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09.ここのつめ

04.戦いの果てに(その4)

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ディオネとレアは、生命の泉の前に立つ巫女姿の女性に向かって走り出した。

アイスは、ディオネとレアが走り出すと同時に、ディオネ、レア、アイス、ラディの4人の後ろに立っていた黒いローブを纏った者達に向かって氷の壁を作り出した。

これで黒いローブを纏った者達は、戦いに参戦できない。

ほんの少しも時間稼ぎができる。アイスは、さらに次の攻撃に備えて冷気を溜め始めた。

ディオネとレアは、瞬時と言っても過言ではない時間で巫女姿の女性の前へと移動した。

ディオネは、神器"浸水の剣"を、レアは、神器"砂塵の剣"を振り抜いた。

だが、ふたりの剣は、巫女姿の女性の前で止まっていた。

剣が止まったというより、ディオネとレアの体が動かなかったのだ。

ディオネとレアは、力の限り剣を振り抜こうと試みたが、剣も体も微塵も動かなかった。

アイスは、生命の泉に向かって大量の冷気を放った。

アイスの冷気は、みるみる氷の波となって生命の泉へ襲い掛かった。

だが、氷の波が生命の泉の前まで来ると、何かの壁にでも遮られたかの様に氷の波は壁となって先に進む事ができなかった。

「結界!」

アイスが叫んだ。

「3人とも血気盛んですね。」

「そんな敵意をむき出しにしていては、次に何をしようとしているのか、分かってしまいます。」

ディオネとレアは、巫女姿の女性の前で、剣を振りかざす途中の体制のまま動けずにいた。

「先ほど、私に投げつけたのは、宝珠ですか。」

ディオネとレアは、剣を振りかざす途中の体勢のまま、後方へ大きく飛ばさ、アイスが作った氷壁へと体を叩きつけられた。

「どの世界でも、神は、選ばれし者達に宝珠を与え、それによって私達を封印せよと命じるのです。」

「でも、あの宝珠で私達は、封印された事など一度もないのですよ。」

「神々は、実績のない宝珠を与えて、いったい何を考えているのでしょうね。」

氷壁に背中を打ち付け、床に倒れ込んだディオネとレアは、剣を床に転がしたまま起き上がずにいた。

「生命の泉を氷付けにしようとしたのは、よい考えでした。」

「ですが、大切な生命の泉に結界も張らずに放置するほど、私は無能ではありません。」

生命の泉からは、七色の光のが闇龍の姿へと変化しながら、ステンドグラスを通り抜け、次々と外へと流れ出ていた。

「あなた方のお仲間さんが、街におられますね。」

「あの方達は、闇龍がお相手します。」

「そうね、1000体の闇龍がお相手すれば、最後の戦いに相応しい壮絶な場面となるでしょう。」

巫女姿の女性は、1000体の闇龍と榊達を戦わせると言った。

いくら叔父さんが多数の"神器"を従えているとは言っても、1000体の闇龍と戦って勝てる訳がない。

ディオネとレアは、目の前の生命の泉を早く破壊しなくてはと、動かない体に鞭を打ちながら必死に起き上がろう
とした。

「あら、まだ立てるのですか。そうですよね。私と同じ龍族なら体も丈夫ですよね。」

「ならば、もう少し痛い思いをさせて差し上げます。」

すると、ディオネの体が勝手に起き上がった。

ディオネが立ったのではない、巫女姿の女性が何かの力でディオネを立たせたのだ。

丁度、その時、厚い氷壁を破壊した黒いローブを纏った者達が一斉にディオネを取り囲んだ。

「さあ、あなた達。仲間の闇龍を倒したその子供を倒して見せなさい。」

「その子供を殺した者には、素晴らしい褒美を差し上げます。」

巫女姿の女性の声が黒いローブを纏った者達に届くと、黒いローブを纏った者達は一斉に剣を抜いた。

黒いローブを纏った者達は、ディオネに向かって囲みの輪を小さくしていった。

「姉さん!」

床に倒れたままのレアが叫ぶ。

「ディオネさん!」

アイスは、ディオネを取り囲む黒いローブを纏った者達に向かって冷気を吹きかけた。

しかし、先ほどの生命の泉と同じだった。

冷気によって作り出された氷の波は、黒いローブを纏った者達の手前で氷の壁となって先に進む事ができなくなっていた。

「そうね、このまま剣で串刺しにされるのも、余興としては少しつまらないわね。」

巫女姿の女性がそう言うと、ディオネの体が軽くなり、先ほどまであった体の痛みが全てなくなっていた。

ディオネは、立つ事はできた。

だが、神器"浸水の剣"は、床に転がったままだった。

アイテムバックの中には、他にも剣はある。

だが、他の剣でもこれだけの黒いローブを纏った者達に囲まれては、せいぜい3人を仕留めるのが精々だ。

その後は、自身も相手の剣の餌食となって終わると一瞬で想像できた。

何かないか。

ディオネは考えた。

遠くで、いくつもの爆発音がしていた。

