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18.火龍の神殿
18.村の盗賊(その1)
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神殿に手紙が届いた。
みすぼらしい布に書かれた拙い字だった。
「ぼくはペチン村に住んでいます。」
「ぼくの村の近くには盗賊がいて、畑で取れた野菜を奪っていきます。」
「家畜を連れていっては、食べてしまいます。」
「もう村には、食べる物が殆どありません。」
「どうか、火龍神殿の火龍様、僕の村を助けてください。」
手紙を読んだ神官は、直ぐに手紙をベティに見せた。
「ほう盗賊か。このペチン村というのはどこじゃ。」
神官が、地図を出して指さしたが、そこには村らしきものは描かれていなかった。
「以前、魔獣退治に村々を回った時に、ある村の地図に描かれていました。」
「その村ですらかなりの僻地でした。そこからさらに奥に村があると言われて驚いた記憶がありますが、人は住んでいないと聞いたような…。」
ベティは考え込んだ。
「そうか、まだ魔獣退治に行っていない村があったか。」
「最近は、魔獣退治の新しい依頼もないからな。ちと行ってくるかの。」
ベティが槍をひとつ持って神殿の外に向かって歩き出したので、神官が慌てて止めに行った。
「ベティ様、お待ちください。ベティ様ひとりでは行かせられません。それにその村の場所は隣国との国境に近く、分かり難い場所にあります。私も同行させてもらいます。」
「今回は、その村だけを目指すぞ。じゃから裏山で火龍になってさっと行ってさっと帰ってくる。美味い物は食えぬがよいのか。」
「ベティ様、まるで私が魔獣退治に同行するのは、美味い物が目当てのよう聞こえましたよ。」
神官の頬が大きく膨らんでいた。
「なんじゃ違ったのか。では男か、神官などやっておるから男に興味がないのかと思っておったが角に置けないのお。」
「違います。さあ。ベティ様、さっと行ってさっと帰ってくるのでしょう。急いでまいりましょう。」
そう言うと神官は、ベティの手を引いて神殿の外へと向かった。
ベティは、神官を背中にのせると風魔法"フライ"で神殿から飛び立ち、いつもの洞窟へと向かった。
洞窟に到着すると、ベティはアイテムバックからローブを取り出して神官に渡した。
「クレアよ、お主はこれを着ておれ。これからわしは火龍に変身するが驚くでないぞ。」
「それと火龍の姿で飛ぶ時は雲の上を飛ぶが、あそこはかなりの寒さじゃ。じゃからこのローブを着ておれ。それとな、飛んでおる間はこの槍を持っておるのじゃ、落とすでないぞ。」
そう言うとベティはクレアの前で火龍に変身した。
ベティが火龍に変身するところを見たのは、これが初めてではないが、やはり火龍がベティだと分かっていても恐怖を感じてしまう。
ベティは、クレアを手で抱きかかえると羽ばたいて洞窟を出て空高く舞い上がった。
あっという間に火龍(ベティ)は、雲海の上を飛んでいた。
クレアは、見たことのない雲海の上を飛んでいる光景に目を奪われた。
空の上ではこんな光景が広がっていたんだ。思わず感動して涙を流していた。
クレアの感情の高ぶりが治まったころにあることに気が付いた。
雲海の上は、とても寒かった。
神殿は、あんなに温かかったはずなのに、空の上とはこんなに寒いところなのか。
クレアは、ベティに手渡されたローブの襟口を閉じて寒さを我慢した。
すると飛龍(ベティ)が他方の手でクレアを囲って風邪よけを作ってくれた。
やはり、ベティ様は優しかった。
クレアは、ベティへの感謝の気持ちでいっぱいになった。
火龍(ベティ)が今までに行った最も遠い場所にある村の上空にやって来た。
目的のペチン村は、ここからさらに森と山を越えた先にあるらしい。
火龍(ベティ)は、飛ぶ高度を下げて山間を縫うように飛んだ。
やがて火龍(ベティ)の手の上に乗っていたクレアが、手で合図をした。
山間に小さな村が見えてきた。
火龍(ベティ)は、森の中に着地すると火龍の姿から人の姿へと変身した。
「ベティ様、ペチン村は、先ほど飛んでいる時に見えたあの村だと思います。」
ベティとクレアは、ペチン村へと向かって歩いて行く。
"探査"で村人と盗賊を探してみたが、村人の様子が少しおかしい。
ベティは立ち止まった。
「ベティ様、どうしたのですか。」
「いや、畑が荒れ放題だな。いくら盗賊が出るといってもここまで畑が荒れていたら何の作物も育たんぞ。」
「たしかにそうですね。」
クレアは、畑の作物が荒れ放題で殆ど実っていないことにようやく気が付いた。
「クレアよ、我らははめられたかもしれんぞ。」
「そんな…。」
クレアは、慌ててあたりを見回したが、周りには人の気配は感じられなかった。
「ベティ様、槍をどうぞ。」
クレアは、預かっていた槍をベティに渡した。
「でもベティ様を騙してどうするのでしょう。」
「200年前に先代の火龍殿が神殿を後にした理由は知っておるか。」
「はい、お隣りの国の勇者様が、龍退治と言って神殿の火龍様に何度もちょっかいを出してきたとかで、それが目に余る行為に及んだことに腹を立てて火龍様は何処かに行ってしまわれたと。」
クレアは、昔の言い伝えを思い出してベティに話した。
「そやつらが、何世代にも渡って残っていたらどうする。」
「ベティ様を…、そんな。」
「そうじゃ、もうわしらは囲まれておる。」
「わしは火龍じゃから最後は火龍となって飛んで逃げることもできるが、クレアよ、もしお前を守れなかったら許してくれ。」
