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01.ひとつめ
10.炊き出し(その2)
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ふたりの男は教会の奥にある食堂に入ると、とんでもないものを目の当たりにした。
そこにはふたりの子供がせわしなくスープを調理している姿だった。さらに子供達は、窯から焼きたてのパンを取り出していた。
「なっ、なんだ。子供が調理しているのか。子供があの味を出しているのか。どうなっているんだ。」
調理中だった双子の姉弟は、突然入ってきたふたりの男を見ると、興味なさげに言い放った。
「申訳ありませんが、関係者以外立ち入り禁止です。それに勝手に厨房に入ってこられては迷惑です。」
「まさか、うちのレシピを盗みに来たんじゃないでしょうね。それは料理人の風上にも置けないな。」
「料理人ならスープを食べて、そこから味のヒントを探るもんだよ。」
厨房に入ったふたりの男は唖然とした。
ふたりの子供が調理したスープがあの美味さなのか。
しかも、厨房に勝手に入って来た料理人への素っ気ない態度とものの言い様がまるで料理人そのものだった。
そこへ神官見習いのライリーが食堂に入ってきた。
「あっ、あのすみません。ここには関係者以外の方に入ってもらうと困るんです。すみませんが出てください。」
「ああっ、悪い。しかしあのスープを調理しているのが子供とは驚いた。」
「ははは。私達では、あのスープの味は出せません。私達もおふたりからこの味が出せるように勉強中なんです。」
神官見習いのライリーがそう言うと。
「頼む、俺達にも勉強させてくれ。こんな美味いスープを教会の炊き出しで出されては、街の食堂が干上がっちまう。」
つまり男達は、神官見習いのライリーにスープのレシピを教えてくれと言っているのだ。
「おじさん達、さっきも言ったけど、料理人なら味は盗むもんだと相場が決まっているよね。味が盗めないなら一流の料理人とは言えないよ。」
男達は絶句した。こんな子供が言い放つ言葉の一字一句を自分達が立つ厨房で、見習い達に毎日言っている言葉とそっくりなのだ。
「俺達が悪かった。でもまた来る。こんな美味いものを食べて黙って帰るなんてできない。」
男達は、そういうと静かに教会の食堂から出ていった。
「ライリーさん、最後のスープが出来たよ。今日はこれで店じまいだよ。」
「ありがとう。まだ外には、炊き出しを待つ長い行列が続いているんです。」
「調理が終わったなら、表の手伝いをしてもらってもいいですか。」
「はい。」
双子の姉弟は、お互いの顔を見ながら勢いのよい返事をした。
双子の姉弟が、列に並んだ人達の数を数えると、これ以上並んでもスープがありませんと大声で案内を始めた。
どうみても、こういった炊き出しの場に慣れているとしか思えない振る舞いだった。
その列には、さっき教会の食堂に入ってき男達がまた並んでいた。
「おじさん達、懲りないね。」
男の子が列に並んだ男達に話しかけた。
「ああ、簡単にあきらめては料理人の風上にも置けないからな。」
男達は、小さな男の子が調理したスープを遠回しに褒めたたえた。それと小さい子供であっても料理人として一流の腕前があることも認めた。
程なくして教会の炊き出しは終わった。
炊き出しのスープとパンを食べた人達からは、賞賛の声が続ついた。
「スープ美味しかったです。」
「パンも美味かった。」
「来週も来るから、ぜひ同じものを出してください。」
「このスープなら、この街の名物になりますよ。」
「神官さん、神官なんてやめて食堂をやりませんか。」
中には、笑えない話もあったが、炊き出しは大成功に終わった。
炊き出しに来た人の数は500人を超えていた。それは、この教会で行った炊き出しで初めての出来事だった。
