R18 短編集

上島治麻

文字の大きさ
上 下
162 / 206

56

しおりを挟む
紫苑(しおん)は今、ラブホテルでシャワーを浴びていた。今から致す情事のことを考えながら入念に全身を洗う。その動きはそわそわとしながらも、軽い動作だ。

(今日こそ俺はアレをお願いするんだ……! 今まで恥ずかしくて言えなかったけど、絶対に言う!)

 そのとき、設定していたスマホのタイマーが鳴った。

「やべ、時間!」

 急いで全身の泡を流した紫苑はシャワールームを飛び出して髪を乾かして身なりを整えた。すぐにヤるんだしいいかと思い、パンツを穿いてバスローブを羽織った。


 少しして、スマホにメッセージが届いた。『部屋の前、着きました』簡潔なものだった。まだ少し湿っている髪の毛のまま、胸を高鳴らせて部屋のドアを開ける。

 そこに立っていたのは端正な顔立ちの男。すらっと長い足、モデルと言われても納得する身長。金髪に黒のピアス、デート映えする綺麗系のシャツスタイル。通りすがる人が全員振り向くような、完璧な美貌に笑顔を浮かべるその姿に紫苑は目を奪われて見惚れてしまう。

 しかし男からは営業スマイルがスッと消えていった。

「んだよ、男かよ」
「……は?」

 冷淡な声色だった。紫苑は急に無表情になった男を凝視しながら、ぽかんと口を開けて立ち尽くした。

 そう、この男は"カイ"と言う名前のデリヘル。紫苑はデリヘルを頼んで浮かれていたのだ。正真正銘サイトで見た通りの顔。顔面に惚れて選んだ男だから間違えるわけがない。人気No. 1と書かれていたが、たまたま予約が空いていて運命だと思った。
 なのに飛んできた言葉は挨拶でも取り繕った褒め言葉でもなく「んだよ、男かよ」。想像もしなかった悪態を前に、頭が回るまで時間を要した。

「とりあえず入るぞ。話聞かれんのも嫌だし」

 紫苑の横を通り過ぎて部屋に入った男は、まるで自分の部屋でくつろぐかのようにソファにどっかりと腰かけた。
 呆然とする紫苑の口から、やっと言葉が出てきた。

「……は!? あの、なんですか、男かよって!」
「言った通りの意味。俺、女としかヤりたくないんだよね。だからお前とはヤらない」
「は!? このサイト、男女オッケーって書いてありましたけど!?」
「そりゃルール的にはな。でもゲイはゲイ向けを使うやつが多いだろ。まあ実際バイのキャストもいるけど俺は無理。つか俺の顔って女ウケするから予約はほとんど女で埋まってるわけ。女の指名だけでNo. 1取ってんの。えーと、お前の名前……紫苑、だっけ。可愛い名前だから女かと思ったわ。残念」

 困惑の感情の方が勝っていた紫苑だったが、だんだん状況を理解してきた。悪気が一切感じられないカイに対して、ふつふつと怒りが沸いてくる。紫苑は握り込んだ拳を震わせた。

(さ、最悪だ……なんてやつだ、とんだくそ野郎じゃねえか……! じゃあ女専用のサイトでデリヘルやれよ! 顔は良いしマジでタイプなのに、天は二物も与えないんだな!)

「こんなの、詐欺だ!」
「詐欺したいわけじゃねーよ。ヤらねーんだからちゃんと金は返す。事務所にうまく言って返金処理してもらうし、ホテル代だって俺が出す。それでいいだろ」

 いいだろって、何が。金の問題じゃない。俺はアレをやってもらいたくて、今回こそお願いするんだって勇気を出してお前を頼んだんだ。意味が分からない。

 腹立たしい思いが腹の中でぐつぐつ煮えたぎる。

「次の予約時間まで暇だからそれまでここ居させて。ヤれはしねえけど話くらいはしてやっから」
「〰〰っ、クズ野郎! ヤリチン!」
「なんとでも言え。そんくらいの罵倒じゃ傷つかねーよ」

 カイは紫苑を見向きもせず、スンと冷めた表情でスマホをいじっている。
 これ以上何か言ってもこいつには効かないしどうしようもない。やるせない。ふて寝する子どものように、紫苑はベッドに寝転がって頭から布団を被った。期待していた分、蔑ろにされたショックは大きかった。

