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08.やっつめ
12.勇者評議会(その1)
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この世界には、15人の勇者が存在した。
勇者は、身を寄せる国の思惑に翻弄され、国家間の争い事にかりだされ勇者同士が戦うという悲劇を度々も繰り返した。
ある時、ひとりの勇者が勇者同士の戦いを回避するため、年に1回、勇者が集まり話合いを行う場を設けようと呼びかけた。
それは、いつしか勇者評議会と呼ばれるよになった。
勇者評議会が機能していくばくかの年月が過ぎた頃、女神様から勇者達にご神託が下った。
「この世界に災いをもたらす邪神があらわれます。勇者達よ、世界を滅ぼす邪神から各国を救って欲しい。」
勇者に下ったご神託は、多少の違いがあれど概ねこの様な内容であった。
ここで、気を付けなければならないのは、"世界を滅ぼす邪神から各国を救って欲しい"という部分だ。
女神様は、邪神を亡ぼせとは"ひとこと"も言っていない。
しかし、ご神託を賜った勇者達は、自らが邪神を滅ぼし世界を平和に導く勇者だと"勘違い"した。
そして各国に龍が現れると、自国の防衛と邪神討伐へと向かう勇者とそのチームが続々と邪神が住む都へと向かって数週間の時が流れた。
世界中の都市で邪神が放った龍による災害が多数発生した。
邪神が放った龍は強力で、多くの勇者が苦戦を強いられた。
勇者といえども能力に個人差があり、勇者としての力に優劣があった。
強い勇者は、龍を2体、3体と次々と倒していったが、力の弱い勇者は、1体の龍を倒すのにも苦労と犠牲を強いられた。
勇者によっては、勇者同士、あるいは王国の軍隊と、あるいは冒険者達と共闘して龍を撃退した。
ある勇者は、災いの根本を立つと言って邪神が住まう都へ向かった。
だが、世界に災いをもたらした龍が消える事もなく、勇者が邪神を倒したという話も伝わってはこなかった。
各国の都市を襲う龍は、更なる災害を振りまいていた。
残った勇者達は、この期に及んで勇者評議会を招集した。
既に戦いは終盤へと差しかかり、いまさら戦力を集中したところで勝ち目など無いのは誰の目にもあきらかだった。
「各国の勇者達よ。自国の防衛に奔走しているこの時期に呼び立ててすまない。」
「既に、世界中の都市が邪神が放った龍によっていくつも壊滅した。」
「我々も国の防衛に積極的に関わり、龍を討伐してはいるが、龍の数が多すぎて対処しきれなくなっている。」
「そこで提案なんだが、各国に分散している勇者の力を結集して邪神を討伐してはどうかと思う。」
勇者評議会で議長を務めるメリカルビア王国の勇者サッラが、いつもの口調で"提案"という名の"ごり押し"を始めた。
この勇者評議会で議長を務めるメリカルビア王国の勇者サッラは、勇者としての能力も力もずば抜けていた。
勇者サッラもその事は十分理解しており、毎回この勇者サッラが出す提案は、殆ど反対などなく前回一致で可決されていた。
だが、今回の勇者評議会には2つほど以前と違う事があった。
ひとつは、出席する勇者が殆どいなかったことだ。
「しかし、今日の勇者評議会は、勇者の数が随分と少ないな。」
「龍討伐中の者もいる事は分かってはいるいが。これではこの世界の行く末を決めるにも支障をきたす。」
メリカルビア王国の勇者サッラは、勇者評議会に欠席した者達への苦言を呈したが、出席した者達への当てつけの様にも聞こえた。
「勇者サッラ、現在の各国の勇者達の状況をお伝えします。」
勇者評議会の部屋の中央のテーブルから少し離れた席に座る女性が椅子から立ち上がると、メモなど見ずに各国の勇者の状況を伝え始めた。
「4人の勇者は、邪神が放った龍との戦いにより命を落としました。」
「2人の勇者は、邪神討伐のため邪神の住む都へと向かいましたが行方不明となっっております。恐らく死んだものと推察いたします。」
「3人の勇者は、龍との戦いの最中のため、この会議に出席できないとの連絡がありました。」