教会裏の井戸の脇で皿を洗っていた神官のアイリスは、燃え尽きてきた。
神官のアイリスは、こんなに皿とスプーンを洗ったのは産まれて初めてだった。
皆、あと片付けを済ませると、食堂で夕食を取り始めていた。
今夜のスープは、昨晩出されたスープとも、炊き出しで振る舞ったスープとも違う味だったが、皆美味しそうに食べていた。
「今日は、皆さん本当に頑張ってくれました。ありがとう。」
「まさか、炊き出しに500人以上の人達が集まってくれるとは思ってもみませんでした。」
「味って大切なんですね。神官見習いだからといっても、料理の勉強もしないといけない事がよくわかりました。」
皆が思い思いに今日の出来事を振り返っていた。
次の日の朝、朝の礼拝のために教会の扉を開けると、100人以上の人達が教会に入ってきた。
朝の礼拝が始まる頃には、教会の長椅子は全てうまり立見の人達まで出る有様だった。
「アイリス様、まさか昨日の炊き出しの影響でしょうか。」
「そっ、そうですね。恐らく。」
「やっぱり料理は、人々の心を動かすんですね。」
神官アイリスは、額から汗を流していた。
今まで教会に人々が集まらなかったのだ。
どうやって人々を集めようかと悩みいろいろ試行してきたが、思うような成果は出なかった。
ところがたった1回の炊きだしで、教会の礼拝に人々がたくさん集まってしまったのだ。
「私の考えが至らなかったのでしょうか。たった1回の炊き出しで人々の心を掴む事ができるなど、考えもしませんでした。」
礼拝には、昨日、教会の食堂に入ってきた男達もいた。
「アイリス様、昨日の出来事を過去のものにしないよう次回も頑張りましょう。」
「ええ、そうですね。これが続けば、きっと人々の心に女神様の教えが広まるのもそんなに遠くではないでしょう。」
神官のアイリスは、考えていた。もし、貧民街の人々に安く食事を提供できる食堂を作る事ができたらと。
さらにその食堂で、貧民街の人々を雇う事ができたらと。
まだ、形にもならない考えが双子の姉弟と出会った事で形になりそうだと思い始めていた。
そこにはふたりの子供がせわしなくスープを調理している姿だった。さらに子供達は、窯から焼きたてのパンを取り出していた。
「なっ、なんだ。子供が調理しているのか。子供があの味を出しているのか。どうなっているんだ。」
調理中だった双子の姉弟は、突然入ってきたふたりの男を見ると、興味なさげに言い放った。
「申訳ありませんが、関係者以外立ち入り禁止です。それに勝手に厨房に入ってこられては迷惑です。」
「まさか、うちのレシピを盗みに来たんじゃないでしょうね。それは料理人の風上にも置けないな。」
「料理人ならスープを食べて、そこから味のヒントを探るもんだよ。」
厨房に入ったふたりの男は唖然とした。
ふたりの子供が調理したスープがあの美味さなのか。
しかも、厨房に勝手に入って来た料理人への素っ気ない態度とものの言い様がまるで料理人そのものだった。
そこへ神官見習いのライリーが食堂に入ってきた。
「あっ、あのすみません。ここには関係者以外の方に入ってもらうと困るんです。すみませんが出てください。」
「ああっ、悪い。しかしあのスープを調理しているのが子供とは驚いた。」
「ははは。私達では、あのスープの味は出せません。私達もおふたりからこの味が出せるように勉強中なんです。」
神官見習いのライリーがそう言うと。
「頼む、俺達にも勉強させてくれ。こんな美味いスープを教会の炊き出しで出されては、街の食堂が干上がっちまう。」
つまり男達は、神官見習いのライリーにスープのレシピを教えてくれと言っているのだ。
「おじさん達、さっきも言ったけど、料理人なら味は盗むもんだと相場が決まっているよね。味が盗めないなら一流の料理人とは言えないよ。」
男達は絶句した。こんな子供が言い放つ言葉の一字一句を自分達が立つ厨房で、見習い達に毎日言っている言葉とそっくりなのだ。
