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05.いつつめ
11.双子の剣技(その2)
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クリスによる剣の修行が始まって数ヶ月の後。
ディオネとレアは、何度もクリスに剣を飛ばされ、体は空中を飛んでいた。
ふたりの体はボロボロになるたびに榊の回復と治療の魔術でなんとか一命をとりとめていた。
ディオネとレアは、いつしか剣を飛ばされる事はなくなり、体も空中を舞う事はなくなっていた。
ある日、ディオネと剣の練習をするクリスは、木剣ではなく練習用の刃引きの剣を手に取った。
「ディオネ、きょうからこの剣で練習をします。」
「刃引きとはいえ、金属の剣です。体に当たれば骨が折れるくらいではすみません。よいですね。」
「私が放つ剣の軌道を見極め、今以上に真剣に取り組みなさい。」
剣技の練習前にクリスは、いつになく注意事項を語った。
ディオネは、むやみに踏み込まずクリス先生の剣裁きを探った。
クリス先生の手や足さばきから次の一手を見抜くのだ。
そしてクリス先生の手と足がかすかに動いた。
ディオネは、その動きから剣筋を予測し己の剣でクリス先生の剣を防いだ。
しかし、紙一重の剣筋の違いを見切れてはいなかった。
ディオネが防御に振った剣の剣の厚さほどの下の隙間をぬってクリスの剣は、ディオネの左手の骨を砕いていった。
ディオネは、地面に転がると数度悶絶すると激痛のあまり意識を失っていた。
「剣の太刀筋はよかったです。ですが、まだ見極めが足りません。今のが真剣だったら腕から肩までが無くなっていました。」
クリスは、草原に気を失って倒れているディオネに向かって淡々と話を続けた。
「クリス、ディオネは気絶しているんだ。いくらは話しても無駄だ。」
「そうでしたか、残念です。」
榊の話にクリスが淡々と答える傍ら、榊は草原に倒れているディオネに回復と治療の魔術をかけてケガの治療にあたっていた。
「レア、次はあなたです。」
草原に意識を失って倒れているディオネを榊が治療している傍らで、クリスは剣の練習を続けた。
レアは、姉のディオネとクリス先生の戦いをつぶさに観察していた。
今まで通りに戦ったところで勝てる相手ではない事は身を持って分かっていた。
ならば、レアは負けない算段をすることにした。
ひたすらクリス先生の剣をいなす。レアは、自身が姉のディオネの様な剣技の才はないと考えていた。
だから何かひとつでいい、それだけを身に付ける事にした。
「クリス先生、いきます。」
レアもクリスも練習用の木剣を使用していた。
それは、レアはディオネほど剣技が上達していない事の証明でもあった。
レアは、クリス先生の目の動きだけを見ていた。
つまりㇾアは、クリス先生の剣筋を全く見ていないということ。
そしてもうひとつ、レアは目には見えない程、感じられない程の炎を放っていた。
火龍として炎を使う術は心得ていた。さらに魔力を錬る練習を重ねた事で微かに炎を纏う事を会得していた。
レアがそんな術を使っている事を、クリス先生が知っているかは分からない。
しかし、そんな技を使ってはいけないとは言われていない。そして注意もされない。ならばできる事は最大限に利用しようと考えた。
クリス先生の剣筋は、追う事も見る事もできない。
つまり目で剣筋を追う事は愚行なのだ。
ならば、剣筋を何かで感じる方法はないだろうかと考えた結果がそれだ。
レアは、微かな炎を体全体に纏った。
すると、一瞬だけクリス先生の目が曇った。しかし、注意はされなかった。
クリス先生は、レアが微かな炎を纏った事を見抜いていると直感的に理解した。しかし、だからといって止める訳にはいかない。これしか方法が思いつかないからだ。
レアは、全身に纏った微かな炎の揺らぎを感じていた。
僅かでいい。この炎の中に何かが入ってきたらそれはクリス先生の剣だ。
それを避けられるとは思っていない。しかし、少しで構わないから抗いたいと願った。
そして、それはやってきた。
