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「タブレットには、特に気になるものはなかったよ」
 前に行った喫茶店の奥で、レイは借りていたタブレットを返した。
 磯村は少ない髪の毛をくしゃりと撫でる。

「データを保存してる場所はわかったけど、そこには何もないし、殺される理由になりそうな物は見つからなかった」
「くそ。せっかく残った遺品だってのに」
 四ノ宮楓が持ってきた、残っているデータについては話すことはない。
 それを知らない磯村は、心底やるせないと頭を抱えた。
「原川幸生って、文学青年だったわけ?部屋には本とかゲームが大量にあったりする?」
「は?原川がか?部屋にあったのはパソコンばっかだ。本なんてない。本棚すらない部屋だ」
 それでは全てデータで読んでいたのだろうか。
 本が好きな人は、アナログが好きなのかと思う部分が少しある。
 知っている人は本棚に大量の本を並べていた。入りきらない物は地面に揃って並べられて、いつか床が抜けるのではないかと思ったことがある。
 インクの香りとページをめくる音が心地よく、デジタルでは読む気にならないと言っていた。
 読書家はそんなものだと思っていたのだが、原川幸生は違うらしい。
 レイ自体も本はデジタルなので、その人がたまたまそうだったのかもしれないが。

「原川幸生のこと少し調べたけど、随分孤独な感じだよな。家族とかも疎遠だし、友人も親しいのがいるのかって感じだったし。写真フォルダは空で、あっても仕事のスクリーンショットだし、趣味っぽい趣味はなさそうだった。読書とゲームくらいでさ」
「読書家ってのは信じられんな。本なんて一冊も見なかったぞ」
「だからデータで見るのが好きなんだろ」
「俺は紙の方がいいね。パソコンで本なんて目が痛くなる。携帯じゃ字が小さいしな。大体なあ、読書家って言うなら、本を手元に置きたいもんじゃないのか?俺だって気に入った本はすぐ読めるように保管してるぞ」
「まあ、それは俺もそう思う、けど。いろはにほへとでデータをまとめるくらいなのに、データ保管だけなんだよな。和歌のゲームを作るくらいマニアなことするくせに」
「和歌?あれか?百人一首?」
 全てが百人一首ではないが、その歌も入っている。古今和歌集や万葉集、その他諸々の和歌集が入ったゲームだ。
 何面かまでやったが、およそ大学高レベルで、誰かに監修してもらった方がいいくらいだった。学習用として売れるだろう。
 雅な趣味である。
 ただ気になるのは、和歌の本は一切保存されていなかったことだ。

 ゲームを作るくらいならば、それなりの本が必要だろう。全てネットで調べたのならわかるが、それならばデータをまとめていてもおかしくない。
 作ったアプリであるため、データはパソコンに保存されているかもしれないが、そこだけ疑問である。
「殺された理由って、全然わかんないわけ?」
「わからん。白のワゴンに拉致られたのはわかっているし、パソコン全てを奪われたこともわかっている。だからおかしな仕事をして、狙われたんだろうと考えているんだが」
 それならば、磯村も四ノ宮楓と同じ意見なのだ。
 裏の仕事をしていてトラブルにあった。見てはいけないものでも見たか、それを調べたかして原川幸生は消されたのだ。
 人ごとではない事件だ。

「あとはこれだ」
 磯村は胸ポケットからメタルブラックのカードを出した。
 磁気ものであるのは間違いなく、どこぞのカードキーかと思われる。
「どこの鍵か、それとも別の何かかわからん」
「おっさーん。こーゆーのはさっさと出しなよ」
 いいものを持っているではないか。
 関係あるものは、何でもさくさく出してくれればいいものを。
 レイは鞄からスキミング機を出すと、さっさとスキャンしてそれを返す。
「は?今、何やった」
「こーゆーのは型が決まってるんだって。どこのものだかすぐに見つけてやるよ。ちょっと待ちな」
 ホテルか会社か、色からして怪しげな会員制クラブか、どこのものなのか調べれば、そこから網を張ってどこで使っているのか調べられる。
 入り込むのは簡単だ。簡単にしてある。そのためのソフトを作ってある。
 調べるのにそこまで時間はいらないと、コーヒーを口に含みながらそれを待った。

「ほら出た。ビルの鍵だな。んー、店っぽいな」
「おいおい、何をどうやってどう調べてるんだ」
「ちょっと待ちなって。六本木のビルだよ。オーナーは…」
 見た名に既視感を覚える。
 オーナーは四ノ宮楓。
 どこにでも出てくる名前だ。
 原川幸生と会うためにこの鍵を渡しているかもしれないし、そうでないかもしれない。何とも言えないものである。
「四ノ宮楓…。やつなら一人くらい殺しても不思議に思わんな」
 磯村はぽそりと言った。
 刑事にそんなことを言われる弁護士も、いかがなものだろう。
 しかし、それだけ巷で有名なのだ。


