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06.むっつめ

07.絶望の勇者達(その1)

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ディオネとレア、アイスとラディが黒いローブを纏った者達の追跡を受けていた頃、別の場所でも同じ様な光景が繰り広げられていた。



ハムクリフト国の勇者モーリスのチームは、黒いローブを纏った者達が、あちこちの村を襲撃しては、村人達を誘拐する事件を追っていた。

「勇者モーリス、やつらの目的が分かりません。」

「こちらを攻撃してくるかと思えば撤退し、こちらが撤退しようとすれば攻撃してきます。」

「結局、やつらとのいたちごっこの末に、こんな場所まで来てしまいました。」

「通称、死の谷。古戦場跡でスケルトン軍団がいると言われる場所です。」

魔術師クリムが、勇者モーリスの耳元へ囁いた。
勇者モーリスのチームにおいて、勇者の片腕とも言える存在が魔術師クリムだった。

今回、村々を襲った黒いローブを纏った者達を見つけ、やつらの足取りを追ってみたものの、まんまとやつらの誘いに乗ってしまった恰好になった。

「これは、どう見てもやつらに誘導されたな。」

「恐らく。」

「このまま死の谷の奥へ足を踏み入れたら、我々の命も危ういな。」

「しかも、やつらを追跡に時間を要したので、水も食料も回復アイテムも底を尽きかけています。」

「まずいな。」

「はい。」

「やつらの追跡は諦めて戻りましょう。水も食料も無いのでは戦う事などできません。」

勇者モーリスは、少し考え込んだが直に判断を下した。

「よし、撤退する。」

すると、茂みの中から矢が射かけられた。
しかも、大量にではない。勇者モーリスのチームが退路に足を踏み入れるたびに矢が射かけられるのだ。

「くそ、やつらの居場所がまったく読めん。やつら、隠蔽の魔術で存在を隠しているのか。」

「探査の魔術でも居場所が分かりません。これでは、うかつに動けません。」

「くそ。」

「もうすぐ日が沈みます。」

「このままスケルトン軍団に囲まれたら、逃げる術がありません。」

勇者モーリスと、魔術師クリムが今後のチームの今後の行動方針を決めるまで、他のメンバは周囲の警戒にあたった。
勇者チームの他のメンバは、勇者モーリスと魔術師クリムに絶対の信頼を寄せていた。
だから、このふたりが決めた事には、皆意義など唱える事はなかった。

「この場所にいても埒が明かない。ひと晩でも身を隠せる場所はないか。」

皆で周囲を見渡すと、あまりにも都合よく数軒の廃屋が立ち並ぶ小高い丘があった。

「仕方ない。今夜はあそこに身を隠そう。朝になったら全力で逃げるぞ。」

皆は、黙って勇者モーリスの指示に従った。
小高い丘の上に建つ廃屋は、どれもかなり年代が経った建物らしく、かなり荒廃していた。
しかし、廃屋を取り囲む様に作られた木製の城壁は、今なお健在だった。

「まずは、身を隠せる場所の確保。」

「それと、井戸がないか確認してくれ。」

「ライザとクリム。2人は、そこの見張り台に上がてくれ。周囲の監視を頼む。1時間したら交代する。」

「何かあったらいつも通り念話で連絡してくれ。」

剣士ライザと魔術師クリムは、勇者モーリスの指示の通り見張り台へと上がった。
他のメンバは、勇者の指示の通りに皆が手分けして動き出した。
勇者のチームは6人。勇者を含む剣士が3人。魔術師が2人。治療師が1人。