「1人の勇者は、自身のチームを率いて邪神の都に偵察に向かっています。」
「現在、この勇者評議会に出席している勇者は、テーブルを囲む5人のみとなります。」
女性は、各国の勇者の状況を伝え終わると、自分の椅子えと静かに座り直した。
「そうか、15人もいた勇者が、たった5人か。」
「我々5人と戦闘中の3人、それに邪神の都に向かった1人、合わせて9人か。邪神と戦うには少ないな。」
メリカルビア王国の勇者サッラは、渋い顔を隠さず、勇者評議会に出席した他の4人の勇者の顔を覗き込んだ。
「ええ、おそらく邪神が住む都には、さらに多くの龍がいるでしょう。我々がもし、邪神討伐に向かった場合まずはその龍達を戦う事になりますが、9人では荷が重すぎる。」
ルース王国の勇者ビーゴが、メリカルビア王国の勇者サッラの邪神討伐の提案には無理があると暗に促した。
「だがな、このまま各国に現れた龍達と戦っていては、いつまでたってもらちが明かない。それは、皆も分かっていると思う。」
「ここは、多少の犠牲には目をつぶってでも災いの元を立つのが得策だと思うが。」
メリカルビア王国の勇者サッラの発言にどの勇者も反論はしなかった。しかし、このい人数であれだけの龍と対峙するなど自殺行為だと誰もが確信していた。
しかし勇者である以上、それを言い出す者はひとりもいなかった。
「…えっ、はい。分かりました。」
「今、連絡が入りました。モスケネス王国の勇者クリカ様が先ほど龍との戦いで亡くなられたそうです。」
先ほど、5人の勇者達が囲むテーブルから少し離れた席に座る女性が席に座ったまま、勇者の死亡をはっきりと伝えた。
女性は、各国の勇者やそのチームの者達と念話で情報共有を行っていた。
だから女性の元には、各国の戦況が刻々と伝わっていた。
「…これで8人か。」
「これ以上勇者が減ってしまえば邪神討伐など夢のまた…。」
メリカルビア王国の勇者サッラがそう言い放とうとした時、勇者評議会が行われている一室の扉が勢いよく開け放たれた。
「勇者評議会の命によりアルタランド王国の王都へ偵察に向かった勇者ブレイドとそのチームは全滅しました。」
「…残ったのは、私ひとりです。」
開け放たれた扉の前に立っていた者は、勇者ブレイドと邪神が住むアルタランド王国の王都からただひとり戻る事ができた魔術師フィデッサだった。
会議中の部屋へと入ってきた女性の複数は汚れたままだったが、龍との戦いの最中の者もいるため、誰もその事に文句を言う者などいなかった。
魔術師フィデッサは、5人の勇者が囲むテーブルの中央に小さな水晶を置くと、それ以降は何も言わず、涙も見せずに部屋を後にした。
「この世界に残る勇者は7人です。」
5人の勇者達が囲むテーブルから少し離れた席に座る女性が席に座ったまま、残った勇者の数を伝えた。
「これでは、数がどんどん減って行くだけだ。一刻も早く邪神を討伐する必要がある。悪いがここに出席している5人で決議をしたい。
メリカルビア王国の勇者サッラは、直ぐにでも自身の出した提案の決議を求めた。
すると、ルース王国の勇者ビーゴが今になって別の話を持ち出した。
「確認なんだが、あそこに座っている連中は誰だ。」
勇者評議会の一室の角に並べられた椅子には、中年の男性がひとり、その隣りには若い女性がひとり、その隣りには男の子と女の子が、何も言わずに座って会議の行く末を見守っていた。
「どこの勇者チームに所属しているメンバだ。」
「中年オヤジと子供が2人と女性がひとり、どう見ても勇者チームのメンバには見えんが…。」
ルース王国の勇者ビーゴは、メリカルビア王国の勇者サッラが出した提案の決議自体を行いたくなかった。
それは、とても単純な理由からだった。皆、死にたくないのだ。
するとテーブルを囲む勇者のひとりが手を上げて言った。
「すまない、俺が呼んだ。」
「彼には龍の討伐の助力を得たのだ。私と私のチームでは、あの龍にはとうてい勝てない。」
「だが、彼の助けにより龍を討伐できたのだ。」
セイランド王国の勇者マルティスは、自身の力では勝てなかった龍討伐を、この者の助力を得てようやく
成し遂げたのだ。
だから、その事について一切隠す事などせず、恥を承知で勇者達の前で言ったのだ。
