9 / 32
第1章 PLAYER1
クズ拾う死神 ②
しおりを挟む
暗く肌寒いトーヴァの夕暮れを二つの影が歩いている。明るいとは言えないメインストリートから離れた通りを影が進む度、等間隔に置かれた街灯がその姿を捕まえる。少年と少女。背には一杯に膨れたナップサックを背負って、両手にも何かを抱えている。
「ユウキさん、思うんですけど。やぱりこの陶器の壺より、あの何か機械の破片みたいなのにした方がよかったのでは?」
少女が少年に尋ねた。
「あれは流石に抱えて帰るには無理があっただろ。まあ色々装備とかも、考えないとまずいな。ツルハシや、スコップも揃えないと地面をナイフでほじくるには限界がある」
少年が少女に返事をする。街灯に照らされた少年と少女の顔は、ユウキとサトリのものだった。
「えっと、この辺だって聞いたけど」
ユウキは足止めてあたりを見渡す。
「あれじゃないですかね?」
サトリは斜め前の古びた看板を指差した。看板にあるのは本来ユウキたちとは馴染みのないはずの記号の羅列だ。アバターの知識のおかげで『ギリアン商会、なんでも買い取ります』と読み取れた。
「ああ、あれだな」
ユウキとサトリはおずおずとその店の敷居をくぐる。
足を踏み入れると中は見たこともない雑多なもので溢れていた。こじんまりとしているが、入口から想像したよりは広い。カウンターらしき所まで行き着くと二つの人影があった。1人は店主と思しき男だ。背は小さいが精悍で白いひげを生やしている。もう1人はユウキたちと同じ客だろう。背の高い背中だ。
「なんだよ今日もしけてんな。小物ばっかじゃねえか、大した金になんねーぞ」
ヒゲの店主がぼやく。
「うるせえな、黙って鑑定しろくそじじい。ジャンクだが、分解しゃパーツに値がつくだろうが。そのぐらい知ってて持ってきてんだよ。何年この仕事してると思ってる」
長身の男が口汚く言った。
「へいへい。何年もかけて持ってくるのがこれとはね。まあ、見てはやるけどよ。昔はもっと大物持ってきてたじゃねえか。情けない」
そこまで言ったところで店主がユウキたちの存在に気づいた。
「よお、らっしゃい、新参かい。えらい一杯抱えてんな。まあそのなりじゃ、あんまり期待は持てそうにないが、見てはやるよ。そこに並べな」
あまり、愛想のいいとは言えない声でぶっきらぼうに言うと、店主は長身の男の持ち込んだ品物に再び目を落とす。ユウキとサトリは指示に従ってカウンターの前の長身男の横に並んで立つと、まずは両手に抱えていた荷物を置いた。それから男を見上げると目があった。
「あっ、」「おっ、」
互いにの姿を確認したユウキと男から声が漏れる。
「確か昨日の人ですよね。確か確か、クズ拾いの・・・」
遅れてサトリが反応する。
「ベン・ベラだよ。ベンでいい。あとクズ拾いはやめろ」
昨日の酔っ払い、ベンが不快感をあらわにして、サトリが小さく「すいません」と謝る。
「なんだ、てめーら知り合いか?」
店主は相変わらずベンの持ち込んだものに目を向けたまま、声だけを飛ばす。
「知ってんのは顔だけだよ」
ベンが心底めんどくさそうな顔をする。
「それを知り合いっていうんだよ」
鑑定が終わったらしく店主は顔をあげた。それから何かを紙に書き込んで、勘定を済ませたらしくカウンターの裏から、紙幣と硬貨を数えて手にとる。
「ほらよ。お前の取り分だ」
店主は紙幣一枚と、硬貨をいくつかベンに手渡した。
「了か・・・っておい、これだけかよ。酒飲んだら夕飯代が足りねえ。先週はもっとあったじゃねえか」
明らかに少ないと感じたらしく、金額を数える前にベンが怒った。
「その先週に本国でアントリックネジの複製が成功したんだよ。まだ、流石にここから出土するもんと比べりゃ御粗末だが十分に実用に耐えるもんだそうだ。それを見越して市場の価格は暴落。こっちも大赤字なんだ。この値段でも買い取ってやるだけ俺の優しさだと思え、クズ拾い」
店主は嫌っみっぽく『クズ拾い』と最後に付け足した。
「てめー、ギリアン。お前まで俺をクズ拾い呼ばわりしゃがったな。このぼったくりジジイ」
「クズを拾ってくるやつは、『クズ拾い』だろうがよ。それとも何か、テメーにゃ、もう一つ御大層な名前があったな『死神』ベン。そっちのがお気に入りかよお前は」
店主が応戦する。
