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04.よっつめ
01.エンドア平原のダンジョン(その1)
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街から馬車で約1日のところにダンジョンが存在した。
ダンジョンの名前は、エンドア平原のダンジョン。
レベルは中級向け。
ダンジョンから歩いて1時間程のところに小さな砦と小さな村があった。
120年前にダンジョンから魔獣が溢れた事があったため、その魔獣対策として小高い山の上に砦が建設された。
以後120年間。魔獣が溢れた事がなかった。だから誰もがそんな事など忘れていた。
兵士の数も減らされ、いまや200人程度が常駐するのみである。
村は小高い山の中腹にあり、砦はダンジョンから村を守るため城壁で囲んだ。
村人の数は150人程度。小規模の村だ。
砦や村で使う飲料水は、少数の井戸以外は、山の麓を流れる川の水に頼っていた。
村の中には、小さな教会があり村人や冒険者のケガ人や病人の治療を行っていた。
この村の教会は、他の教会とは少し違っていた。
何が違うのかというと…。
「あたいがこの教会の神官のオリビアだ。顔をよく覚えておいてくれよ。」
教会の神官と名乗るオリビアは、身長が190cmを優に超えた筋骨隆々で太股の太さといい腕の太さといい、その辺の男共よりも力強い筋肉を披露していた。
オリビアは、神官だが他の教会で神官が着ているような神官服は着ていなかった。
冒険者が着る皮鎧を見に付け、腰にはショートソード、肩から腰に斜めに掛けた皮ベルトには十数本の短剣を帯刀していた。
オリビアの体があまりにも大きいため腰からぶら下げているショートソードは、短剣に見えるほど
だった。
もうどこからどう見ても重装備の冒険者だった。
「あたいは、元冒険者だったのさ。剣士兼回復役でね、あそこに飾ってある両手剣があたいの獲物さ。」
オリビアが指さした先には、教会の壁に刃渡り1.5mを越える巨大な剣が飾ってあった。
「あっ、あれを振り回していたんですか。まるで龍殺しの剣ですね」
ディオネが額から一筋の汗を流しながら、巨大剣を見ていると。
「冒険者仲間から龍でも殺すのかってよくバカにされたさ。流石に龍は殺した事はないよ。でもあれで数体のオーガを狩ったこともあるんだよ。ハハハ。」
この人は、断じて神官ではない。回復の魔術が使える剣士だ。それも重装甲兵と言っても皆信じるだろう。
「それからこいつはマリア。こいつも神官だが俺と同じで元冒険者だ。こいつも剣士兼回復役だったのさ。」
マリアさんも皮鎧、腰にはショートソードを帯刀していた。
マリアさんは、オリビアさんほどではないが、元剣士と言われたら、皆納得する体格の持ち主だ。
「で、こっちがエルレア。こいつも元冒険者だが純粋な回復役だ。」
唯一、エルレアさんだけがほっそりした体格だが、それでも鍛え上げられた体格は皮鎧の上からでも分かった。
やはりというかエルレアさんも皮鎧、腰にショートソードを帯刀していた。
「私は、剣士じゃないからこの剣は飾りさ。それでも帯刀していれば他の冒険者からバカにされないからね。」
この教会の神官は、毎日の様に荒くれ者の冒険者と渡り合える様に、元冒険者で構成されていた。
だから言葉使いから態度から神官のそれではなく、完全に冒険者だった。
「オリビア!仲間がダンジョンでやられた。治せ!」
ダンジョンに潜っていた冒険者がケガをした仲間を担架に乗せて教会へとやってきた。
「何度言ったら分かるんだい!あたいは神官のオリビア様だよ。」