レアが全身に纏った微かな炎の中を見えない何かが高速で進んでくる様を感じていた。
レアは、その何かが進んで来る方向に素早く剣を向けた。
"カン"
初めて木剣と木剣がぶつかり合う音が響いた。
しかし、レアは喜ばなかった。
次の剣が来る事は分かっていた。
そして微かな炎の中をまた何かが高速で進んできた。
レアは、その何かが進んで来る方向に素早く剣を向けた。
しかし、そこでレアはある事に気が付いた。微かな炎の中を進む物はひとつではなかったことに。
レアは、どれが本当の剣なのか判断できずにいた。その一瞬の迷いが致命傷となった。
気が付けば、手に持っていたはずの木剣はなく、己の体は空中を飛んでいた。
レアは、気が遠くなる中で考えていた。方向は間違っていない。初めてクリス先生の剣を止める事ができたのだ。もっと鍛錬を積もう。これならいつかきっと、クリス先生の剣を止められると…。
「クリス、もう少しだけ手加減できないか。ディオネもレアも治療と回復の魔術でケガが治るとは
いっても、これでは精神的にまいってしまうぞ。」
榊は、ディオネとレアの剣の先生にクリスを連れてきた事を後悔していた。
「いえ、ディオネもレアもわずかですが成長しています。ディオネは、攻撃の剣に、レアは防御の剣の方向に進んでいます。」
「ディオネは、もう少しで私の剣筋をかわしながら攻撃に転ずるでしょう。」
「レアは、炎を纏いながら剣筋を見極めようとしました。そして一撃目を見事かわしました。」
「ディオネもレアも、私の剣技を越える事はできないでしょう。ですが近づく事はできます。」
クリスがディオネとレアを褒めたのは初めてだった。榊もこれには驚いてしまった。
「ほお、クリスが褒めるなんて初めてだな。」
「私も数ヶ月で剣技が上達するとは思いませんでした。あと10年もすればよい剣士になれると思います。」
「でも彼らは、10年の時は待てないのですね。」
「ああ、もしかすると明日かもしれない。長くても数年以内だと聞いている。」
「そうですか、ならば剣技をもっと練習しなればいけませんね。」
「ディオネとレアが生きて帰るために。そしてこの世界が終わりを迎えないために。」
ディオネとレアは、何度もクリスに剣を飛ばされ、体は空中を飛んでいた。
ふたりの体はボロボロになるたびに榊の回復と治療の魔術でなんとか一命をとりとめていた。
ディオネとレアは、いつしか剣を飛ばされる事はなくなり、体も空中を舞う事はなくなっていた。
ある日、ディオネと剣の練習をするクリスは、木剣ではなく練習用の刃引きの剣を手に取った。
「ディオネ、きょうからこの剣で練習をします。」
「刃引きとはいえ、金属の剣です。体に当たれば骨が折れるくらいではすみません。よいですね。」
「私が放つ剣の軌道を見極め、今以上に真剣に取り組みなさい。」
剣技の練習前にクリスは、いつになく注意事項を語った。
ディオネは、むやみに踏み込まずクリス先生の剣裁きを探った。
クリス先生の手や足さばきから次の一手を見抜くのだ。
そしてクリス先生の手と足がかすかに動いた。
ディオネは、その動きから剣筋を予測し己の剣でクリス先生の剣を防いだ。
しかし、紙一重の剣筋の違いを見切れてはいなかった。
ディオネが防御に振った剣の剣の厚さほどの下の隙間をぬってクリスの剣は、ディオネの左手の骨を砕いていった。
ディオネは、地面に転がると数度悶絶すると激痛のあまり意識を失っていた。
「剣の太刀筋はよかったです。ですが、まだ見極めが足りません。今のが真剣だったら腕から肩までが無くなっていました。」
クリスは、草原に気を失って倒れているディオネに向かって淡々と話を続けた。
「クリス、ディオネは気絶しているんだ。いくらは話しても無駄だ。」
「そうでしたか、残念です。」
榊の話にクリスが淡々と答える傍ら、榊は草原に倒れているディオネに回復と治療の魔術をかけてケガの治療にあたっていた。
「レア、次はあなたです。」
草原に意識を失って倒れているディオネを榊が治療している傍らで、クリスは剣の練習を続けた。
レアは、姉のディオネとクリス先生の戦いをつぶさに観察していた。