「どうだった。」

「城壁は問題ないです。」

剣士バーンは、数軒の廃屋を囲むように立つ木製の城壁に問題がない事を確認した。

「井戸はありましたが、水はよくないですね。沸かせばなんとか飲めそうですが。」

「それと、最近ここで戦いがあったようです。」

「複数の足跡と、木を燃やした後があります。精々2日程です。」

治療師リサは、廃屋のなかに井戸を見つけ、井戸水が飲める代物か確認した。

「全ての廃屋の中は確認していませんが、誰かいる気配もないですし探査の魔術にも反応がありません。」

魔術師レイリアは、探査の魔術で廃屋を調べて周った。

「わかった。今夜は交代で見張りをしながら仮眠を取ろう。このままでは体が持たない。」

勇者モーリスは、メンバの調査の結果を踏まえ、交代で仮眠を取ることにした。
皆で再度、廃屋の中を目視で調べ、最後の一軒の廃屋に足を踏み入れようとした時だった。

「探査の魔術に反応が出ました。この廃屋に人らしき反応がります。」

「でも変です。先ほど調べた限りでは、私達以外の反応などなかったのに。」

魔術師レイリアは、今になって探査の魔術に反応があった事に何か違和感を覚えた。
勇者モーリスと剣士バーンは剣を抜き皆に合図を送った。

魔術師レイリアは、廃屋から少し離れた場所へと移動すると、いつでも魔術の詠唱ができるように準備を始めた。
治療師リサは、魔術師レリアと行動を共にし、何かあった場合に備えて治療の準備を始めた。



勇者モーリスと剣士は、剣を構えたまま廃屋の中へと入ると探査の魔術で反応があった部屋へと静かに足を踏み入れた。
そこには、身動きひとつしないひとりの剣士が床に横たわっていた。

横たわる剣士の身なりかして、黒いローブを纏った者達の仲間には思えなかった。
しかも、剣士の手元には、勇者のみが帯刀できる勇者の剣が所在なさげに置かれていた。

「おい、大丈夫か。」

勇者モーリスは、横たわる剣士に声をかけると剣士の口へと残り少ない水を含ませた。
勇者モーリスは、廃屋の外で待機する治療師リサを呼ぶと、横たわる剣士を治療するよう指示を出した。
治療師リサが治療の魔術を施し、しばらくすると横たわっていた剣士が意識を取り戻した。

「大丈夫か。俺はハムクリフト国の勇者モーリスという者だ。」

「あんた、こんなところで何をしているんだ。」

すると、横たわっていた剣士が話はじめた。

「俺は、レムライト国の勇者ボーマだ。」

「俺のチームで黒いローブを纏った者達を追っていたんだが、いつの間にかこんな場所に来てしまった。」

「あんたの仲間は、どうしたんだ。」

「皆、スケルトン軍団に捕まった。」

「俺だけここに残された。」

「ここは、まずい。今すぐ逃げるんだ。日が沈むとスケルトン軍団に囲まれるぞ。」

その時、物見やぐらで警戒にあたっていた魔術師クリムからチーム全員に念話が送られた。

「まずいです。数千のスケルトン軍団が現れました。」

「我々6人では太刀打ちできる数ではありません。」

勇者モーリスは、横たわる剣士、いやレムライト国の勇者ボーマの言葉と警戒中の仲間の念話によって、黒いローブを纏った者達にはめられた事にようやく気が付いた。

「そうか、あいつらはこれが目的だったのか。」

「…俺も戦う。」

横たわる勇者ボーマは、自分も戦うと言い出した。
だが、治療の魔術を施されたとは言っても、衰弱したからでは、とても戦える状況ではなかった。

「あんたは、ここで休んでいろ。その体では無理だ。」

横たわる勇者ボーマを廃屋に残し、勇者モーリスは、チームの全員に向かって念話で話しかけた。

「皆も状況は分かっていると思う。俺達は、やつらにはめられた。」

「この丘の上の廃屋の周りには、数千のスケルトン軍団がいる。」

「今は、戦う事より生きる算段をしよう。勝てない戦いに挑むのは愚か者のする事だ。」

勇者が念話によりチームの全員へ会話を送り終わった時だった。

「えっ。」

「勇者モーリス!」

勇者の仲間達が突然騒ぎ出した。
だが勇者モーリスだけは、何が起きたのか分からずきょとんとしていた。

勇者モーリスは、自分の腹が妙に熱く感じる事にようやく気付き、首を下げて自分の腹を覗き込んだ。
そこには、鮮血が滴る剣が己の腹から突き出している光景が勇者の目に映っていた。


※アルファポリスサイトのメンテナンスがあったためだと思いますが、フォントが変わったり、管理画面のツールが若干変わったようです。ちょっと違和感が…。
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