闇龍達がおじさんを襲っているのだろう。

おそらく襲って来る大量の闇龍達を、隕石で攻撃しているに違いない。

だが、1000体の闇龍を相手にしては、そう長くは持たない。

ディオネは、"叔父さん"と呼んでいる榊の事を考えていた。

私が、負けたらみんな死んでしまう。思わず言葉が出てしまった。

「叔父さん…、私もピンチなの。助け…。」

ディオネは、ふとある事を思い出した。

「…そういえば、叔父さんが"とっておきの剣"を貸してくれたわね。」

榊は、この戦いの前にディオネにある剣を渡していた。

「ディオネ、お前がピンチに陥ったらこの剣を使え。」

「ただし、使えるのは、1回に10秒までだ。それ以上は、この剣を使うな。」

「それだけは、絶対に守れ。」

ディオネは、アイテムバックから叔父さんに渡された剣を取り出した。

そして力いっぱい剣の名前を叫んだ。

「雷光の剣!」

すると、ディオネが握った"雷光の剣"から多数の雷撃が放たれた。

ディオネを取り囲み、もうすぐ剣を振り抜く寸前だった黒いローブを纏った者達は、雷光の剣が放った雷撃に体を
貫かれて次々と黒いローブだけを残して、体を消滅させていった。

ディオネを取り囲んでいた黒いローブを纏った者達は、あっという間に消滅していった。

しかし、雷光の剣は、雷撃を止めなかった。

そう、雷光の剣は、剣を持つ者の意思など関係ないのだ。

ただ、雷撃による破壊を行うだけ。

雷光の剣の雷撃は、生命の泉の前に立つ、巫女姿の女性に襲い掛かった。

だが、生命の泉は、結界で守られている。

ディオネは、いくら雷光の剣でもあの結界は破れないと思った。

しかしだ。

雷光の剣が放った雷撃は、巫女姿の女性を貫いていた。

いや、辛うじて巫女姿の女性は、雷撃を防いでいた。

だが、雷光の剣が放った雷撃はすさまじく、巫女姿の女性の体からは、煙と炎が吹きあがっていた。

その時、雷光の剣の雷撃が突然止まった。

雷光の剣を握っていたディオネが、雷光の剣を手放すと床に倒れたのだ。

雷光の剣は、剣を持った者の生命エネルギーを糧として雷撃を放つ神器だった。

雷光の剣を10秒以上連続で使うと、生命エネルギーを吸い尽くされて死ぬ危険があるのだ。

だから榊は"10秒以上は使うな"と警告したのだ。

巫女姿の女性は、体から炎と煙を噴き出しながらなんとか、生きていた。

巫女姿の女性の体からは、炎と煙が消え、徐々に元の姿へと戻っていた。

回復の魔術では、あの状態から元に姿に戻す事などできない。

巫女姿の女性は、恐らく生命の泉から生命エネルギーを得ているのだろう。

「まさか、こんな剣を持っているとは…、これは、遊んでなどいられません。」

巫女がそうつぶやいた途端、また、雷光の剣の雷撃が、巫女姿の女性を襲い始めた。

やっと体が動くようになったレアが、ディオネが手放して床に転がった雷光の剣を手に取り、巫女姿の女性に向かって雷光の剣の雷撃を放ったのだ。

だが、雷光の剣の雷撃は直に止まった。

巫女姿の女性は、体から炎と煙を噴き出しながらも、なんとか生きながらえていた。

レアは、既に床に倒れており、雷光の剣も床に転がっていた。

巫女姿の女性は、床に膝を付いていた。

雷光の剣の攻撃により、かなりのダメージが蓄積されているようだった。

「…さ、さすがに応えます。3度は耐えきれま…。」

巫女がそうつぶやいた途端、また、雷光の剣の雷撃が、巫女姿の女性を襲い始めた。

今度は、アイスが雷光の剣を握っていた。

だが、アイスも直に雷の剣を手放すと床に倒れていった。

巫女姿の女性は、体から炎と煙を噴き出しながら床へと倒れた。

だが、巫女姿の女性は、まだ生きていた。

雷光の剣による雷撃を3度も受けて、まだ生きているなど、いったいどんな防御と回復の魔術をつかているのか。

雷光の剣に生命エネルギーを吸い取られたディオネもレアも、もう動けなかった。

「…。はあ。はあ。」

もう、巫女姿の女性は、言葉を発しなくなっていたが、少しずつだが回復しているのが、ディオネとレアの目にも映っていた。

だが、ディオネ、レア、アイスも立つ事も剣を握る事もできなかった。



床で倒れているディオネは、何か違和感を覚えていた。

私が雷光の剣で攻撃を行った。

レアも雷光の剣で攻撃を行った。

アイスも雷光の剣で攻撃を行った。

もうひとりいたは…。

「はっ、ラディ。ラディ。」

ディオネは、あらん限りの力でラディの名前を呼んだ。

すると、ラディは、生命の泉の淵で、生命の泉の七色の水を眺めていたのだ。

アイスが、生命の泉を凍らせようと冷気を送ったが、生命の泉には結界がはられていて届かなかった。

だが、なぜかラディは、生命の泉に淵で七色の水に手を入れて健気に遊んでいた。

そう、なぜかラディには、生命の泉に張られた結界を素通りする事ができたのだ。
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