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みかん星人

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【第14話】怖い奴らがやってきた

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 翌朝、支度を済ませた一行は、昨日と同じようにプラムのランエボに乗り込み、学校に向けて出発した。バックミラーに時折映るプラムの目には、若干のクマが見てとれる。寝不足だろうか。ハンドルを握っているにも関わらず、プラムは先ほどから欠伸あくびばかりしている。
 そんな彼女が気になったのか。後部座席、翔斗の隣に座るアローが不思議そうに聞いた。

「どーしたのプラム。さっきから欠伸あくびばっかじゃん」

 すると、アローの質問を待っていたかのように、プラムが声を大きくして答えた。

「どーしたのって、お前があたしの休憩時間にクスクスクスクス笑ってっから全然寝れなかったんだよ。おかげで寝不足」

「はぁー?! あたしのせいって言いたいの?!」

「ったりめーだアホアロー! 大体お前は笑い声がデカすぎんだよ! 真夜中に何見てんだ!」

「笑うんじゃねえ24時に決まってんじゃないのよ!」

「ンなもん夜中に見んな!」

「何を見るかはあたしの自由でしょーがっ!」

 時間はまだ午前8時を回ったばかり。朝から車内で不毛な争いを繰り広げるプラムとアローを、翔斗は呆れた表情で眺めていた。


 

 一方、Group Emma日本支部。いつにも増して高い緊張感を帯びた6階建てのビルの入り口に、黒塗りの送迎車が数台停まっている。中から、高級スーツに身を包み、中折れのウールハットを被った男女のペアが、警備係を務めるバンからの許可を得て、ビル施設に入っていく。5階に位置するリーダー室にて、リーダーであるベルと、副リーダーのビットは、壁に取り付けられた監視モニターに映る男女の来訪を待っていた。

「さすが39委員会。仕組まれているんじゃないかと疑いたくなるくらい、使者を送りこむのが早いわねぇ」

「同感です」

「ALPHABETのCの死亡を確認してから、まだ20時間しか経ってないわよ。ビット、どう思う?」

「何とも言えません。しかし、39委員会には何かしら狙いがあることは確かです」

 やがて、リーダー室のドアからノック音が聞こえてきた。ドアが開き、屈強な体格の警備員に挟まれながら入室してきたのは、たった今までモニターに映っていた高級スーツの男女。入室するや否や、ふたりは中折れのハットを脱ぎ、にこやかな笑顔でベルに会釈した。

「初めまして。私、39委員会大阪支部より参りました、田ノ上と申します」

「同じく39委員会大阪支部より参りました、森と申します。本日は私どもの急なお願いにもかかわらず、訪問のためのお時間をいただきありがとうございます」

 ふたりの丁寧なあいさつに続き、ベルもデスクから立ち上がり、快くあいさつを始めた。

「いえいえこちらこそ。初めまして、Group Emma日本支部長のベルと申します。隣にいますのは副支部長のビットです」

「初めまして。ビットと申します」

 男性が田ノ上。女性が森。一応、ビルに入る前に、バンたち警備員に身体調査をさせているから、ふたりとも危険物所持の疑いはない。また、ふたりともスーツだが、下着に隠し武器を仕込んでもなさそうだ。見た目も普通の会社員と変わらない。一見どこにも危険は見当たらない。しかし、一般人には無い真顔という表情が、不気味さを掻き立てている。

「どうぞ、こちらにお座りください」

「ありがとうございます」

 ベルの案内で、応接スペースのソファに座った田ノ上と森。ビットがお茶と菓子を用意した。

「よろしければお召し上がりください」

「これはどうも。ありがとうございます」

 出されたお茶に手をつけることなく、森はすぐに口を開いた。

「大変申し訳ありません。本題に入る前に、すでにご承知おきのこととは存じますが、我々、いわゆるオモテではNPO法人として関西地方を中心に保育園、幼稚園を展開する一方で秘密的組織の一面もございまして、ただいま紹介させていただきました私どもの名前につきましても、コードネームであることをどうかご容赦願いたく存じます」