「うるせえ、どっちの名前もお断りなんだよ。俺は、ベン。大探窟家
ベン・ベラ様だ。それ以上でも以下でもねえ」
2人はそれからたっぷり1分近く言い争った。ギリアンと呼ばれた店主とベンのやりとりは口汚かったが、ユウキにはなんとなくお互いに気を許しあっている人間同士の喧嘩だという気がした。
口論は結局ベンが折れる形で収まったらしく。ベンがギリアンから紙幣と硬貨を未練がましい目で受け取る。すぐにギリアンはユウキたちに向き直った。
「で、何を持ってきたんだガキども」
彼は口論の間にユウキたちが並べ終わった採掘品に目を向ける。
「おー、おー、これまた俺よりひどいんじゃねえか」
同様にユウキたちの採掘品に目を向けたベンがつぶやく。
「えーっ、ほんとですか。苦労していっぱい運んできたのに」
サトリがその言葉を聞いて嘆いた。
「つーか、お前たちなんでわざわざこんな町外れの小汚い店に持ってきてんだよ。大通り歩けば、もっと立派で小ぎれいなとこがいっぱいあっただろうによ」
ベンはさりげなく『小汚い』と店を罵ることで先ほどの喧嘩の腹いせをする。
「アルにさんに紹介してもらったんです。通りにあるような大きなお店はどこも四大カルテルの傘下の店で、カルテルに属してない人間が飛び入りで持ち込んでも足元見た価格でしか買い取ってくれないって」
「なんだお前たち、結局どこにも入らなかったのよ」
ベンは呆れた顔をする。
「いいか、ガキども。確かにチームに属しちまうと、大概は給料制で大物見つけても取り分は対して増えないし、その少ない取り分からカルテルへの上納金も収めなきゃならねえ。損している様に思うのはわかるさ。でも逆に言えば、クズばっかしか拾えないペーペーでもそれなりに食っていける金がもらえるってことでもあるんだぞ。各カルテルからの手厚いサポートも受けられる。トラブルになっても間に入ってくれる。正直テメーらみたいな右も左もわからねえガキはどっかに属して一から鍛えてもらった方が、最終的にカレーを目指すにしても一番の近道なんだよ」
意外とお節介な性格らしく、まっとうなお説教が飛んできた。
「踏破組にはだいたいの全部断られたし、どっか別の目的のチームに属しちまうと自由に動けない」
ユウキは反論する。
「何を焦ってるか知らねえが。一からゆっくりすればいいじゃねえか。今は踏破組も行き詰まってるみたいだし。無知なままガキが無茶な潜り方してるととっとと死んで終わりだぜ」
「こっちにはこっちで、ゆっくりしてもいられない理由があるんだよ」
ぶっきらぼうに答えた。
「ブハッはは。ベン。無茶な潜り方してたガキだったお前ががそんな説教する日がくるとはな」
鑑定の傍、聞き耳を立てていたらしくギリアンが大きな声で笑った。
「ガキども鑑定終わったぜ」
ギリアンは、再び何かを紙に記入する。それから、硬貨だけを集めて取り出すと2人によこした。
「これだけか~」
サトリがそれを見てかたを落とした。ユウキもため息をつきながらその差し出された金に手を伸ばす。
「おいおい、じいさんそりゃねえんじゃねえか?」
金を受け取ろうとしたユウキたちの横からベンが口を挟んだ。
「なんだベン。てめえが口出すとこじゃねえだろ。 ガキどもは納得して金を受け取ろうとしてんだ。なあ、てめえら文句はねえだろ?」
ギリアンはユウキとサトリに話を振る。
「あるよ。あるよな? 大ありに決まってる」
今度はベンがニヤニヤしながらユウキとサトリの方を向いた。
「そのツボ」
ベンはサトリが抱えてきたツボを指さした。
「確かに、大して高価なもんじゃないが、それだけ綺麗な状態で出てくるもんは珍しい。骨董品として欲しい奴はいるさ。少なく見積もっても、その5倍くらいなら出せるはずだろ?」
ベンの話が正しければ、ギリアンはユウキたちからぼろうとしたらしい。
「おい、じいさんどういうことだよ」
ユウキが怒りの声をあげた。
ギリアンは目論見を露呈されて、舌打ちをした。
「・・・っち、ベン、てめー、腹いせか? 商売の邪魔をしやがって」
黙ってもう一度紙に何かを書き込むと、勘定を計算し直し、先ほどの金額に四枚の紙幣を足して再び差し出してきた。
「ほらよ。受け取りな」
「おい、あんたそれだけかよ。人を騙そうとしたくせに」
悪びれる様子もないその態度に腹がたった。