「なんだい、こんなかすり傷で教会なんぞにきやがって。"つば"でも付けとけば治るよ。」
担架で運ばれてきた冒険者は、肩から右腕を魔獣に噛まれて骨がぐちゃくちゃに砕かれていた。
「こんな傷で泣くんじゃないよ!付いてる物が小さいと涙もよく出るね!」
教会の床には、粗末なマットレスが何枚も並べられ、その上でケガの治療を施された冒険者達が療養していた。
「姉さん。ここは教会じゃないよ。野戦病院だよ。」
「私もこんな教会は初めてよ。だって壁のあちこちに剣や槍や盾が飾ってあるんだもの。」
「へへへ。いい剣ばかりだよ。皆、魔獣を何十何百って狩ってきた歴戦の勇者さ。」
神官のオリビアは、教会の壁に飾ってある武具を褒められたと思い満足顔で答えていた。
ディオネもレアも武具を褒めた覚えはないが、勘違いでも気分が良くなったオリビアさんの顔を立てて反論はしなかった。
「それで、あんた達は何しに来たんだい。」
「私達は、火龍神殿の神官見習いです。教会本部の紹介であちこちの教会に出向いてお手伝いをしています。」
ディオネは、そう言うと火龍神殿と教会本部の紹紹介状を神官のオリビアに差し出した。
神官のオリビアは、紹介状を読まずに胸のポケットにがさつにしまい込んだ。
「ふーん、あんたら人の姿をしてるけど人じゃないね。子供の姿をしてるけど子供でもないね。」
「よくもまあ鑑定の魔術を騙せるもんさね。魔術の腕も相当なもんだね。」
「あんたら魔術師としても相当な腕だね。試しにそこいらで泣き言をほざいて唸っている冒険者のケガを治して見せな。」
神官のオリビアさんがディオネの前で腕組をしながら治療魔法の腕前を見たいと言い出した。
ディオネとレアは、それぞれマットレスの上でケガの痛みで唸っている冒険者に鑑定と探査の魔術と治療の魔術をかけていった。
その光景を見ていた神官のオリビアの片方の眉毛が持ち上がった。
少し離れた場所でディオネとレアの治療を見守っていた神官のマリアとエルレアの顔つきが変わった。
そして神官のオリビアの脇にマリアとエルレアが近づくと小声で言った。
「この子供達、治療の腕前は私以上です。おそらく宮廷魔術師でもこれだけの腕前のやつは殆どいませんよ。」
「これだけの腕前があれば目の前で唸っている連中は、ケガが完治してダンジョンに直行ですよ。」
「ほー。凄いね。さすがさね。」
「火龍神殿の神官は、治療魔法に長けていると聞いたことがあるが、あそこは神官でも剣の腕も凄いって聞いたことがあるよ。」
「じゃあ、来て早々悪いが、そこで涙流して唸っている連中を全員治療してくれ。」
「マリア、エルレア、治療を始めるよ。治療が終わったらマットレスの上で寝てる連中を全員追い出すよ。」
「安い金でいつまでも寝てられたって、こちとら嬉しくともなんともないからね。」
それから1時間程で、教会の床の上に引いたマットレスの上で痛みで涙を流して唸っていた10人の冒険者達のケガが全快していった。
すると何事もなかった様に、神官のオリビアに教会から追い出されていった。
「あいつら、教会を安宿を勘違いしてるのさ。長居されちゃ商売あがったりさね。」
教会の床のマットレスの上で唸っていた冒険者を一掃した神官のオリビアは、ディオネとレアを前して言った。
「さて、ディオネとレアと言ったね。あんたらの腕前は分かった。ここじゃ、腕前が全てだ。だからあんた達は、今からこの教会の一人前の神官だ。お手伝いなんていい加減なことは認めないよ。」
「さあ、マットレスを教会の庭で干してきな。それからシーツを洗って干すんだよ。」
「ここは、山の上だから水は貴重だ。洗濯は麓の川でやるよ。さあ動きな!」
ディオネとレアは、あちこちの街や村の教会でお手伝いという名の修行を行ってきた。
