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01.ひとつめ

04.いつもの出来事(その1)

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ゴブリンの森の外れで野宿した後、ふたりでのんびり歩きながらエンデルの街に到着した。
街の門の前に到着すると門番さんに紐で首からぶら下げた冒険者証を慣れた手付きで見せる。

「見かけない子供達だな。どこから来たんだい。」

そう言いながら門番さんが双子の姉弟の冒険者証を確認する。

「おいおい、えらい遠くから来たな。子供なのに冒険者をやっているのか。しかし、よく冒険者証を発行してもらえたな…、確かにギルド長の印も押してあるな。」

「いや、でもまさかな。ゴブリンが住む森の通って来たんじゃないよな。」

「森を迂回する街道を歩いてきたよ。」

ふたりは、どの街に入る時でも門番さんには適当な事を言って通してもらうようにしていた。
本当の事を言うと、詰め所に連れていかれて質問攻めにあってなかなか解放してもらえないからだ。

「子供がふたりで街の外を出歩くなんて危険じゃないか。いやでも、冒険者証を持っているくらいだから魔獣退治もできるのか。いや…でも。」

うーん、この門番さんは、なかなか僕達を開放してくれない。

「僕達、ゴブリンくらいなら何度も狩っているから大丈夫だよ。オークだって何度も狩ってるよ。」

「そっ、そうなのか。見かけによらず強いんだな。でも慢心するなよ。子供なんだからもっと大人を頼ってもいいんだぞ。頑張って生きて行くんだぞ。」

門番さん涙ぐんでた。きっと親がいなくて生きて行くために子供ながらに冒険者をやっていると勘違いしていた。街に入る時に起こるいつもの光景だった。
双子の姉弟に本当の親はいない。けれど親代わりの人達はそれこそ大勢いる。
本来であれば、生まれてからずっとひとりで生きて行くはずだった種族なのだ。

街の大通りを歩いていくと、どこの街でも見かける冒険者ギルドの建物を見つけた。
でも、なんで冒険者ギルドの前に素行の悪そうな冒険者が屯っているんだろう。
双子の姉弟は、どの街の冒険者ギルドでも入る時と出る時にからまれていた。もうそれが面倒でならなかった。
双子の姉弟は、当たり前の顔をして冒険者ギルドの入り口に向かって入ろうとした。

「おいおい、子供が冒険者ギルドに何の用だ。ここは、子供の来る場所じゃないぞ。」

ああ、もう何度も聞いたセリフだろう。

「俺は親切で言ってやってるんだ。大人の話は素直に聞くもんだ。」

双子の姉弟は、お互いの顔を見ながらいつものセリフを話し始めた。

「冒険者のお父さんとお母さんを探しに来たの。魔獣退治に出かけて帰りが遅くなっているかもしれないから聞きに来たんだ。」

「なんだ。冒険者の子供か。てっきりお前達が冒険者になろうと思ったのかとびっくりしたぜ。」

その言葉を聞いて双子の姉弟は思った。
僕達は見かけは子供だけど、お兄さんより歳を取っているし、冒険者のランクも経験も上なんだよ。見た目で判断すると後悔するって知らないのかな。

そんないつもの光景を交えつつ双子の姉弟は、冒険者ギルドの受付カウンターによらずにクエストの案内掲示板の前へと向かった。

食事とお酒が飲めるテーブル席がいつくつも並んでおり、まだ昼前だというのにお酒を飲んでいる冒険者が大勢いた。

「えーと、どれかな。あっ、あった。」

そういうと男の子は、一枚のクエスト依頼書を剥がすと受付カウンターへと持って行った。
クエストの案内掲示板の前で、案内書を見てあれこれ悩んでいた冒険者は、子供が剥がしたクエスト依頼書を見て唖然としていた。
双子の姉弟は、迷うことなく受付カウンターへクエスト依頼書を出した。

「お姉さん、これお願いします。」



受付カウンターの向い側に座る受付のお姉さんからは子供の顔が辛うじて目えるくらいの子供がクエスト依頼書を出してきたので慌てて話始めた。

「お姉さん、これが僕達の冒険者証。それと冒険者ギルド長さんから発行してもらった許可証です。」

双子の兄弟は、冒険者証と冒険者ギルド長から発行されたという珍しい許可証なるものを受付カウンターに出した。

「それとね、これが狩った魔獣の部位と首だよ。」

男の子がそういうと大きな袋をカウンターの上に乗せ、袋の口を堅く縛っていた紐を解いた。
すると、袋の中からゴブリンキングの首が現れた。

受付カウンターの向い側に座っていた受付のお姉さんも、ギルドの建物内にいた冒険者もゴブリンキングの首を見て慌てふためいていた。
受付カウンターに座っていた受付のお姉さんは、双子の姉妹が出した冒険者証と許可証を持って慌ててギルドの事務所の奥へと走りだした。
冒険者ギルドの受付カウンターの上には、袋の上に置かれたゴブリンキングの首が冒険者ギルドの事務所内でせわしなく働く所員の顔を睨み続けていた。
しばらくすると事務所の奥へと走り去った受付のお姉さんが慌てたまま戻ってきた。

