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家族になった人族のポムと魔族のポム

31.魔術師ポムさん

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ポムさんの料理力が壊滅的で落ち込んでいたからという訳でないみたいだけど、榊さんがポムさんの魔術を見たいと言うので、"ココ"の街の外に来ています。

ポムさんは、意気揚々と草原を歩いていきます。

「さあ、魔獣さん達、私に倒されるために出てきなさよ。痛くしないから早く出てきないさい。」

ポムさんは言っていることが矛盾しています。でも配達の時よりも、ご飯を食べる時よりもすごく
元気です。

「ポム君は、回復魔法と治療魔法が特なんだよね。」

「はい、その変わりポムさんの様な攻撃魔法はぜんぜん使えないんです。」

「でも、回復魔法も治療魔法もないと困る大切な魔法だからね。攻撃魔法が使えるからって偉い訳じゃないからね。」

榊さん、僕の事を励ましてくれているのかな。それとも本当にそう思ってくれているのかな。
もし、本当にそう思っているなら嬉しいや。

「おっ、ゴブリン3体発見、では、お姫様がゴブリンを退治いたします。特とご覧くださいませ。」

ポムさんは、魔法の詠唱なしにゴブリン3体に対して同時に火魔法を放ちました。

ゴブリンも流石に僕達の存在に気付いたのか、数で負けていると分かった途端、一目散に逃げて行きます。

でも放った火魔法は、逃げるゴブリンに向かって飛んでいきます。

ゴブリンが右に逃げれば右に飛び、左に逃げれば左に飛びます。

やがて、火魔法が3体のゴブリンに命中するとゴブリンの全身が火に包まれて燃え上がり、やがて燃え尽きて草原に倒れ込みました。

「ちょっとこの娘、自分からお姫さって言ったわね。なんて図々しい娘かしら。でも前から無詠唱で魔法は放てるのよ、魔法の素質があるから憎たらしいのよぉ。」

悪魔先生は、口は悪いけどポムさんの事は以外と買っているようです。なので、文句も言うけど面倒も見てくれます。

「私の魔法は、こんなもんじゃないわよ。さあ、魔獣達、私に倒されるために出てらっしゃい。」

でも、待っている時にひょいひょい出てくる程、魔獣も暇ではないようです。

「あれ、魔獣が出てこないわね。私の活躍が見せられないじゃないの。」

結局、いくら待っても"ココ"の街の近くの草原に魔獣に魔獣は出てきませんでした。

なら、場所を変えようと榊さんからの提案へと移動することになりました。

森の近く草原にポムくんは悪魔先生にお姫様だっこで、ポムさんは榊さんにお姫様だっこで風魔法フライで空を飛んで移動しました。

悪魔先生は、ポムくんをだっこして飛んでいる間中、ずっともだえ苦しんでいました。

ポムくんはどうすればいいのか困りながらも、以前のように強引にキスを要求してこなくなった悪魔さんを無碍にもできず、ただただ困り顔でいました。

悪魔さんは、ポムくんのその困った顔を見ているだけで、今に襲いたくなる衝動を必死に堪えていました。もう悪魔さんは爆発寸前でした。

森の近くの草原にみんなで着地すると、悪魔さんだけは地面に両手と両足を付いて息も絶え絶えで喜んで…いえ、苦しんでいました。

「はあはあ、榊さん、悪いけど帰りは、そこの態度の悪いお姫様をだっこしていくわぁ。」

「私、耐えられないかもしれないのぉ。」

榊さんは、地面に四つん這いになってもだえ苦しんでいる悪魔さんの肩にそっと手を乗せると言いました。

「わかってる。わかっているさ。よく我慢したね。あなたは誇りある悪魔の中の悪魔だ。従者がご主人様を襲ったら他の悪魔になんて言われたか分からなかったと思う。あなたは誇り高き最高の
悪魔だ。」