しかし、腕前を一瞬で見極めて一人前の神官としてこき使ってくれる神官は初めてだった。
ダンジョンの名前は、エンドア平原のダンジョン。
レベルは中級向け。
ダンジョンから歩いて1時間程のところに小さな砦と小さな村があった。
120年前にダンジョンから魔獣が溢れた事があったため、その魔獣対策として小高い山の上に砦が建設された。
以後120年間。魔獣が溢れた事がなかった。だから誰もがそんな事など忘れていた。
兵士の数も減らされ、いまや200人程度が常駐するのみである。
村は小高い山の中腹にあり、砦はダンジョンから村を守るため城壁で囲んだ。
村人の数は150人程度。小規模の村だ。
砦や村で使う飲料水は、少数の井戸以外は、山の麓を流れる川の水に頼っていた。
村の中には、小さな教会があり村人や冒険者のケガ人や病人の治療を行っていた。
この村の教会は、他の教会とは少し違っていた。
何が違うのかというと…。
「あたいがこの教会の神官のオリビアだ。顔をよく覚えておいてくれよ。」
教会の神官と名乗るオリビアは、身長が190cmを優に超えた筋骨隆々で太股の太さといい腕の太さといい、その辺の男共よりも力強い筋肉を披露していた。
オリビアは、神官だが他の教会で神官が着ているような神官服は着ていなかった。
冒険者が着る皮鎧を見に付け、腰にはショートソード、肩から腰に斜めに掛けた皮ベルトには十数本の短剣を帯刀していた。
オリビアの体があまりにも大きいため腰からぶら下げているショートソードは、短剣に見えるほど
だった。
もうどこからどう見ても重装備の冒険者だった。
「あたいは、元冒険者だったのさ。剣士兼回復役でね、あそこに飾ってある両手剣があたいの獲物さ。」
オリビアが指さした先には、教会の壁に刃渡り1.5mを越える巨大な剣が飾ってあった。
「あっ、あれを振り回していたんですか。まるで龍殺しの剣ですね」
ディオネが額から一筋の汗を流しながら、巨大剣を見ていると。
「冒険者仲間から龍でも殺すのかってよくバカにされたさ。流石に龍は殺した事はないよ。でもあれで数体のオーガを狩ったこともあるんだよ。ハハハ。」
この人は、断じて神官ではない。回復の魔術が使える剣士だ。それも重装甲兵と言っても皆信じるだろう。
「それからこいつはマリア。こいつも神官だが俺と同じで元冒険者だ。こいつも剣士兼回復役だったのさ。」
マリアさんも皮鎧、腰にはショートソードを帯刀していた。
マリアさんは、オリビアさんほどではないが、元剣士と言われたら、皆納得する体格の持ち主だ。
「で、こっちがエルレア。こいつも元冒険者だが純粋な回復役だ。」
唯一、エルレアさんだけがほっそりした体格だが、それでも鍛え上げられた体格は皮鎧の上からでも分かった。
やはりというかエルレアさんも皮鎧、腰にショートソードを帯刀していた。
「私は、剣士じゃないからこの剣は飾りさ。それでも帯刀していれば他の冒険者からバカにされないからね。」
この教会の神官は、毎日の様に荒くれ者の冒険者と渡り合える様に、元冒険者で構成されていた。
だから言葉使いから態度から神官のそれではなく、完全に冒険者だった。
「オリビア!仲間がダンジョンでやられた。治せ!」
ダンジョンに潜っていた冒険者がケガをした仲間を担架に乗せて教会へとやってきた。
「何度言ったら分かるんだい!あたいは神官のオリビア様だよ。」
「なんだい、こんなかすり傷で教会なんぞにきやがって。"つば"でも付けとけば治るよ。」
担架で運ばれてきた冒険者は、肩から右腕を魔獣に噛まれて骨がぐちゃくちゃに砕かれていた。
「こんな傷で泣くんじゃないよ!付いてる物が小さいと涙もよく出るね!」