「こんな最低野郎だったなんて……期待して損した……」

 丸くなった布団の中から漏れ出る失意の声がどうも気になり、カイはスマホから顔を上げた。

「紫苑くんはさぁ、こういうの呼ぶの初めてだったん?」
「何回かある……彼氏もいたことあるし」

 さっきまでは威勢よく突っかかってきていたのに、ボソボソと沈んだ声色が返ってくる。

「じゃあ何の期待してたの? 俺にどんなことして欲しかったの?」
「言うかバカ」
「ゲイの友達いるしさ、言ってくれたら相性良さそうな人紹介してやれるかもよ?」
「ほんと?」
「ほんとほんと」

 No. 1デリヘルボーイのカイは息をするように嘘をつき演技をする。彼氏のように振る舞い、客に気に入られるため、金を稼ぐための常套手段。ゲイの友達がいるなんてもちろん真っ赤な嘘だ。そもそもカイには友達と呼べる友達はいない。これは金のためじゃない。素直で騙しやすそうなうら若き青年の性癖がなんなのか知りたい、という興味。それに気づかない紫苑は口を開いてしまった。

「……す、寸止めSMプレイ……して欲しかった」
「は?」
「だって! お前のプロフィール、S責めできるって書いてあったから……顔もタイプだし、お前ならいいかもって勇気出したのに……」

 ……カイからの言葉は返ってこない。このクズ野郎、絶対声殺して腹抱えて笑ってやがる。紫苑は口を滑らせてしまったことを後悔した。
 もういい、さっさと追い出そう、と思いベッドから出ようとしたが、布団はカイによって先に引っぺがされた。さっきまでの素っ気ない視線じゃない。見定めるような、小さな熱を持つ視線だった。

「寸止めSMプレイねぇ……」
「んだよ、男に興味ないんだろ。出てけよ」
「どのぐらいのレベルいけんの?」
「ど、どのぐらいって……」

 どれだけ敵意剥き出しで睨まれようが、カイは気にも留めない。紫苑の頭からつま先までを眺めながら、カイはベッドに腰かけた。

「拘束、目隠し、オモチャ責め、言葉責め、羞恥や焦らしプレイ……寸止めは何時間ぐらい耐えれる?」

 カイの目の色は変わっていた。明らかに紫苑に関心を示していた。急に詳しいプレイ内容をまくし立てられ、紫苑は混乱した。

「や、やったことないからわかんない……」
「ふーん……俺も男に、ってのは考えたことなかったな……その手があったか……女が無理なことでも男ならもしかして……」

 カイの呟く声は自分に言い聞かせるためのもので、紫苑には聞き取れなかった。少し考えたカイは淡々と喋りはじめる。

「俺さあ、ガチでSなんだよね。女の子が泣いて叫んで逃げ出そうとするとこを捕まえて縛り付けて、もうやめてイかせてって絶頂懇願するとこ寸止めしまくって、限界まで我慢させたあと、壊れたみたいに何回も何回もイきまくる見るのが好きなの」
「……」
「あ、引いてる?」
「クズだ……」

(普通引くだろ……マジでなんなんだこいつ……いきなりベラベラとえぐい内容喋り出して……でも……)

 紫苑の鼓動は明確に速くなっていた。脳内をカイの言葉が巡って、自分が乱れている姿がチラついて……

「もしかして想像しちゃったりした?」
「し、して、ない……」
「誤魔化すの下手だなぁ。楽しみにしてるとこ悪いけど、もうちょい話させてね」
「だからしてないって!」

 カイは愉快そうにクスクス笑う。急に機嫌良くして笑い出すなんて、おかしい。紫苑はさらに警戒を強める。

「そんな俺にも悩みがあって。SМプレイやってみたいって女はまあ来るわけ。でも女がやってみたいって言うのは軽いやつ。ちょっと縛ってちょっと寸止めするだけで満足なんだって。これでも仕事だし、俺のやりたいようにやったら引かれるどころじゃ済まない。下手したら店に苦情入ってクビかも。だから生ぬるいプレイに付き合ってやってるわけ」
「はぁ……?」
「なあ紫苑くん。寸止め希望なら挿入なくていいよな」
「え?」
「それなら俺が勃たなくても問題ない。お前にちんこがあること気にしなければ、胸の大きさはどうでもいいし、顔は及第点だし、全体的に細くて白いし、なんとかなりそうだな」