「はい」

「また、この活動自体も私どもでは極秘の案件として取り扱っておりますので、どうか本日の会合、ご家族、お知り合いなどを含む外部の方々への流出による認知をお控えいただきたく存じます」

「どうかお構いなく。私どもも、いち民間企業の皮を被った組織です。極秘活動の件、承知致しました。ご苦労察し致します。失礼ながら我々もコードネームですので、ご容赦願います」

 微笑みながら話すベルに、田ノ上と森は深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。それでは、本題の方に移らせていただきます」

「ええ」

 淡々と話を進める田ノ上は、カバンから数枚の紙を取り出すと、ソファから座った状態、膝ほどの高さの応接テーブルに置き、ベルの方に丁寧に滑らせた。

「まず、いくつか質問をさせてください」

 そう言うと、田ノ上と森はメモ帳を取り出した。

「どうぞ」

「まずCについて。昨日・・・日本時間午前9時54分、39委員会傘下組織『ALPHABET』の構成員であるCとの連絡が途絶しました。確認しましたところ、御社の構成員と思しき人物により殺害された、とのことです。このことに、間違いはございませんか?」

「ええ。間違いありません」

「現在、Cの遺体はどちらに?」

「弊社の極秘事項ですので詳しくは言えませんが、我々の方で厳重に保管しています」

「分かりました。では、当時の進展について。昨日、Cは日本民栄党にほんみんえいとう党首、黒川一博くろかわかずひろの息子である黒川翔斗の暗殺依頼を受け、任務行動中でした。当時の無線記録によると、黒川翔斗が在籍する学校の理事長室に、2人組の女性がターゲットを守るように座っていたとのことです。御社の構成員は、この件に弊社が関わっていることをあらかじめ認識・・・または予測された上でCの殺害に至ったのでしょうか?」

「いいえ」

「ただいま私が質問した中で、どの部分が事実と違いますか?」

「我々は、黒川一博より黒川翔斗の護衛依頼を受諾したその日から任務実行日、Cさんとの接触に至るまで、この件にあなた方が関わっていることを知りませんでした」

「分かりました。では、Cを殺害した2人組について。Cを殺害したのは、2人ですか? それとも、どちらか1人ですか?」

「1人です」

「それは、髪の長い女性ですか? それとも、その女性よりも背が低く、髪の短い女性ですか?」

「後者です」

「その女性のコードネームはプラムさん・・・直接的な殺害に関わってはいない女性はアローさん・・・でお間違いないですか?」

「ええ」

「この2人組は、ALPHABETの存在を知っていますか?」

「はい」

「プラムさんとアローさんは、当時相手がCであることを一目で認識しましたか?」

「いいえ」

「彼女たちは、39委員会の存在を知っていますか?」

「それは分かりません」

「・・・分かりました」


 田ノ上と森はメモを取るをやめ、ペンを応接テーブルに置き、静かにメモ帳を閉じた。質問をしていた男性の田ノ上に代わって、女性の森がにこやかに話し始めた。

「ここまで、弊社の質問にご協力いただきありがとうございました。弊社と致しましても、昨日の出来事は想定外の出来事でしたので、今回の件は事故として処理させていただこうと思います」

「承知致しました。この度は私の判断が至らず、御社の掛け替えのない人材を喪失させてしまったこと、深くお詫び申し上げます。Cさんのご冥福をお祈りします」

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、弊社の確認不足により、御社に多大なご心配とご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます」

 ベルとビット、森と田ノ上はソファから立ち上がり、相互に深々と頭を下げた。姿勢を直し、再びソファに座り互いに目を合わせる。
 死者をしのんでいた田ノ上と森の表情が、一変した。ベルとビットも同様で、4人とも先ほどまでの悔やみが嘘のように、真顔へと変貌している。
 
 一気に強まる緊張。森が、ゆっくりと口を開いた。

「それでは、示談のお話に移りましょう」
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