HisStoria

なめこ玉子

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第1章 PLAYER1

もう一度、その先へ ②

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 結論から言うとベンの見立ては当たっていた。巣別れが終わるのを二週間ほど待ってからユウキたちは鉱夫アリの作った新しい道に踏み込んだ。道は想像以上に複雑だった。まさにアリの巣を思わせる迷路の袋小路へと何度も行き当たりながらも、二度目の挑戦で彼らはついに迷路のゴールへと至った。行き着いた先は三層の閉鎖された西部、彼らの期待通りだった。

 封鎖されていた空間の調査の為にそれから三度潜った。地形の変動、生態の変化、その他諸々を過去の記録と照らし合わせた。結果彼らは大局には影響ないと言う嬉しい結論を持って、トーヴァの街への帰路に着くのだった。

「これで事最後の調査も終わりだな」
 三日をかけた最後の調査も今日で終わりだ。3人は野営地に選んだ場所で、灯りを囲みながら座る。

「次はいよいよ、五層へ挑戦だな。長い1日になりそうだ」
 イッポリートが言う。今回の探窟に使うルートは落盤によって塞がっていた三層西部を通るものだ。当然、そこに至る道は今回発見した二層の側幹を通るものしかない。つまり三層の最深部にあるベースキャンプに立ち寄る事はできない。二層から一気に三層を抜け四層に至り五層まで駆け抜ける。ユウキたちにとってもっとも長い探窟となる事だろう。

「とりあえず、トーヴァに戻ってから三日は休みするつもりだ。ゆっくり心と体を休めるといい」

「これで、事前にしておく事は全てか?」
 ユウキは軽い調子で尋ねる。

「いや。後一つ確認しておかなければならないことがある」
 ベンは真剣な眼差しでユウキの方を見た。

「?」

「お前の力についてだよ」
 その言葉に彼はドキリとした。確かに色々あってユウキとサトリが持つ力、PSYサイの事はうやむやになっていた。何をどこまで語るべきか彼は考える。

「えっと・・・」

「お前たちに何か事情がある事はわかっている。だから全てを話せとは言わない。だが、はっきりさせておいたほうがいいこともある。その力について俺たちが共通の認識を持っているかどうかは、今後の生死を分ける事になるかもしれない」

「・・・わかった。具体的に何を知りたい」

「お前には何ができるのか。そして、俺たちはどこまでその力を当てにしていいのかだ」
 ベンの質問は当然で、的確であった。ユウキは頷くと説明を始める。

「この力はPSYサイと言う。大きく分けて二つの力がある。まず第一に物体に手を触れずとも働きかけることができる力だ」
 そう言って、そばにあった小石を持ち上げてみせる。小石は重力逆らって浮かび上がった。

「驚きだな。そういう力を持つ人間がいるのは知っていたが見るのは初めてだ」
 イッポリートから驚愕の声が上がる。この世界にもPSYサイを持つ人間は少数ながら存在しているらしいと言うことは以前アルから聞いていた。彼女も噂程度には聞いたことがあるのだろう。

「俺は実際にそう言う力を持った人間にあったことがあるぜ。だがユウキ、お前達のやって見せた事は桁外れだ。あの巨大な化け物を圧殺し、大きな天然の岩でできた橋すら砕いて見せた。俺の知っている力はもっとささやかなもんだ。それこそ大道元のタネにしかならない程度のな。あんな化け物じみたもんじゃない」

 人には皆少なからずPSYサイの力が眠っていると言われる。時には、自らに眠る力に気づき使いこなすものもいるだろう。だが、ユウキは教会によってその才能の異質さをを認められPrayerプレイヤーに選ばれたほどの人間だ、更にその力を最大限に発揮する為の訓練も受けている。力に大きな差があるのは当然だ。

「本来なら増幅器と呼ばれる器具を使って力をコントロールするんだ。増幅器がない今の俺のは蛇口をひねって水を垂れ流すような使い方しかできない。この小石を持ち上げるぐらいならともかく、大きな出力をする場合細かい操作はほぼ無理だ。力を狙った場所に解放する事、そしてそれをやめる事、そういう大雑把な使い方が精々だ」
 そういうとユウキはPSYサイの力を高め、浮かべた小石を砕いた。

「よくわからないのだけど、もしまたあれと出くわすようなことがあれば頼ってもいいの?」
 イッポリートが尋ねる。

「もちろんやれる事はやる。だがあまり当てにし過ぎないで欲しい。さっきも行ったが今の俺では細かく力をコントロールして使うことができない。力を垂れ流して、閉じているだけ。言ってみれば燃費がすごく悪い」