 紫苑の理解が追いつかないまま、カイはぶつぶつとつぶやいて自分の中で思考を整理していく。

「え、えと……?」
「ヤってやるよ。紫苑くんご希望の、寸止めプレイ」
「なんでそうなった!?」
「これは仕事じゃなくて、俺の嗜虐心を満たすためだ。金は要らない。挿入はしない。その代わり俺は思う存分、営業も手加減もなしで紫苑くんを責める。紫苑くんは耐える。耐えて耐えてから、イく。どう?」

 悪魔のささやきのようだった。しかし紫苑にしてみれば、願ってもないチャンスだった。さっきカイが言っていたことを実際にしてもらえる。自分の欲の限界を見てみたい。一度しぼんだ期待の風船が再び膨らんでいく。
 出会ってたった数十分しか経ってない、顔が良いだけのクズ男に差し伸べられた手。紫苑は唾を飲み込みながら、その手を取った。

「利害の一致だからな」
「よし、契約完了」

 そんな言い方、本当に悪魔みたいだ。
 紫苑は持ってきていた小さめのボストンバッグをカイに渡す。チャックを開けたカイはにんまりと口角を上げた。中には様々な種類の大人のオモチャが入っていた。

「おお、けっこう本格的~。紫苑くん、マジでヤる気満々だったんだな。こんなにいっぱい用意してさあ、健気だね」
「……っ、何でもいいだろ別に。やるんなら早くやれよ」
「んじゃ、脱いで。まず手枷ね」

 バスローブを脱いでパンツ1枚になった紫苑が差し出した両腕それぞれに枷が嵌められる。簡素な作りだが、自分では解けそうにない。ベッドに押し倒され、枷についているチェーンはベッドボードに繋げられた。バンザイをしているような状態だ。

 紫苑の心臓はドクンと鳴った。

(これ、思ったよりも身動きできない、逃げられない……! やばい、俺、興奮してる……!)

「息荒くなってるよ。しかももう半勃ちでウケる」
「ん……うる、さい……」
「女ならまず乳首責めるけどさ、男ならちんこか?」
「乳首でも、いい……っ」

 なんのオモチャにしようかとカバンの中を探っていたカイは手を止めて、声の主を見やる。赤く染めた顔を手で隠すことができず必死で逸らしている紫苑の姿はカイの予想を上回るほど扇情的だった。

「へぇー、開発済みってことね。んじゃローターだな」

 小ぶりなピンクのローターをふたつ取り出し両手に持ったカイはあぐらをかいて紫苑を覗き込む。カイの香水の匂いが鼻をくすぐる。官能的なムスクの香りにぞくりと性感が高まる。

(い、今からローター責め……されるんだ……♡)

 紫苑の乳首は刺激を待ち侘びてすでにピンと立っている。カイはそこを器用に避け、乳輪へローターを当てた。

 ぶい————んっ♡

「んっ……!♡ んんっ……♡ ふ……♡」

 すぐに甘い声が上がる。弱い振動に紫苑がもどかしそうに身を捩ると、手枷のチェーンも小さく音を立てる。思ったよりもいい反応だ、とカイの嗜虐心がふつふつと温められていく。

「いいよ、我慢せずに思いっきり喘げよ。でも乳輪にしか当ててないのにそんなんで大丈夫かなぁ?」

 ゆっくり滑らせたローターが乳頭の側面に触れる。紫苑は大きな嬌声を上げて腰を跳ねさせた。縛られて動けないこともプラスされ、快楽はいつもより濃厚で重く、あっという間に支配されていく。てっぺんまで到着したローターで乳頭を押し潰されると、さらに声に甘さが増した。