「ひとつ聞いていいか。彼は、新しい勇者なのか。」
ルース王国の勇者ビーゴは、分かっている事をあえて問いただした。新しい勇者が誕生したのであれば、多かれ
少なかれ、どこからか情報は伝わってくるのだ。だが、ここ最近、そんな話など聞いた事はなかった。
「彼は勇者ではない。」
「まってくれ。この勇者評議会には、勇者並びに勇者チームのメンバ以外の参加は認めていないはずだ。」
「なぜ、部外者を入れた。」
「すまない。しかし、彼の実力がればそんな事はどうでもいいことだ。」
「すると何か。あの中年オヤジが勇者であるお前よりも強いと言っているのか。」
「そうだな、ある意味そうかもな。」
「あの中年オヤジの名前を聞いてもいいか。」
ルース王国の勇者ビーゴは、部外者がこの場にいる事に対して異様に噛みついた。
それは、単にメリカルビア王国の勇者サッラの議決に参加したくないという思惑以外の何物でもなかった。
「私の名前ですか、私は"榊"と言います。ココという街で商売をやっております。」
「ははは。商売人が龍を討伐できたのか。それは面白い。では、榊殿に龍討伐の発注書でも出すとする…。」
「いや"榊"。どこかで聞いた事のある名前だな。」
ルース王国の勇者ビーゴはしばし考え込んだ。
「そうか、数十年前にセイランド王国の城塞都市バーラを襲った40万の魔族を壊滅させたのはあんたか。」
「だがそれは昔の話だろう。今更"おいぼれ"が勇者気取りで何しに来たのだ。」
-----------------------------------------
《近況》
相変わらず体調は悪いままです。
今日、歯科で奥歯を2本抜きました。
時間がかかるかと思いましたが、麻酔をしてちょいちょいと処理をして終わりです。
もう殆ど神経もダメになっていて簡単に取れたそうです。
以前、歯科の先生から、食事中とか就寝中に歯が抜けて誤飲する事があると伺っていましたが、歯科の治療まで持ってくれました。
年を取ると体がボロボロになっていろいろ厄介です。
抜かれた奥歯を見て、両手をあわせました。「長年、ありがとうございました」と。
純粋どくだみ茶。
勇者は、身を寄せる国の思惑に翻弄され、国家間の争い事にかりだされ勇者同士が戦うという悲劇を度々も繰り返した。
ある時、ひとりの勇者が勇者同士の戦いを回避するため、年に1回、勇者が集まり話合いを行う場を設けようと呼びかけた。
それは、いつしか勇者評議会と呼ばれるよになった。
勇者評議会が機能していくばくかの年月が過ぎた頃、女神様から勇者達にご神託が下った。
「この世界に災いをもたらす邪神があらわれます。勇者達よ、世界を滅ぼす邪神から各国を救って欲しい。」
勇者に下ったご神託は、多少の違いがあれど概ねこの様な内容であった。
ここで、気を付けなければならないのは、"世界を滅ぼす邪神から各国を救って欲しい"という部分だ。
女神様は、邪神を亡ぼせとは"ひとこと"も言っていない。
しかし、ご神託を賜った勇者達は、自らが邪神を滅ぼし世界を平和に導く勇者だと"勘違い"した。
そして各国に龍が現れると、自国の防衛と邪神討伐へと向かう勇者とそのチームが続々と邪神が住む都へと向かって数週間の時が流れた。
世界中の都市で邪神が放った龍による災害が多数発生した。
邪神が放った龍は強力で、多くの勇者が苦戦を強いられた。
勇者といえども能力に個人差があり、勇者としての力に優劣があった。
強い勇者は、龍を2体、3体と次々と倒していったが、力の弱い勇者は、1体の龍を倒すのにも苦労と犠牲を強いられた。
勇者によっては、勇者同士、あるいは王国の軍隊と、あるいは冒険者達と共闘して龍を撃退した。
ある勇者は、災いの根本を立つと言って邪神が住まう都へ向かった。
だが、世界に災いをもたらした龍が消える事もなく、勇者が邪神を倒したという話も伝わってはこなかった。
各国の都市を襲う龍は、更なる災害を振りまいていた。
残った勇者達は、この期に及んで勇者評議会を招集した。
既に戦いは終盤へと差しかかり、いまさら戦力を集中したところで勝ち目など無いのは誰の目にもあきらかだった。