「ああ? 何言ってやがるんだペーペーのガキが。俺が金を出したのは、ベンの講釈で、この壺の値段が上がったからだ。この商売、ものの価値を知らねえ奴は損して当然なんだよ」
ギリアンの物言いにユウキはたじろぐ。
「だいたいよ、ベン。てめーなんで言いやがった。ものの価値がわからねえ新人から安値で買い叩いてやるのはこの街の洗礼みたいなもんじゃねえか。普段からガキに社会の厳しさを教えてやるのが大人の務めだっつってんのはお前だろ?」
ギリアンの声はユウキを飛び越えてベンに向かう。
「普段ならそうしたが、なんたって今はケチなジジイのせいで夕飯に困るぐらい財布が寂しくてよ」
ベンは飄々と答えた。ギリアンはそれ以上何もいうつもりはないらしくため息を吐く。
「しかしこいつら、こんなお人好しそうな頭でこれからやっていけるのかねえ。ベンの言う通りどっかのチームに入る方がいいと俺は思うがね」
これはユウキとサトリに投げかけた言葉だ。
ユウキが何も答えないでいると、今度はギリアンが良いことを考えついたとばかりにニヤニヤと笑った。
「おいベン。てめえが、面倒見てやればいいじゃねえか。乗りかかった船って奴だ」
邪魔をされたほんの腹いせらいい。
「えっと、できればお願いします」
サトリがすかさず頭を下げる。
「お断りだよ。俺はもう二度とチームは組まねえ」
バッサリと断られた。
そのやりとりにユウキはなんだか怒っているのが馬鹿らしくなって、とりあえずギリアンが差し出した金額を受け取る。
「これ受け取ります。ギリアンさんでしたっけ? 勉強になりました。また何かあれば持ってきます。後、ベンさん。 助けてもらってありがとうございました」
そうしてまだ、ベンにチームを組んでもらいたそうな表情のサトリを促して店を出ようと背を向けた。
「おい待てって、なんか勘違いしてねえか?」
行こうとしたユウキたちをベンが引き止める。
「この街でお礼一つで済ませられる事なんてなんて一つもねえよ」
それから彼はいたずらっぽく笑う。
「聞いてただろ?俺はこれから酒を飲んだら夕食代が足りなくなっちまうんだ」
ベンの言わんとしている事を理解したユウキは、金の使い方が逆じゃないかというツッコミを心の中にしまった。
「ユウキさん、思うんですけど。やぱりこの陶器の壺より、あの何か機械の破片みたいなのにした方がよかったのでは?」
少女が少年に尋ねた。
「あれは流石に抱えて帰るには無理があっただろ。まあ色々装備とかも、考えないとまずいな。ツルハシや、スコップも揃えないと地面をナイフでほじくるには限界がある」
少年が少女に返事をする。街灯に照らされた少年と少女の顔は、ユウキとサトリのものだった。
「えっと、この辺だって聞いたけど」
ユウキは足止めてあたりを見渡す。
「あれじゃないですかね?」
サトリは斜め前の古びた看板を指差した。看板にあるのは本来ユウキたちとは馴染みのないはずの記号の羅列だ。アバターの知識のおかげで『ギリアン商会、なんでも買い取ります』と読み取れた。
「ああ、あれだな」
ユウキとサトリはおずおずとその店の敷居をくぐる。
足を踏み入れると中は見たこともない雑多なもので溢れていた。こじんまりとしているが、入口から想像したよりは広い。カウンターらしき所まで行き着くと二つの人影があった。1人は店主と思しき男だ。背は小さいが精悍で白いひげを生やしている。もう1人はユウキたちと同じ客だろう。背の高い背中だ。
「なんだよ今日もしけてんな。小物ばっかじゃねえか、大した金になんねーぞ」
ヒゲの店主がぼやく。
「うるせえな、黙って鑑定しろくそじじい。ジャンクだが、分解しゃパーツに値がつくだろうが。そのぐらい知ってて持ってきてんだよ。何年この仕事してると思ってる」
長身の男が口汚く言った。
「へいへい。何年もかけて持ってくるのがこれとはね。まあ、見てはやるけどよ。昔はもっと大物持ってきてたじゃねえか。情けない」
そこまで言ったところで店主がユウキたちの存在に気づいた。
「よお、らっしゃい、新参かい。えらい一杯抱えてんな。まあそのなりじゃ、あんまり期待は持てそうにないが、見てはやるよ。そこに並べな」
