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08.やっつめ
02.火龍神殿を襲うもの達(その2)
しおりを挟む「ベティ様、我々はこの神殿に向かって来る何かを迎え撃てばよろしいですかな。」
火龍神殿には、白い神官服を着た神官と、赤く染められた神官服を着た者がいた。
赤く染められた神官服を着た者達は、この火龍神殿が外部から攻撃された場合に対処する者達であった。
立場的には、神殿騎士と思ってさしつかえない。
火龍神殿には、赤い神官服を着た者が6名いた。
赤い神官服を着た者達は、元Sランクの冒険者で構成されていた。
その中にディオネやレアも含まれていたので外出中のディオネやレアを外すと、火龍神殿には4人の神殿騎士が防衛の主軸となっていた。
「悪いがの、今回の件に関しては、おぬしらは神殿の守りに徹して欲しいのじゃ。」
「そっ、それは、どういう事ですか。」
「そうです。我ら、このような事態に対応すべく日々鍛錬に明け暮れています。」
「いくらディオネ様やレア様が不在とはいえ、我らはそこまで弱くはない。」
「そうです。それを守りに徹しろとは。」
火龍神殿の防衛を任されている4人は、ベティの言葉が信じられずに思わず反論合戦を始めてしまった。
「まあ、まて。ときにお主らは、わしと闘って勝てるか。」
ベティの発したその言葉に4人は、思わず言葉を飲み込んだ。
4人の中でベティを模擬戦を行って勝った者などいなかった。
さらに、4人がかりでベティとの模擬戦を行った事もあった。だが、4人がかりでも勝つ事はできなかったのだ。
「悪いが、ここに向かっておるのは龍じゃ、それも3体じゃ。どうじゃ勝てるか。」
「そうじゃな、1体の強さはわしのより少し弱いくらいじゃ。それが3体じゃ」
「勝てると言うならわしもお主らを止めぬ。思う存分戦って見せよ。」
ベティの言葉は重かった。誰も言葉を発しなかった。
「お主らが強いのは知っておる。じゃがな、相手の強さが桁違いじゃ。それを見誤ってはいかんのじゃ。」
「今、使いの者に"榊"殿を呼びに行っておる。」
「お主らは、"榊"殿が弱い事は知っておるじゃろう。"榊"殿は、剣を振ったらそこいらの兵士より弱い。」
「だが"榊"殿に付き従っておるあの者達の事は知っておるな。」
ベティの真剣な眼差しと、話の内容のギャップに皆、額から冷や汗を流していた。
「はい、我ら誰ひとりもあの者達に勝った者はおりません。」
「それでよいのじゃ、あの者達は、人の姿をしてはいるが人ではないからな。」
「この神殿に向かっておる龍の相手は、"榊"殿にお願いする。」
「わしは、それまで龍を引き付けて時間稼ぎをする。その間に"榊"殿に龍をどうにかしてもらうつもりじゃ。」
「とにかくじゃ、お前達は、この神殿に来ておる者達を守るのじゃ。それが最優先じゃ。」
皆は、納得はしていなかった。だが、誰よりも強いと言われてしまっては、反論の余地などなかった。
「はい。ご指示の通りに。」
まもなく、神官や警備担当者の誘導により、火龍神殿の参道の脇に設けられたいくつもの避難豪に信徒や観光客が誘導された。
参道脇の山肌の数か所に扉があり、そこから山の中へと避難豪がいくつも掘られており、それらは小さくない通路で繋がっていた。
1000人を超える避難民を収容できるように作られた避難豪は、坑道を通って麓の街へと下る事もできた。
避難豪に収容された信徒達は、神官や警備担当者の指示により、騒ぐこともなく騒動が終わるのを静かに待った。
ここは、火龍神殿なのだ。主は火龍。皆、火龍を頼ってこの神殿に訪れていた。だから火龍の力を信頼しない者など皆無だった。
参道脇の飲食店や宿屋は、扉を閉め窓を閉め、従業員達も全て非難豪へと非難していった。
火龍神殿は、火龍が主という特殊な神殿のため、いつ戦いの場になるとも限らないため、いつでも避難ができるようにと訓練と備えを日々行っていたのだ。
火龍神殿の麓の街に緊急連絡が届くと、街に来てきた信徒や観光客は、地下豪へと誘導され、街を囲う様に作られた城壁には兵士が立ち並び、緊急事態への備えを始めた。
火龍神殿も、参道も、参道脇の店も宿屋も、麓の街も、全ての場所から人々の気配が消えた。
この世界は、平和ではない。平和な世界だと勘違いをして備えを怠るのは愚かである。
この世界は、平和ではないのだ。だから備えを怠らず、訓練を怠らず、日頃の心の在り方を常に整えておく事が大切なのだ。
平和な世界では、備えなど必要ないと声を上げる者がいる。ところが災害が起こるとそういった者ほど、備えがない事を大声で非難するのだ。平和な世界など、どこにも存在しないのだ。
誰もいなくなった火龍神殿前の広場にベティがひとり立っていた。
ベティは、空を見上げるとベティの体の周りに白い風の様なものを纏わりつかせた。
白い風の様なものは、どんどん大きくなるとすっと消えていった。
白い風が消えた後には、赤く巨大な火龍が鎮座していた。
火龍は、大きな翼を広げると数回羽ばたいた後、一気に空へと上っていった。そして雲の中へと消えていった。
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