「各国の勇者達よ。自国の防衛に奔走しているこの時期に呼び立ててすまない。」
「既に、世界中の都市が邪神が放った龍によっていくつも壊滅した。」
「我々も国の防衛に積極的に関わり、龍を討伐してはいるが、龍の数が多すぎて対処しきれなくなっている。」
「そこで提案なんだが、各国に分散している勇者の力を結集して邪神を討伐してはどうかと思う。」
勇者評議会で議長を務めるメリカルビア王国の勇者サッラが、いつもの口調で"提案"という名の"ごり押し"を始めた。
この勇者評議会で議長を務めるメリカルビア王国の勇者サッラは、勇者としての能力も力もずば抜けていた。
勇者サッラもその事は十分理解しており、毎回この勇者サッラが出す提案は、殆ど反対などなく前回一致で可決されていた。
だが、今回の勇者評議会には2つほど以前と違う事があった。
ひとつは、出席する勇者が殆どいなかったことだ。
「しかし、今日の勇者評議会は、勇者の数が随分と少ないな。」
「龍討伐中の者もいる事は分かってはいるいが。これではこの世界の行く末を決めるにも支障をきたす。」
メリカルビア王国の勇者サッラは、勇者評議会に欠席した者達への苦言を呈したが、出席した者達への当てつけの様にも聞こえた。
「勇者サッラ、現在の各国の勇者達の状況をお伝えします。」
勇者評議会の部屋の中央のテーブルから少し離れた席に座る女性が椅子から立ち上がると、メモなど見ずに各国の勇者の状況を伝え始めた。
「4人の勇者は、邪神が放った龍との戦いにより命を落としました。」
「2人の勇者は、邪神討伐のため邪神の住む都へと向かいましたが行方不明となっっております。恐らく死んだものと推察いたします。」
「3人の勇者は、龍との戦いの最中のため、この会議に出席できないとの連絡がありました。」
「1人の勇者は、自身のチームを率いて邪神の都に偵察に向かっています。」
「現在、この勇者評議会に出席している勇者は、テーブルを囲む5人のみとなります。」
女性は、各国の勇者の状況を伝え終わると、自分の椅子えと静かに座り直した。
「そうか、15人もいた勇者が、たった5人か。」
「我々5人と戦闘中の3人、それに邪神の都に向かった1人、合わせて9人か。邪神と戦うには少ないな。」
メリカルビア王国の勇者サッラは、渋い顔を隠さず、勇者評議会に出席した他の4人の勇者の顔を覗き込んだ。
「ええ、おそらく邪神が住む都には、さらに多くの龍がいるでしょう。我々がもし、邪神討伐に向かった場合まずはその龍達を戦う事になりますが、9人では荷が重すぎる。」
ルース王国の勇者ビーゴが、メリカルビア王国の勇者サッラの邪神討伐の提案には無理があると暗に促した。
「だがな、このまま各国に現れた龍達と戦っていては、いつまでたってもらちが明かない。それは、皆も分かっていると思う。」
「ここは、多少の犠牲には目をつぶってでも災いの元を立つのが得策だと思うが。」
メリカルビア王国の勇者サッラの発言にどの勇者も反論はしなかった。しかし、このい人数であれだけの龍と対峙するなど自殺行為だと誰もが確信していた。
しかし勇者である以上、それを言い出す者はひとりもいなかった。
「…えっ、はい。分かりました。」
「今、連絡が入りました。モスケネス王国の勇者クリカ様が先ほど龍との戦いで亡くなられたそうです。」
先ほど、5人の勇者達が囲むテーブルから少し離れた席に座る女性が席に座ったまま、勇者の死亡をはっきりと伝えた。
女性は、各国の勇者やそのチームの者達と念話で情報共有を行っていた。
だから女性の元には、各国の戦況が刻々と伝わっていた。
「…これで8人か。」
「これ以上勇者が減ってしまえば邪神討伐など夢のまた…。」
メリカルビア王国の勇者サッラがそう言い放とうとした時、勇者評議会が行われている一室の扉が勢いよく開け放たれた。
「勇者評議会の命によりアルタランド王国の王都へ偵察に向かった勇者ブレイドとそのチームは全滅しました。」
「…残ったのは、私ひとりです。」
開け放たれた扉の前に立っていた者は、勇者ブレイドと邪神が住むアルタランド王国の王都からただひとり戻る事ができた魔術師フィデッサだった。