「ねんぴ?」
 ベンが首をかしげる。この世界の人間に説明するには例えが悪かったと反省する。

「物凄く、疲れるってことさ。この前のように大きな力を使い続ければ消耗し、しばらく動けなくなる」
 力を使った後ユウキがどうなったかをベンたちはその目で見ている。

「結局、ユウキの力に頼るのは最終手段ってことか」
 使った後に倒れてしまうなら元も子もない。極力ユウキに頼らなければならないような状況は避けるべきだろう。

「そういえば、歌が聞こえると言っていたな。そっちはどうなんだ?」
 もしユウキがウンブラの気配を感じ取れるのだとしたら、ウンブラを避けて進むことも可能かもしれない。

「それは恐らくPSYサイの二つめの力に関係している」

「恐らく?」
 曖昧な表現にイッポリートは聞き返す。ユウキはその言葉に頷いて見せた。

「あの歌が何なのかはわからない。本当に、ウンブラが歌っているのかすら・・・。俺とサトリにしか聞こえなかったのは確かか?」
 二人に確認する。

「ああ」「何のことかわからなかったよ」
 二人は口々に肯定する。

「ならやはり。PSYサイの二つめの力、精神感応能が関係しているんじゃないかと思う」

「それはどんなことができる力なんだ」

「簡単にいえば、本来人が知覚し得ないものを感じ取ることができる力だ。その延長線で人によっては離れた所にいる人間とコミュニケーションをとったり、低級な生き物なら思考を操ったりもできる」

「それは便利だな」「それは恐ろしい力だな」
 ベンとイッポリートからそれぞれに異なる反応が返ってきてユウキは苦笑した。

「言うほど便利ではないし、恐る必要もないよ。精神感応能力テレパシーに関しては正直よくわかっていなことが多いんだ。受信ならいざ知らず、人に干渉するような力のつかい方ができる人間は多くない。実際、この力を能動的かつ大々的に使える人間はこの世に一握りもいない。限定的な場面でなら、俺でも使えないことはいけど」
 正確には精神感応能力テレパシーにはPSYサイの力の大きさは関係ない。精神感応能力を能動的に使いこなすには能力を持つものの中でも極めて希少な才能を求められるのだ。

「限定的とはどんな時だ?」
 イッポリートの長い耳がピクリと動く。

「例えば、送信者と受信者の縁が深い場合だね。血縁者、より理想的には双子のような場合、互いの情報を空間を超えて共有できたりするかな。まあ、これは俺には無理だ。他には・・・」
 ユウキは言葉を止めてベンとイッポリートの手をそれぞれの手で握る。

 –––––––こんな風に、相手に直接触れた場合–––––––

 二人は驚いて手を引っ込める。

「頭に、直接?」
 その言葉に頷いてみせる。

「今みたいに相手に直接触れることができるなら、俺でもこのぐらいはできる。正直、意味をなさないが」
 触れあえる距離なら直接話せばいい。

「 でも待ってくれ。俺にはよくわからないが。あの時お前は、ウンブラに対してその感応能力とやらで何かしたんじゃないのか? 本体は地中深くにいると言ったのはお前だろう?」

 そう確かにユウキは使った。精神感応能力を遠く離れた別の空間にいたはずのウンブラに向けて。

「・・・正直なぜあの時あんなことができたのか俺にもわからない。でもあの時はなぜかそれができると確信していたんだ。ウンブラと自分がどこかで繋がっているような気がした」
 火事場のバカ力か、あるいはもしかすると・・・。ユウキは答えを探る代わりに自らの褐色の手を見た。カイ・カニンガルと言う名の少年の右手を。

「ま、何にせよ結局対抗手段としてユウキの力にはあまり当てにしない方が良さそうね。また、倒れられたんじゃたまらない」
 イッポリートはそう結論づけた。

「でも、精神感応能力の方はどうなの? 干渉はできなくても知覚はできるんでしょ。歌を辿って、あれの居場所を感知することぐらいはできるんじゃない? 警報装置カナリアにならなれるかも」
 続けざまに尋ねる。

「・・・可能だと思う。ただし、細かい所までは特定できない。近くにいるか、遠くにいるか。わかるのはそのぐらいだ。どれだけ意味を持つか・・・・。あれは恐らく、空間を瞬時に移動することができる」
 ユウキは申し訳なさそうな顔をした。

「何、十分だ。 今までは出たとこ勝負だったんだ。近くにいれば警報装置カナリアが鳴くとわかっただけ今までよりずっとましだ」
 そう言いながらベンはユウキの肩を叩く。

「とりあえず、お前の力についてはわかったさ。とりあえず警報装置カナリアとして機能してもらおう。その上でいざという時はリスク覚悟で頼ることになるかもしれない。もちろん、そう言う状況にならないようにするのが一番だが」

「ああ、何だってするよ。できることはね」
 ユウキはもとよりそのつもりだ。チームにとってできることは何だってする。ユウキはもう一度その覚悟を心に刻んだのだった。
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