「四ノ宮楓って、やっぱやばいの?」
「証拠があるわけじゃないが、いつだってキナ臭いって男だ」
 磯村は苦虫を潰したような顔で言った。

「海外案件を多く扱う弁護士だが、面倒な裁判はやつが担当することが多い。政治家にも顔は知れているし、何より自分でビルを持ちすぎだ。それを政治家に提供しているくらいだからな。それでほら、この間捕まっただろう。代議士と大手企業の癒着の現場にやつのクラブが使われて、大問題だ。それに資産がどれだけあるのか。麻薬や銃の密売をしているんじゃないかって話もある。キナ臭いが全く証拠の出ないやつだ。いつかやつの高級クラブや料亭にガサ入れしたいもんだね」
 刑事の血が騒ぐと言ったところか。
 磯村は熱く語り水を飲み下す。まるで酒に酔ったように絡む口調だ。
 四ノ宮の持ちビルのカードキーを、原川幸生が持っている。それを不思議に思ったりはしないが、結局何もわからないままだ。レイもさすがにお手上げだった。
 店は四ノ宮が経営しているかはわからないが、クラブであるのは間違いなさそうだ。

「原川幸生がこのカードキーを使って勝手に店に入ってたとして、会うのは四ノ宮楓なのか、それとも別の人間なのか」
「四ノ宮楓に決まってるだろうが」
 磯村はきっぱりと言い張る。今ので四ノ宮を犯人リストに入れたようだ。

 だが、四ノ宮が犯人を探している。
 四ノ宮が犯人でないとなると、他の糸を探らなければならない。
 四ノ宮本人に聞いた方が早いだろうか。本当にやつが犯人でないと信じてからになるけれども。
 結局袋小路だ。四ノ宮が持ってきたデータを解読するしか手がないのだろうか。
「原川幸生が生きていた時にここに来てたとして、残ってっかな…」
「何がだ?」
「死ぬ前に何かを知ったことを知られたわけだ」
「だろうなあ」
「何を知って、どうやってそれを知られたか」
 入り込んだのが気付かれて追われた。何かを見て追われた。何かに失敗した。データを手に入れて四ノ宮に渡し損ねた。

 四ノ宮は殺された理由を知らないと言っていたが、それは本当なのだろうか。四ノ宮が何者かの情報を原川幸生に手に入れさせていて、それに気付かれ消されたとしたら?
 いや、そうだとしたら、データ解読にそこまで適当にできないだろう。
 レイに任せてその場を離れたくらいだ。あのデータに何かがあると思っていても、レイに奪われても気にしないように思える。
 原川幸生が殺された理由にも、四ノ宮は納得しているようだった。
 死んでも当然、何でもないことのように、他人事である。
 殺されるようなことをやっているのは知っていて、けれどそれが誰なのか知らない。犯人を見つけたいだけのように思えて、その割にはドライなのだ。

「もしかしてあいつ、犯人もデータの中身も予想がついてるのかな…」
「何の話だ」
「これも時間かかるな。そのビルは俺調べるわ。もしかしたら原川幸生と犯人は一緒にいたかもしれない。四ノ宮楓のビルで会っていて、そこでトラブったとしたら、そのカードの意味もわかるんだよね」
 磯村の問いには答えず、レイは話を進めた。磯村には四ノ宮とコンタクトをとっていると知られたくない。

 もしも、四ノ宮と原川幸生が会っていて、トラブルに巻き込まれたとしたら、四ノ宮が望んでいるのは、その相手が本当に原川幸生を殺したか知りたいわけではなく、そのデータの内容が確かなのか知りたいだけなのかもしれない。
 データのコピーは行なっているはずで、盗まれても問題のない内容。
 ただ確認できればいいようなデータだ。殺された証拠ではない別の何か。
 そう考えて、四ノ宮の図太さを考えさせられた。
 あの男は一癖だけではすまないだろう。それなりの対処をしなければ、明日には自分も原川幸生と同じ運命だ。
 そこは肝に銘じなければならない。



 部屋に戻れば、四ノ宮やその部下らしき怪しい人影はなかった。
 やはり大切なデータと言う扱いはない。
 奪われたら危険であるとすれば、まず場所を提供する。実際してきてそれを一度断ったが、相手はそれを良しとしてきた。缶詰めにでもして、部屋でわかるまで続けさせられるかと思っていたがそれすらもなく、案外緩い男だと感じた。

 それも当然の答えがデータにあるのだ。
 四ノ宮は、原川幸生の死んだ理由などどうでもいいのだと考えれば、つじつまが合う。
 舐められてる。
 それはわかっていたが、この仕事自体が舐めたものだ。

 得体の知れない、四ノ宮の警備管理を犯したレイに対して、腕がいいの言葉程度で、重要だと言うデータを渡してくる時点でおかしいと気付けばよかった。
 そんな簡単なものではないのに、四ノ宮自体がそこまで攻撃的な脅しを含んでこなかったので、警戒心が薄れた。

 データの解読を終えてもきっと答えは出ない。だとしたらこちらは四ノ宮が思うよりも多くの調査が必要だった。
 子供だと思って扱われて、あの男の手の平で踊るのお断りだ。
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