会議中の部屋へと入ってきた女性の複数は汚れたままだったが、龍との戦いの最中の者もいるため、誰もその事に文句を言う者などいなかった。
魔術師フィデッサは、5人の勇者が囲むテーブルの中央に小さな水晶を置くと、それ以降は何も言わず、涙も見せずに部屋を後にした。
「この世界に残る勇者は7人です。」
5人の勇者達が囲むテーブルから少し離れた席に座る女性が席に座ったまま、残った勇者の数を伝えた。
「これでは、数がどんどん減って行くだけだ。一刻も早く邪神を討伐する必要がある。悪いがここに出席している5人で決議をしたい。
メリカルビア王国の勇者サッラは、直ぐにでも自身の出した提案の決議を求めた。
すると、ルース王国の勇者ビーゴが今になって別の話を持ち出した。
「確認なんだが、あそこに座っている連中は誰だ。」
勇者評議会の一室の角に並べられた椅子には、中年の男性がひとり、その隣りには若い女性がひとり、その隣りには男の子と女の子が、何も言わずに座って会議の行く末を見守っていた。
「どこの勇者チームに所属しているメンバだ。」
「中年オヤジと子供が2人と女性がひとり、どう見ても勇者チームのメンバには見えんが…。」
ルース王国の勇者ビーゴは、メリカルビア王国の勇者サッラが出した提案の決議自体を行いたくなかった。
それは、とても単純な理由からだった。皆、死にたくないのだ。
するとテーブルを囲む勇者のひとりが手を上げて言った。
「すまない、俺が呼んだ。」
「彼には龍の討伐の助力を得たのだ。私と私のチームでは、あの龍にはとうてい勝てない。」
「だが、彼の助けにより龍を討伐できたのだ。」
セイランド王国の勇者マルティスは、自身の力では勝てなかった龍討伐を、この者の助力を得てようやく
成し遂げたのだ。
だから、その事について一切隠す事などせず、恥を承知で勇者達の前で言ったのだ。
「ひとつ聞いていいか。彼は、新しい勇者なのか。」
ルース王国の勇者ビーゴは、分かっている事をあえて問いただした。新しい勇者が誕生したのであれば、多かれ
少なかれ、どこからか情報は伝わってくるのだ。だが、ここ最近、そんな話など聞いた事はなかった。
「彼は勇者ではない。」
「まってくれ。この勇者評議会には、勇者並びに勇者チームのメンバ以外の参加は認めていないはずだ。」
「なぜ、部外者を入れた。」
「すまない。しかし、彼の実力がればそんな事はどうでもいいことだ。」
「すると何か。あの中年オヤジが勇者であるお前よりも強いと言っているのか。」
「そうだな、ある意味そうかもな。」
「あの中年オヤジの名前を聞いてもいいか。」
ルース王国の勇者ビーゴは、部外者がこの場にいる事に対して異様に噛みついた。
それは、単にメリカルビア王国の勇者サッラの議決に参加したくないという思惑以外の何物でもなかった。
「私の名前ですか、私は"榊"と言います。ココという街で商売をやっております。」
「ははは。商売人が龍を討伐できたのか。それは面白い。では、榊殿に龍討伐の発注書でも出すとする…。」
「いや"榊"。どこかで聞いた事のある名前だな。」
ルース王国の勇者ビーゴはしばし考え込んだ。
「そうか、数十年前にセイランド王国の城塞都市バーラを襲った40万の魔族を壊滅させたのはあんたか。」
「だがそれは昔の話だろう。今更"おいぼれ"が勇者気取りで何しに来たのだ。」
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《近況》
相変わらず体調は悪いままです。
今日、歯科で奥歯を2本抜きました。
時間がかかるかと思いましたが、麻酔をしてちょいちょいと処理をして終わりです。
もう殆ど神経もダメになっていて簡単に取れたそうです。
以前、歯科の先生から、食事中とか就寝中に歯が抜けて誤飲する事があると伺っていましたが、歯科の治療まで持ってくれました。
年を取ると体がボロボロになっていろいろ厄介です。
抜かれた奥歯を見て、両手をあわせました。「長年、ありがとうございました」と。
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