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06.むっつめ

04.スキルの持ち主(その2)

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山の中腹を蛇行する道を進むディオネとレア、アイスとラディ。
日も暮れ始め、山間部の道も山影で少しずつ暗くなりかけた頃、遠くに村の集落が見えてきた。
しかし、もうすぐ日暮れだというのに灯りも見えず、夕食の準備の煙も立ち上ってはいなかった。

「姉さん、遠くに見える村がそうだよね。」

「ええ、あの村が女神様が言っていた村だと思う。」

「でも、様子が変だね。」

「そうね、今来た街道沿いの村々も黒いローブを纏った者達に襲われて村人が誰もいなかったものね。」

「言いたくはないけど、あの村も…。」

「とにかく行くしかないよね。」

「ええ、それにまだ黒いローブを纏った者達がいるかもしれない。」

4人は、緊張感を持って警戒しながら山間の道を進んだ。



そういえば、ディオネ、レア、アイスは、山頂付近の道で、ラディが戻って来るのを待っていた。
1時間たってもラディが戻らなかったら、ディオネは、ラディの捜索を兼ねて追跡者を殺るつもりでいた。

ところが、ラディは丁度1時間後にひょっこり帰ってきた。
ラディは、ひとこと「終わった。」とだけ言い残して、山間の道を村へとひとりで進んでいった。

相変わらず顔に返り血を浴びていた。人が見たら何と言うか分からない光景だが、ここでそれについて苦言を言う者などいなかった。
その後、追跡者の微かな気配も攻撃もなくなっていた。

ラディには、ディオネ、レア、アイスとは違った攻撃方法を有していた。
元々は、ヒドラの幼生が人化の呪いで人族の姿になったのだが、ヒドラの猛毒と回復力、治癒力は健在だった。

攻撃方法は、ヒドラが有する猛毒。
しかも、猛毒と弱毒を自在に操る事で毒を罠の様に操る事ができた。
人化した事で会得した術なのだが、その半面と言うべきか、別な意味で人族の残忍さを持ち合わせてしまった。

弱毒で見動きが取れなくなった敵を、目の前で強毒で殺すという残忍な行動を取るようになったのだ。
ディオネもレアも自分達は、勇者でも英雄でもないと公言している。

無抵抗の村人を殺すような連中の事など、惨いと思われるような残忍な方法で殺す事があっても、あえて口出しはしなかった。
ディオネもレアも、ラディの事をとやかく言える様な聖人ではないのだ。



山間の道からもうすぐ村への入り口へと差し掛かったディオネとレア、アイスとラディ。
しかし、村からは人々の生活の匂いや音は聞こえては来なかった。

「探査の魔術で確認した限りでは、誰もいない様子だけど、黒いローブを纏った者達が隠蔽のスキルを使って潜伏している可能性もあるから警戒は怠らないで。」

ディオネが皆にそう伝えると、ゆっくりと村へと入っていった。
村の家屋が壊れた様子はなく、一見すると平和な村に見えた。

しかし、村の中央にある広場にやってきた時だった。やはり村人らしき数人の亡骸が横たわっていた。
ただ、今回ばかりは少し様子が違っていた。

村の中央の広場で倒れている村人の中に、黒いローブを纏った者達が数名倒れていた。
村人達は、剣で切り捨てられ矢で射抜かれていた。

だが、黒いローブを纏った者達は、何か巨大な魔獣にでも噛みつかれた様な傷後が残されていた。
さらに、地面を注意深く見てみると、何かが引きずられた様な跡があちこちに残されていた。

「姉さん。これって。」

「恐らく女神様が言っていたあれね。」

「でもこの跡からすると、かなり大きいね。」

「そうね。レアの炎蛇かそれ以上の大きさね。」

「とにかく、今日はもう暗いからどこかの家に勝手に泊めてもらうわ。」

「とにかく明日、起きたら村人達を埋葬するわよ。」

ディオネの一言で明日の仕事が決まった。
まずは、村の各家を周り住人が残っていないか確認をしたが、やはり住人は誰もいなかった。



4人は、誰もいない少し大きめの家へと入ると、その家を仮の宿とした。
家に残された野菜と持っていた食材を煮炊きして夕食を作ると、4人はそそくさと食事を取った。

いつ、村の中を這いまわった魔獣の襲撃があるか分からないからだ。
食事を取った4人は、明かりを灯さず、音をたてず、気配を殺して夜を過ごした。



4人が寝静まって少したった頃、4人は村の外から物音がする事に同時に気付き目を覚ました。
やはり、村の近くに"あれ"はいたのだ。

4人は息を殺し、気配を殺して様子を伺った。
仮の宿とした家のすぐ近くを、何かが這いずりまわる音が響いていた。

ディオネもレアも、"あれ"の詳細が分からい状態で戦う愚行は避けたいとの考えから、今はとにかくやり過ごす事にした。

ただ、それは相手がこちらに気が付かなければの話だ。
相手に戦う意思があれば、すぐにでも戦いとなるだろう。

4人は、戦いを覚悟しながらも、今はその時期ではないとの判断から、ただ時が過ぎ去るのを静かに見守った。
しばらくすると、村の外を這いずりまわる音は消えた。

「どうやら行ったようね。」

「戦うにしろ、それは明るくなってからよ。」

「今日は、警戒しながら仮眠を取りましょう。」

ディオネは、小声でそうささやくと、もう一度毛布に包まりすやすやと寝息を立てていた。
冒険者ならこういった場合、交代で寝ずの番をするのだが、4人は、寝ている時でも警戒は怠らいためそういった行為は不要だった。
やはり人族の姿をしてはいるが、人族ではない存在の成せる技なのかもしれない。
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