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14.魔王を討伐します
08.教会の行く末。(その2)
しおりを挟む神官達は、城壁の門にある兵士の詰め所にやってきた。
兵士が城門の周りで慌ただしく動いていた。
「城下に転移門とかいうのが現れたらしいが、何のことか分かるか。」
「一介の兵士である俺が知る訳ないだろう。魔術師様にきいてくれよ。」
「すまん。聞いた俺が間違ってた。」
神官の耳に兵士達の会話が聞こえてきた。
転移門、以前魔術書で読んだことがあった。
空間魔法で作りだすことができる門で、A地点とB地点を結ぶ門を空間魔法で作りだすというものだ。
A地点からB地点へ移動するなら転移石なり転移結晶というアイテムもあるが、両方とも対象は"個"であって"多"ではない。
転移門は、A地点とB地点の空間を繋げるとそれを維持し続けるため、空間魔法でも最上級に分類される最高位魔法のはず。
そんな魔法を操れる魔術師なんて王国魔術院の魔術師にもいないはずだ。
それがこの城下に現れたのか。
魔術書の内容を思い出す。
"転移門を操り、他国へ大量の兵隊を送る"とあったはず。
つまりこの王国と戦争をしている国、或いは戦争をしていた国がこれから大量の兵隊を送り込もうとしているということなのか。
そのことを、同じグループの神官達と神官兵に伝えた。
皆、驚愕していた。
「その転移門とかいうのが城下に現れたということは、城塞の内部から敵が現れるといことですか。そんなことになったらこの王都は終わりです。城塞は、外からの敵に対しては堅牢ですが、内部からの攻撃には脆いんです。」
神官兵は、慌てて城塞の利点と欠点を説明した。
「とにかく、その転移門とかいうのがどこに現れたのか兵士に聞かないと。」
神官がそう言って兵士に転移門が現れた場所を聞き出そうとした直後だった。
城門から城下に続く道の先から怒号と悲鳴が聞こえてきた。
「始まったようです。まずいですよ。城門を守る兵士の数がいつもよりかなり少ないです。」
神官兵のひとりが動く兵士の頭数を確認して兵士の少なさを指摘した。
「あれはオーガです。ミノタウロスもいます。ということは魔族国です。」
「俺達やこの兵士の数では太刀打ちできないですよ。」
神官兵は、端的に戦力分析を行って悲惨な戦力差を導きだした。
「神官殿、この城門を守る兵士達のところに魔獣が攻めてきたら1分も持たないと思います。」
「俺達は、生きる算段をする必要があります。変な義務感に駆られて兵士と一緒に戦うのもいいですが俺達は戦力じゃないです。むしろ闘いをやり過ごして生き残った人を救う方が賢明と思います。」
神官達は、皆この神官兵の話に賛成した。
城壁には、いくつかの退避豪が存在する。
そのうちのひとつに皆で入る。
城下で起きている闘いの音は聞こえてこないが、退避豪の中には兵士がひとりもいなかった。
「この部屋がいいです。」
神官兵は、扉が異様に分厚い部屋を指さして、皆をその部屋へと誘導した。
すると、何やら袋を取り出しきつく縛った袋の紐を解き、扉の前にばらまき始めた。
さらに扉の外側にも袋の中身を塗り始めた。
辺りには得体のしれない嫌な臭いが立ち込め始めた。
神官兵は、部屋の厚い扉を閉めて鍵をかけ、皆の前に袋を出して見せた。
「この袋の中身は、魔獣の糞です。これを扉の前にばらまいて扉にも塗りたくってきました。」
「おそらく、魔獣はこの糞の臭いで俺達の臭いが分からなくなるはずです。」
「俺、昔兵士もやっていたし、冒険者だったこともあるんです。逃げ足ばかり早くてあまりいい結果が出せなくて今は神官兵をやって食いつないでいます。」
こういった時に転機のきく者がいて助かったと皆思った。
この部屋には、小さな窓があって通路から入ってくる者が分かるんです。
部屋の明かりさえ灯さなければ通路からは、部屋に人がいることが分からないはずです。
小窓を覗くと通路で数人の兵士が剣を抜いて戦っているのが見えた。
相手はオーガだった。
兵士は次々と倒されて通路に横たわっていく。
オーガが通路の一番奥にある部屋の扉の前まで来た。
オーガが部屋の扉に手をかけようとした時だった。
ふー。
オーガは鼻から大きく息を吐き出して入り口の方向へ去っていった。
オーガは臭いに我慢できず部屋の中を全て確認せずに帰っていったのだ。
オーガから身を守ることに成功した。
皆よろこんでいた。
「皆さん、あまり喜んでばかりいられません。いくら糞が臭いとはいえ、そのうち臭いはなくなります。」
「糞の臭いがなくなれば、人の臭いであいつらは俺達が隠れていることが分かるはずです。それまでに次の行動を考えてください。もし、糞の臭いがなくなるまでに戦いが終わったら命拾いしたということになります。」
「望み薄かもしれませんが俺は、"バーラ"の城塞都市で魔族軍を数名で蹴散らした冒険者達を見ました。勇者様ですら太刀打ちできなかった魔族軍に打ち勝った冒険者の方々がこの城下にいたら、もしかすると助かるかもしれません。希望を持って行きましょうや。」
逃げ足だけが速いと言っていた経験の豊富な神官兵に助けられた神官達だった。
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