君と初恋

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2、偶然の再会

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「意味わかんない! 何が王子よ」
「まあ、まあ。また次があるよ。あんな奴忘れよ」

 昇降口で靴を履き替えていれば後ろを歩いていた隣のクラスの二人組がめちゃくちゃ怒りながら私の横を通り抜けていった。
 一人は学年一かわいいって言われていた子で確か読者モデルをやっているという噂もあった。
 いつも自信たっぷりな顔で校内を歩いている彼女があんなに怒りをあらわにしている姿は珍しい。
 くりくりの瞳にすらっとした手足の美人さんなのにどうやら誰かに振られてしまったみたい。
 私はまだ彼氏ができたことはないから同級生で恋人がいるっていうだけでも驚きだったけど。

「さっきの子、彼氏いたんだね」

 思わず聞こえてきた内容に反応してクラスメイトで一番の親友、向坂《さきさか》瑠衣《るい》に問う。

「白石さんでしょ?有名だよ。凪心そういうの全然知らないよねー」

 瑠衣は大きな瞳をまんまるにして驚いた顔をして見せた。
 確かに私は人のうわさ話とかにはうといし、特に恋愛系の話は全然わからない。恋愛系に関しては噂話どころじゃなくて自分のこともよくわかってないのだけど。
 誰がイケメンかなんて話は正直に言えば興味があるけど、男の子と話すだけで緊張する私にはまだ早いと思う。
 だけど……。
 ふと頭の中にあの彼の笑顔が思い浮かんだ。
 恋とか、一目惚れとかそういうのは経験がないから自分の胸のドキドキとモヤモヤが混ざったこの感じをなんて表現したらいいのかわからない。
 もしかしたら初恋だったかもなんて浮かれた気持ちで口元が緩めば、瑠衣の怪訝な顔と目が合った。
 今にも気持ち悪いと言ってきそうな目だけど、彼女のそういう気負いのない感じが私はとても好きだったりする。

「あ、ほらあの人!」

 思考のかなたに身を沈めかけていた私は瑠衣の二人で話すには少し大きな声で現実に引き戻された。

「何?」
「さっきの子の彼氏! 凪心、話聞いてなかったでしょ」
「うん、ごめん」

 素直に謝ったら肩をパンチされた。
 ごめん、ごめんって適当に流しながらさっき瑠衣が指をさしていたほうに目を向けた。

「えっ!……うん、めい?」
「ん?何か言った?」
「……ううん。な、なんでもない!」

 本当に思わず声が漏れていた。
 隣の不思議そうな顔の瑠衣にかまってあげる余裕もないくらいに驚いて、一瞬呼吸の仕方を忘れたかと思った。
 だって、瑠衣の指さすところ、廊下の少し先であの人が女の子と向かい合って話している。
 この前、私をパニックから救ってくれた神様のような男の子。
 そんな人が私と同じ制服を着て同じ校舎で話をしていることに驚きが隠せない。

「あの人、水瀬みなせ灯里とうりっていうんだけどね。学校一モテるめっちゃ女たらしなんだってー。白石さんも二股かけられてたとか言ってたし。ていうか、こんな廊下の真ん中でけんかなんてしないでほしいよね」

 瑠衣の言葉に私は再び驚かされた。
 女たらし?二股?
 誰に褒められるわけでもない休日の歩道橋で、ためらいなくおばあさんを助けようとしていた人が?お菓子をもらってうれしそうに謙遜していた人が?
 本当にそんなことをするのだろうか?
 でも確かに目の前の彼は女の子と言い合いをしているし、さっきの子の友達も「あんな奴」と言っていた。
 痴話げんかというよりは女の子のほうが一方的に怒っている気もするけど。
 何も知らないけどなんだか全部が信じられずに痴話げんかの風景を凝視していたら彼、水瀬くんとばっちり目が合ってしまった。

「「あ!」」

 正直、何の反応もなしにスルーされると思ってた。
 もちろん、私からしたら助けてくれた恩人だけど向こうからしたら自分が助けたおばあさんの周りでうろちょろしていたくらいの認識しかないだろうと思っていたから。
 だからこそ反応されたことに必要以上にびっくりしてしまって、痴話げんかしていた女の子がすごい勢いでこっちを見た。
 大きくて真ん丸な瞳が印象のかわいらしい子が到底普段はしないであろうすごい形相でこっちを見てくる。
 そりゃあ、そうだ。
 自分が怒っている間に相手が違う方向を見て声をあげたら誰だって振り返るし、なんなら彼女の怒りに火に油を注ぐだけだろう。

「ちょっと!その子誰? 私の話より大事なの」

 案の定、女の子はヒートアップして水瀬くんは参ったという顔をしている。
 今のは完全に水瀬くんが悪いと他人事ように思ったけど、こっちまで申し訳なくていたたまれない。
 それにしても、さっきまで女の子の前で困り顔をしていた彼がこちらに歩いてくる。
 え?え?え?
 オロオロして瑠衣のほうを見たら心底関わりたくなさそうな顔をされた。
 確かに、私がそっち側でもその顔をしている気がするけども。

「この子、俺の彼女だから。……君よりも大事に決まってんじゃん」
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