「さかきさあん!」

悪魔さんと榊がんが草原で男同士で抱き合って泣いています。

なんだろう。この前も台所で泣きながらふたりで抱き合っていたけど。

なんか僕が見てはいけない世界なのかな。

「男同士でなにやってんだか。」

ポムさんは、男同士で泣きながら抱き合っているふたりを呆れて見ていました。



「さあ。魔獣さん出てきなさい。おっ、いたいた。トロールじゃない。」

ポムさんは、そう言うとトロールに向かって炎魔法を放ちました。

「ほう、炎魔法ですか…"ココ"の街に撃ち込んだやつと同じ…いやいや何でもない。」

榊さんが急に口ごもって途中で話をするのを辞めてしまいました。ココの街で何かあったのかな。

トロールは、僕達に気がつかないまま草原をゆっくりと歩いていましたが、突然炎の塊が飛んできて全身を包み込んだので慌てて草原に転がって火を消そうとしています。

「あら、トロールのくせに頭を使うなんてずるい、ずるすぎる。」

ポムさんは、草原で転げ回って体の火を消そうとするトロールに、別の魔法を放とうと準備を始めました。

「ぞれじゃ、私の取っておきを行くわね。せーの"光の矢"!」

ポムさんの手に光の矢が現れると、草原で転げ回ってやっと火を消したトロールに向かってその光の矢を放ちました。

それもトロールに真っ直ぐに向かっていかずに、弧を描いて飛んで行きました。

上半身が真っ黒になったトロールが草原から立ち上がったと思った瞬間、胸の背中の真ん中に光の矢が当たりました。

トロールはまた草原に倒れ込みましたが、二度と立ち上がることはありませんでした。

「はーい、炎魔法はいまいちだったけど、光の矢は良かったわよぉ。でも魔獣に二度も魔法を放つのは魔力の無駄よ。炎魔法に魔力をもっと注ぐか、最初から光の矢で倒すようにしなきゃだめよぉ。相手を観察してどれくらいの魔力の魔法であれば倒すことができるか瞬時に判断できないと、最悪反撃されて死ぬことにもなるわよぉ。」

悪魔先生は、ポムさんに何が良くて何が悪かったのか、ちゃんと説明しています。

僕は、悪魔先生は口が悪いだけゃなく、先生としてしっかり教えているんだと思いました。

「ほお、ポムさんの魔法いいですね。それに悪魔さんの教え方もいいですよ。」

榊さんはそう言いうと少し考え込んでいました。

「悪魔さん、それとポムさん、おふたりにご相談があります。とりあえず、家に帰ったらお話しましょう。」

榊さんが何か大事なお話があるようです。



ココの街の榊さんの家へと戻ると、皆を居間のソファに座るように促しました。

榊さんがお茶とお菓子をだすと、ポムさんが真っ先にお菓子に飛びつきました。

「もう、この娘は食い意地が張ってるわね。私、親代わりとして恥ずかしいわぁ。」

「ちょっと、悪魔さんがいつから親代わりになったのよ。そんなの初めてきいたわ。」

「あら、知らなかったの。年長の私がふたりの親代わりなのは当然でしょう。」

「うー、そう言われると反論できない。くやしー。」

悪魔さんとポムさんの会話を聞いて榊さんは笑っていました。

でも僕は、笑う事ができませんでした。僕のお父さんもお母さんも既に死んでいます。

僕にはもう親と呼べる人はいません。

でも、悪魔さんといると大変な事もあるけど、安心できることも沢山あります。

何だろう、これが家族なのかな。ポムさんや悪魔さんと一緒に暮らしていてそんな事を考えた事もなかったけど…そうか形は違うけどこれも家族なのかな。なんかそんな事を考えてしまいました。