「んあっ!?♡♡ あ♡ あえっ……♡ あ"ぁ〰〰♡♡ ほ、ぁあ〰〰♡♡」
「もう顔とろとろにして……堕ちんの早えなぁ……そんなんでこの先持つ?」

 ぶい〰〰〰〰♡♡ ぶい〰〰〰〰っ♡♡ ぶい〰〰ぶい〰〰〰〰ん♡♡

「あ"、あ"〰〰〰〰?♡ ほっ、ほ、ぅ〰〰〰〰♡♡」

(からだ、勝手にビクビクするっ♡ うまくしゃべれな……っ♡ ちくび、きもちい〰〰♡ 腰に響いてっ♡ 自分でやるのと全然ちがう♡ 人にされるだけで、こんなきもちいの?♡ )

 とめどなく身体に痙攣が走る。乳首から伝わる快楽が全身を支配し、下半身に熱を集め、ボクサーはテントを張る。できる範囲で身体をよじって逃がそうとしても、カイの責めは追ってくる。逃げ道がないまま、快感を与えられ続けている。

「すげえガクガクしてっけど、まさか乳首だけでイけんの?」
「そ……っそれは♡ むり♡ できたこと、ないっ♡ いぃ〰〰♡♡」
「やろうとしてたのかよ。純粋そうな見た目してんのに淫乱なんだな♡」
「んぐぅ〰〰っ!?♡ つよいの♡ だめっ♡ あ、イっ、イっ〰〰……っ♡♡」

 淫乱と煽られ、ベッドに縛り付けられ他人から与えられる、動きが予想できない刺激。その要素が相まって紫苑は乳首だけで達しようとしていた。
 しかし、ローターが乳首から離された。目前だった絶頂は遠ざかっていく。

「おい、イきそうになってただろ。乳首でイけないんじゃねーの?」
「はあっ……はぁ……♡ イっ……イけそう、だったのに……♡ なんで止め……♡」

 紫苑は快感が回りながら冷めていく感覚が切なくて眉を下げる。カイは嘲笑した。

「寸止めしてほしいってそっちが言ったくせに白旗上げんの早すぎ。限界まで溜めんだよ。勝手にイこうとすんな。お前は俺に許可貰えるまでイけないの、分かった?」
「っあ♡ んやぁ♡ またぶるぶる♡ つよぉ♡♡ うぐぅ〰〰ッ♡♡」

 再び乳首がローターで押しつぶされ、紫苑の身体はビクンと弓形に反る。イきそうになったら離され、また当てられ、離され……それが何度も何度も繰り返され、目の前はチカチカと明滅し、イく前の快感が永遠に途切れることなく続いていく。紫苑のパンツは我慢汁ですっかり色が変わっていた。

「期待してた寸止めプレイの感想はどう?」
「おぉ……ッ〰〰♡ あぁ……♡ はっ♡ はっ♡ きもひぃ……♡ これ、だめに、なる……っ♡ んぉ〰〰♡♡ イ、ぐっ……♡ あっ♡ あ……♡ も、イきた……♡ あ〰〰♡♡ イくイくっ……♡ うぁ……また、イけな……♡」
「だからイかせねーって。どんどん感覚短くなってんな」
「もぉむり……♡ イ、かせて……ぇ♡ おねがい……♡」

 拭われることのない涎でまみれた口をぱくぱく開き、焦点が定まらない瞳を潤ませ、紫苑は絶頂を懇願する。憐れで可哀想な姿。カイは口元を歪ませた。

「そうそう、その顔……! それが見たかったんだよ……!」

(思考どろっどろに溶けて何にも考えれなくて、イきたくてイきたくてたまんねぇって顔……! すぐイきそうになってたくせに、できんじゃん、寸止め。いいな、紫苑くん……アガってきた……!)

「今なら紫苑くんのちんこぐらい握ってやれそうだわ。乳首敏感になりすぎて話にならねぇし、次はチンコキで寸止めな」

 ぐしゃぐしゃになったパンツを脱がすと、ちんこは先走りでびしょ濡れだ。カエルのように足を曲げた、何もかもさらけ出した恥ずかしい体勢にされ、紫苑はさらに熱がのぼる。それだけでイってしまいそうだった。
 丸見えの尻の穴から、粘性のある透明な液体がこぽりと漏れ出て筋を伝っていた。それに気づいたカイは首を傾げた。

「なんか尻から出てきてんぞ」
「……っ、ローションッ……♡」
「は、仕込んでんの? なんで?」
「その方が、喜ばれるから……♡」
「ふーん、そんなことするんだ。んじゃ今回は俺のためってことね。確かに愛液みたいでそそるな。それに……」