「ギルド長がお会いになるそうです。ご案内しますのでこちらへどうぞ。」

双子の姉弟は、受付のお姉さんに案内されるがままに、冒険者ギルド内の建物の奥へと通されていった。



「私はこの街でギルド長を務めておりますケイネルと申します。以後、お見知りおきを。」

双子の姉弟は、ギルド長の部屋に通されるとソファに座らされて、お茶と茶菓子を出されてもてなされていた。

「えーと僕達、魔獣の買い取りを行っていただきたいだけです。ギルド長さんの部屋に通されても何もお話はないです。」

「いえいえ、そちらには無くてもこちらには大有りです。」

「冒険者証と許可証を発行したギルド長からのメッセージを確かに受け取りました。まさか神殿の方がこのギルドにお越しくださるとは夢にも思いませんでした。」

「しかもこの街の近くにある森、今は通称"ゴブリンの森"と呼んでいますが、あそこのゴブリンキングには手を焼いていました。そのため明日の朝には王国軍の500人の兵士と10人の騎士が討伐に向かう手筈になっていました。それに我々もゴブリンの正確な数は把握できていません。」

「それは申訳ないことをしたかもです。何も知らなかったとは言え横から手柄を横取りしてしまった形になって申訳ありません。」

「でも、勝手ながらおふたりのステータスを鑑定で確認させていただきましたが、冒険者のランクはFランクとなっています。でもそれでゴブリンキングを倒せるほど魔獣討伐は甘くはありません。」

「ええ、そうです。実は、左腕に付けているこの腕輪のせいです。これは"化けの皮の腕輪"というバカにしたような名前の腕輪なんですが、これでFランクの冒険者程度のステータスに見えるようにしているんです。」

「試しにこの腕輪を外してみます。」

男の子は"化けの皮の腕輪"を外して見せると、ギルド長に鑑定でステータスの確認をお願いした。

「では、失礼して鑑定をさせていただきます。えーと、えっ、えっ。…。」

冒険者ギルドのギルド長は、鑑定の結果を確認して唖然としてしまった。

「たっ、確かに種族が"火龍"…。もっ、申訳ありません。他言無用でした。許可証にあった連絡
事項にもありました。」

「しかも狩った魔獣の数や種族から鑑みると、冒険者のAランクを優に超えています。」

「僕達は、人族から見たら10歳前後の子供に見えます。そして本当の種族としてもまだ20歳程度の子供です。なので姉から修行を積んで来い、世界を旅して見分を広めて来いと神殿を追い出されたんです。酷い姉ですよね。」

「何をおっしゃいます。龍神様のご威光です。決してそのよう言い方をしてはいけません。」

「お姉さまである龍神様は、水神様と並んでこの世界を守る守護者のおひとりなのです。そのお姉さまがおふたりを立派な火龍、しいては龍神にするために幼いおふたりを泣く泣く修行に出されたんだと思います。そんなふうに言ってはいけません。」

"コンコン"。

「失礼します。」

ギルド長の部屋に先ほど受付カウンターに座っていたお姉さんが何やら小さな袋を持って入ってきた。

受付のお姉さんから手渡された小さな袋を手渡されたギルド長は、袋の中を確認するとその袋を僕達の前へと差し出した。

「では、こちらがクエストの報奨金の金貨50枚になります。」

ふたりは、テーブルの上に差し出された小さな袋を開けると金貨を数え始めた。

「たしかに金貨50枚あります。受け取りました。」

「では僕達は、この街の教会で修行を行う予定でいますので、魔王が現れたとか邪龍が現れたとかもう世界の終わりみたいな事があればお声をかけてください。」

「ははは。魔王に邪龍ですか。冗談にも…まさか、本当なんですか。」

ギルド長は、額からひとすじの汗を流していた。さっきまでの社交辞令の笑みは消え、真剣な表情へと変わっていた。

「冗談です。姉じゃあるまいし、魔王と闘うなんて一生に一度でもいやですよ。」

「えっ、という事は。」

「はい。姉は魔王軍と4度ほど闘った経験があると言っていました。その闘いの中で魔王とは2度闘ったそうです。」

「笑えません。そんな話を冗談話にもできません。恐ろしすぎます。」

「そうですね。失礼しました。」

僕達が冒険者ギルドの館を出る時には、ギルド長みずからが冒険者ギルドの館の入り口まで出向い
て送り出してくれるという手厚い歓迎ぶりだった。

「なんか、あそこまでされると照れるね。」

「だめよ真に受けちゃ。あれは私達に対して挨拶をしているんじゃなくて、大きい姉さんに対してしているのよ。
私達の後ろには、絶えず大きい姉さんの姿があると思わないと。」

「そうだね。僕達はまだこの世界では何ひとつ成し遂げてないいんだものね。」

そんな話をしながらこの街の教会へと向かうため大通りを歩いていると。

「ねえ、君たち。冒険者ギルドでずいぶん大金を貰ったようじゃないか。子供がそんな大金を持っていたら危ないから僕が預かってあげるよ。」
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