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9、罰ゲームはおわり

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「あ」

 帰ろうと昇降口から出ようとしたら、凛くんが立っていた。

「このちゃん。あの‥‥‥!ちょっ、逃げないで!」

 ちょっと今は顔が見たくなくて全速力でにげることを選んだけど、普通に凛くんに追いつかれてしまった。
 ちょっとヤダ。

「なんですか?別れ話ならわざわざしなくて大丈夫です。もうわかっているし、そもそも私だってもう潮時だと思っていたから」
「ちょっと待って。別れ話じゃないし、一回落ち着いて?」

 別れ話じゃないなら何なのか。
 今の私たちの間にそれ以外に話すことがあるとは思えなかった。

「今日は俺の気持ち話しに来た。急だけど、誤解されたままなんて嫌だったし、聞いてくれるだけでもいいから逃げないで」

 そんなに切実な顔をされたら断れるはずがないし、そんなことを言われれば私に断る理由はなかった。
 我ながら少し現金かもしれない。

「分かりました。それで、気持ちって?」
「うん。……このちゃんが俺の告白を罰ゲームだって知っていた時は正直驚いた。確かに本当のことだし、君にこの先言う気がなかったのも本当だった」

 ほら、やっぱり。
 凛くんは優しかったけど、私をだまして楽しんでいるような人だったのだ。

「だけど、それには理由があって。ごめん、言い訳みたいだけど本当に好きなんだ。罰ゲームの内容は『好きな人に告白する』っていうやつだったし、俺にとってはただのきっかけみたいなものだった。失礼だって思ったけど、そんなに重要だって思ってなかったのも事実なんだ。ごめん」

 凛くんの口からきいた言葉は私が予想もしてなかったことだった。
 初めて陽莉から話を聞いた時には誰かが誰かを貶めるためについている嘘なんだと信じて疑っていなかったけどまさか全部本当だったなんて。
 私はどうやらずいぶんとめんどくさい勘違いをしていたみたいだった。
 だけど、和人の言葉が脳裏に浮かぶ。
 もし本当に罰ゲームならどんな言葉を並べられても分かれるようにと言い含められていた。
 正直あの時は私もそれが正しいと思っていたけど、ここにきて心が揺らぐ。

「謝ることなんてない。私こそ確認もせずに勝手に勘違いしてて本当にごめんなさい。勝手に傷つけられてたような気がしていただけだから。やっぱり、私とあなた釣り合わないしまた変な勘違いであなたを傷つけるかもしれないから……」

 私の選択はやっぱりノーだった。
 罰ゲームの話だって勘違いしたのは完全に私だったのに頭を下げる凛くんをみて、さらに一緒にいるべきじゃないと確信した。
 ふにゅ。
 私が「別れたほうがいい」と言う前に唇に柔らかい何かが当たった。
 焦点が定まってゼロ距離の凛くんの顔が離れていくのを確認して、やっとキスをされたのだと気が付いた。
 目を閉じることすらできなかった。

「そういうのもうやめたい。このちゃんの遠慮がちなところとか誰かのために自分のための何倍もがんばれちゃうところとか大好きだよ。すごく尊敬してる。だけど、俺にはなくてもいいって思ってるよ。せめて、今だけは本当のことだけ話してほしい。嫌いなら嫌いだと言って、もし何かの奇跡で俺にまだチャンスがあるっていうならそう言って」

 この人の中では私はすごく美化された人間として映っているみたいだった。
 だけど、私の性格を知っていてくれてることやいつもそんな風に思ってくれていたことがうれしかった。

「……好き。本当はすごく好きで別れたくなんてない。サイテーなんて言ってごめん」
「このちゃんっ」

 感極まった凛くんが思いっきり抱きしめてきた。
 視界は真っ黒に覆われて背骨はちょっときしみそうだ。
 この人は本当にあの凛くんだろうか。
 こんなにわかりやすく喜んでくれる人だなんて知らなかった。
 顔をあげたらとろけちゃいそうな笑顔でこっち見てる。
 こんなにも「好き」が分かりやすい人だなんて全然知らなかった。

「俺も好き。別れたくない、可愛い」

 こんなに真正面からかわいいなんて言われることがなくてドギマギしてたらまたかわいいと笑顔をとろけさせた。
 本当に全然知らなかった。
 この人のこんな表情も、本物の恋がこんなに苦くて甘いのも。
 全部、凛くんのおかげだ。
 それにもっと知りたい。
 本物のこの人をこれから知っていきたい。
 このかっこよすぎて可愛くて大切な恋人のことを。








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