あまり、愛想のいいとは言えない声でぶっきらぼうに言うと、店主は長身の男の持ち込んだ品物に再び目を落とす。ユウキとサトリは指示に従ってカウンターの前の長身男の横に並んで立つと、まずは両手に抱えていた荷物を置いた。それから男を見上げると目があった。
「あっ、」「おっ、」
互いにの姿を確認したユウキと男から声が漏れる。
「確か昨日の人ですよね。確か確か、クズ拾いの・・・」
遅れてサトリが反応する。
「ベン・ベラだよ。ベンでいい。あとクズ拾いはやめろ」
昨日の酔っ払い、ベンが不快感をあらわにして、サトリが小さく「すいません」と謝る。
「なんだ、てめーら知り合いか?」
店主は相変わらずベンの持ち込んだものに目を向けたまま、声だけを飛ばす。
「知ってんのは顔だけだよ」
ベンが心底めんどくさそうな顔をする。
「それを知り合いっていうんだよ」
鑑定が終わったらしく店主は顔をあげた。それから何かを紙に書き込んで、勘定を済ませたらしくカウンターの裏から、紙幣と硬貨を数えて手にとる。
「ほらよ。お前の取り分だ」
店主は紙幣一枚と、硬貨をいくつかベンに手渡した。
「了か・・・っておい、これだけかよ。酒飲んだら夕飯代が足りねえ。先週はもっとあったじゃねえか」
明らかに少ないと感じたらしく、金額を数える前にベンが怒った。
「その先週に本国でアントリックネジの複製が成功したんだよ。まだ、流石にここから出土するもんと比べりゃ御粗末だが十分に実用に耐えるもんだそうだ。それを見越して市場の価格は暴落。こっちも大赤字なんだ。この値段でも買い取ってやるだけ俺の優しさだと思え、クズ拾い」
店主は嫌っみっぽく『クズ拾い』と最後に付け足した。
「てめー、ギリアン。お前まで俺をクズ拾い呼ばわりしゃがったな。このぼったくりジジイ」
「クズを拾ってくるやつは、『クズ拾い』だろうがよ。それとも何か、テメーにゃ、もう一つ御大層な名前があったな『死神』ベン。そっちのがお気に入りかよお前は」
店主が応戦する。
「うるせえ、どっちの名前もお断りなんだよ。俺は、ベン。大探窟家
ベン・ベラ様だ。それ以上でも以下でもねえ」
2人はそれからたっぷり1分近く言い争った。ギリアンと呼ばれた店主とベンのやりとりは口汚かったが、ユウキにはなんとなくお互いに気を許しあっている人間同士の喧嘩だという気がした。
口論は結局ベンが折れる形で収まったらしく。ベンがギリアンから紙幣と硬貨を未練がましい目で受け取る。すぐにギリアンはユウキたちに向き直った。
「で、何を持ってきたんだガキども」
彼は口論の間にユウキたちが並べ終わった採掘品に目を向ける。
「おー、おー、これまた俺よりひどいんじゃねえか」
同様にユウキたちの採掘品に目を向けたベンがつぶやく。
「えーっ、ほんとですか。苦労していっぱい運んできたのに」
サトリがその言葉を聞いて嘆いた。
「つーか、お前たちなんでわざわざこんな町外れの小汚い店に持ってきてんだよ。大通り歩けば、もっと立派で小ぎれいなとこがいっぱいあっただろうによ」
ベンはさりげなく『小汚い』と店を罵ることで先ほどの喧嘩の腹いせをする。
「アルにさんに紹介してもらったんです。通りにあるような大きなお店はどこも四大カルテルの傘下の店で、カルテルに属してない人間が飛び入りで持ち込んでも足元見た価格でしか買い取ってくれないって」
「なんだお前たち、結局どこにも入らなかったのよ」
ベンは呆れた顔をする。
「いいか、ガキども。確かにチームに属しちまうと、大概は給料制で大物見つけても取り分は対して増えないし、その少ない取り分からカルテルへの上納金も収めなきゃならねえ。損している様に思うのはわかるさ。でも逆に言えば、クズばっかしか拾えないペーペーでもそれなりに食っていける金がもらえるってことでもあるんだぞ。各カルテルからの手厚いサポートも受けられる。トラブルになっても間に入ってくれる。正直テメーらみたいな右も左もわからねえガキはどっかに属して一から鍛えてもらった方が、最終的にカレーを目指すにしても一番の近道なんだよ」
意外とお節介な性格らしく、まっとうなお説教が飛んできた。
「踏破組にはだいたいの全部断られたし、どっか別の目的のチームに属しちまうと自由に動けない」
ユウキは反論する。
「何を焦ってるか知らねえが。一からゆっくりすればいいじゃねえか。今は踏破組も行き詰まってるみたいだし。無知なままガキが無茶な潜り方してるととっとと死んで終わりだぜ」