「俺達が悪かった。でもまた来る。こんな美味いものを食べて黙って帰るなんてできない。」
男達は、そういうと静かに教会の食堂から出ていった。
「ライリーさん、最後のスープが出来たよ。今日はこれで店じまいだよ。」
「ありがとう。まだ外には、炊き出しを待つ長い行列が続いているんです。」
「調理が終わったなら、表の手伝いをしてもらってもいいですか。」
「はい。」
双子の姉弟は、お互いの顔を見ながら勢いのよい返事をした。
双子の姉弟が、列に並んだ人達の数を数えると、これ以上並んでもスープがありませんと大声で案内を始めた。
どうみても、こういった炊き出しの場に慣れているとしか思えない振る舞いだった。
その列には、さっき教会の食堂に入ってき男達がまた並んでいた。
「おじさん達、懲りないね。」
男の子が列に並んだ男達に話しかけた。
「ああ、簡単にあきらめては料理人の風上にも置けないからな。」
男達は、小さな男の子が調理したスープを遠回しに褒めたたえた。それと小さい子供であっても料理人として一流の腕前があることも認めた。
程なくして教会の炊き出しは終わった。
炊き出しのスープとパンを食べた人達からは、賞賛の声が続ついた。
「スープ美味しかったです。」
「パンも美味かった。」
「来週も来るから、ぜひ同じものを出してください。」
「このスープなら、この街の名物になりますよ。」
「神官さん、神官なんてやめて食堂をやりませんか。」
中には、笑えない話もあったが、炊き出しは大成功に終わった。
炊き出しに来た人の数は500人を超えていた。それは、この教会で行った炊き出しで初めての出来事だった。
教会裏の井戸の脇で皿を洗っていた神官のアイリスは、燃え尽きてきた。
神官のアイリスは、こんなに皿とスプーンを洗ったのは産まれて初めてだった。
皆、あと片付けを済ませると、食堂で夕食を取り始めていた。
今夜のスープは、昨晩出されたスープとも、炊き出しで振る舞ったスープとも違う味だったが、皆美味しそうに食べていた。
「今日は、皆さん本当に頑張ってくれました。ありがとう。」
「まさか、炊き出しに500人以上の人達が集まってくれるとは思ってもみませんでした。」
「味って大切なんですね。神官見習いだからといっても、料理の勉強もしないといけない事がよくわかりました。」
皆が思い思いに今日の出来事を振り返っていた。
次の日の朝、朝の礼拝のために教会の扉を開けると、100人以上の人達が教会に入ってきた。
朝の礼拝が始まる頃には、教会の長椅子は全てうまり立見の人達まで出る有様だった。
「アイリス様、まさか昨日の炊き出しの影響でしょうか。」
「そっ、そうですね。恐らく。」
「やっぱり料理は、人々の心を動かすんですね。」
神官アイリスは、額から汗を流していた。
今まで教会に人々が集まらなかったのだ。
どうやって人々を集めようかと悩みいろいろ試行してきたが、思うような成果は出なかった。
ところがたった1回の炊きだしで、教会の礼拝に人々がたくさん集まってしまったのだ。
「私の考えが至らなかったのでしょうか。たった1回の炊き出しで人々の心を掴む事ができるなど、考えもしませんでした。」
礼拝には、昨日、教会の食堂に入ってきた男達もいた。
「アイリス様、昨日の出来事を過去のものにしないよう次回も頑張りましょう。」
「ええ、そうですね。これが続けば、きっと人々の心に女神様の教えが広まるのもそんなに遠くではないでしょう。」
神官のアイリスは、考えていた。もし、貧民街の人々に安く食事を提供できる食堂を作る事ができたらと。
さらにその食堂で、貧民街の人々を雇う事ができたらと。
まだ、形にもならない考えが双子の姉弟と出会った事で形になりそうだと思い始めていた。
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