 紫苑の尻の穴は身体の震えに合わせてヒクヒクと開閉している。まるで挿入を待っているみたいに。早く挿れてと言っているみたいに。率直に"エロい"とカイは感じた。

「紫苑くーん、男同士ってケツですんだよな?」
「あ……♡ んぁ……♡」
「さっさと答えろよ」

 蜜壺を傾けたように垂れるローションを掬い、オスを誘惑している穴に指の腹を押し付けてみる。まだ挿れていないのに紫苑はびくりと反応し、喉を鳴らした。

「んひっ♡ そ、ケツで、するっ……♡」
「そのケツの準備万端なんだろ? ローションまで仕込んでさあ、淫乱な紫苑くんはヤる気満々だったんだもんな?」
「してるっ♡ じゅんび、おまんこになる、じゅんび♡」
「は? 尻の穴がまんこになんの? なんだそりゃ」

 何言ってんだと軽く嘲笑しながらも、ふと、カイは自分の下半身に視線を落とす。目線の先のズボンはいつの間にかテントを張っていた。目の前の男で勃っている。カイの中に驚きが広がりつつも、その事実にさらに興奮が増していく。

(マジか。俺、男で勃つのかよ……こいつと会ってから、予想外のことばかりだ。こうなったら最後まで、満足できるまでとことんヤってやるよ……!)

 きつくなったスラックスを寛げると、No. 1の名は飾りじゃないことを分からせる肉棒が飛び出す。紫苑は思わずヒッ、と引き攣った声を上げた。初めて見るほど立派なサイズだ。

「い、挿れないんじゃ……!?♡」

 男に挿れるなんて冗談じゃないと思っていたカイだったが、それよりも好奇心の方が勝っていた。とろとろ出てくるローション、自分を迎え入れようとする穴。男の穴でもまんこになるのか。女と男、どっちが気持ちいいんだろうか。

 挿れて奥まで貫いたら紫苑はどんな反応をするんだろうか。

「……気が変わった」
「え、え……?♡」

 紫苑をひっくり返して尻を高く上げさせる。細い腰をがっしりと掴み、ヒクつく穴へ狙いを定めた。熱くて硬くて、我慢汁で少しぬめる肉棒の感触に紫苑は戸惑い焦る。

「待っ、ゴム、して……!♡」
「男なのにゴム要んの?」

 紫苑はコクコクと首を縦に振る。カイは、はぁ……とため息をつき、慣れた手つきでゴムの袋を破る。

「ま、病気もらったらクビだしな。いいよ」
「ありあとぉ……♡ ほぐしてあるから、すぐ挿れていいよぉ……♡」

 身体を捻って後ろを向き、へら、と笑う紫苑。何故かそれがカイの心を撃った。そのことにカイ自身、気づいていなかった。

「? なんか紫苑くん可愛くなった?」
「んへ……?♡ 挿れないの……?♡」
「まあいいか。お望み通り挿れてやるよ。ゆっくりしてやるからイくのはまだ我慢な……♡」

 ぬぷ……ぬぷぷ……っ♡ ずぷんっ……♡♡

「あ"……♡ んぁ"ッ……あ"……♡ これ、でっか……っ♡」
「イくなよー、我慢、我慢。あー……ナカあっちいな……締め付けもすっげ、搾り取ってくるじゃん……こりゃ確かにまんこって言われても納得かもなぁ♡」

 今まで使ってきたディルドよりも、元カレたちよりも随分太くて大きかった。感じたことのない圧迫感とゆっくり腸が押し潰される感覚に、脳がぼやけてとろけていく。縛られているため、枕やシーツにしがみつくこともできず、快感がずっと身体の中を循環している。

「ん"っ……お"ぉ……♡」
「紫苑くん、まだイってないよな? ザーメン出てないもんなぁ?」
「イ"っでな"……い"ッ……♡♡♡」
「必死で歯食いしばって耐えてるね、えらいえらい」

(こいつの、やばいっ……♡ マジでぶっとい♡ しかも急に褒めて緩急つけてくんな、気ぃ抜いたらすぐイきそうなのにっ……♡ 褒められたら力抜ける……♡ まだ、我慢しないと……っ♡)