教会の床には、粗末なマットレスが何枚も並べられ、その上でケガの治療を施された冒険者達が療養していた。
「姉さん。ここは教会じゃないよ。野戦病院だよ。」
「私もこんな教会は初めてよ。だって壁のあちこちに剣や槍や盾が飾ってあるんだもの。」
「へへへ。いい剣ばかりだよ。皆、魔獣を何十何百って狩ってきた歴戦の勇者さ。」
神官のオリビアは、教会の壁に飾ってある武具を褒められたと思い満足顔で答えていた。
ディオネもレアも武具を褒めた覚えはないが、勘違いでも気分が良くなったオリビアさんの顔を立てて反論はしなかった。
「それで、あんた達は何しに来たんだい。」
「私達は、火龍神殿の神官見習いです。教会本部の紹介であちこちの教会に出向いてお手伝いをしています。」
ディオネは、そう言うと火龍神殿と教会本部の紹紹介状を神官のオリビアに差し出した。
神官のオリビアは、紹介状を読まずに胸のポケットにがさつにしまい込んだ。
「ふーん、あんたら人の姿をしてるけど人じゃないね。子供の姿をしてるけど子供でもないね。」
「よくもまあ鑑定の魔術を騙せるもんさね。魔術の腕も相当なもんだね。」
「あんたら魔術師としても相当な腕だね。試しにそこいらで泣き言をほざいて唸っている冒険者のケガを治して見せな。」
神官のオリビアさんがディオネの前で腕組をしながら治療魔法の腕前を見たいと言い出した。
ディオネとレアは、それぞれマットレスの上でケガの痛みで唸っている冒険者に鑑定と探査の魔術と治療の魔術をかけていった。
その光景を見ていた神官のオリビアの片方の眉毛が持ち上がった。
少し離れた場所でディオネとレアの治療を見守っていた神官のマリアとエルレアの顔つきが変わった。
そして神官のオリビアの脇にマリアとエルレアが近づくと小声で言った。
「この子供達、治療の腕前は私以上です。おそらく宮廷魔術師でもこれだけの腕前のやつは殆どいませんよ。」
「これだけの腕前があれば目の前で唸っている連中は、ケガが完治してダンジョンに直行ですよ。」
「ほー。凄いね。さすがさね。」
「火龍神殿の神官は、治療魔法に長けていると聞いたことがあるが、あそこは神官でも剣の腕も凄いって聞いたことがあるよ。」
「じゃあ、来て早々悪いが、そこで涙流して唸っている連中を全員治療してくれ。」
「マリア、エルレア、治療を始めるよ。治療が終わったらマットレスの上で寝てる連中を全員追い出すよ。」
「安い金でいつまでも寝てられたって、こちとら嬉しくともなんともないからね。」
それから1時間程で、教会の床の上に引いたマットレスの上で痛みで涙を流して唸っていた10人の冒険者達のケガが全快していった。
すると何事もなかった様に、神官のオリビアに教会から追い出されていった。
「あいつら、教会を安宿を勘違いしてるのさ。長居されちゃ商売あがったりさね。」
教会の床のマットレスの上で唸っていた冒険者を一掃した神官のオリビアは、ディオネとレアを前して言った。
「さて、ディオネとレアと言ったね。あんたらの腕前は分かった。ここじゃ、腕前が全てだ。だからあんた達は、今からこの教会の一人前の神官だ。お手伝いなんていい加減なことは認めないよ。」
「さあ、マットレスを教会の庭で干してきな。それからシーツを洗って干すんだよ。」
「ここは、山の上だから水は貴重だ。洗濯は麓の川でやるよ。さあ動きな!」
ディオネとレアは、あちこちの街や村の教会でお手伝いという名の修行を行ってきた。
しかし、腕前を一瞬で見極めて一人前の神官としてこき使ってくれる神官は初めてだった。
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