上 下
96 / 169
14.魔王を討伐します

08.教会の行く末。(その2)

しおりを挟む

神官達は、城壁の門にある兵士の詰め所にやってきた。
兵士が城門の周りで慌ただしく動いていた。

「城下に転移門とかいうのが現れたらしいが、何のことか分かるか。」

「一介の兵士である俺が知る訳ないだろう。魔術師様にきいてくれよ。」

「すまん。聞いた俺が間違ってた。」

神官の耳に兵士達の会話が聞こえてきた。
転移門、以前魔術書で読んだことがあった。
空間魔法で作りだすことができる門で、A地点とB地点を結ぶ門を空間魔法で作りだすというものだ。
A地点からB地点へ移動するなら転移石なり転移結晶というアイテムもあるが、両方とも対象は"個"であって"多"ではない。
転移門は、A地点とB地点の空間を繋げるとそれを維持し続けるため、空間魔法でも最上級に分類される最高位魔法のはず。
そんな魔法を操れる魔術師なんて王国魔術院の魔術師にもいないはずだ。
それがこの城下に現れたのか。
魔術書の内容を思い出す。
"転移門を操り、他国へ大量の兵隊を送る"とあったはず。
つまりこの王国と戦争をしている国、或いは戦争をしていた国がこれから大量の兵隊を送り込もうとしているということなのか。

そのことを、同じグループの神官達と神官兵に伝えた。
皆、驚愕していた。

「その転移門とかいうのが城下に現れたということは、城塞の内部から敵が現れるといことですか。そんなことになったらこの王都は終わりです。城塞は、外からの敵に対しては堅牢ですが、内部からの攻撃には脆いんです。」

神官兵は、慌てて城塞の利点と欠点を説明した。

「とにかく、その転移門とかいうのがどこに現れたのか兵士に聞かないと。」

神官がそう言って兵士に転移門が現れた場所を聞き出そうとした直後だった。
城門から城下に続く道の先から怒号と悲鳴が聞こえてきた。

「始まったようです。まずいですよ。城門を守る兵士の数がいつもよりかなり少ないです。」

神官兵のひとりが動く兵士の頭数を確認して兵士の少なさを指摘した。

「あれはオーガです。ミノタウロスもいます。ということは魔族国です。」

「俺達やこの兵士の数では太刀打ちできないですよ。」

神官兵は、端的に戦力分析を行って悲惨な戦力差を導きだした。

「神官殿、この城門を守る兵士達のところに魔獣が攻めてきたら1分も持たないと思います。」

「俺達は、生きる算段をする必要があります。変な義務感に駆られて兵士と一緒に戦うのもいいですが俺達は戦力じゃないです。むしろ闘いをやり過ごして生き残った人を救う方が賢明と思います。」

神官達は、皆この神官兵の話に賛成した。
城壁には、いくつかの退避豪が存在する。
そのうちのひとつに皆で入る。
城下で起きている闘いの音は聞こえてこないが、退避豪の中には兵士がひとりもいなかった。

「この部屋がいいです。」

神官兵は、扉が異様に分厚い部屋を指さして、皆をその部屋へと誘導した。
すると、何やら袋を取り出しきつく縛った袋の紐を解き、扉の前にばらまき始めた。
さらに扉の外側にも袋の中身を塗り始めた。
辺りには得体のしれない嫌な臭いが立ち込め始めた。
神官兵は、部屋の厚い扉を閉めて鍵をかけ、皆の前に袋を出して見せた。

「この袋の中身は、魔獣の糞です。これを扉の前にばらまいて扉にも塗りたくってきました。」

「おそらく、魔獣はこの糞の臭いで俺達の臭いが分からなくなるはずです。」

「俺、昔兵士もやっていたし、冒険者だったこともあるんです。逃げ足ばかり早くてあまりいい結果が出せなくて今は神官兵をやって食いつないでいます。」

こういった時に転機のきく者がいて助かったと皆思った。
この部屋には、小さな窓があって通路から入ってくる者が分かるんです。
部屋の明かりさえ灯さなければ通路からは、部屋に人がいることが分からないはずです。

小窓を覗くと通路で数人の兵士が剣を抜いて戦っているのが見えた。
相手はオーガだった。
兵士は次々と倒されて通路に横たわっていく。

オーガが通路の一番奥にある部屋の扉の前まで来た。
オーガが部屋の扉に手をかけようとした時だった。
ふー。
オーガは鼻から大きく息を吐き出して入り口の方向へ去っていった。
オーガは臭いに我慢できず部屋の中を全て確認せずに帰っていったのだ。
オーガから身を守ることに成功した。
皆よろこんでいた。

「皆さん、あまり喜んでばかりいられません。いくら糞が臭いとはいえ、そのうち臭いはなくなります。」

「糞の臭いがなくなれば、人の臭いであいつらは俺達が隠れていることが分かるはずです。それまでに次の行動を考えてください。もし、糞の臭いがなくなるまでに戦いが終わったら命拾いしたということになります。」

「望み薄かもしれませんが俺は、"バーラ"の城塞都市で魔族軍を数名で蹴散らした冒険者達を見ました。勇者様ですら太刀打ちできなかった魔族軍に打ち勝った冒険者の方々がこの城下にいたら、もしかすると助かるかもしれません。希望を持って行きましょうや。」

逃げ足だけが速いと言っていた経験の豊富な神官兵に助けられた神官達だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔術師セナリアンの憂いごと

野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。 偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。 シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。 現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。 ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。 公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。 魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。 厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

処理中です...