上 下
13 / 30

一年後の結末 8

しおりを挟む
自分の家の敷居をまたぐのに、気は重かった。
意気揚々と兄妹と会える人待ち望んでこのうちにやってきた彼女を、
僕はどれほど失望させただろう。

思えば僕も、五年ほど前にこの家にやってきたのだ。
期待と不安、双方が渦巻く中で姉が暖かく迎えてくれた日のことを、
今の今まで忘れていた。

姉にもまた僕以前に別れた兄妹がいたはずだ。
そんな中で僕を受けいれてくれたことを今更ながらに嬉しく感じた。
次は僕が、あの少女を受け入れてあげる番だ。

意を決して扉を開ける。扉はやけに重たかった。

「た、ただいま」
遠慮がちな声とともに部屋に上がる。居間からはまだ光が漏れていた。
バタバタと慌ただしい音がして、彼女がひょっこりと顔を出した。

「お、おかえりなさい、お兄様…」
消え入るような声で少女は言う。瞳には不安が浮かんでいる。

「まだ起きてたのか」
できるだけ優しい声で尋ねる。

「お兄様、なにか思いつめた顔で出ていったから」
あんなことがあったのに気遣いを向けてくれる彼女の優しさに胸が痛む。

「えっと、さっきはごめん!」
僕はショウに言われたとおり、しっかりと頭を下げて謝る。

「……」

なかなか返事は帰ってこなかった。
僕は頭を下げたまま、探るように少女の方に視線だけ向ける。

「!」
彼女の目にはいっぱいの涙が溜まっていた。
「えっとほんとにごめん。何も知らない君を勝手な思い込みで責めてしまった」
更に一層深く頭を下げた。

「…かった」
彼女の小さな唇から小さな声が漏れる。
「よかった。兄様に嫌われたんじゃなくて」

そうやってなく少女を途端に愛おしく感じた。
どこか姉を思わせる容姿がその気持の根底を支えている気がした。
だとすれば少女を寄越したの思い通りかもしれない。

この愛おしさが今はまだ虚栄だとしても僕らはこれから家族になる。

「はじめまして、僕はユウキといいます。ユウキ・G4-d013。今は夢見として142番の神様を担当させてもらってる」
そういって右手を差し出した。

「エ、エリカです。エリカ・G5-d003。第1アカデミー出身で、今は10年目です。今年から街のハイスクールに通うことになってます」
彼女はおずおずと僕の手をにぎる。

深く長い握手を交わしたあと、どちらからともなく和やかに笑った。

***

995年、その日は995年の4月2日だ。
姉さんが世界から完全にいなくなった日。そしてエリカと出会った日。
僕はこの日を決して忘れないと心に決めている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...