「こっちにはこっちで、ゆっくりしてもいられない理由があるんだよ」
ぶっきらぼうに答えた。
「ブハッはは。ベン。無茶な潜り方してたガキだったお前ががそんな説教する日がくるとはな」
鑑定の傍、聞き耳を立てていたらしくギリアンが大きな声で笑った。
「ガキども鑑定終わったぜ」
ギリアンは、再び何かを紙に記入する。それから、硬貨だけを集めて取り出すと2人によこした。
「これだけか~」
サトリがそれを見てかたを落とした。ユウキもため息をつきながらその差し出された金に手を伸ばす。
「おいおい、じいさんそりゃねえんじゃねえか?」
金を受け取ろうとしたユウキたちの横からベンが口を挟んだ。
「なんだベン。てめえが口出すとこじゃねえだろ。 ガキどもは納得して金を受け取ろうとしてんだ。なあ、てめえら文句はねえだろ?」
ギリアンはユウキとサトリに話を振る。
「あるよ。あるよな? 大ありに決まってる」
今度はベンがニヤニヤしながらユウキとサトリの方を向いた。
「そのツボ」
ベンはサトリが抱えてきたツボを指さした。
「確かに、大して高価なもんじゃないが、それだけ綺麗な状態で出てくるもんは珍しい。骨董品として欲しい奴はいるさ。少なく見積もっても、その5倍くらいなら出せるはずだろ?」
ベンの話が正しければ、ギリアンはユウキたちからぼろうとしたらしい。
「おい、じいさんどういうことだよ」
ユウキが怒りの声をあげた。
ギリアンは目論見を露呈されて、舌打ちをした。
「・・・っち、ベン、てめー、腹いせか? 商売の邪魔をしやがって」
黙ってもう一度紙に何かを書き込むと、勘定を計算し直し、先ほどの金額に四枚の紙幣を足して再び差し出してきた。
「ほらよ。受け取りな」
「おい、あんたそれだけかよ。人を騙そうとしたくせに」
悪びれる様子もないその態度に腹がたった。
「ああ? 何言ってやがるんだペーペーのガキが。俺が金を出したのは、ベンの講釈で、この壺の値段が上がったからだ。この商売、ものの価値を知らねえ奴は損して当然なんだよ」
ギリアンの物言いにユウキはたじろぐ。
「だいたいよ、ベン。てめーなんで言いやがった。ものの価値がわからねえ新人から安値で買い叩いてやるのはこの街の洗礼みたいなもんじゃねえか。普段からガキに社会の厳しさを教えてやるのが大人の務めだっつってんのはお前だろ?」
ギリアンの声はユウキを飛び越えてベンに向かう。
「普段ならそうしたが、なんたって今はケチなジジイのせいで夕飯に困るぐらい財布が寂しくてよ」
ベンは飄々と答えた。ギリアンはそれ以上何もいうつもりはないらしくため息を吐く。
「しかしこいつら、こんなお人好しそうな頭でこれからやっていけるのかねえ。ベンの言う通りどっかのチームに入る方がいいと俺は思うがね」
これはユウキとサトリに投げかけた言葉だ。
ユウキが何も答えないでいると、今度はギリアンが良いことを考えついたとばかりにニヤニヤと笑った。
「おいベン。てめえが、面倒見てやればいいじゃねえか。乗りかかった船って奴だ」
邪魔をされたほんの腹いせらいい。
「えっと、できればお願いします」
サトリがすかさず頭を下げる。
「お断りだよ。俺はもう二度とチームは組まねえ」
バッサリと断られた。
そのやりとりにユウキはなんだか怒っているのが馬鹿らしくなって、とりあえずギリアンが差し出した金額を受け取る。
「これ受け取ります。ギリアンさんでしたっけ? 勉強になりました。また何かあれば持ってきます。後、ベンさん。 助けてもらってありがとうございました」
そうしてまだ、ベンにチームを組んでもらいたそうな表情のサトリを促して店を出ようと背を向けた。
「おい待てって、なんか勘違いしてねえか?」
行こうとしたユウキたちをベンが引き止める。
「この街でお礼一つで済ませられる事なんてなんて一つもねえよ」
それから彼はいたずらっぽく笑う。
「聞いてただろ?俺はこれから酒を飲んだら夕食代が足りなくなっちまうんだ」
ベンの言わんとしている事を理解したユウキは、金の使い方が逆じゃないかというツッコミを心の中にしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる