嬉しかった。

「俺も」

 背中でルイが笑った気配がした。

「今夜は一緒にいられるよ。今夜から、ずっとね」

 まだ少し信じられなかった。こうやって知らない街でルイと一緒にバスタブに浸かるなんて、少し前の自分には想像できなかった。

「上がったら、僕の部屋に行こう」
「ルイの部屋?」
「そう。僕の部屋。大きなベッドがあるんだ。そこで一緒に寝よう」

 今夜は一緒に眠れるのだと思うと嬉しかった。今日はきっと、よく眠れる。
 ユーシーはうっすらと赤みの差した頬を緩めた。



 寝間着に着替えて案内されたルイのベッドは、ユーシーの部屋のものよりひと回り大きかった。

「でかいベッド」
「僕と君のためのベッドだからね」

 ルイはなんだか誇らしげで、ユーシーは思わず笑った。
 ルイに抱えられ、そっとシーツの上に降ろされる。おそるおそる寝そべるユーシーの隣に、ルイが寄り添う。

「長旅お疲れ様」
「うん」

 ルイの手が、労うように頬を撫でてくれた。手のひらは温かくて、勝手に瞳が蕩けてしまう。
 香港から出るのは初めてだった。長い時間飛行機に乗るのも、知らない土地のベッドで眠るのも。
 昔味わったどこへ行くかもわからない旅とは、全くの別物だった。少しの寂しさと、溢れて止まらない期待がユーシーの胸を満たしていた。

「ゆっくり休んで」

 ルイの甘やかな声は、ユーシーの鼓動を優しく落ち着けていく。

「しねーの?」
「ユーシー、疲れてるだろう?」

 ユーシーは首を横に振る。こんなに近くにいるのだから、昨夜の分までもっとたくさん触れてほしかった。

「した方が、すぐ寝られる。触ってよ、ルイ」
「じゃあ、すこしだけ、ね」

 ユーシーのおねだりに気をよくしたのか、ルイはアイスブルーの瞳を揺らし、甘い微笑みを浮かべた。
 風呂上がりのルイの温かな手が、寝間着の中へ忍び込んでくる。
 触れられるだけで、ユーシーの薄い唇からは熱い吐息が漏れた。
 身体はすぐに熱くなって、たった一晩触れなかっただけなのにひどく懐かしいような気持ちになる。
 脈打つ心臓が溶け出しそうだ。

「ルイ」
「ん、ここにいるよ、ユーシー」
「さわって」

 ルイの手のひらは臍の下をくすぐるように撫で回す。触ってほしいのはそこではない。いつもなら、ルイは何も言わなくてもユーシーが欲しい快感を与えてくれるのに、今日は少し様子が違った。

「ふふ、触ってるよ、ユーシー。どこにほしいか教えてくれる?」

 ルイの言葉に、ユーシーは答えあぐねる。ルイが求めているのは、直截的な言葉だ。わかっているのに、恥ずかしくてユーシーは口を噤む。
 ルイとしていて、わざとそういったことを言わされるようなことは一度もなかった。散々身体を重ねてきたのに、ユーシーはそういう面ではまだ初心だった。

 今夜のルイは少し意地悪だと思う。なのに、それに応えたいと思ってしまう。
 からからに渇いた喉を唾液で潤して、ユーシーは口を開いた。

「っ、あ、俺の、ペニス、さわっ、て」

 あまり口にしないその言葉に、声が尻すぼみになってしまう。

 口に出してしまうと、それは甘い興奮に変わり、毒薬のように全身に回って、ユーシーは身体を震わせた。
 羞恥がユーシーの肌の温度を上げる。上気した頬は赤みを増して、琥珀色の瞳は溶け出しそうなくらい甘く蕩けた。

「ふふ、いい子だね、ユーシー」
「あ、ぅ」

 ルイの声でいい子と言われるのはくすぐったくて、だけど胸が温かくなる。

「意地悪してごめんね。かわいいよ、ユーシー」

 ルイはユーシーに甘やかな声を浴びせ、その手は優しくユーシーに触れた。意地悪をした自覚はあるようで、ルイは眉を下げて笑った。
 すっかり芯を持った性器がルイの手のひらに包まれる。
 待ち望んだ刺激に、ユーシーの腰が跳ねた。

「とろとろだね、気持ちいい?」

 ルイの大きな手は緩慢な動きでユーシーの昂りを擦った。
 それだけで、ユーシーの身体の芯を甘い痺れが貫いた。

「ふあ、気持ちいい、るい、きもちい」
「ユーシー、たくさん気持ちよくなって」

 待ち望んだ快感は、脳髄まで甘く溶かしていく。すっかり熱くなった身体の芯は震えて、ルイに与えられるものを喜び受け入れる。

「っあ、ぅ、るい、で、ちゃ」

 腰が勝手に揺れる。はしたないとわかっていても、堪えきれない。

「うん、出していいよ、ユーシー」
「ン、るい、っあ!」

 ルイの手の動きに合わせて腰を揺すり、ユーシーはルイの手の中で白濁を放った。

「るい、るい」

 ルイに縋り付き、声を震わせるユーシーは、腰を揺らして何度も白濁を吐き出す。

「上手に出せたね。いい子」

 ルイの甘やかな声に褒められるのが嬉しくて、ユーシーはその瞳を蜂蜜のように甘く溶かした。
 変わらず注がれるルイの愛情にユーシーはその身を委ねる。心地好い吐精の余韻に揺られながら、ユーシーは揺蕩う意識を手放した。
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