「ベティ様、そんなこと言わないでください。私はベティ様といつも一緒です。」
みすぼらしい布に書かれた拙い字だった。
「ぼくはペチン村に住んでいます。」
「ぼくの村の近くには盗賊がいて、畑で取れた野菜を奪っていきます。」
「家畜を連れていっては、食べてしまいます。」
「もう村には、食べる物が殆どありません。」
「どうか、火龍神殿の火龍様、僕の村を助けてください。」
手紙を読んだ神官は、直ぐに手紙をベティに見せた。
「ほう盗賊か。このペチン村というのはどこじゃ。」
神官が、地図を出して指さしたが、そこには村らしきものは描かれていなかった。
「以前、魔獣退治に村々を回った時に、ある村の地図に描かれていました。」
「その村ですらかなりの僻地でした。そこからさらに奥に村があると言われて驚いた記憶がありますが、人は住んでいないと聞いたような…。」
ベティは考え込んだ。
「そうか、まだ魔獣退治に行っていない村があったか。」
「最近は、魔獣退治の新しい依頼もないからな。ちと行ってくるかの。」
ベティが槍をひとつ持って神殿の外に向かって歩き出したので、神官が慌てて止めに行った。
「ベティ様、お待ちください。ベティ様ひとりでは行かせられません。それにその村の場所は隣国との国境に近く、分かり難い場所にあります。私も同行させてもらいます。」
「今回は、その村だけを目指すぞ。じゃから裏山で火龍になってさっと行ってさっと帰ってくる。美味い物は食えぬがよいのか。」
「ベティ様、まるで私が魔獣退治に同行するのは、美味い物が目当てのよう聞こえましたよ。」
神官の頬が大きく膨らんでいた。
「なんじゃ違ったのか。では男か、神官などやっておるから男に興味がないのかと思っておったが角に置けないのお。」
「違います。さあ。ベティ様、さっと行ってさっと帰ってくるのでしょう。急いでまいりましょう。」
そう言うと神官は、ベティの手を引いて神殿の外へと向かった。
ベティは、神官を背中にのせると風魔法"フライ"で神殿から飛び立ち、いつもの洞窟へと向かった。
洞窟に到着すると、ベティはアイテムバックからローブを取り出して神官に渡した。
「クレアよ、お主はこれを着ておれ。これからわしは火龍に変身するが驚くでないぞ。」
「それと火龍の姿で飛ぶ時は雲の上を飛ぶが、あそこはかなりの寒さじゃ。じゃからこのローブを着ておれ。それとな、飛んでおる間はこの槍を持っておるのじゃ、落とすでないぞ。」
そう言うとベティはクレアの前で火龍に変身した。
ベティが火龍に変身するところを見たのは、これが初めてではないが、やはり火龍がベティだと分かっていても恐怖を感じてしまう。
ベティは、クレアを手で抱きかかえると羽ばたいて洞窟を出て空高く舞い上がった。
あっという間に火龍(ベティ)は、雲海の上を飛んでいた。
クレアは、見たことのない雲海の上を飛んでいる光景に目を奪われた。
空の上ではこんな光景が広がっていたんだ。思わず感動して涙を流していた。
クレアの感情の高ぶりが治まったころにあることに気が付いた。
雲海の上は、とても寒かった。
神殿は、あんなに温かかったはずなのに、空の上とはこんなに寒いところなのか。
クレアは、ベティに手渡されたローブの襟口を閉じて寒さを我慢した。
すると飛龍(ベティ)が他方の手でクレアを囲って風邪よけを作ってくれた。
やはり、ベティ様は優しかった。
クレアは、ベティへの感謝の気持ちでいっぱいになった。
火龍(ベティ)が今までに行った最も遠い場所にある村の上空にやって来た。
目的のペチン村は、ここからさらに森と山を越えた先にあるらしい。
火龍(ベティ)は、飛ぶ高度を下げて山間を縫うように飛んだ。
やがて火龍(ベティ)の手の上に乗っていたクレアが、手で合図をした。
山間に小さな村が見えてきた。
火龍(ベティ)は、森の中に着地すると火龍の姿から人の姿へと変身した。
「ベティ様、ペチン村は、先ほど飛んでいる時に見えたあの村だと思います。」
ベティとクレアは、ペチン村へと向かって歩いて行く。
"探査"で村人と盗賊を探してみたが、村人の様子が少しおかしい。
ベティは立ち止まった。
「ベティ様、どうしたのですか。」
「いや、畑が荒れ放題だな。いくら盗賊が出るといってもここまで畑が荒れていたら何の作物も育たんぞ。」
「たしかにそうですね。」
クレアは、畑の作物が荒れ放題で殆ど実っていないことにようやく気が付いた。
「クレアよ、我らははめられたかもしれんぞ。」
「そんな…。」
クレアは、慌ててあたりを見回したが、周りには人の気配は感じられなかった。
「ベティ様、槍をどうぞ。」
クレアは、預かっていた槍をベティに渡した。
「でもベティ様を騙してどうするのでしょう。」
「200年前に先代の火龍殿が神殿を後にした理由は知っておるか。」
「はい、お隣りの国の勇者様が、龍退治と言って神殿の火龍様に何度もちょっかいを出してきたとかで、それが目に余る行為に及んだことに腹を立てて火龍様は何処かに行ってしまわれたと。」
クレアは、昔の言い伝えを思い出してベティに話した。
「そやつらが、何世代にも渡って残っていたらどうする。」
「ベティ様を…、そんな。」
「そうじゃ、もうわしらは囲まれておる。」
「わしは火龍じゃから最後は火龍となって飛んで逃げることもできるが、クレアよ、もしお前を守れなかったら許してくれ。」
「ベティ様、そんなこと言わないでください。私はベティ様といつも一緒です。」
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