みんなで茶を飲みお菓子を食べながら、榊さんがお話を始めました。

「先ほど、ポムさんの魔法を見せてもらいました。ポムさんは料理は破壊的でした。でも魔法は合格です。これならお願いできそうです。」

「相談とうのは、この国には、魔術院という魔術の研究や魔術師を育てる国の機関があるんですが、そこにいる魔術師が極端に少ないのです。」

「この前の戦争で魔術師の殆どが犠牲になってしまったため、新しい魔術師を探しているのです
が、探して見つかるほど簡単ではありません。」

「でも、目の前にひとりいい人材を見つけました。ポムさんぜひこの国の魔術院の魔術師になってはもらえませんか。」

僕には、難しいことはよく分からないけど、ポムさんが魔術で働くことができるならすごいと思う。

「えっ、えっ、でも私は、ポムくんと食材の配達の仕事があるし。どうしよう。」

「それにポムくんとは別れるのは…いや。」

ポムさんは、ポムくんの事が気になって返事をする事ができないようです。

「今すぐ返事をする必要ないよ。時間はあるから考えてみてよ。」



「さて、もうひとつの話です。悪魔さん。悪魔さんも魔術院で働いてみませんか。」

「悪魔さんにお願いしたいのは、若い魔術師達へ魔法を教える先生役です。」

「毎日、魔術院に来てもらう必要はありません。たまに気が向いた時にきて、若い魔術師に得意の魔法を見せて"少し自慢"をして、"少しアドバイス"をしてあげていただきたいのです。」

「この"少し"が大事です。あまり自慢しすぎると誰もついてきませんし、難しい事をいきなり言ってもやはり誰もついてこれないでしょう。」

「"少し"頑張ればできそうなことをやって見せて、そしてアドバイスしてあげれば、皆悪魔先生を"神"いえ"大悪魔"として皆が慕うことになるでしょう。」

「"大悪魔"、私が"大悪魔"なの。」

「人は、行いによって"神"にも"悪魔"にもなりますが、神だから全てが"善"、悪魔だから全てが"悪"とは限りません。」

「悪魔先生は、ポムくんやポムさんに魔法を教えています。現実にそれが人のために役にたっています。」

「それに、魔術院で働くと"肩書"という物が手に入ります。」

「人は"肩書"に弱いのです。例えばその肩書ひとつあるだけで、新しい料理や食材を探す旅に出たとしても、絶対に教えてもらえないレシピが手に入るかもしれません。珍しい食材を教えてもらえるかもしれません。肩書ひとつでこんな美味しい事が簡単にできるなら、少しの煩わしいことなど、どうでもいいと思いませんか。」

「料理は、レシピを知っているだけでは美味しいものはできません。一度作ったくらいでは美味しい料理はできません。何度も作って料理を自分の2もの"にして初めて美味しい料理ができます。」

「悪魔さんには、僕のレストランの料理コーディネーターをお願いした件もありますが、料理をするために少しだけ煩わしい仕事を引き受けてもらう、その変わり手に入れた肩書で料理の研究の輪を広げる。どうでしょうか。お考えください。」

「きっと、悪魔さんの新作料理をポムくんが美味しいと言ってくれること間違いなしです。」

「…あんた、話が上手ね。なんか騙された気がするけど騙されてあげてもいいわぁ。けど…」

「少し考えさせて。」

榊さんの口元がほころんでいます。悪魔さんを上手くお話に乗せることができたようです。

「はい、では皆さんのために作っておいたとっておきの料理があるので、それをお出しします。」

そいう言うと榊さんが、台所から人数分の料理を持ってきました。

「あなた、ずるいわね。さっきの話を聞かされて美味しそうな料理を目の前に出されたら、もうやりますって言うしかないじゃないのぉ。」

「こういうことは、仕込みが大事です。料理も工夫と手間(仕込み)と少しの愛情が大切ですよね。」

みんなテーブルに並べられた料理を美味しそうに食べ始めました。

「この料理は、この前見せてもらったレシピの中には無かったわね。」

さすが悪魔さんです。レシピ集を1回見ただけでレシピの内容を全て覚えたと言っていたのは本当だったようです。

「はい、他にもあのレシピ集には書いていないない料理が沢山あります。あれはほんの一例です。」

悪魔さんと榊さんがテーブル越しににらみ合っています。

悪魔さんの目力はすごいです。でも榊さんの目力も負けていません。

しばらくすると、悪魔さんと榊さんがテーブル越しに握手を交わしました。

僕には、このふたりの行動がたまに分からなくなります。

これが、男同士の友情というものなんでしょうか。

でも悪魔さんって男って言っていいのかな。僕にはよく分かりませんでした。

そんな事などお構いなしにポムさんは、食べきれない程の料理をお皿いっぱいに盛って一生懸命食べていました。

何よりも食い気が勝ったポムさんでした。
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