 ナカをじっくり溶かすように攻め落とす肉棒は、やがて紫苑の前立腺を擦った。

「ぉぉ"ッ♡ しょこぉ♡♡」
「あ? なに、そこってどこ?」

 ちんこを通して感じるしこり。そこを亀頭でグッと押して刺激すれば、明らかに大きく紫苑の身体が飛び跳ねた。

「ここ? なにこれ?」
「ぜん、ぜんりつせっ……♡ やめ、ぐりぐり♡ らめ♡」
「前立腺ってそんな感じんの? これ亀頭で擦んの気持ちいいな。締まりも良くなるし」
「んぃ"♡♡♡ つよっ……♡ そこらめ、らめらめらめっ♡ イっちゃ♡ それイっちゃぁ"……♡」
「おっと、危ねー。女より敏感だな。まだ我慢しろよ?」

 動きが止められた。少しの休憩だ。ヒューヒューと、か細く息をついていると、少しずつ熱が引いていく。

(イく前の気持ち良さずっと続いてる……♡♡ 焦らされまくってあたまおかしくなりそ……♡♡ こいつ……まじでドS……♡♡ 攻めんの上手すぎ……♡♡ 早くイきたいのに、ずっとこれ続いてほしいとか思っちゃう……♡♡♡)

「ちょっとは休めたか?」
「んっ……ふ、ぅ……♡」
「んじゃゆっくり動くぞ。そーれ、いっちに……いっちにぃ……」
「あっ♡ あぁ"〰〰……♡ やば、おぉ"〰〰……♡」

 ぬちゃ……♡ ぬちゃ……♡ ぱちゅっ♡ 
 ぬちゃ……♡ ぬ〰〰〰〰〰〰……♡ ぱちゅんっ♡ 

「まだ耐えるとか、やるなぁ紫苑くん。イかないようにちんこ握っといてやるよ」
「んぐぅぅぅ……っ!?♡♡♡」

 カウパーでどろどろになった、パンパンに膨れ上がっているちんこを握られ、発射寸前の精液がせき止められてしまう。紫苑の視界はぐるぐる回りだす。

「我慢汁やっば、滑るわ。ザーメンパンパンに溜めろよ。我慢したらしただけ、イった時に気持ちいいからな。今まででいちばん気持ちよくなりたいだろ?」
「なり、たい♡ あ"っぁ……♡♡ すっごいアクメ、じだい"っ……♡♡♡」
「なら頑張れ」

 とちゅ……♡ とちゅ……♡ とちゅ……♡ とちゅっ……♡

(今すぐイきたい……♡ けど我慢したらもっと気持ちいい♡ 気持ちいいの欲しい♡ イっちゃダメ、イっちゃダメ、がまん、がまん……♡♡♡ んああ……イきたい……♡ イきたいよぉ……♡)

 イきたい気持ちとカイに従って我慢したい気持ちで、紫苑の思考はかき混ぜられてぐちゃぐちゃになってしまい、ついに潤んだ瞳から決壊するように涙がこぼれた。

「ひ……ぐう……♡ うぐっ……♡ 」
「あーあ、泣いちゃった? 顔見せて」

 紫苑の顎を持ち上げ、自分の方を向かせる。添えた手がこぼれた涙とよだれで汚れても、カイは全く気にならなかった。

「もう子どもじゃないのに、泣いちゃってみっともない。可愛いじゃん。もう限界? イきたいの?」
「イきた、イきだい"……♡ げんかい♡ イかせてくらひゃ……♡」

 真っ赤な顔でぼろぼろ涙を流しながら絶頂を乞う紫苑の姿に、ゾクゾクと背筋を駆け上る高揚を感じた。

「はは……んじゃ今から10数えてやる。ゼロって言ったらイっていいぞ。分かったか?」

 深い谷底に沈められたように逃げ出せないまま、絶えず与えられ続ける快楽に一筋の光が見えた。抜け出せる。紫苑は恍惚の笑みを浮かべた。

「あ、い……♡ あと、じゅう、びょう……♡」
「よし、良い顔♡」

(こんな軽い口約束で喜んじゃって……チョロすぎ。馬鹿だなあ。10秒とは言ってねえんだけど♡)