今まで通りに戦ったところで勝てる相手ではない事は身を持って分かっていた。
ならば、レアは負けない算段をすることにした。
ひたすらクリス先生の剣をいなす。レアは、自身が姉のディオネの様な剣技の才はないと考えていた。
だから何かひとつでいい、それだけを身に付ける事にした。
「クリス先生、いきます。」
レアもクリスも練習用の木剣を使用していた。
それは、レアはディオネほど剣技が上達していない事の証明でもあった。
レアは、クリス先生の目の動きだけを見ていた。
つまりㇾアは、クリス先生の剣筋を全く見ていないということ。
そしてもうひとつ、レアは目には見えない程、感じられない程の炎を放っていた。
火龍として炎を使う術は心得ていた。さらに魔力を錬る練習を重ねた事で微かに炎を纏う事を会得していた。
レアがそんな術を使っている事を、クリス先生が知っているかは分からない。
しかし、そんな技を使ってはいけないとは言われていない。そして注意もされない。ならばできる事は最大限に利用しようと考えた。
クリス先生の剣筋は、追う事も見る事もできない。
つまり目で剣筋を追う事は愚行なのだ。
ならば、剣筋を何かで感じる方法はないだろうかと考えた結果がそれだ。
レアは、微かな炎を体全体に纏った。
すると、一瞬だけクリス先生の目が曇った。しかし、注意はされなかった。
クリス先生は、レアが微かな炎を纏った事を見抜いていると直感的に理解した。しかし、だからといって止める訳にはいかない。これしか方法が思いつかないからだ。
レアは、全身に纏った微かな炎の揺らぎを感じていた。
僅かでいい。この炎の中に何かが入ってきたらそれはクリス先生の剣だ。
それを避けられるとは思っていない。しかし、少しで構わないから抗いたいと願った。
そして、それはやってきた。
レアが全身に纏った微かな炎の中を見えない何かが高速で進んでくる様を感じていた。
レアは、その何かが進んで来る方向に素早く剣を向けた。
"カン"
初めて木剣と木剣がぶつかり合う音が響いた。
しかし、レアは喜ばなかった。
次の剣が来る事は分かっていた。
そして微かな炎の中をまた何かが高速で進んできた。
レアは、その何かが進んで来る方向に素早く剣を向けた。
しかし、そこでレアはある事に気が付いた。微かな炎の中を進む物はひとつではなかったことに。
レアは、どれが本当の剣なのか判断できずにいた。その一瞬の迷いが致命傷となった。
気が付けば、手に持っていたはずの木剣はなく、己の体は空中を飛んでいた。
レアは、気が遠くなる中で考えていた。方向は間違っていない。初めてクリス先生の剣を止める事ができたのだ。もっと鍛錬を積もう。これならいつかきっと、クリス先生の剣を止められると…。
「クリス、もう少しだけ手加減できないか。ディオネもレアも治療と回復の魔術でケガが治るとは
いっても、これでは精神的にまいってしまうぞ。」
榊は、ディオネとレアの剣の先生にクリスを連れてきた事を後悔していた。
「いえ、ディオネもレアもわずかですが成長しています。ディオネは、攻撃の剣に、レアは防御の剣の方向に進んでいます。」
「ディオネは、もう少しで私の剣筋をかわしながら攻撃に転ずるでしょう。」
「レアは、炎を纏いながら剣筋を見極めようとしました。そして一撃目を見事かわしました。」
「ディオネもレアも、私の剣技を越える事はできないでしょう。ですが近づく事はできます。」
クリスがディオネとレアを褒めたのは初めてだった。榊もこれには驚いてしまった。
「ほお、クリスが褒めるなんて初めてだな。」
「私も数ヶ月で剣技が上達するとは思いませんでした。あと10年もすればよい剣士になれると思います。」
「でも彼らは、10年の時は待てないのですね。」
「ああ、もしかすると明日かもしれない。長くても数年以内だと聞いている。」
「そうですか、ならば剣技をもっと練習しなればいけませんね。」
「ディオネとレアが生きて帰るために。そしてこの世界が終わりを迎えないために。」
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