「じゅーう…………きゅーう…………」

 明らかに間延びした、焦らすための長いカウントに合わせて、ぱちゅ……♡ ぱちゅ……♡ とゆっくり腰が動き始める。

「……はーち……なーな……イきたい?」
「んっ……♡ イ"……きたい……っ♡ 数えるの、おそいっ……♡ はやく、して♡♡」
「急かすなって。今がいちばんいいとこだろ。このギリギリ状態を味わいたくてデリヘル頼んだんだろ。ひとり遊びじゃこんなの味わえないもんなあ。どうせなら、ながーく楽しんだ方が得だと思ってさあ。俺、優しいだろ?」

 カイはニヤリと口角を上げる。悪気なく楽しそうな笑みにも、妖艶で艶めかしい笑みにも、獲物を前に興奮しているようにも見える。

「あ、あくま……♡ どえす……っ!♡ けだもの……っ♡」
「なにそれ、褒め言葉にしか聞こえないなあ。ほら続き数えてあげるよ……ろーく……ごーお……」

 ずるっ……♡ ぱちゅん♡ ずる〰〰っ……♡ ぱちゅん♡ ずる〰〰っ……♡ ぱちゅん♡

「あ"ぁ〰〰っ♡ あ、あ〰〰っ♡ はうっ、んえ〰〰っ♡♡♡」
「よーん…………さーん…………っ」
「はっ、はあっ……♡ へぇっ♡ へぇっ……♡ あえ……♡」
「にーい……ほら、自分でも腰振って。イく寸前の状態でイくの我慢しながら腰ヘコヘコすんの。すっげー気持ちいいからやってみ?」
「んあ"っ♡ あ"ぃ……♡ へこ、へこ……っ♡」

(もうちょっと♡ あと、ちょっと♡ つぎ、つぎでイける♡ めちゃくちゃ気持ちいいに決まってる♡ はやく、はやくイきたい♡ イきたい♡ イきたい♡ イきたい♡ イきたい♡ イきたい♡)

 ヘコヘコヘコヘコッ♡♡♡
 ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅっ♡

「ヘコヘコ上手だね~紫苑くん。うまくオスを誘惑できてるよ」
「ひゃ、ひゃいっ♡ へこ、へこぉ♡」
「もいっかい聞くけど、そんなにイきたい?」
「イ、きた……♡♡」
「ハハ、んじゃ……いーち……っ」

 ついにここまできた。ドクンドクンと大きく心臓が鳴る。弧を描くカイの整った薄い唇が開くのを震えながら待つ。次がゼロだ。次、カウントをされたらイける。快感の糸はたゆみを一切無くしてピンと張り詰めている。

「いーち……」
「あっ、んぇ……!?♡」
「いーち……♡」
「んぉっ……は、へぇっ……!?♡」

(いち……♡ ずっと、いち……!?♡ なんで、なんで♡ ここまできたのに、なんでイかせてくれないの……!?♡)

 あと一歩が遠い。遠ざかっていく。紫苑の丸い瞳からはさらに涙がこぼれ落ちてシーツに滲んだ。

「あーあ、まだイけないね、可哀想」
「あっ……♡ ひ、あ……がっ……♡」
「イく寸前って、いちばん気持ちいいだろ。俺がいちって言い続ける間、ずっと気持ちいいの続けれるよ。よかったな。紫苑くんが楽しみにしてた寸止め、最高だろ、な?」
「はっ♡ はっ♡ ひっ♡ う、んっ……すんどめ、しゅごいっ……♡♡♡ しゅごい、きもひいの……♡ でも、むり、むり……こわれ、ちゃうっ……♡ はへっ♡ だから……っ♡」
「だから?」
「あ……♡ イかせ、て♡ ね、カイしゃ……♡ おねがい、しま……♡」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

アホエロまとめ

あたか
BL
色んなシチュエーションのアホエロ話詰め。 先生×生徒、リーマン、執事×坊っちゃん、保健医。トイレで……。などなど モロ語、乳首責め。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

マッチョ兄貴調教

Shin Shinkawa
BL
ジムでよく会うガタイのいい兄貴をメス堕ちさせて調教していく話です。

処理中です...